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肉フェスイブイブ。

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「………え?ハルカ様?まだ2日しか経ってませんけど………まさかどこかお怪我でも?!」

「いえ全く。なんですか、やたら運が良くと言うか女神の加護があったと言うか、スイスイ~と進めましてですね。
 まあクライン様もばったばったと魔物をなぎ倒して下さいまして、ドラゴンの加護までございましたので本当に助かりまして、ええ。いやまさに戦神と呼ばれるだけの王子様に人外の強さのドラゴンでございますね本当に。もうワタクシなんかただボーッと突っ立ってただけと言うかお恥ずかしい次第で。
 すべてクライン様や他の仲間のお蔭でございます」


 いつものように、他の強い方々のお蔭で乗り切ったと言う私の華麗なる丸投げ戦法で、クライン達に功績を押しつけた。

 一介の商売人それも若い小娘が強いと思われてもデメリットしかない。

 転生者フラグは叩き折る、ギリギリまでバックレる、記憶がないと逃げ切る、粘られたら急病と偽り面会謝絶にする。
 私のソウルは、政治家生活50年の煮ても焼いても食えない老獪なご老体である。


「あの、それではまさか最下層まで………?」

「はい。でも115階層でおしまいでしたが、最下層にはなーんもありませんでしたよ」

 なんで姫様が最下層に部屋をリンクさせてたのか聞いてなかったけど、人の出入りはないほうがいいのだろう。

「す、すると、あの、………」

「クロロニアンですか?いや本っ当に運良くちょいちょい倒せまして、肉は持ち帰りましたので、後で厨房の方に渡しておきますね」

「ダメです!………ここのシェフ連中では宝の持ち腐れ………いやまだろくなもんが出来ません!ハルカ様何卒お手本を!」

「いやお手本とか滅相もない………」

 討伐帰りの招待客にまたおさんどんさせるとか、少し扱いが雑じゃないでしょうか。いや、美味しく食べたいから作るけどさ。せっかく出てくると言う姫様にも美味しく味わってもらいたいし。

 部屋で爆睡すると言う願いはむなしく、私は厨房に向かう羽目になった。


 ーーーーーーーーーーーーー



「はーい、皆さま、本日もお世話になりますー」

 厨房に入ると、料理長や下働きの兄さんから総出で出迎えてくれた。
 なんか朝イチのデパートのようである。

「ハルカ様、ようこそおいで下さいました!!」

 熱烈な歓迎に少しビビった。

 料理長が言うには、ショーユやミソの適切な使用方法を教わってから、城内で格段に料理のクオリティーが上がったようで、初めて皇帝陛下にお褒めの言葉を戴いたとかで、嬉しくて必死でもっと美味しいモノを作ろうと切磋琢磨してるようです。

 そうよ、それこそが料理人。
 生涯研鑽を重ねたまえ、この国の未来のために。
 そして巡りめぐって私により美味しいものを!

「またハルカ様から料理のご教示を戴けるとは有難いです」

 前向きな人は好きですよ。

「じゃあ、いっちょやりますか」

 腕まくりし、髪の毛を後ろで一まとめにした私は、未来の名シェフ予備軍に期待を込めて、作業を指示するのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「………クロロニアンのミルフィーユ鍋、とは」

 食虫花の皇帝は赤のすけすけレースガチ盛りのキラキララメのシャツに緑のタキシード風のキラキラしたジャケットを羽織っていた。眩しい。
 黒のパンツは普通で何よりである。

 クリスマスか。
 まだ早いぞ皇帝さまよ。


 夜の晩餐会。


 マチルダ姫様もちゃんと宣言通り席についていた。
 ベルベットの濃紺のワンピースに白い襟元。お上品とはこうあるべきであるという見本のような子である。

「本日も僭越ながら私の国の料理でございまして。ミルフィーユ鍋というのはハクシャイと薄切りにしたクロロニアンを交互にサンドしまして、鍋にいれて水に塩だけの味付けで煮るというだけのベリーイージーな料理です。素材がいいだけに半端なく出汁が出てましてもうハクシャイにまでクロロニアンの旨みが余すことなく染み込んでいると言うびっくりのお味でございます。ギリギリまで熱々がいいので鍋に入れたままですが、このトングで取り分けて召し上がって下さい。
 後ですね、ダーククロルの酢豚。これはダーククロルに小麦粉付けて軽く素揚げしまして、野菜と炒めてケチャップという甘酸っぱいタレで仕上げました。これもまたライスに合うんです。
 それでですね、こちらはナガネーギに薄切りにしたクロロニアンを巻き付けまして焼きまして、ショーユベースの甘辛いソースにつけて召し上がって下さい。
 ついでに、ちょっと多いかなと思いましたが、せっかくのクロロニアンですので、肉汁まで感じて戴きたく、少し厚めにカットしてトンカツにしました。こちらはちょい甘作りのソースでどうぞ」

