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親善試合【1】
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【ダーク視点】
俺は早朝に起き、鍛練をして家を出ることにした。
早めに競技場へ行ってトーナメント表も見たかったからだ。
不正防止のため、組合せは当日発表となっていた。
「ふわぁ………もう出かけるの?いってらっしゃい。頑張ってね」
リーシャがベッドから起き上がろうとするのを止めた。
「まだ時間は早い。リーシャはゆっくり寝てろ」
額に軽くキスをして寝室を出た。
体力のない妻に少々無理をさせてしまったようだ。まあ俺は大概無理をさせてしまうのだが。
だが昨夜はリーシャも悪いのだ。
愛する美しい妻にあんな可愛い仕草をされたら我慢できるモノではない。
「だってダーリンが優勝してくれるんでしょう?私のた、め、に」
と唇に指をちょんちょんされたのだ。
アレで勃たない男がいたらお目にかかりたい。
思わずベッドに引きずり込んでしまったのはリーシャが言うところの不可抗力である。
そしてまた7年も経つのに未だに閨の中では照れるところが堪らない。
誰もが恋に落ちるような美貌の癖に、俺だけに甘えてくるのがいとおしい。
うちの奥さんがいつもいつもクソ可愛い。
綺麗で可愛くて性格も控えめで愛らしいとかどれだけ神に愛されているのか。
全世界の男の願望を具現化してるような妻である。
今日は花束贈呈をするとかで、よその男にキスするのは嫌だなーとか呟いていたが、誰がさせるか。俺が絶対に優勝するのだ。リーシャから花束を貰うのもキスをするのも俺しかダメだ。
しかし、上には上がいるものだし、万が一という事もある。
リーシャにはあちこち目立つところにキスマークを付けて、売約済であることをアピールすることも忘れなかった。
きっと後でリーシャに怒られるのは分かっていたが、リーシャに余所の男が粉をかけてくる可能性を減らす事の方が大事なのだ。
俺は馬車の中で主要な手練れと当たった場合のシミュレーションをしたが、ぶっちゃけ不細工な俺はリーシャと会うまではデートすらしたこともなかった人間である。
鍛練しかやることがないのでひたすら剣を振るった結果強くなり、隊長まで行き管理官にまで出世した男だ。
第1から第4部隊までで俺と互角に戦える人間は数名しかいないし、互角に戦えはするが俺の方が強い。
(問題は情報が少ない隣国の騎士なんだよな………)
俺は舌打ちをした。
まあいい。
親善試合だろうが全力でいかせてもらおう。
「………リーシャは誰にも触らせん」
同僚には「未だに愛妻家か」とからかわれるが、俺は「生涯愛妻家」なのである。
ーーーーーーーーーー
「おお、ダーク。早いじゃねえか」
競技場に着くとまだトーナメント表は貼り出されてなかったので、着替えて軽くストレッチをしていると、ヒューイがやってきた。彼も参加者の一人だ。
当然ながら、1日開催のため出られる人数には限りがある。
うちの国からは事前に選抜戦があり8人が選ばれた。隣国からも8人の精鋭計16人で戦う。
8試合→4試合→2試合→決勝と最高で4試合は戦うことになる。
勿論俺は決勝に行く気満々なので、ヒューイとて当たれば倒す。
「トーナメントが気になってな」
「そっか。俺もなんだよ。ミランダとシャーロッテの為にいいとこ見せたいからさぁ、もし当たったら負けてくんね?」
「死んでもお断りだ。今日リーシャが花束贈呈で出ることになったもんでな。それに子供たちも来るし、本気で勝ちに行く」
「マジか。くそー、ごめんよシャーロッテぇぇ!父様本当はこの鍛練バカが居なきゃ結構強いんだよぉぉ。いや、せめて一回戦突破して二回戦ぐらいまでは行きたいもんだが、あちらさんがどんな感じか分からないからなぁ」
ガックリと項垂れるヒューイに、
「そうだな。一回戦は全員お隣さんの騎士との対戦だしな」
と俺も気を引き締めた。
ヒューイと話しつつ、軽くならしの模擬戦をしていると、ポツポツと他の奴らも現れだした。
