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1巻 2章~ガルムと湖の主と炙り寿司と
ラベルク村への旅立ち / ゴブリンの襲撃と不穏な空気
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「メェメェ」「メェエエエ」
この鳴き声はアレだ。地球でおなじみのヤギじゃないのか?
鳴き声はヤギのそれと全く同じなんだが…びっくりしたのはその大きさだ。知っているヤギよりも2倍くらい横にも縦にも大きい!顔はヤギにそっくりなんだが全くの別物のような気がする。
しかも知っているヤギと根本的に違うのは、背中に山のように尖っている部分があり、一瞬ラクダかと思った。しかしその尖っている部分から煙が上がっているのが分かって、声を上げそうになった!
「チャッピーとルップー! 生き残っていたんですね! 」
フィオナはそのヤギと同じような鳴き声を出している別種の生き物……全身がふっくらとした毛で覆われ、もふもふした感覚が見ているだけの俺にも伝わってくる……に抱き着くと嬉しそうな、安心したような声を上げた。
抱きしめられた、チャッピーだかルップーだがは分からないヤギは嬉しそうにニヤリと笑った。そして背中の山のように盛り上がっている場所から『ピュー!』とあたたかい蒸気のようなものが上がった! 俺は目を皿のようにして驚いた。さすが異世界!
しばらくチャッピーとルップーと呼ばれたヤギらしき生物とフィオナとの、涙なみだの再会シーンとなった。
「チャッピーとルップーは、わたしが教会に入った時にはまだ子山羊で。生きていてくれて本当に良かったです」
清楚な美人がもふもふの動物と戯れ、喜ぶ場面というのは絵になるな。いや、待て。目の保養だ目の保養。
そんなどうでも良い事を考えてニヤニヤとしている俺。しかし実はそれどころではなかった。フィオナは俺に向き直ると、笑顔を浮かべながら言い放った。
「さぁレンジさん。手伝ってください。この山羊蹄車を起こしますよ! 」
いや待て。これめっちゃデカいよな。なんか樽とか樽とか樽とか! 荷物沢山載ってるし。まさか一回荷物下ろして全部積み直すのか。マジか!
それから俺とフィオナで荷物を一度下ろして山羊蹄車を起こした。もちろん俺たち二人だけでは無理なので、山羊2匹にも引っ張ってもらったりと工夫をした。これがなかなかの重労働だった。雪で足も取られたしな。ちなみにグリューンは応援係だった。彼の小ささでは確かにそれしかやる事がないんだが。
「かなりの荷物だな。ほとんど食料と水みたいだけど、この先にあるなんとか村に持って行くって言っていたよな」
俺は昨日フィオナが言っていたことを思い出し、聞いてみる。確か寒冷化で大変なことになっている村への支援物資と言っていた。寒冷化ということは元々この辺りは暖かい地域だったということか。なんでいきなり寒冷化したんだろう。
「ラベルク村ですね。私の所属している王国の教会に支援要請があったんです。王国騎士団の方々も動き出していて、寒冷化の原因を探っているそうです」
王国騎士団だってよ! いよいよファンタジックな世界観になってきたな!
