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私たちは家族旅行から無事に屋敷に帰って来た。
……まあ無事に、という概念が五体満足という意味合いならばという事である。
メンタル的には私やダークは瀕死である。
楽しくファミリー水入らずの筈だったが、まずは海釣りを船でやれるという気持ちが上がる楽しいイベント、更には釣り好きな親子と友達になったというところまでは幸先が良かった。
だがクロエの情報漏洩により、アーデル国のジークライン王子が最少人数の護衛を引き連れ旅行先に遊びにやって来た辺りで暗雲が立ち込めた。
釣りバトルに負けてバーベキューをした後で、アロハの親子が実はミヌーエ王国の王配と次期女王である事が判明した。
(これだけは教えてくれたジークラインに心から感謝しているが)
そして、それだけならまだしも、カイルがマデリーンに好感を持っているらしい。
帰って来てからも、
「マデリーンと少し木の枝で戦ったんだけど、ほんと強いんだよ!実は僕、全然勝てなかったんだ!」
「まあマデリーンは1つ年上だものねえ」
10代前半は女の子の方が成長が早い事も多い。
「だから、もっと頑張ってリベンジするんだ!父様、僕もっと鍛えないと!お願いします!」
などとダークに泣きついてたりして、かと思えば、
「強いのにふわふわして可愛いかった……」
といそいそと手紙を書いてみんなにも早く手紙を書けとせかしていた。
隣国の王女、という本来ならば雲の上の存在であるマデリーンであるが、シャインベック家には何故か油断してると王族が一緒にご飯を食べていたり、頼んでもないのに旅先に現れたりするので、子供たちにとっては普通の幼馴染みとか親戚、または未來の家族(あくまでも予定)感覚になり、最初の頃にあった若干の緊張感は数年ですっかりなくなってしまっているのである。
私がアロハの親子を警戒していたら、ツーペアからスリーカードに手札がグレードアップせずに済んだのかと悩んだが、どちらにせよ王族ツーペアだけでも詰みであり、スリーカードはだめ押しみたいなものである。
今更感が半端ない。
王族は気軽に釣りに出たりアロハを着ないで欲しいと物申したいところであるが、今となってはどうしようもないのだ。
「まあ、この先どうなるか分からないものね。カイルも剣術の話が出来る女友達って感覚かも知れないし。
そうよねルーシー?」
私は厨房で解凍した魚をブイヤベースにするための下ごしらえをしながら、ジャガイモの皮を剥いているルーシーに顔を向けた。
ルーシーは刃物の使い方は本当に危なげがないのに、調味料を持たすと何故危なげしかないのだろう。
本当に不思議である。
「リーシャ様も、一足遅ければどこかの王族嫁入りルートでございましたし、これも運命ではなかろうかと」
「王族ホイホイを運命とか言わないでちょうだい。もらい事故みたいなものじゃない」
ガリガリと包丁の背で魚のウロコを取りながら、私は反論した。
「ですが、別にアナ様もレイモンド王子の事をお嫌いではないようですし。
わたくしに護衛術習ったりしているのも、ご自身の安全というよりは、レイモンド王子に危害が及ばないようにというお考えのような気が致します」
アナは、最初のうちはレイモンド王子に嫁が見つからなかった時には結婚してあげる、という約束をしたつもりだったようだが、レイモンド王子に
「アナと結婚するから他の女性は探さない。
だからアナも他の相手を探すのは止めてくれ」
と事あるごとに訴えられている内に、まあいいかと思ったらしい。
「レイモンドは私と結婚出来ないと生きていけないって眉間のシワが深まるし、殿下さまと妃殿下さまは絶対に嫁いびりとかしないから安心してって言うし。
まあどうせ結婚するなら昔から知ってる相手の方がいいもんね。面倒くさい王族ってことを抜かせば好きな方だものレイモンドは」
現時点では愛とか恋とかよく分からないが、周りの男の子たちの中では一番好きらしい。
気持ち悪いと言われる虫の観察や、汚れるからと嫌がられる探険ごっこも付き合ってくれる所が高ポイントらしい。
もしこれからアナが他の男性に愛情が湧いたらどうするのか不安だが、何年も先の話だろうから放置しよう。
なし崩しにレイモンド王子にほだされている未来しか見えないが。
クロエは逆にずっと旅行の間はジークラインとイチャイチャしていた。
