【完結】王太子は、婚約者の愛を得られるか

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本編

お花畑を焼き払え

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 正直、アカデミーに再び来れる日が来るとは思わなかった。
 俺は今、ヴァレリアと共にこの地を踏みしめている事に猛烈に感動している。

「オスカー様と再び一緒に通えるとは嬉しいですわ」

「俺もアカデミーに来れるとは思わなかったよ。本当にこのまま卒業するかと思った」

 朝の清々しい空気を愛しの婚約者と吸う事のなんと素晴らしきかな。

「陛下の容態はいかがですか?」

「すっごく元気。だからベッドの中で執務してる」

「まぁ……大丈夫ですの?」

「腰を痛めてるだけだから態勢に気を付ければ大丈夫だよ」

 父上たちはいっそこのまま引退して頂いても良いが、そうすると俺とヴァレリアの負担が増えるだけなのでせめてもう少し頑張ってもらいたい。
 俺だって結婚してからヴァレリアとイチャイチャする時間がたっぷり欲しいのだ。

 結婚……

 長い、婚約期間だったな。
 貴族はアカデミー卒業と同時に婚姻する。
 魔境をクリアしても本格的な社交が始まるから誘惑は尽きない。
 そして結婚してからも安心はできず、試練は様々にあるのだ。

 例えば最近の書物の流れである「お前を愛する事は無い」である。
 政略結婚で婚姻を結んだあと、初夜で夫がそう言い放つのだ。
 曰く、他に愛する女性がいるらしい。諸説あるが、大体平民や低位貴族など、教養の無い女性なのが特徴だ。

 その後は様々に展開するが、きちんと教育を納めた淑女と、勉強も疎かに自由奔放に生きる女性を比べた時、圧倒的に勝るのは前者である。
 前者は男の支えになるが、後者はお荷物にしかならないのだ。
 愛人として愛で、おとなしくしているならまだしも、勇気がありすぎるのか身のほど知らずなのか、夫を盾にほぼ下克上を試みるのだ。
 そして漏れなく返り討ちに合う。
 その後妻が離縁を申し出るのが、普段抑圧された貴族夫人に大変高評価を得ているとか。
 夫が陰ながら支えられていた事に気付いた時にはもう妻はいない。
 大後悔時代の幕開けである。

 ちなみに夫婦をやり直すか、離縁するかは1:9といったところだ。
 何故なら「お前を愛する事は無い」系の夫はほぼ妻を愛し始めるが、その頃には妻の気持ちが離れているからである。

 現実的に言えば中々離縁はできないが、せめて物語の中だけでも強い姿が見たいと世の女性の希望らしい。


 ヴァレリアとは教室が違う為、昼休憩に会う約束をして分かれて自分の教室へ向かう際。
 なんともナイスタイミングなカップルが一組。

「これから先も、俺はメリンダを愛する。お前を愛する事は無い」

 ああ、説明している間に犠牲者が一人。
 あれは確かいつか見たピンク髪のえーっと。
 マリ…ミリ……、ムリンダ男爵令嬢…だったか。
 その取り巻きの男その①である。

「俺の真実の愛はメリンダにある。親がどうしてもと言うからお前と結婚するだけだ」

 彼の目の前にいる、俯いて拳をギュッとしている女生徒は恐らく彼の婚約者。
 彼の実家へ援助という形の事業提携の為の婚約では無かったか。
 婚約者を敬い、大切にしなければならないのに、アカデミー卒業まで一年を切ったタイミングでこの所業。彼の脳内には盛大に花が咲き誇っているらしい。

 御令嬢は涙を浮かべ、その場を立ち去る。
 男はその姿を戸惑うように見ていた。



「最近、そこかしこであまり良くない光景を目に致しますわ」

 昼休憩時、ヴァレリアはサンドイッチを手にしたまま呟いた。

 ピンク髪男爵令嬢の取り巻きが以前より増えているのだ。主に高位貴族を中心として。
 国を支える要職を目指す彼らだが、婚約者一人すら蔑ろにするような奴は王族としては願い下げである。

「このままでは彼ら自身、身を滅ぼしかねないんだがな」

 アカデミーに通う前提は社交界の模擬訓練である。
 未来の爵位を背負う立場の若者が自身の人脈を拡げる場でもあるのだ。
 アカデミー内は人脈を拡げやすいようになるべく身分関係無きよう平等に接するルールはあるもの、それでも最低限マナーは守らねばならぬ。
 それを己の都合良く解釈し、不遜な態度でいる者は粛清せねばならぬのだ。