「シャインベック管理官、ハーバル副管理官、トーナメント表はもうご覧になりましたか?」
第4部隊のジェイク・マッキン副隊長が俺達に近寄り声をかけた。
「いや、まだ来た時には出てなかったんだ。行くかヒューイ」
「そうだな」
張り出されたトーナメント表を眺める数名と共に自分の名前を探す。
「ヘンドリックス?知らないな………」
「うわぁ、俺もし一回戦勝てても二回戦でダークと当たるじゃん。やだもう」
ヒューイがうんざりとした顔をした。
「まあ勝負は時の運だからどう転ぶか分からん。俺も戦った事のない相手だから勝てるかどうか正直読めないしな」
「シャインベック管理官なら決勝までは行くと思います!」
ジェイクが声をかけてくれたが、俺は気になる名前を見つけてしまい、それどころではなくなった。
「ギュンター・フェルーシー………なんで王族が?」
4年ほど前リーシャに好意を抱いていた隣国の王子、ジークライン・フェルーシーを思い出した。
奴は剣を嗜むより静かに読書を好むタイプだったが、腕に覚えがある兄弟がいたのか。
「やっぱり、この方王族ですよね?どうも見た覚えのある苗字だと思ってたんですよ。あーあ、一回戦で当たるなんてついてないな………」
ジェイクが肩を落とす。
「ーーいや、正々堂々、本気でやってくれて構わないよ?勝てるかどうかは分からないけど」
背後から声がしたので振り返ると、そこには隣国の参加者達が立っていた。
一番前にいたのは20代後半、切れ長一重の目をした何とも涼やかな顔の美丈夫だった。
昔見た覚えがある。確かジークライン王子が来ていた時に一緒に訪問していた王族だ。遠巻きで警護していただけなので名前までは覚えてなかったが、余り似ていなかった。年齢からして兄か。
かなり鍛えられた身体をしている。腕に自信があるのだろう。
「シャインベック管理官か。かなり強いと聞いてるよ、弟から」
にこやかに微笑んでいるが、眼は笑ってない。
「ーー恐縮です」
「上手くいけば決勝で当たるかもね。その時は宜しくね。
………ところで、今日は奥方は来られるのかな?弟が『あんな美しい方は見たことがない』とずっと言ってるからさ、是非とも一度お目にかかりたいものだと思ってたんだ。
でもシャインベック管理官を見てると、本当にそんな美人なのかちょっと疑問だけどな」
隣にいた護衛の男がクスリと笑みをこぼす。後ろの選手達もニヤニヤと笑っている。
まぁそうだろうな。俺の顔を見て妻がそんな美人だと思う奴はいないだろう。俺だってそう思う。
「………うちの妻は本日、花束贈呈の役を賜りましたので、ご覧になれるかと思います」
「おいおい、人妻が花束贈呈役なのかい?この国も人手不足だねえ。じゃあ楽しみにしておこうかな」
今度こそ分かりやすく声を上げて笑ったギュンター王子達は、控え室に向かって歩いていった。
「………ムカツク王子だなおい。リーシャちゃん見てアホみたいに口開けんじゃねえぞ」
小声で罵ったヒューイに、
「まあ俺も未だにリーシャが妻なのが信じられない時もあるからな」
と俺は苦笑で返した。
ヒューイの言葉が予言だったかのように、開会式で顔を出したリーシャが挨拶すると、隣国の連中は本当に口を開けて固まっていた。
「ーーご存知の方も居られると思いますが、今回は私の夫も出場します。
ですが、公平に皆様を応援したいと思いますのでご安心下さい。天に恥じない戦いを期待しております。
我が国に美しいご令嬢は沢山おりますのに、身内の仕事の兼ね合いで既婚者である私が出ることになり誠に申し訳ありません」
菫色のふんわりしたドレスを着てお詫びの言葉を口にするリーシャは、いつも見ている筈なのに改めて惚れ直すぐらい綺麗で、俺を見つけてちょっと笑顔になるとこなんかもう胸を締め付けられる程の可愛さである。
そして鎖骨まで見える露出の高さで色気が駄々もれであるが、決して下品な感じにはならない。
可憐、妖艶、清楚、色んな言葉を使っても語り尽くせないほど俺の妻は素晴らしい。死ぬまで俺だけの女神である。
皆の羨望と嫉妬の眼差しを痛いほど感じるが、誰にもやらん。
