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1巻 2章~ガルムと湖の主と炙り寿司と
長い冬の秘密/エリュハルトの異種族たち
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「丁寧に済まねぇな。神官の嬢ちゃん。俺の名はガルム。ガルム・シュトルムヴォルフだ」
ガルムと名乗った男は俺とフィオナに握手を求めてくる。そういう習慣はこちらの世界にもあるんだな。そんなことを考えながら俺も男の手を握る。力強い手だ。
チラッとガルムが俺を見上げる。
「小僧。名前は……?」
ガルムの目の奥が少し光ったようなそんな気がした。
「俺はレンジ。レンジ・カイドーだ。俺の肩に乗っているこいつはグリューン」
ガルムは俺の手を握ったまま、その手に力を込めた。鋭い眼光が一瞬更に鋭くなる。
「レンジか。覚えておこう。涼やかな風のような良い魔力だ」
ガルムの顔が一瞬、明るくなったような気がしたのは俺の気のせいか。涼やかな風のような良い魔力って言われてもなぁ。俺自分で自分の魔力の事がよく分かっていないしよ。
「嬢ちゃん。酒はねぇようだな」
「すみません。基本的には支援物資が主になりますので、お酒の類は今回持ってこれなくて」
フィオナが説明を加える。確かに。支援物資ならばまずは嗜好品よりも食料や水だよな。あとは毛布とか体を暖める類のものか。
「教会のやつらは相変わらず頭が固いな」
ガルムは苦笑いを浮かべる。
おいおい。せっかく支援物資を持ってきてもらったのにその言い方はないだろ。俺は少し腹が立ったが、フィオナの手前黙っていた。
それを感じたのか、ガルムは俺を見ながら意味ありげに笑う。
「まぁそうやって魔力を尖らせるな若いの。大きな魔力だけに分かり易すぎる。それではすぐにやられちまうぞ」
ガルムは乾いた笑い声を響かせた。俺はたぶん嫌そうな顔をしたんだと思う。フィオナの心配そうな顔が目に飛び込んできて自重する俺。
その頃には周囲に段々と他の村人が集まってきていた。ガルムや俺、フィオナの声は小さな村によく響いていたらしい。
どこか疲労感や希望の無さが村人たちの表情から汲み取れる。寒さに凍える様な様子を見ながら、俺は村の状況の厳しさを感じ取っていた。
「教会から使者が来てくれた……のか」
「本当に来てくれるとは! ありがたや、ありがたや」
集まった周囲の村人達からの声が俺の耳にも聞こえた。横にいたフィオナは大きく息を吸い込むと、ラベルク村中に聞こえる様な大きな澄んだ声を出した。
「王都アイゼルンの聖アルベルト教会から派遣されてきました! 少ない量ですが、少しでも皆様の食糧の足しになればと思っています! どうぞお受け取りください」
両手を振って、元気いっぱいな様子をアピールするかのように笑顔を振りまくフィオナ。その声だけでも元気になりそうだな。
山羊蹄車から少しずつ荷物を降ろし始める村人たち。フィオナに祈りを捧げるようにして挨拶をする村人もいる。こういう時って地球でもそうだったけど、大きな団体からの助け舟ってすごく大事だったりするよな。王都にある名の知れた教会から支援なんだろうから、それだけでも嬉しいよな。自分たちが見捨てられていなかったって思うのは大切だろうさ。
俺は村人たちから時折聴こえる、ぼやきに似た声を聞くでもなしに聞いていた。
「もう5月だぞ。どうしてまだ雪が降るんだ」
「もう何年もこんな厳しい冬はなかった……」
そんな声が聴こえるたびに「なにか俺にできることはないか」とそんな事を考えていた。フィオナは皆の後ろから出てきていた二人組の男女となにやら話し込んでいるようだった。服装からすると同じ教会の紋章が肩辺りに付いているのが見えるので、教会関係者なのかもしれない。その二人と話した後は、髭を長く生やした、いかにも村長だろうなという杖をついた老人と話を続けていた。
