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肉フェスイブ。

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「そちらはそちらで、明日の下ごしらえをお願いします。
 私は店の秘伝の調理をするので見られたくないのです。ですからこちらの下処理部屋をお借りします。
 ………決して、決して入らないようお願い致しますね?」

「「「「はいかしこまりましたハルカ様!!」」」」


 鶴の恩返しじゃあるまいし。


 あの食虫花もといラメ王子、本当に次の日早朝からゼノンに肉フェスの告知をした。
 そして朝ごはんまで作らせた上に、100人はいるような料理人と見習いが第一厨房と第二厨房に勢揃いしているところへ放り込み、好きなように使えとのたまった。
 元からの料理人たちに加えて、である。
 どうも町から手伝いで非常召集したようだ。
 何だか色々ご迷惑をお掛けしたようで申し訳ないです。でもゼノンの町にもいいことですから許して下さいまし。


 ゼノンの町は人口4000人ほどいるとのこと。この国の首都だしかなり大きな町だ。リンダーベルと同じ位かな。

 だがサウザーリン王国はリンダーベル以外も数千人単位の町が複数あるので、結構国の人口が多いのかも知れない。温暖で住みやすいし。
 他の国を知らないので一番かどうかは言えないけど。
 他にも小さな村レベルの集落はいくつかあるようだがかなり離れているそうで、今回はそこまで告知出来ないので諦めたようだ。

 4000人として………1人500グラムも食べるかなぁ………いや、大食いはどの国でもいる。それに多めに買って帰って食べる可能性もある。お得だし。まーゆとり見てダーククロルの肉は2トンも出しとけば充分でしょう。

 クラインやプルちゃん、トラちゃんに手伝って貰って、片っ端から出した肉を第一、第二それぞれの厨房に運んでもらう。

 第一厨房は串焼き&飯炊き班。肉は適当な大きさに切ってもらい、どんどん下働きの子達が串に刺していく。ご飯は炊いたらアイテムボックスにしまってもらう。
 串焼きは一山出来たら冷蔵庫(魔力持ちが多いせいか普通にある!)にしまっていく。

 敢えて塩ではなく焼き鳥風のショーユベースタレとミソで明日は焼きますよ。
 塩でも勿論美味しいだろうけど、私はショーユとミソをメインで売りに来ている商人ですからね。
 それに塩味では珍しくもなんともないし。
 それにね、ふふふ。焼いたショーユやミソの香ばしい香りが辺りに漂い、食欲を刺激するんですよ。いいですやねー、お祭りの屋台みたいで。


 第二厨房は汁物ということで、トン汁とホワイトシチューにした。

 カレーの方が香りが広がっていいんだけど、まだカレー粉は販売してないのよね。
 いずれ出すつもりだけど、今は大々的には提供しづらい。
 ミルク、バター、小麦粉なら普通に一般家庭でもある。なのにホワイトシチューとかは作ってないようである。勿体ない。
 庶民が作りやすいメニューなのに。パンにも合うし………、ふむ、よし明日はホワイトシチューの簡単な作り方もレシピとして教えよう。これからの冷える季節にはとてもよいではないですか。


 そして、私だ。


 ハッキリ言って、あの料理人の人数なら1000人2000人とかの料理なんて楽勝(ではないだろうが何とかなる)でも、私一人でとなると、超ひでぶ………いや無理ゲーである。やれるかい1日で。

 なので精霊さんズに手伝って貰わないと絶対間に合わない訳で、結果として先ほどの鶴の恩返し発言なのですよ。


 魔力自体はこの国では5人に1人位は強弱の差はあれど持っているが、精霊を使役してる人間はさすがにいない。

 それも少量のオヤツで。

 労働基準法なにそれ美味しいの?というブラックな働かせっぷりである。

 いや、でも本人達がそれでいいって喜んで働いてるんですよ?
 私はそれほど悪どいオーナーではないですよ?働きたいっていう子達に満足のゆく対価を支払い働いて頂いている、まさにギブアンドテイクの良好な関係です。メイビー。