嬉しくてしょうがないという笑みで2人で手を繋いで歩いているのを見ると、今のところ一番の確定コースだ。
ジークラインはアーデル国の第2王子ではあるが、ダークのようにかなりのイケメンで不細工扱いされて不遇をかこっている人であるから、クロエが幸せにするというなら止めはしない。
むしろ内心では頑張って欲しいと思っている。
変態国王に跡継ぎも出来たし、王族から貴族に降籍しても問題ないし、本人もクロエと結婚する時にはそうするつもりらしい。
ジークライン王子が37まで独身なのも可哀想だが、クロエが18になるまでは結婚は許さないと伝えてあるのだから致し方あるまい。
ここにミヌーエの王女と繋がりを持ったカイルだ。
まあ友達になったのは子供たち全員だが、カイルが今まで全く興味のなかった「女の子」に対して自らアクションを起こしているのが個人的には不安材料だ。
でもここは本当に未知数。
数年後どうなるかといったところだ。
ブレナンは今のところ特に色恋に興味はなく、ダンスをするか絵を描いてるかが楽しいらしいから、おそらくまだ暫くは安全だろう。
「まあ、この先お子様方が嫌がるようでしたら、わたくしが色々と裏で動いて破談にせざるを得ない方向に持っていきますのでご安心下さいませ。
今はとりあえず様子見でよろしいかと」
ルーシーが剥いたジャガイモをカットして玉ねぎを剥き、みじん切りにしていく。
「ルーシーが色々と動くと本当に跡形もなくなりそうだから最後の手段にしましょう。
でもルーシーのお蔭でシャインベック家は……というより主に私が助かってるわ。本当にありがとう。感謝してもしきれないわ」
「ありがとうございます。
感謝は形にして頂くとより伝わります」
「え?お給料アップ?休み増量?いいわよ」
「いえそれは不要です。
そろそろライラが『休みも取られてお元気になったでしょうから、ここはどかーんと年末に向けて大作の連載をスタートしましょう!』と。
わたくしもリーシャ様がこそこそとキャラクターとかストーリーをメモして本棚にしまい込んでいる【僕らに子供が出来ました!】に日の目を当てるべきではなかろうかと思っている次第でございます」
「ひょっ!み、み、見たの?ちょっとルーシー、プライバシーの侵害だわよ」
私は砂だししたアサリを鍋に入れ水を注ごうとして固まった。
「人聞きが悪いですわね。掃除をしているところが雑然としていたら、働いている人間としては整理整頓するしかないではございませんか。
悩める10代ですらエロ本の隠し場所などは工夫するものを、ただ本棚に立てかけてあるだけではパンツ全開で見てくれと言っているようなものですわ。
掃除をしていればすぐ目につくところに置いてある方が大問題でございます」
「仕事の合間に考えていたんだもの、出しやすい所に置くでしょうそりゃ。片付けながら目を通す方が個人的には大問題だわよ」
「それはともかく、同棲を始めて2年で若干の倦怠期が来ていたダニエルとマイヨールの家の前にある日捨てられていた赤ん坊が彼らの関係に変化をもたらす……もうあれは名作にしかなりようがございません」
「……そうかしら?でもほら、ちょっとエロが少なくなりそうだし……」
「愛はエロのみにあらず。やってるかやってないかはそりゃ大事な事もございますしむしろ大好きですが、大切なのはそこに愛があるかどうかです」
「結婚しても腐女子のプライドは捨てないところが素晴らしいわ。下品と高尚さがミルフィーユ状態ね。
……たまにはファミリーものっぽいのもやりたいなと思っていたのだけど読者を考えると迷いが出て。
アレ、連載してみてもいいかしらね?」
「もちろんですわ。薄い本業界で初のファミリーもの。リーシャ様は常に時代の先端でございます。
先駆者としてひた走って頂きたいとわたくし常々応援しております。
では明日からスケジュールを組ませて頂きまして、マンガの方の連載にも影響が出ないように……ああ、またわたくしの宝物が増えますわ……」
しくじった、もう少しのんびりしたかったのにまたルーシーの熱にうっかり流されてしまった。
まあいいわ。
少なくとも王族ホイホイの未来を心配するよりは建設的よね。
鍋に火を点けて、アサリの蓋が開くのを待って一旦取りだし(固くなるから)、白身魚の切り身やら玉ねぎ、ニンニク、海老の頭の部分をごっそり放り込み調味料で味を調えると、茹でたジャガイモをコロッケにするべく潰していくのだった。
