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48 瓶 ーChapter エリオス
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「助かった。協力に感謝する」
エリオスは椅子から立ち上がり、モーリーと軽く握手を交わした。
「こちらこそ光栄でございます、殿下」
モーリーが深く頭を下げるのを見届けてから、エリオスとオクターブは応接室をあとにした。
応接室を出て、再び店内へと足を踏み入れる。先ほどは気に留めなかった二人だったが、改めて周囲を見渡せば、店内は様々な瓶や箱で溢れていた。にも関わらず、全体に洗練された空気が漂っている。
規則正しく並べられた商品や、考えられた位置に飾られた生花たちも華美ではないが気品ある美しさで、店内の高級感をさらに上質なものにしていた。
店内をくるりと見渡したエリオスは
「この店で一番人気のものはなんだろうか?」
ここへ来たときにモーリーを呼びに行ってくれた女性店員に問うた。聞かれた妙齢の女性店員も
「このシリーズが人気ですよ」
と、白手袋をディスプレイの一角の方へと向けた。
そこには、店のイメージカラーなのだろう、表のオーニングと同じ青緑色をした長細い六角瓶がいくつか並んでいる。特に目を引くのは、その瓶の栓だった。丸はもちろん、星型や、三角、果ては花形など、さまざまな形となっていた。
「これは香水でございます。さわやかなフローラル系の香りで、シーンを選べずに使えるものとなっております。特に、この瓶の栓を集めて愛用くださるお客様もおられまして」
それを聞いたエリオスは、即
「ではそのシリーズ全てを三セット購入したい。会計はオクターブ……この男に」
そう応え、後のことをオクターブへ任せた。
「畏まりました。王宮の方へお届けしたほうがよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「承りました。では明日の朝、一番にお届け申し上げます」
「ああ。あと、女性が喜びそうなものを、数点付け足しておいてくれないか」
「畏まりました」
女性店員は微笑みを深くし、丁寧に頭を下げた。
☆
レーヌ商会を出た二人はその足で、残り二商店を回ったが、そこでは軽く買い物をするに留めた。服飾店では普段使いの春から夏にかけて着れるワンピースを数点、装飾店でも同じく普段使いできる髪飾りを数点買い求めた。
その中でワンピースも髪飾りも一つずつだけ、エリオス自身が選び、それは別で包装の上王宮へ運んで欲しいと伝えておいた。
「殿下。この後なのですが、いかがなさいますか」
オクターブの問いにエリオスは
「行くべき場所はわかっているが、どうしたものか」
そう答え、待たせておいた馬車の中で腕組をしつつ、沈思黙考する。
今言ったように、次に行くべき場所は『ミレーユ・グレイストン公爵夫人』の元が妥当だろう。そこで話を聞くのが早い。だが、万が一にもミレーユがこの件に深く関わっていた場合、こちらの手の内を何の策も講じずに明かすことになる。結果、証拠隠滅されたり二度と詳細を掴めないようなことに陥りかねない。ただでさえ、証言を引き出せそうだった関係者は、国外追放されているのだ。
それともう一点。エリオスには引っかかることがあった。モーリーはこうも言っていた。「香水などのやり取り」と。瓶の中身を入れ替えて、薬を渡していたとしたら?
「オクターブ。タチアオイの香りを知っているか?」
「いえ。もちろん花は存じてますが……香りまでは」
「印象に残らない。ほぼ香りがないということだ。だとすると、逆に香りづけがしやすい。例えば、ヴァイニージャ……所謂バニラの香りづけをすれば、高濃度の避妊薬とは誰も思わない」
「なるほど。それでやり取りをしていた可能性はありますね」
オクターブも大きく頷くが、二人ともそれが『推測の域』を出ないことを十分に理解している。
「何か、ゆるぎない証拠となるものがあればいいが、瓶もすでに処分しているだろうな」
「はい。間違いなく」
「仮に、ミレーユ公爵夫人がリージェリア妃に薬を送っていたとしたら。夫人はどこから入手したんだ?」
「確か、夫人は懐妊されてますよね」
「ああ、そう聞いた記憶がある。そうだ。ちょうど、和平条約の更新の時だ。ヴァルター公が嬉しそうに語っていた。あの頃にはもう、セレイナは薬を盛られていた。ミレーユ夫人もまた、避妊薬を必要としていなかったはずだ。もし、用意していたとしたのであれば、秘密裡に用立てていたということか?」
「ヴァルター公は、この件には無関係ということでしょうか?」
「それはわからん。ただ……いくら憎い相手であっても、あのヴァルター公が薬を盛るという卑劣な手段を選ぶとは思えん。しかも、一度は愛した女性に対してだぞ」
「わかりませんよ。恋や愛といった曖昧なものは、人を狂わせる理由としては十分ではないでしょうか」
オクターブが自身の言葉に納得するように、何度も頷く。
「確かに。愚兄を筆頭にな」
エリオスにそう返されて、オクターブは頷くのをやめた。さすがに、王太子を引き合いに出されると、本音は別としても頷くわけにもいかない。
「ここは、腹の黒い親愛なる母の知恵を、借りるか」