俺は荷物を降ろすのを手伝いながら、ふと先ほどのガルムと目線があった。彼は特に荷下ろしを手伝うわけでもなく、近くの家の壁に寄りかかるようにして、俺やフィオナの事をじっと見つめているようだった。どこか村人たちとは違う異質な感覚を感じる。ガルムは俺と数秒目線を合わせると、自分から背を向け、村の奥に消えていった。
「レンジさん! 」
フィオナの大きな声で俺は我に返った。
「今日はこの村にある教会の支部で休めますよ。流石に地べたに寝転がるのは疲れますしね。レンジさん。どうしたんですか? 」
フィオナは、俺がガルムを目で追っていたことに気付いていたんだろう。
「あぁ。ちょっとさっきのガルムって奴が気になってな」
「レンジ!奴は獣人と言われる種族だ。おそらく狼獣人だな」
グリューンの説明を聞きながら、うんうんとフィオナが頷く。お前ら。俺に分かるように説明しろとあれほど。フィオナは俺の目をマジマジと見ながら続ける。
「私たちの今いるファルナート王国の西に大きな大河があるんですが、それを挟んだ向こう側に獣人達の国があるんですよ。様々な獣人の方が住んでいる国なんですが、わたしは行ったことがないのです」
そうだよな。異世界というくらいだから他の種族だっているよな。
「そうしたらあれか。エルフとかドワーフとかそういう種族もどこかにいるってことか……」
俺は聞いてみたかった地球で培った異世界知識をフィオナにぶつけてみる。しかしフィオナから出た答えはちょっと俺の予想とは違っていた。
「ドワーフ……ですか? エルフという種族も聞いたことがないですね」
グリューン! その、地球での知識を簡単に披露するなっていう含み笑いをやめろ。
「獣人は様々な種族がいるので、ここで説明するとかなり長くなってしまいます。東方の地には森の精霊を信仰する魔導国家があって、その国には魔法の素養の高い種族が住んでいます…ヴェルドワイヤン族と言われています。こう、耳がピンと細くて長い、端正な顔立ちの種族ですね」
そうそう。そんな感じ! それってエルフじゃん! 種族名がちょっと違うだけだな。俺は強引に自分の中で結論づけた。俺の顔を見ながらグリューンがニヤついているのが見える。
「王都アイゼルンでは獣人の方たちが普通に暮らしているんですけど、こういう辺境の村にいるのは珍しいですね。どうしてなんでしょうか? 」
フィオナが尤もな疑問を口にする。何か理由はあるんだろうけど、それは俺にも分からない。
しかし、職人としての観察眼から、俺にはさっきの獣人のガルムって男のよどんだ瞳の奥に、強い意志のようなものが垣間見えたようなそんな気がした。
ガルムと名乗った男は俺とフィオナに握手を求めてくる。そういう習慣はこちらの世界にもあるんだな。そんなことを考えながら俺も男の手を握る。力強い手だ。
チラッとガルムが俺を見上げる。
「小僧。名前は……?」
ガルムの目の奥が少し光ったようなそんな気がした。
「俺はレンジ。レンジ・カイドーだ。俺の肩に乗っているこいつはグリューン」
ガルムは俺の手を握ったまま、その手に力を込めた。鋭い眼光が一瞬更に鋭くなる。
「レンジか。覚えておこう。涼やかな風のような良い魔力だ」
ガルムの顔が一瞬、明るくなったような気がしたのは俺の気のせいか。涼やかな風のような良い魔力って言われてもなぁ。俺自分で自分の魔力の事がよく分かっていないしよ。
「嬢ちゃん。酒はねぇようだな」
「すみません。基本的には支援物資が主になりますので、お酒の類は今回持ってこれなくて」
フィオナが説明を加える。確かに。支援物資ならばまずは嗜好品よりも食料や水だよな。あとは毛布とか体を暖める類のものか。
「教会のやつらは相変わらず頭が固いな」
ガルムは苦笑いを浮かべる。