 よし、俺が直接手を出すのははばかられるから彼らにさとしてもらおう。


 一週間後。

「急に頼んですまないね」

「我が劇団を気に掛けて下さり恐縮でございます。ですが、よろしいのでしょうか?」

「流行歌は若者に人気であろう。派手にやってくれ」

「殿下の頼みとあらば、精いっぱい努めさせて頂きます」


 持つべきものは知識と人脈である。
 この日、アカデミーでいわゆる突発歌劇をする事にした。とはいえ歌劇パートではなく、歌パートのみのものだが。
 アカデミー内講堂にて何かが起きる、と噂を流せば暇を持て余した子息令嬢はそわそわとその時を待っていた。

 そして現れたのは。

「マスター!今日は派手に行くぞー!!」

「暇なら見て行け」

「マスターさん、楽しんで下さいねー!」

 そう、我らがソードマンたちだ。

「よぉ~っし!早速、あの歌から行くぞー!」

「それでは聞いてください。
『婚約破棄ザマァ』」

『学園に通い~出~して~出逢ったピンクの髪~』

『屈託なく笑う~その瞳に釘付けさ~~』

『今は~~辛くても~~』

『僕たち~すれ違っても~~』

『いつかは~愛し合えるはずさ~~』

『だからこっち向いてご令嬢~~』

 いきなり始まった歌に、どこからともなく子息令嬢が集まってくる。中には興奮して目がハートになった御令嬢もいるが……。
 よしよし、ムリンダ嬢も混ざってるな。勿論取り巻きたちも。

『好きだ~~婚約者~~より~~』

『婚約~~破棄~~するから~~~』

『君以外なにも~~いらない~~~~』

 ムリナンダ嬢と取り巻きはうっとりと聞いている。この歌を自分に当てはめているんだろう。
 だがこの歌のタイトルは『婚約破棄ザマァ』。

『だ~け~~ど~~』

『君が見ていたのは僕の顔と地位~』

『婚約破棄して想いを伝えて大後悔時代~~』

『元婚約者の大切さに今更気付いた~~』

『もうその隣には他に男が~~幸せそうに笑う~~』

『全てが遅かった~~過ち~(過ち~~)
 廃嫡~(廃嫡~~)もう~~遅いのだ~~』

 歌い終えると、取り巻きらの表情は様々だった。
 顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり。
 そして次から次へと、彼らの身につまされる歌が披露されていく。

『お前を愛する事はない~~』

『なんて言いつつ気になるのさ~~』

『嫉妬してほしい~~(ラブユー)』

『本当は~~好きなんだ~~』

『だけどやっぱり遅~す~ぎた~~』

『まさかの君から婚約破棄~~』

『不貞を理由に~~迫~ら~れた~~』

 んっ、取り巻き①にグサグサ刺さっているようだ。
 ムリンダ嬢は顔色悪く俯いている。

『待って~彼女とは遊びだ~~』

『本当に好きなのは君だけ』

『でもそれは本当に好~き~な~のか~?』

『好きなら傷付け~る~なっ!』

 取り巻き①はフラフラと婚約者の御令嬢に近寄り、何かを話しているが。

「あなたとの婚約は破棄させていただきます!」

 ビシッと指を指す取り巻き①の婚約者。
 お見事である。


 それを皮切りに、ムリナンダ嬢の取り巻きたちがそこかしこで婚約破棄宣言をされている。
 言い渡された男たちは阿鼻叫喚しているが。

 関係無い者達の黄色い声と、ソードマンゲリラライブの熱狂にかき消されていた。


「俺のヴァレリアを傷付けるようなくだらない噂を流すからだよ。自業自得だな」


 アイザックが調べたアカデミー内の噂の元はムリナンダ嬢とその取り巻きだった。
 大方書物のように王太子を侍らせたかったのだろう。
 だが俺はヴァレリア以外に目もくれない。焦れた奴らはヴァレリアに身を引かせようとした、というところか。

 なんとか彼らをギャフンと言わせたかったのだが。
 それなりに効果があったようだ。

 ソードマンたちに心の中で感謝しながら、歌劇に瞳を輝かせるヴァレリアを愛でるのであった。
 
 ソードマンオウタイーシも出ないかな…。

「やっぱりどんなソードマンより、オスカー様の方が素敵ですね」


 立派な王太子に俺はなる!!

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