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6本目 女子バスケットボール部員の告白
異変 71-11
しおりを挟む「……希さん、起きられますか? 希さん?」
目を開くと、制服姿の美女が僕を覗きこんでいた。
「ん、香織さん……」
「眠いですよね。ごめんなさい。でも、起きて出られますか?」
カーテンの脇から、外の白い光が入ってきている。朝になっていたのだ。
「はい……おはようございます」
このベッドに住み着きたい気持ちを抑えて身を起こす。
「ふふ、おはようございます」
笑顔で返してくれた香織さんは、もうすっかり身支度を整えていた。下ろしているロングヘアには癖ひとつない。
寝顔を見たり、起きる前にもうちょっと横になったまま話したり、そういうことはできなかった……もったいなく感じたけど、眠っていたものは仕方ない。
香織さんには一旦部屋から出てもらって、僕が制服に着替える。
ジャージ類を畳んで置くついでに、もう一度だけベッドのシーツに触れてみたけれど、既に彼女の体温は感じられなかった。
無事に朝を迎えて、これから家に寄るーーという報告のメッセージを伶果さんに送ってから、手早く支度をする。
香織さんのお母さんたちは寝入っているようで、全く動く気配がない。キッチンとテーブルには昨夜のまま、お酒の缶とおツマミの包装などが散らばっていた。
その2人と顔を合わせる前に、揃って家を出る。
外はもう日が昇っており、車も人も動いていた。
食卓を共にするだけでなく、同じベッドで寝て、一緒に家を出発する。そこに特別な感覚を抱いてしまうのは、きっと僕の方だけなんだろう。
彼女にしてみれば緊急避難でやったこと。僕のことは、頼りにはなるかもしれないが異性として迫ってくることはない弟のような存在とみていることは、分かっている。恋愛相談までされた上、その相手との仲を取り持っているわけだし。
「母とは、もう一度話してみます。昨日は、お酒も入っていたようですし……」
歩きながら、香織さんはそう言った。
朝食を買っていくという彼女とは、コンビニの前で分かれることになった。
昨日から続いてきた一連の時間はこれで終わる。でもこれから学校へ行くのに「さようなら」では変な気がして、僕はこう声をかけた。
「じゃあ、香織さん、いってらっしゃい」
彼女も、笑顔で小さく手を振りながら答えてくれた。
「はい。希さんも、いってらっしゃい」
●
放課後の練習は、いつもと同じように始まった。
学校の先生が1人、体育館へ入ってきて千華子先生に耳打ちするまでは。
「香織、それから翠」
正副部長を呼び寄せた千華子先生は、やがて香織さんだけを伴って出ていった。
後の練習は翠さんが進行することになる。
「今日は私たちで練習を進めるように。終わるまでに戻れってこられるかどうか分からないから、時間になったら帰るように――って」
何があったのか、誰しもが気になるところだったが、それは翠さんも聞かされていないということで、ともかく練習を続けるしかなかった。
結局、練習時間が終わっても2人は戻ってこなかった。
部室には、香織さんが既に制服に着替え、荷物も持って出ていった形跡があった――と成美さんが教えてくれた。スマートフォンにメッセージを送ってみても反応がないという。
そうなると、部室で待っていても会えるかどうかも分からない。
皆、心配してはいたけれど、大会前の大切な時期でもある。今日は帰宅するようにと翠さんが指示を出した。
部員と一緒に香織さん宅へ寄る日課も、今日は休みということになる。
今日だけ急に自宅で夕食となっても困るだろう。通話をかけてみたが出なかった伶果さんにはメッセージを送り、僕は流河に寄って賄い食をいただいた。アルバイトの入っていない日でも、ほぼ原価で食べさせてくれる。感謝しかない。
居候であるスミレ子さんも同じテーブルに座ったが、お酒は飲まず、口数も少なかった。
アパートに帰っても伶果さんの姿はなく、先程のメッセージを見た形跡すらなかった。今日も仕事が終わらないようだ。
ただ、学校の先生の残業代というのは雀の涙ほどの定額制であるらしく、居残っている間も多少は行動に融通が利くという。文字でのやり取りくらいはできることが多いのだけど……今日に限っては会議か何かなのかもしれない。
弁当箱を洗ったり洗濯機を回したりしていると、スマートフォンが着信を報せてきた。
伶果さんか、それとも香織さんかと思って手に取ると……それは成美さんからだった。
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