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44 Happy End
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父侯爵の腕にカレンは手を添え、エスコートされるままにゆっくりと、大聖堂の中に足を一歩踏み入れた。
薔薇窓を通り抜けた光が、長い身廊の赤絨毯の上に豊かな色彩を落としている。柱や壁に刻まれた悠久の時を経た精巧な彫刻が、厳かな眼差しで二人の門出を見守っていた。身廊の両側には参列者たちが並び、その視線が一斉にこちらに向けられた。
祭壇の前に、ハルシオンが立っている。
その姿がカレンの目に飛び込んで来た。それだけで、言い知れぬ安堵と愛おしさ、そしてときめく高鳴りが再び全身を覆う。
白いロングサーコートの騎士正装に身を包み、ヘーゼルブロンドの髪が薔薇窓の光の中にある。銀灰色の瞳が、真っ直ぐにカレンを捉えて見えた。
ゆっくりと一歩、ゆっくりとまた一歩。父侯爵と共に、カレンは祭壇へと歩いてゆく。後ろでは、ヒューゴとシャルロッテが歩幅を揃えてヴェールを持っている。
祭壇の前で、父が足を止めた。カレンの手を取り、ハルシオンの手に重ねる。
「娘を、頼みます」
「命に代えても」
ハルシオンの声は静かだが、真っ直ぐに父侯爵の目を見て、大きくしっかりと頷いた。
父が一歩下がり、カレンはハルシオンの隣に立った。
カレンと見つめ合う形となったハルシオンの目尻は、赤く滲んでいた。いつもと変わらない甘い顔。そして彼も緊張しているのだろう、引き締めた口元から、ひとつ吐息が漏れた。
二人がなかなか前を向かないことに業を煮やしたのか。祭壇に立つ司祭が「んん、両閣下……式典を」と小声で囁いた。
思わず微笑み合ったカレンとハルシオンは、小さく頷き合って、正面を向く。
司祭の声が、高い天井に響き渡った。
「汝、ハルシオン・アルヴェルトは、この女性を妻とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで、愛し慈しむことを誓いますか」
「はい。誓います」
「汝、カレン・ヴァンシェルは、この男性を夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで、愛し敬うことを誓いますか」
「誓い、ます」
今まで堪えていた涙が、その言葉と共に零れてゆく。胸が詰まって、どうしても止められなかった。宣誓も、淀みなく言うつもりだったのに、そのまま聖堂の高い天井に吸い込まれていく。
ハルシオンと向かい合うと、彼はカレンの左手を取り、薬指に指輪を滑らせた。婚姻の証として新たに誂えられた、対の指輪。カレンも同じように、ハルシオンの薬指に指輪を嵌めた。
司祭が二人の手を重ね、祝福の言葉を述べる。
「ここに、夫婦の契りが結ばれました」
ハルシオンがカレンの方を向いた。ヴェールをそっと持ち上げる。
灰色の瞳が、真っ直ぐにカレンを見つめていた。
「カレン」
「はい……あなた」
その言葉が、唇から自然にこぼれ落ちた。
ハルシオンの瞳が大きく見開かれ、それから、蕩けるような笑顔になった。
そして、唇が重なる。
同時に、聖堂中に拍手が湧き起こった。
唇を離し振り返ると、参列者たちの顔が見えた。最前列で母がハンカチを目元に当て、父がその肩を抱いている。リュシアナが穏やかに微笑み、王太子殿下がその手を握っていた。レイナードが嬉しそうに手を叩き、マグリットは涙を拭いながらも、こちらに小さく手を振り、笑っている。隣には、浮気熊とマグリットが言った大柄な夫が、困ったように妻の背を撫でていた。その姿を見るにきっと、仲直りしたのだろう。
カレンはハルシオンの腕に手を添え、身廊を歩き始めた。後ろでは、ヒューゴとシャルロッテが誇らしげな顔でヴェールを持っている。
大扉を抜け、大階段の上に立った。
眼下に、街が広がっていた。見渡す限り、人、人、人の波。軒先には金と銀と翡翠のリボンが風に揺れ、三色が混ざり合って踊っている。
二人が姿を現すと、地を揺るがすほどの歓声が沸き起こった。
「公爵様、万歳!」
「ご成婚、おめでとうございます!」
「末永くお幸せに!」
響き渡るいくつもの声が、笑顔が、慶びとなって広がってゆく。
これから先、二人の元には楽しいことばかりではなく、苦難や辛いことも幾度となく訪れるだろう。でも、この人と一緒なら、乗り越えられる。冬を何度だって、手を繋いで越えていける。
そう思いながらカレンは、隣を見上げると、ハルシオンがこちらを見下ろしていた。
「カレン。幸せですか?」
「ええ、とても。言葉で言い尽くせないほどに。ハルは?」
「勿論、私もです」
ハルシオンが笑った。優しくて、凛としていて甘い幸福に満ちた笑顔。
カレンは夫の首に腕を回しつま先を立てると、もう一度、唇を重ねた。
その行動に一瞬、虚を突かれたようにハルシオンは小さな声を漏らしたが、直ぐにカレンの腰を引き寄せ、力強く抱きしめてそれに応えた。
その場に居る人々の歓声が、さらに大きくなった。
花びらと紙吹雪が舞い踊り、街中が二人を祝福で包み込んだ。
ハルシオンが耳元で囁いた。
「愛してる、カレン」
カレンは夫の首に腕を回したまま、顔を見上げて囁き返した。