……まあ無事に、という概念が五体満足という意味合いならばという事である。
メンタル的には私やダークは瀕死である。
楽しくファミリー水入らずの筈だったが、まずは海釣りを船でやれるという気持ちが上がる楽しいイベント、更には釣り好きな親子と友達になったというところまでは幸先が良かった。
だがクロエの情報漏洩により、アーデル国のジークライン王子が最少人数の護衛を引き連れ旅行先に遊びにやって来た辺りで暗雲が立ち込めた。
釣りバトルに負けてバーベキューをした後で、アロハの親子が実はミヌーエ王国の王配と次期女王である事が判明した。
(これだけは教えてくれたジークラインに心から感謝しているが)
そして、それだけならまだしも、カイルがマデリーンに好感を持っているらしい。
帰って来てからも、
「マデリーンと少し木の枝で戦ったんだけど、ほんと強いんだよ!実は僕、全然勝てなかったんだ!」
「まあマデリーンは1つ年上だものねえ」
10代前半は女の子の方が成長が早い事も多い。
「だから、もっと頑張ってリベンジするんだ!父様、僕もっと鍛えないと!お願いします!」
などとダークに泣きついてたりして、かと思えば、
「強いのにふわふわして可愛いかった……」
といそいそと手紙を書いてみんなにも早く手紙を書けとせかしていた。
隣国の王女、という本来ならば雲の上の存在であるマデリーンであるが、シャインベック家には何故か油断してると王族が一緒にご飯を食べていたり、頼んでもないのに旅先に現れたりするので、子供たちにとっては普通の幼馴染みとか親戚、または未來の家族(あくまでも予定)感覚になり、最初の頃にあった若干の緊張感は数年ですっかりなくなってしまっているのである。
私がアロハの親子を警戒していたら、ツーペアからスリーカードに手札がグレードアップせずに済んだのかと悩んだが、どちらにせよ王族ツーペアだけでも詰みであり、スリーカードはだめ押しみたいなものである。
今更感が半端ない。
王族は気軽に釣りに出たりアロハを着ないで欲しいと物申したいところであるが、今となってはどうしようもないのだ。
「まあ、この先どうなるか分からないものね。カイルも剣術の話が出来る女友達って感覚かも知れないし。
そうよねルーシー?」
私は厨房で解凍した魚をブイヤベースにするための下ごしらえをしながら、ジャガイモの皮を剥いているルーシーに顔を向けた。
ルーシーは刃物の使い方は本当に危なげがないのに、調味料を持たすと何故危なげしかないのだろう。
本当に不思議である。
「リーシャ様も、一足遅ければどこかの王族嫁入りルートでございましたし、これも運命ではなかろうかと」
「王族ホイホイを運命とか言わないでちょうだい。もらい事故みたいなものじゃない」
ガリガリと包丁の背で魚のウロコを取りながら、私は反論した。
「ですが、別にアナ様もレイモンド王子の事をお嫌いではないようですし。
わたくしに護衛術習ったりしているのも、ご自身の安全というよりは、レイモンド王子に危害が及ばないようにというお考えのような気が致します」
アナは、最初のうちはレイモンド王子に嫁が見つからなかった時には結婚してあげる、という約束をしたつもりだったようだが、レイモンド王子に
「アナと結婚するから他の女性は探さない。
だからアナも他の相手を探すのは止めてくれ」
と事あるごとに訴えられている内に、まあいいかと思ったらしい。
「レイモンドは私と結婚出来ないと生きていけないって眉間のシワが深まるし、殿下さまと妃殿下さまは絶対に嫁いびりとかしないから安心してって言うし。
まあどうせ結婚するなら昔から知ってる相手の方がいいもんね。面倒くさい王族ってことを抜かせば好きな方だものレイモンドは」
現時点では愛とか恋とかよく分からないが、周りの男の子たちの中では一番好きらしい。
気持ち悪いと言われる虫の観察や、汚れるからと嫌がられる探険ごっこも付き合ってくれる所が高ポイントらしい。
もしこれからアナが他の男性に愛情が湧いたらどうするのか不安だが、何年も先の話だろうから放置しよう。
なし崩しにレイモンド王子にほだされている未来しか見えないが。
クロエは逆にずっと旅行の間はジークラインとイチャイチャしていた。
嬉しくてしょうがないという笑みで2人で手を繋いで歩いているのを見ると、今のところ一番の確定コースだ。