身内に手厳しいエリオスの言い方に、オクターブは苦笑しながらも再び頷いた。
エリオスは椅子から立ち上がり、モーリーと軽く握手を交わした。
「こちらこそ光栄でございます、殿下」
モーリーが深く頭を下げるのを見届けてから、エリオスとオクターブは応接室をあとにした。
応接室を出て、再び店内へと足を踏み入れる。先ほどは気に留めなかった二人だったが、改めて周囲を見渡せば、店内は様々な瓶や箱で溢れていた。にも関わらず、全体に洗練された空気が漂っている。
規則正しく並べられた商品や、考えられた位置に飾られた生花たちも華美ではないが気品ある美しさで、店内の高級感をさらに上質なものにしていた。
店内をくるりと見渡したエリオスは
「この店で一番人気のものはなんだろうか?」
ここへ来たときにモーリーを呼びに行ってくれた女性店員に問うた。聞かれた妙齢の女性店員も
「このシリーズが人気ですよ」
と、白手袋をディスプレイの一角の方へと向けた。
そこには、店のイメージカラーなのだろう、表のオーニングと同じ青緑色をした長細い六角瓶がいくつか並んでいる。特に目を引くのは、その瓶の栓だった。丸はもちろん、星型や、三角、果ては花形など、さまざまな形となっていた。
「これは香水でございます。さわやかなフローラル系の香りで、シーンを選べずに使えるものとなっております。特に、この瓶の栓を集めて愛用くださるお客様もおられまして」
それを聞いたエリオスは、即
「ではそのシリーズ全てを三セット購入したい。会計はオクターブ……この男に」
そう応え、後のことをオクターブへ任せた。
「畏まりました。王宮の方へお届けしたほうがよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「承りました。では明日の朝、一番にお届け申し上げます」
「ああ。あと、女性が喜びそうなものを、数点付け足しておいてくれないか」
「畏まりました」
女性店員は微笑みを深くし、丁寧に頭を下げた。
☆
レーヌ商会を出た二人はその足で、残り二商店を回ったが、そこでは軽く買い物をするに留めた。服飾店では普段使いの春から夏にかけて着れるワンピースを数点、装飾店でも同じく普段使いできる髪飾りを数点買い求めた。
その中でワンピースも髪飾りも一つずつだけ、エリオス自身が選び、それは別で包装の上王宮へ運んで欲しいと伝えておいた。
「殿下。この後なのですが、いかがなさいますか」
オクターブの問いにエリオスは
「行くべき場所はわかっているが、どうしたものか」
そう答え、待たせておいた馬車の中で腕組をしつつ、沈思黙考する。
今言ったように、次に行くべき場所は『ミレーユ・グレイストン公爵夫人』の元が妥当だろう。そこで話を聞くのが早い。だが、万が一にもミレーユがこの件に深く関わっていた場合、こちらの手の内を何の策も講じずに明かすことになる。結果、証拠隠滅されたり二度と詳細を掴めないようなことに陥りかねない。ただでさえ、証言を引き出せそうだった関係者は、国外追放されているのだ。
それともう一点。エリオスには引っかかることがあった。モーリーはこうも言っていた。「香水などのやり取り」と。瓶の中身を入れ替えて、薬を渡していたとしたら?
「オクターブ。タチアオイの香りを知っているか?」
「いえ。もちろん花は存じてますが……香りまでは」
「印象に残らない。ほぼ香りがないということだ。だとすると、逆に香りづけがしやすい。例えば、ヴァイニージャ……所謂バニラの香りづけをすれば、高濃度の避妊薬とは誰も思わない」
「なるほど。それでやり取りをしていた可能性はありますね」
オクターブも大きく頷くが、二人ともそれが『推測の域』を出ないことを十分に理解している。
「何か、ゆるぎない証拠となるものがあればいいが、瓶もすでに処分しているだろうな」
「はい。間違いなく」
「仮に、ミレーユ公爵夫人がリージェリア妃に薬を送っていたとしたら。夫人はどこから入手したんだ?」
「確か、夫人は懐妊されてますよね」
「ああ、そう聞いた記憶がある。そうだ。ちょうど、和平条約の更新の時だ。ヴァルター公が嬉しそうに語っていた。あの頃にはもう、セレイナは薬を盛られていた。ミレーユ夫人もまた、避妊薬を必要としていなかったはずだ。もし、用意していたとしたのであれば、秘密裡に用立てていたということか?」
「ヴァルター公は、この件には無関係ということでしょうか?」
「それはわからん。ただ……いくら憎い相手であっても、あのヴァルター公が薬を盛るという卑劣な手段を選ぶとは思えん。しかも、一度は愛した女性に対してだぞ」
「わかりませんよ。恋や愛といった曖昧なものは、人を狂わせる理由としては十分ではないでしょうか」
オクターブが自身の言葉に納得するように、何度も頷く。
「確かに。愚兄を筆頭にな」
エリオスにそう返されて、オクターブは頷くのをやめた。さすがに、王太子を引き合いに出されると、本音は別としても頷くわけにもいかない。
「ここは、腹の黒い親愛なる母の知恵を、借りるか」
身内に手厳しいエリオスの言い方に、オクターブは苦笑しながらも再び頷いた。
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