 本日もシュークリーム5個とプリン5個で商談は成立した。ウキウキと働いてる精霊さんズ………チョロ………いや心優しい子達である。


 さて、こちらの下処理部屋では何をしているかと言うと、マーブルクッキーとアーモンドクッキーと紅茶クッキーの怒涛の鬼焼きである。

 プルちゃんやトラちゃん、クラインも駆り出して、絶賛袋詰め中なう。
 つまみながら仕事するのはやめろと言いたいが、こちらも長時間労働をお願いする身であるため「ほどほど」にしておいてもらう。

 ちなみに、クロちゃんはクッキーをバリバリ割ってしまうなど、手先がかなり不器用な事が判明したので、部屋待機である。

 明日は焼き場の炎の調節をお願いした。
 フレイムドラゴンなんだからそんぐらいは出来ると言ってたが、皆さんが待ちかねている肉を黒こげにしたら、天は許しても私は許さないと大変フレンドリーに告げた。しくじったら帰ってから丸3日飯抜きの刑である。自分で勝手に狩りに行って味もついてない生肉を食べたまえ。
 そうにこやかに告げると半泣きになってぷるぷるしながら何度も頷いていたから、まあ大丈夫ではないかと思われる。


 肉フェスだし、クッキーまでは出すつもりはなかったのだが、いたいけな子供達や甘いもの好きな大人達を、あの鼻クソみたいな不味いスイーツ(仮)に洗脳されてはいけないと気づいた。あれをスイーツと呼ぶのも神への冒涜である。
 食の伝道師としてまともな味を教える義務があるのだ。


 後は日持ちするパウンドケーキは腐るほどアイテムボックスにあるのでそれも出す。

 私もすべてを精霊さんズに任せっきりではない。生地を作ったり、明日の焼肉丼用に細かい薄切りダーククロルを作ったり焼肉のタレを作ったりと、とても客人対応で招かれたとは思えないハードな仕事っぷりである。


 昼ご飯は、頑張って黙々と働いてくれる料理人さん達に、賄い飯ということで、ダーククロルのカレーライスを大量に作った。料理人さん達だけでも100人越えてるが、夜遅くまでかかるであろう肉フェスの下準備に頑張る人達に、せめて賄いぐらいはするのが人の道である。
 というかなぜ客人である私が用意するのか疑問である。だがまあいい。
 カレーにしたのはプルちゃんがカレーカレーと騒ぐからだ。確かに洞窟で食べたカレー美味しかったけど。


 食事場所としてシュルツさんが大広間の使用許可をくれたので、ありがたく使わせて頂く。

 このカレーは現在マーミヤ商会で開発中の香辛料なのでくれぐれも他言無用で、と念押ししてからみんなに好きによそってもらったライスにカレーをよそっていく。

 レモン水もでかい樽に作って氷をぶちこんでおいたので、好きに注いでいってもらえばいい。

「美味すぎる………これで夜まで乗り切れる」
「ダーククロルの肉って本当にやわらけーのな、俺初めて食べたわ。
 明日は歯の悪いじーちゃんとばーちゃんにも食べてもらえそうだ」
「リンダーベルではこんな美味いものを毎日食べてるのか?」

 好評なようで何より何より。
 カレー粉の発売もケルヴィンさんに急がせよう。彼は忙しいほど燃えるタイプのようなので、喜んでやってくれるだろう。




 さて、そろそろ並んでる人達も終わりかと思ったら、ラメ王子まで並んでやがりました。その後ろにはマチルダ様まで。
 シュルツさんやあのがたいの良すぎる大臣親子もいそいそと釜からご飯をよそって並んで来たときには、どうしてくれようかと考え、………ふと閃いた。