「愛しています、あなた」
二人で笑いあう姿は、確かな今と、二人で重ねてゆくこれからの希望に満ちていた。
薔薇窓を通り抜けた光が、長い身廊の赤絨毯の上に豊かな色彩を落としている。柱や壁に刻まれた悠久の時を経た精巧な彫刻が、厳かな眼差しで二人の門出を見守っていた。身廊の両側には参列者たちが並び、その視線が一斉にこちらに向けられた。
祭壇の前に、ハルシオンが立っている。
その姿がカレンの目に飛び込んで来た。それだけで、言い知れぬ安堵と愛おしさ、そしてときめく高鳴りが再び全身を覆う。
白いロングサーコートの騎士正装に身を包み、ヘーゼルブロンドの髪が薔薇窓の光の中にある。銀灰色の瞳が、真っ直ぐにカレンを捉えて見えた。
ゆっくりと一歩、ゆっくりとまた一歩。父侯爵と共に、カレンは祭壇へと歩いてゆく。後ろでは、ヒューゴとシャルロッテが歩幅を揃えてヴェールを持っている。
祭壇の前で、父が足を止めた。カレンの手を取り、ハルシオンの手に重ねる。
「娘を、頼みます」
「命に代えても」
ハルシオンの声は静かだが、真っ直ぐに父侯爵の目を見て、大きくしっかりと頷いた。
父が一歩下がり、カレンはハルシオンの隣に立った。
カレンと見つめ合う形となったハルシオンの目尻は、赤く滲んでいた。いつもと変わらない甘い顔。そして彼も緊張しているのだろう、引き締めた口元から、ひとつ吐息が漏れた。
二人がなかなか前を向かないことに業を煮やしたのか。祭壇に立つ司祭が「んん、両閣下……式典を」と小声で囁いた。
思わず微笑み合ったカレンとハルシオンは、小さく頷き合って、正面を向く。
司祭の声が、高い天井に響き渡った。
「汝、ハルシオン・アルヴェルトは、この女性を妻とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで、愛し慈しむことを誓いますか」
「はい。誓います」
「汝、カレン・ヴァンシェルは、この男性を夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで、愛し敬うことを誓いますか」
「誓い、ます」
今まで堪えていた涙が、その言葉と共に零れてゆく。胸が詰まって、どうしても止められなかった。宣誓も、淀みなく言うつもりだったのに、そのまま聖堂の高い天井に吸い込まれていく。
ハルシオンと向かい合うと、彼はカレンの左手を取り、薬指に指輪を滑らせた。婚姻の証として新たに誂えられた、対の指輪。カレンも同じように、ハルシオンの薬指に指輪を嵌めた。
司祭が二人の手を重ね、祝福の言葉を述べる。
「ここに、夫婦の契りが結ばれました」
ハルシオンがカレンの方を向いた。ヴェールをそっと持ち上げる。
灰色の瞳が、真っ直ぐにカレンを見つめていた。
「カレン」
「はい……あなた」
その言葉が、唇から自然にこぼれ落ちた。
ハルシオンの瞳が大きく見開かれ、それから、蕩けるような笑顔になった。
そして、唇が重なる。
同時に、聖堂中に拍手が湧き起こった。
唇を離し振り返ると、参列者たちの顔が見えた。最前列で母がハンカチを目元に当て、父がその肩を抱いている。リュシアナが穏やかに微笑み、王太子殿下がその手を握っていた。レイナードが嬉しそうに手を叩き、マグリットは涙を拭いながらも、こちらに小さく手を振り、笑っている。隣には、浮気熊とマグリットが言った大柄な夫が、困ったように妻の背を撫でていた。その姿を見るにきっと、仲直りしたのだろう。
カレンはハルシオンの腕に手を添え、身廊を歩き始めた。後ろでは、ヒューゴとシャルロッテが誇らしげな顔でヴェールを持っている。
大扉を抜け、大階段の上に立った。
眼下に、街が広がっていた。見渡す限り、人、人、人の波。軒先には金と銀と翡翠のリボンが風に揺れ、三色が混ざり合って踊っている。
二人が姿を現すと、地を揺るがすほどの歓声が沸き起こった。
「公爵様、万歳!」
「ご成婚、おめでとうございます!」
「末永くお幸せに!」
響き渡るいくつもの声が、笑顔が、慶びとなって広がってゆく。
これから先、二人の元には楽しいことばかりではなく、苦難や辛いことも幾度となく訪れるだろう。でも、この人と一緒なら、乗り越えられる。冬を何度だって、手を繋いで越えていける。
そう思いながらカレンは、隣を見上げると、ハルシオンがこちらを見下ろしていた。
「カレン。幸せですか?」
「ええ、とても。言葉で言い尽くせないほどに。ハルは?」
「勿論、私もです」
ハルシオンが笑った。優しくて、凛としていて甘い幸福に満ちた笑顔。
カレンは夫の首に腕を回しつま先を立てると、もう一度、唇を重ねた。
その行動に一瞬、虚を突かれたようにハルシオンは小さな声を漏らしたが、直ぐにカレンの腰を引き寄せ、力強く抱きしめてそれに応えた。
その場に居る人々の歓声が、さらに大きくなった。
花びらと紙吹雪が舞い踊り、街中が二人を祝福で包み込んだ。
ハルシオンが耳元で囁いた。
「愛してる、カレン」
カレンは夫の首に腕を回したまま、顔を見上げて囁き返した。
「愛しています、あなた」
二人で笑いあう姿は、確かな今と、二人で重ねてゆくこれからの希望に満ちていた。
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