 もう最近は中華でもフレンチでも日本食でもイタリアンでもすべて面倒なのでニホンの料理と説明する。

「日本人の好みに合わせて作った料理」であるから間違いではない。
 どうせこちらでイタリアンだの中国だのタイ料理だの言っても分かりはしないのだ。

 おおざっぱ、ファジーな表現が私の料理のポリシーである。

「ハルカ、とても美味しいわこのミルフィーユ鍋!!お肉もとっても柔らかいわ!」

 マチルダ様が頬に手を当てて満面の笑みである。

 そうでしょうそうでしょう。
 クロロニアンの出汁がこれでもかというほど出てますからね。

「昔食べたクロロニアンも塩で焼いただけでも驚くほど美味かったが、肉汁は味わい切れなかったのだな。スープがまた美味い」

 一種類ずつ制覇して行く皇帝陛下がミルフィーユ鍋から動かない。

 クライン達も無言でただ黙々と食べ続けている。
 泊まりがけのダンジョンはやはり体力戦だったようだ。

「母にも食べさせたかった………」

 シュルツさんが目頭を押さえてトンカツを食べている。

「………まあ、お母様お亡くなりに?」

「いえ、自宅におりますが」

「あ、ああそうですか」

 連れてこいよだったら、と思ったが、考えてみると城内はやはり仕事場だから難しいだろう。

 そして私は考えていたことを口にした。


「それでですね皇帝陛下、クロロニアンはちょっとそんなに沢山は捕れなかったんですが(こちらで消費する分は)、ダーククロルはかなり捕れましたので、『肉フェス』やりませんかどうせなら」

「………肉フェス?」

 そう。
 店もあるし、この国も頻繁に来れるわけではない。
 それでも、美味しいものというのはこういうものだ、というのをなるべく一般庶民にも認知させなくては、食の向上など覚束ない。

「城の講習とかで一部の人間しか教えられないのは勿体ないと言うか、町で商売してる人も美味しいモノを味わってもらって、店で美味しい品を出せるように、いっそのこと町の広場を使って肉のフェスティバルを開催してですね、私共がダーククロルを提供しますので、トン汁だのトンカツだの串焼きだのを、10ドランとか低価格で提供する祭です」

「おお!それはいいな!」

「成功すれば、年に1度とか定期的に肉フェスやれば観光客もわっさわっさですし、何しろダンジョンでダーククロルならばそんなに強くもなく、取り放題ですから、材料も入手しやすいでしょうし」

 10トン以上頂いてるので1トンや2トン無償で提供したところで痛くも痒くもない。

「そこでついでに簡単に安い材料でも作れる美味しいモノとかを私が会場で実演販売します。町の皆さんも、まだショーユやミソなどうまく使いこなせてない方も多そうなので。それに私にも扱ってる商品をより理解して頂ければ売り上げも上がると言うメリットもありますのでここはWINWINということで」


「素晴らしい!素晴らしいですよハルカ様!!お志が商人というより聖女です!」

 シュルツさんが感極まったように立ち上がって拍手する。

 マチルダ様も、

「いい考えね。これで少しはこの国のご飯が美味しくなるかも知れないわ!」

「流石に大商人は考えることがでかいな。出来る限り早急に手配しよう。明日中に人手の手配や告知など済ませるので明後日には肉フェスを執り行おう」

 皇帝陛下まで酢豚攻略の手を止めてまで乗り気である。



 いえ、えーと。

 ………いやもうチマチマ教えるの面倒くさいからまとめてやらせてくんないかなぁ、と思っただけなんで、なんかすごく良いことしてる人みたいなイメージ操作やめて下さい。もう早く帰りたいだけなんです。



 かえちてー。早くアタチをオウチにかえちてー。タロちゃん達をモフモフさせてー。ミリアンに会わせてー。テンちゃんに会わせてー。ケルヴィンさんとこに研究状況見に行かせてー。シャイナさんに会わせてー。ラウールの肉球むにむにさせてー。



 私の魂の叫びはガルバン国の人たちには勿論届きはしなかった。

 まあ、言ってないけど。小心者だからね。


 よし、こうなりゃとっとと肉フェス終わらせて帰ろう。うん。






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