「皇帝陛下」

「なんだ。あ、肉は多めにな」

「(やかましい。)これは賄い飯と申しまして、仕事をしてないと食べてはいけないモノなのです。女神の呪いがかかりますから」

 わざと並んでるシュルツさん達や周りにも聞こえるように大きな声を出す。

「………の、呪いが?し、しかし食べたいんだ。この匂いは卑怯だろ」

 ビビりながらも涙目で訴える。

「ええ、ですから働けばよいのです。
 これから2杯目以降を食べる皆さんにカレーと福神漬けをよそうという仕事と、皿とコップを洗うというごく簡単な仕事でも、呪いから逃れられますのでそちらをお願い出来ればと。いえ、やりたくなければ食べない方が」

「分かった!やる!!お前らも聞こえたな?」

「「「勿論です!」」」

「料理人の皆さまー、皇帝陛下や大臣、姫様に呪いがかからないように、たーんとお代わりして下さいねー」

「「「ありがとうございます!!!」」」

 マチルダ様には、こそっと(呪いは冗談ですけど、ただ飯はダメですからすみませんね)と耳打ちしておいた。

(そうなのね。でもいいのよ少しは脅かした方が。私もお手伝いしたかったから丁度いいわ)

 とウィンクしてくれた。美少女がやるとどんな仕草も3割増しだわぁ(当社比)、などと頷きつつ、私もようやくご飯にありついた。



 そして、晩の賄い飯は、毎回ダーククロルだと飽きるだろうとドードー鳥のチキン南蛮丼に、豆腐と油揚げの味噌汁を出したが、大評判だった。特にタルタルソースは売り物なのかとかなりの料理人が尋ねてきた。
 クラインが「ふふん、俺のお気に入りだしな」と若干得意気にしているが、作ってるの私だしな。

 何故か当たり前のように皇帝陛下達も配給ゾーンに並んでおり、その後進んで交替でよそう係や洗い物をやってくれたが、まあ私達が楽になるので呪いジョークはそのままにしておくことにした。
 ただ食べるだけなどと、この修羅場でソースイートである。

 タルタルソースについては、マヨネーズを商業ギルドに先日多めに卸してあるので、それと茹で玉子を細かく切って混ぜれば出来ますよ、簡単ですよー、色んなモノに合いますよー、と軽く皆さんには営業しておいた。


 (後日談であるが、少し売り上げに貢献するつもりだっただけなのに、肉フェスの翌日にチェリーナさんと息子さんが早朝からやってきて、「ちびちび売るつもりだったのが、不思議なことに何かいきなり昨日1日で売り切れたのでなんとかもう少し卸して欲しい」と土下座された。
 うむ。食いしん坊を舐めていた。
 原因(はんにん)はどう考えても私なのだが、悪気はなかったので動揺を糸目でスルーさせていただき、「それはそれはお困りですねぇ」とマヨネーズを追加で卸し、お詫びにパウンドケーキとクッキーを渡しておいた。フィッシュハートあればウォーターハートである)


 まあそんな余談はさておき、肉フェス当日の早朝までになんとか満足のゆく提供数がすべて作成できた。


 軍でマーチングバンドのような活動もあるようで、朝からたんたかたんたんたん、ぷっぷかぷー、ぷっぷかぷー、と賑やかである。

 私、オールなんですけど、午後の料理教室まで寝ててもいいですか、と皇帝に伝えたところ、

「朝飯作ってからなら」

 とほざきました。呪われてもいいな皇帝は。

 いや、料理人さん達もほぼオールナイトで作業してたので、作りますけども。

 ちょっと荒ぶりながらも、卵とじうどんを作り、作りおきしてある炊き込みご飯(筍とネギと油揚げ入り)を出しておいた。

 肉がないと不満げだったが、これから腐るほど肉フェスで食えば良かろう。朝から肉とか食えるかーーー!!ちゃんと洗い物までしとくんだぞ皇帝さん達よ。

 
 心のブリザードをなだめつつ部屋に戻った私は、クロちゃんに

「………焼き場は頼ん、だ…よ……」

 と遺言のように言い残し、ベッドに突っ伏した。

 ………すぴーーーーーー。

 

 
 
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