俺は勝利への強い思いを改めて感じるのだった。
俺は早朝に起き、鍛練をして家を出ることにした。
早めに競技場へ行ってトーナメント表も見たかったからだ。
不正防止のため、組合せは当日発表となっていた。
「ふわぁ………もう出かけるの?いってらっしゃい。頑張ってね」
リーシャがベッドから起き上がろうとするのを止めた。
「まだ時間は早い。リーシャはゆっくり寝てろ」
額に軽くキスをして寝室を出た。
体力のない妻に少々無理をさせてしまったようだ。まあ俺は大概無理をさせてしまうのだが。
だが昨夜はリーシャも悪いのだ。
愛する美しい妻にあんな可愛い仕草をされたら我慢できるモノではない。
「だってダーリンが優勝してくれるんでしょう?私のた、め、に」
と唇に指をちょんちょんされたのだ。
アレで勃たない男がいたらお目にかかりたい。
思わずベッドに引きずり込んでしまったのはリーシャが言うところの不可抗力である。
そしてまた7年も経つのに未だに閨の中では照れるところが堪らない。
誰もが恋に落ちるような美貌の癖に、俺だけに甘えてくるのがいとおしい。
うちの奥さんがいつもいつもクソ可愛い。
綺麗で可愛くて性格も控えめで愛らしいとかどれだけ神に愛されているのか。
全世界の男の願望を具現化してるような妻である。
今日は花束贈呈をするとかで、よその男にキスするのは嫌だなーとか呟いていたが、誰がさせるか。俺が絶対に優勝するのだ。リーシャから花束を貰うのもキスをするのも俺しかダメだ。
しかし、上には上がいるものだし、万が一という事もある。
リーシャにはあちこち目立つところにキスマークを付けて、売約済であることをアピールすることも忘れなかった。
きっと後でリーシャに怒られるのは分かっていたが、リーシャに余所の男が粉をかけてくる可能性を減らす事の方が大事なのだ。
俺は馬車の中で主要な手練れと当たった場合のシミュレーションをしたが、ぶっちゃけ不細工な俺はリーシャと会うまではデートすらしたこともなかった人間である。
鍛練しかやることがないのでひたすら剣を振るった結果強くなり、隊長まで行き管理官にまで出世した男だ。
第1から第4部隊までで俺と互角に戦える人間は数名しかいないし、互角に戦えはするが俺の方が強い。
(問題は情報が少ない隣国の騎士なんだよな………)
俺は舌打ちをした。
まあいい。
親善試合だろうが全力でいかせてもらおう。
「………リーシャは誰にも触らせん」
同僚には「未だに愛妻家か」とからかわれるが、俺は「生涯愛妻家」なのである。
ーーーーーーーーーー
「おお、ダーク。早いじゃねえか」
競技場に着くとまだトーナメント表は貼り出されてなかったので、着替えて軽くストレッチをしていると、ヒューイがやってきた。彼も参加者の一人だ。
当然ながら、1日開催のため出られる人数には限りがある。
うちの国からは事前に選抜戦があり8人が選ばれた。隣国からも8人の精鋭計16人で戦う。
8試合→4試合→2試合→決勝と最高で4試合は戦うことになる。
勿論俺は決勝に行く気満々なので、ヒューイとて当たれば倒す。
「トーナメントが気になってな」
「そっか。俺もなんだよ。ミランダとシャーロッテの為にいいとこ見せたいからさぁ、もし当たったら負けてくんね?」
「死んでもお断りだ。今日リーシャが花束贈呈で出ることになったもんでな。それに子供たちも来るし、本気で勝ちに行く」
「マジか。くそー、ごめんよシャーロッテぇぇ!父様本当はこの鍛練バカが居なきゃ結構強いんだよぉぉ。いや、せめて一回戦突破して二回戦ぐらいまでは行きたいもんだが、あちらさんがどんな感じか分からないからなぁ」
ガックリと項垂れるヒューイに、
「そうだな。一回戦は全員お隣さんの騎士との対戦だしな」
と俺も気を引き締めた。
ヒューイと話しつつ、軽くならしの模擬戦をしていると、ポツポツと他の奴らも現れだした。
「シャインベック管理官、ハーバル副管理官、トーナメント表はもうご覧になりましたか?」
第4部隊のジェイク・マッキン副隊長が俺達に近寄り声をかけた。