ジークラインはアーデル国の第2王子ではあるが、ダークのようにかなりのイケメンで不細工扱いされて不遇をかこっている人であるから、クロエが幸せにするというなら止めはしない。
むしろ内心では頑張って欲しいと思っている。
変態国王に跡継ぎも出来たし、王族から貴族に降籍しても問題ないし、本人もクロエと結婚する時にはそうするつもりらしい。
ジークライン王子が37まで独身なのも可哀想だが、クロエが18になるまでは結婚は許さないと伝えてあるのだから致し方あるまい。
ここにミヌーエの王女と繋がりを持ったカイルだ。
まあ友達になったのは子供たち全員だが、カイルが今まで全く興味のなかった「女の子」に対して自らアクションを起こしているのが個人的には不安材料だ。
でもここは本当に未知数。
数年後どうなるかといったところだ。
ブレナンは今のところ特に色恋に興味はなく、ダンスをするか絵を描いてるかが楽しいらしいから、おそらくまだ暫くは安全だろう。
「まあ、この先お子様方が嫌がるようでしたら、わたくしが色々と裏で動いて破談にせざるを得ない方向に持っていきますのでご安心下さいませ。
今はとりあえず様子見でよろしいかと」
ルーシーが剥いたジャガイモをカットして玉ねぎを剥き、みじん切りにしていく。
「ルーシーが色々と動くと本当に跡形もなくなりそうだから最後の手段にしましょう。
でもルーシーのお蔭でシャインベック家は……というより主に私が助かってるわ。本当にありがとう。感謝してもしきれないわ」
「ありがとうございます。
感謝は形にして頂くとより伝わります」
「え?お給料アップ?休み増量?いいわよ」
「いえそれは不要です。
そろそろライラが『休みも取られてお元気になったでしょうから、ここはどかーんと年末に向けて大作の連載をスタートしましょう!』と。
わたくしもリーシャ様がこそこそとキャラクターとかストーリーをメモして本棚にしまい込んでいる【僕らに子供が出来ました!】に日の目を当てるべきではなかろうかと思っている次第でございます」
「ひょっ!み、み、見たの?ちょっとルーシー、プライバシーの侵害だわよ」
私は砂だししたアサリを鍋に入れ水を注ごうとして固まった。
「人聞きが悪いですわね。掃除をしているところが雑然としていたら、働いている人間としては整理整頓するしかないではございませんか。
悩める10代ですらエロ本の隠し場所などは工夫するものを、ただ本棚に立てかけてあるだけではパンツ全開で見てくれと言っているようなものですわ。
掃除をしていればすぐ目につくところに置いてある方が大問題でございます」
「仕事の合間に考えていたんだもの、出しやすい所に置くでしょうそりゃ。片付けながら目を通す方が個人的には大問題だわよ」
「それはともかく、同棲を始めて2年で若干の倦怠期が来ていたダニエルとマイヨールの家の前にある日捨てられていた赤ん坊が彼らの関係に変化をもたらす……もうあれは名作にしかなりようがございません」
「……そうかしら?でもほら、ちょっとエロが少なくなりそうだし……」
「愛はエロのみにあらず。やってるかやってないかはそりゃ大事な事もございますしむしろ大好きですが、大切なのはそこに愛があるかどうかです」
「結婚しても腐女子のプライドは捨てないところが素晴らしいわ。下品と高尚さがミルフィーユ状態ね。
……たまにはファミリーものっぽいのもやりたいなと思っていたのだけど読者を考えると迷いが出て。
アレ、連載してみてもいいかしらね?」
「もちろんですわ。薄い本業界で初のファミリーもの。リーシャ様は常に時代の先端でございます。
先駆者としてひた走って頂きたいとわたくし常々応援しております。
では明日からスケジュールを組ませて頂きまして、マンガの方の連載にも影響が出ないように……ああ、またわたくしの宝物が増えますわ……」
しくじった、もう少しのんびりしたかったのにまたルーシーの熱にうっかり流されてしまった。
まあいいわ。
少なくとも王族ホイホイの未来を心配するよりは建設的よね。
鍋に火を点けて、アサリの蓋が開くのを待って一旦取りだし(固くなるから)、白身魚の切り身やら玉ねぎ、ニンニク、海老の頭の部分をごっそり放り込み調味料で味を調えると、茹でたジャガイモをコロッケにするべく潰していくのだった。
応援ありがとうございます!
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