「今わたしたちがいる場所はラベルク山脈という山々の中腹にある地域で、街道からは少し外れたところにあります。ラベルク村まではこのまま山羊蹄車飛ばせば1日ほどで着くはずです」
フィオナに説明されて、ようやく俺がどういった場所に降り立ったのか理解した。クジャクンめ、もう少しマシなところに俺を降ろしても良かっただろ。
「フィオナ。どうして街道から外れたんだ? 外れなければケイブベアに襲われことも多分なかったんだよな」
疑問に思ったのでフィオナに尋ねてみた。
「わたしも外れたくて外れたわけではないです……あの時はかなりの雪で道が分かり難くなっていて、土地勘があまりなかったので道を外れている事に気付かなくて。そのままケイブベアの縄張りに足を踏み入れてしまったようです。突然横から襲われたので抵抗する暇すら与えさせてもらえず……」
そういう事か。なるほどなと納得する。でも俺にとってはフィオナが雪道を外れてくれたから、逆に出会えたわけで。ある意味この雪と寒冷化に感謝しなければいけないのかもしれないな。
荷物を積み終わった俺たち。フィオナは慣れた手つきで山羊のチャッピーとルップーを繋いでいる。
フィオナが言うには雪道を進むのに適した山羊や、水辺を進むのに適した山羊など様々な種類のがいるとのことだ。俺はそれを聞きながら、時々山羊の背中から蒸気が上がるのが面白くて、それを見ているだけで飽きなかった。
そんな事をしながら気づいたらお昼過ぎになっていた。雪がまた少し降り出して辺りの気温が少しずつ下がりだした。俺とフィオナとグリューンは昨日のタッツィの刺身の残りを食べて空腹をしのぐ。
すると思い出したようにフィオナが呟く。
「そういえば、持ってきていた樽が幾つか無くなっている様な気がするんです。数が合わないんですよ。どうしたんでしょう」
え……本当に? 俺はキョトンとしてフィオナを見つめ返した。
「フィオナ。そういう事はなんでもっと早くに言わないんだ」
俺はこの場所に戻ってきた時に、周囲に付いていた足跡の事を思い出していた。まさかと思うがモンスターが現れて、樽ごと持ち去ったのだとしたら。そして食料や水の入った樽はまだここに残っていて、その事に思い至った奴らが戻ってくる可能性だってあるかもしれない。
その時だった。フィオナの足もとの雪に向けて『シュッ』と音がして、1本の矢が突き刺さった!
俺はびっくりして、矢が射かけられた方向を急いで振り向く。見ると、俺たちの周囲を囲むように、頭から小さい角を生やした、かなり身長の低い2足歩行のヒト型生物が4体ほど、こちらに向かって弓を構えているのが見えた。
そのヒト型生物は、「ギャギャ! 」と声を出しながら、俺たちを威嚇したような素振りを見せる。
「フィオナ。あいつらは一体……仲良くは出来そうにないよな。たぶん」
見た目は小さい小鬼といったらいいのか、そいつらから明らかに敵対する意思を感じる。
「レンジさん、ゴブリンです! たぶん樽を持って行ったのも彼らです! ゴブリンは1匹見かけたら10匹は居ると思った方がいいです」
ゴブリン! あれがファンタジー世界でかくも有名な雑魚敵か! 怖いけど、ちょっと凄いなと、そんなことを考えている自分がいた……そう思った俺の近くに、矢継ぎ早に矢が射かけられる!
視線を移すと、さらに雪の中から6体ほどのゴブリンの影が近づいてくるのが見えた。
「確かに! 1匹見かけたら、10匹くらい出てきたな! 」
まるで台所に出るあの黒いやつじゃねぇか! 俺は地球における、ある意味最強生物と称される、その黒い虫を思い描いた。食品関係に携わっていた身として、かなりウンザリした気分になる。
「レンジさん、直ぐに荷台に飛び乗ってください! この数では多勢に無勢です。乗り込んだら一気にこの場から遠ざかるので、しっかり落ちないように掴まってください! 」
俺とグリューンは大きく頷く。フィオナは身軽に山羊蹄車に飛び乗り、一気に手綱に手を掛ける!
「レンジさん、グリューン。乗ってください! 」
ゴブリンが逃げる俺たちを追いかける様に、腰に下げた短剣を抜き放ち、一気に間合いを詰める様にこちらに追いすがってくる! 更に後方の弓部隊が一斉にこちらに向けて矢を射かけてくる。俺とグリューンが飛び乗ったところに、「シュッ」と何本かの矢が突き刺さる。
「うわっマジかよ! これってもう少し積み込むのが遅かったら大変な事になっていたんじゃないか! 」
俺とグリューンは必死に荷台にしがみ付く。フィオナは器用に飛んでくる矢から避ける様に山羊蹄車の手綱を操りながら、必死にその場から遠ざかっていく。
段々と小さくなるゴブリンたちの影。それでもそれが完全に消え去って、矢がどこからも飛んでこないことを確認するまで、俺とフィオナ、グリューンの緊張は解けることが無かった。
そんな波乱含みな出発となった俺達。それはまさに、これからラベルク村で起こる出来事を暗示しているかのようだった。
この鳴き声はアレだ。地球でおなじみのヤギじゃないのか?
