偽りの愛 ー 真実かどうかなんて、なぜわかるのでしょうか

苺 迷音

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過去編

6 心は君にある -Chapter セレイナ 【回想】

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 その後、ヴァルターからの手紙が何度も届いた。いつもより頻繁に。時には日を置かずに。

 セレイナはその手紙を受け取るたびに、心が締めつけられた。

「セレイナへ。会いたい。会ってくれないか?」

 短い手紙だったが、返ってその短さの中に、ヴァルターの切実さが詰まっていた。

 会うべきか、会わぬべきか。

 セレイナは迷っていた。会えば、ヴァルターの提案を受け止めるしかない。三年待つか、別の道か。その選択は、もう避けられなかった。

 それでもセレイナの心は、ヴァルターに会いたいという想いで、日に日に傾いていた。手紙のやり取りだけでは、もう足りない。ヴァルターの顔を見たい。声を聞きたい。そして、本当に自分が愛されているのかを確かめたい。その欲望に抗うことは、とうとう出来なかった。

 セレイナは返事を書いた。ペンを握る手には、知らず知らずに力が入る。

「会います」

 ヴァルターとの再会。その時、彼は何を言うのか。セレイナは何を答えるのか。あらゆる可能性が頭を占めた。



 そして、約束の夜がやってきた。

 セレイナは、待ち合わせ場所である、王城近くの宮廷庭園へ向かった。

 夜は深く、月明かりだけが庭園を照らしている。セレイナの足取りは定まらず、迷いと不安がその歩みに表れている。時折、立ち止まりそうになる足をなんとか前へ進めてゆく。

 ヴァルターに会いたい。

 その想いがセレイナを押し出していたが、同時に会ってはいけないという警鐘も、頭のどこかで響き渡っていた。

 庭園の先、月明かりの中にヴァルターの姿が見えた瞬間、セレイナの心は高鳴った。ヴァルターも彼女に気づき、表情が変わった。驚き、喜び、そして切実な想いがその顔に浮かんで見えた。

「セレイナ……っ」

 まるで夢が現実になったかのように、ヴァルターは足早に近づいてきた。

「セレイナ。あぁ……セレイナ……ッ……本当に君なんだね。会いたかった、会いたかった……っ」

 ヴァルターの声は震えていた。どれほど彼が、セレイナを待ち続けていたかが痛いほど伝わってくる。二人の距離が無くなった途端、セレイナはヴァルターに、強く抱きしめられた。堪えきれない、この先二度と会えないとでもいうように。

 ヴァルターの腕の力は強く、その胸に顔を埋めると鼓動が伝わってくる。その音が、ヴァルターの心が自分を求めている証のように思えた。

 言葉は必要なく、この抱擁が全てを語っている。ヴァルターの愛、セレイナの愛。二人の間に流れる、言葉にできない感情。

 そうして暫くの後、ヴァルターは腕に込めていたを解き、セレイナの顔を両手で包んで月明かりの中、お互いの目を合わせた。

「毎日、君を思っていた。君がくれた手紙を、何度も読んだ。君の言葉が、俺の支えだった」

 ヴァルターの瞳は真っ直ぐセレイナを見つめていた。

「頼む。三年……待っててほしい」

 セレイナはヴァルターと目を合わせたまま、口を開けず黙っていた。三年。その時間が何を意味するのか、セレイナには分からない。

 ヴァルターが別の女性と夫婦生活を送るその年月、自分の心はどこへ向かうのか。けれど、今のヴァルターを信じたかった。今のセレイナには、信じるしかなかった。

「……わかりました……三年、待ちます。その代わり手紙をください。あなたが私を愛していると信じていたいの。その手紙が私の支えになりますから」

 セレイナの言葉には切実な願いが込められていた。ヴァルターは言葉では答えずもう一度、彼女を強く抱きしめた。

 月明かりの中で、二人はただその温もりを確かめ合う。

 この時間を永遠に記憶に留めたいと思いながらも、永遠はないことを二人は知っていた。

 ヴァルターの目に涙が滲んでいた。セレイナの目にも同じように。

「愛してる。心から君だけを。セレイナ、君を失いたくない。俺の心は君にある」

 セレイナは静かに頷いた。三年間、待つという決意の表れ。

 庭園を去るとき、セレイナは振り返らずに歩いた。もし振り返れば、ヴァルターの姿が見えるだろう。その姿を見ればきっと、心が揺らいでしまう。行かないでと。三年も待てないと。

 だから、セレイナは前だけを見て歩いた。

 空に浮かぶ満月が、セレイナの背を照らしていた。
 その光は優しく、そして哀しかった。

 セレイナは、ふと、空を見上げた。

 絶頂期を迎えた満月。この後はただ、欠けてくだけ。

 その月が二人の関係を予兆しているようで、セレイナはそこから目を逸らした。
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