私がガチなのは内緒である

ありきた

文字の大きさ
65 / 121
3章 一線を越えても止まらない

12話 曇天と突風

しおりを挟む
 今日も今日とて、私と萌恵ちゃんはひたすらイチャイチャしている。
 二人きりの同棲生活。いつもより早く起きた朝は、誰にも邪魔されずに布団の中でじゃれ合う。
 手を握ったり、体を触ったり、撫でたり、ハグしたりキスしたり。
 ほどよい時間になれば布団を片付けて、洗顔などを済ませる。
 家から学校までの近さゆえか、前日の夜によほどのことがなければ、朝から慌てるようなことにはならない。

「う~ん、かろうじて曇りって感じだね~」

 家を出て施錠していると、萌恵ちゃんが空を見上げながらつぶやいた。
 鍵をカバンに仕舞いつつ、同じように目線を上に向ける。
 萌恵ちゃんが言うように、いつ降り出してもおかしくない曇天だ。

「折り畳み傘があるから、降ったら相合傘できるね」

 カバンをポンと叩き、呑気なことを口にする。
 楽観的すぎる考えにも思えるけど、萌恵ちゃんと相合傘したいという願望が主なので仕方ない。

「だったら、降ってくれた方が嬉しいかも!」

 パァッと笑顔を咲かせる萌恵ちゃんにつられ、私も頬が緩む。
 萌恵ちゃんの右腕に抱き着くようにして腕を絡め、それが合図かのように足並みをそろえて歩き出す。
 自分からの積極的なスキンシップ。いまとなっては当然のようにできているけど、過去の自分が見たら夢かと疑うことだろう。いや、妄想だと即座に結論付けてもおかしくない。

「濡れちゃったら、体で温め合おうね」

「うんっ!」

 なんてやり取りを交わしつつ、極めて道のりの短い通学路を進む。
 私たちの関係は学校中に知られているので下手に隠すようなことはしないけど、校門をくぐってからは心持ち軽めの接触が多くなる。
 ギュッと抱き合うぐらいなら学校のあちこちで頻繁に見かけるので、周りの邪魔にならない場所でなら遠慮なく行う。
 誰かの迷惑になるような行動は御法度だ。当たり前のことだからこそ、肝に銘じておかなくてはいけない。
 昔からスキンシップ過多だったためか、萌恵ちゃんはその辺の配慮に関しては無意識のうちに徹底できている。
 人目を気にしているわけではないのに、誰かに疎まれるような行為は決してしない。
 対する私はコンビニで会計を待つ際に周囲を気にせず抱き着き、通路を塞いでしまったことがある。何度思い返しても、頭が痛くなるような失態だ。

「おはよ~!」

 教室に入ると同時に萌恵ちゃんが明るくあいさつすると、あちこちから「おはよう」と返ってくる。
 私たちの仲はクラスメイトにとって常識のようなものだけど、いまでもあいさつ代わりに冷やかされることがままある。照れてしまうものの、実はちょっと嬉しい。

***

 前ほどの頻度ではないにしても、放課後になると美咲ちゃんと芽衣ちゃんが一組に顔を出す。
 最近の出来事なんかを話しているとあっという間に時間が経ち、今度またみんなで買い物にでも行こうと約束を交わして教室を後にする。
 キスやその先を経験したことは、この二人にも内緒にしている。ただ、悟られている気がしなくもない。
 あと、これは私の勘でしかないんだけど……美咲ちゃんと芽衣ちゃんも、前よりもっと深い関係になっているように思える。

「結局、ずっと降らなかったな~」

 校門を出て二人と別れた後、横断歩道を渡りながら萌恵ちゃんが悲しそうにつぶやく。
 相合傘ができなくて残念、という思いがあるのだろう。

「その分、帰ったらいっぱいイチャイチャしようね」

 録音して後で聞いたら恥ずかしくなるようなことを、平然と言ってのける。我ながら、よくここまで大胆になったものだ。
 これが若さなのかと考えたりもするけど、きっと大人になっても変わらないだろう。
 家に着いて鍵を開けるべく扉の前に立った瞬間、体温を根こそぎ奪うような冷たい強風が吹いた。

「きゃっ」

「っ!!」

 萌恵ちゃんが突風に顔をしかめてかわいらしい悲鳴を漏らす中、私の目は奇跡の一瞬を見逃さなかった。
 突風でスカートがめくれ、萌恵ちゃんの大切な場所を守る純白の布が露わになる。
 スカートが元の位置に戻るのを見届けてから、周囲に人目がないかを確認。立地の関係からも、いまの光景を目の当たりにしたのは私だけのようだ。
 よし、しっかりと網膜に焼き付いている。

「すごい風だったね」

「ほんとだよ~。髪の毛ボサボサになっちゃった!」

 乱れた髪を整える萌恵ちゃんに、心の中で深く感謝する。
 相合傘はできなかったけど、嬉しいハプニングが起きてくれた。
 とはいえ、私だけが得をしてしまったのは申し訳ない。

「あっ、そうだ。真菜、さっきスカートめくれてたよ。んふふっ、いい物見ちゃったな~」

「えっ」

 どうやら、お互い様だったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...