鳴き声はヤギのそれと全く同じなんだが…びっくりしたのはその大きさだ。知っているヤギよりも2倍くらい横にも縦にも大きい!顔はヤギにそっくりなんだが全くの別物のような気がする。
しかも知っているヤギと根本的に違うのは、背中に山のように尖っている部分があり、一瞬ラクダかと思った。しかしその尖っている部分から煙が上がっているのが分かって、声を上げそうになった!
「チャッピーとルップー! 生き残っていたんですね! 」
フィオナはそのヤギと同じような鳴き声を出している別種の生き物……全身がふっくらとした毛で覆われ、もふもふした感覚が見ているだけの俺にも伝わってくる……に抱き着くと嬉しそうな、安心したような声を上げた。
抱きしめられた、チャッピーだかルップーだがは分からないヤギは嬉しそうにニヤリと笑った。そして背中の山のように盛り上がっている場所から『ピュー!』とあたたかい蒸気のようなものが上がった! 俺は目を皿のようにして驚いた。さすが異世界!
しばらくチャッピーとルップーと呼ばれたヤギらしき生物とフィオナとの、涙なみだの再会シーンとなった。
「チャッピーとルップーは、わたしが教会に入った時にはまだ子山羊で。生きていてくれて本当に良かったです」
清楚な美人がもふもふの動物と戯れ、喜ぶ場面というのは絵になるな。いや、待て。目の保養だ目の保養。
そんなどうでも良い事を考えてニヤニヤとしている俺。しかし実はそれどころではなかった。フィオナは俺に向き直ると、笑顔を浮かべながら言い放った。
「さぁレンジさん。手伝ってください。この山羊蹄車を起こしますよ! 」
いや待て。これめっちゃデカいよな。なんか樽とか樽とか樽とか! 荷物沢山載ってるし。まさか一回荷物下ろして全部積み直すのか。マジか!
それから俺とフィオナで荷物を一度下ろして山羊蹄車を起こした。もちろん俺たち二人だけでは無理なので、山羊2匹にも引っ張ってもらったりと工夫をした。これがなかなかの重労働だった。雪で足も取られたしな。ちなみにグリューンは応援係だった。彼の小ささでは確かにそれしかやる事がないんだが。
「かなりの荷物だな。ほとんど食料と水みたいだけど、この先にあるなんとか村に持って行くって言っていたよな」
俺は昨日フィオナが言っていたことを思い出し、聞いてみる。確か寒冷化で大変なことになっている村への支援物資と言っていた。寒冷化ということは元々この辺りは暖かい地域だったということか。なんでいきなり寒冷化したんだろう。
「ラベルク村ですね。私の所属している王国の教会に支援要請があったんです。王国騎士団の方々も動き出していて、寒冷化の原因を探っているそうです」
王国騎士団だってよ! いよいよファンタジックな世界観になってきたな!