「いや、まだ来た時には出てなかったんだ。行くかヒューイ」
「そうだな」
張り出されたトーナメント表を眺める数名と共に自分の名前を探す。
「ヘンドリックス?知らないな………」
「うわぁ、俺もし一回戦勝てても二回戦でダークと当たるじゃん。やだもう」
ヒューイがうんざりとした顔をした。
「まあ勝負は時の運だからどう転ぶか分からん。俺も戦った事のない相手だから勝てるかどうか正直読めないしな」
「シャインベック管理官なら決勝までは行くと思います!」
ジェイクが声をかけてくれたが、俺は気になる名前を見つけてしまい、それどころではなくなった。
「ギュンター・フェルーシー………なんで王族が?」
4年ほど前リーシャに好意を抱いていた隣国の王子、ジークライン・フェルーシーを思い出した。
奴は剣を嗜むより静かに読書を好むタイプだったが、腕に覚えがある兄弟がいたのか。
「やっぱり、この方王族ですよね?どうも見た覚えのある苗字だと思ってたんですよ。あーあ、一回戦で当たるなんてついてないな………」
ジェイクが肩を落とす。
「ーーいや、正々堂々、本気でやってくれて構わないよ?勝てるかどうかは分からないけど」
背後から声がしたので振り返ると、そこには隣国の参加者達が立っていた。
一番前にいたのは20代後半、切れ長一重の目をした何とも涼やかな顔の美丈夫だった。
昔見た覚えがある。確かジークライン王子が来ていた時に一緒に訪問していた王族だ。遠巻きで警護していただけなので名前までは覚えてなかったが、余り似ていなかった。年齢からして兄か。
かなり鍛えられた身体をしている。腕に自信があるのだろう。
「シャインベック管理官か。かなり強いと聞いてるよ、弟から」
にこやかに微笑んでいるが、眼は笑ってない。
「ーー恐縮です」
「上手くいけば決勝で当たるかもね。その時は宜しくね。
………ところで、今日は奥方は来られるのかな?弟が『あんな美しい方は見たことがない』とずっと言ってるからさ、是非とも一度お目にかかりたいものだと思ってたんだ。
でもシャインベック管理官を見てると、本当にそんな美人なのかちょっと疑問だけどな」
隣にいた護衛の男がクスリと笑みをこぼす。後ろの選手達もニヤニヤと笑っている。
まぁそうだろうな。俺の顔を見て妻がそんな美人だと思う奴はいないだろう。俺だってそう思う。
「………うちの妻は本日、花束贈呈の役を賜りましたので、ご覧になれるかと思います」
「おいおい、人妻が花束贈呈役なのかい?この国も人手不足だねえ。じゃあ楽しみにしておこうかな」
今度こそ分かりやすく声を上げて笑ったギュンター王子達は、控え室に向かって歩いていった。
「………ムカツク王子だなおい。リーシャちゃん見てアホみたいに口開けんじゃねえぞ」
小声で罵ったヒューイに、
「まあ俺も未だにリーシャが妻なのが信じられない時もあるからな」
と俺は苦笑で返した。
ヒューイの言葉が予言だったかのように、開会式で顔を出したリーシャが挨拶すると、隣国の連中は本当に口を開けて固まっていた。
「ーーご存知の方も居られると思いますが、今回は私の夫も出場します。
ですが、公平に皆様を応援したいと思いますのでご安心下さい。天に恥じない戦いを期待しております。
我が国に美しいご令嬢は沢山おりますのに、身内の仕事の兼ね合いで既婚者である私が出ることになり誠に申し訳ありません」
菫色のふんわりしたドレスを着てお詫びの言葉を口にするリーシャは、いつも見ている筈なのに改めて惚れ直すぐらい綺麗で、俺を見つけてちょっと笑顔になるとこなんかもう胸を締め付けられる程の可愛さである。
そして鎖骨まで見える露出の高さで色気が駄々もれであるが、決して下品な感じにはならない。
可憐、妖艶、清楚、色んな言葉を使っても語り尽くせないほど俺の妻は素晴らしい。死ぬまで俺だけの女神である。
皆の羨望と嫉妬の眼差しを痛いほど感じるが、誰にもやらん。
俺は勝利への強い思いを改めて感じるのだった。
応援ありがとうございます!
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