「今わたしたちがいる場所はラベルク山脈という山々の中腹にある地域で、街道からは少し外れたところにあります。ラベルク村まではこのまま山羊蹄車飛ばせば1日ほどで着くはずです」
フィオナに説明されて、ようやく俺がどういった場所に降り立ったのか理解した。クジャクンめ、もう少しマシなところに俺を降ろしても良かっただろ。
「フィオナ。どうして街道から外れたんだ? 外れなければケイブベアに襲われことも多分なかったんだよな」
疑問に思ったのでフィオナに尋ねてみた。
「わたしも外れたくて外れたわけではないです……あの時はかなりの雪で道が分かり難くなっていて、土地勘があまりなかったので道を外れている事に気付かなくて。そのままケイブベアの縄張りに足を踏み入れてしまったようです。突然横から襲われたので抵抗する暇すら与えさせてもらえず……」
そういう事か。なるほどなと納得する。でも俺にとってはフィオナが雪道を外れてくれたから、逆に出会えたわけで。ある意味この雪と寒冷化に感謝しなければいけないのかもしれないな。
荷物を積み終わった俺たち。フィオナは慣れた手つきで山羊のチャッピーとルップーを繋いでいる。
フィオナが言うには雪道を進むのに適した山羊や、水辺を進むのに適した山羊など様々な種類のがいるとのことだ。俺はそれを聞きながら、時々山羊の背中から蒸気が上がるのが面白くて、それを見ているだけで飽きなかった。
そんな事をしながら気づいたらお昼過ぎになっていた。雪がまた少し降り出して辺りの気温が少しずつ下がりだした。俺とフィオナとグリューンは昨日のタッツィの刺身の残りを食べて空腹をしのぐ。
すると思い出したようにフィオナが呟く。
「そういえば、持ってきていた樽が幾つか無くなっている様な気がするんです。数が合わないんですよ。どうしたんでしょう」
え……本当に? 俺はキョトンとしてフィオナを見つめ返した。
「フィオナ。そういう事はなんでもっと早くに言わないんだ」
俺はこの場所に戻ってきた時に、周囲に付いていた足跡の事を思い出していた。まさかと思うがモンスターが現れて、樽ごと持ち去ったのだとしたら。そして食料や水の入った樽はまだここに残っていて、その事に思い至った奴らが戻ってくる可能性だってあるかもしれない。
その時だった。フィオナの足もとの雪に向けて『シュッ』と音がして、1本の矢が突き刺さった!
俺はびっくりして、矢が射かけられた方向を急いで振り向く。見ると、俺たちの周囲を囲むように、頭から小さい角を生やした、かなり身長の低い2足歩行のヒト型生物が4体ほど、こちらに向かって弓を構えているのが見えた。
そのヒト型生物は、「ギャギャ! 」と声を出しながら、俺たちを威嚇したような素振りを見せる。
「フィオナ。あいつらは一体……仲良くは出来そうにないよな。たぶん」
見た目は小さい小鬼といったらいいのか、そいつらから明らかに敵対する意思を感じる。
「レンジさん、ゴブリンです! たぶん樽を持って行ったのも彼らです! ゴブリンは1匹見かけたら10匹は居ると思った方がいいです」
ゴブリン! あれがファンタジー世界でかくも有名な雑魚敵か! 怖いけど、ちょっと凄いなと、そんなことを考えている自分がいた……そう思った俺の近くに、矢継ぎ早に矢が射かけられる!
視線を移すと、さらに雪の中から6体ほどのゴブリンの影が近づいてくるのが見えた。
「確かに! 1匹見かけたら、10匹くらい出てきたな! 」
まるで台所に出るあの黒いやつじゃねぇか! 俺は地球における、ある意味最強生物と称される、その黒い虫を思い描いた。食品関係に携わっていた身として、かなりウンザリした気分になる。
「レンジさん、直ぐに荷台に飛び乗ってください! この数では多勢に無勢です。乗り込んだら一気にこの場から遠ざかるので、しっかり落ちないように掴まってください! 」
俺とグリューンは大きく頷く。フィオナは身軽に山羊蹄車に飛び乗り、一気に手綱に手を掛ける!
「レンジさん、グリューン。乗ってください! 」
ゴブリンが逃げる俺たちを追いかける様に、腰に下げた短剣を抜き放ち、一気に間合いを詰める様にこちらに追いすがってくる! 更に後方の弓部隊が一斉にこちらに向けて矢を射かけてくる。俺とグリューンが飛び乗ったところに、「シュッ」と何本かの矢が突き刺さる。
「うわっマジかよ! これってもう少し積み込むのが遅かったら大変な事になっていたんじゃないか! 」
俺とグリューンは必死に荷台にしがみ付く。フィオナは器用に飛んでくる矢から避ける様に山羊蹄車の手綱を操りながら、必死にその場から遠ざかっていく。
段々と小さくなるゴブリンたちの影。それでもそれが完全に消え去って、矢がどこからも飛んでこないことを確認するまで、俺とフィオナ、グリューンの緊張は解けることが無かった。
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