おいおい。せっかく支援物資を持ってきてもらったのにその言い方はないだろ。俺は少し腹が立ったが、フィオナの手前黙っていた。
それを感じたのか、ガルムは俺を見ながら意味ありげに笑う。
「まぁそうやって魔力を尖らせるな若いの。大きな魔力だけに分かり易すぎる。それではすぐにやられちまうぞ」
ガルムは乾いた笑い声を響かせた。俺はたぶん嫌そうな顔をしたんだと思う。フィオナの心配そうな顔が目に飛び込んできて自重する俺。
その頃には周囲に段々と他の村人が集まってきていた。ガルムや俺、フィオナの声は小さな村によく響いていたらしい。
どこか疲労感や希望の無さが村人たちの表情から汲み取れる。寒さに凍える様な様子を見ながら、俺は村の状況の厳しさを感じ取っていた。
「教会から使者が来てくれた……のか」
「本当に来てくれるとは! ありがたや、ありがたや」
集まった周囲の村人達からの声が俺の耳にも聞こえた。横にいたフィオナは大きく息を吸い込むと、ラベルク村中に聞こえる様な大きな澄んだ声を出した。
「王都アイゼルンの聖アルベルト教会から派遣されてきました! 少ない量ですが、少しでも皆様の食糧の足しになればと思っています! どうぞお受け取りください」
両手を振って、元気いっぱいな様子をアピールするかのように笑顔を振りまくフィオナ。その声だけでも元気になりそうだな。
山羊蹄車から少しずつ荷物を降ろし始める村人たち。フィオナに祈りを捧げるようにして挨拶をする村人もいる。こういう時って地球でもそうだったけど、大きな団体からの助け舟ってすごく大事だったりするよな。王都にある名の知れた教会から支援なんだろうから、それだけでも嬉しいよな。自分たちが見捨てられていなかったって思うのは大切だろうさ。
俺は村人たちから時折聴こえる、ぼやきに似た声を聞くでもなしに聞いていた。
「もう5月だぞ。どうしてまだ雪が降るんだ」
「もう何年もこんな厳しい冬はなかった……」
そんな声が聴こえるたびに「なにか俺にできることはないか」とそんな事を考えていた。フィオナは皆の後ろから出てきていた二人組の男女となにやら話し込んでいるようだった。服装からすると同じ教会の紋章が肩辺りに付いているのが見えるので、教会関係者なのかもしれない。その二人と話した後は、髭を長く生やした、いかにも村長だろうなという杖をついた老人と話を続けていた。
俺は荷物を降ろすのを手伝いながら、ふと先ほどのガルムと目線があった。彼は特に荷下ろしを手伝うわけでもなく、近くの家の壁に寄りかかるようにして、俺やフィオナの事をじっと見つめているようだった。どこか村人たちとは違う異質な感覚を感じる。ガルムは俺と数秒目線を合わせると、自分から背を向け、村の奥に消えていった。
「レンジさん! 」
フィオナの大きな声で俺は我に返った。
「今日はこの村にある教会の支部で休めますよ。流石に地べたに寝転がるのは疲れますしね。レンジさん。どうしたんですか? 」
フィオナは、俺がガルムを目で追っていたことに気付いていたんだろう。
「あぁ。ちょっとさっきのガルムって奴が気になってな」
「レンジ!奴は獣人と言われる種族だ。おそらく狼獣人だな」
グリューンの説明を聞きながら、うんうんとフィオナが頷く。お前ら。俺に分かるように説明しろとあれほど。フィオナは俺の目をマジマジと見ながら続ける。
「私たちの今いるファルナート王国の西に大きな大河があるんですが、それを挟んだ向こう側に獣人達の国があるんですよ。様々な獣人の方が住んでいる国なんですが、わたしは行ったことがないのです」
そうだよな。異世界というくらいだから他の種族だっているよな。
「そうしたらあれか。エルフとかドワーフとかそういう種族もどこかにいるってことか……」
俺は聞いてみたかった地球で培った異世界知識をフィオナにぶつけてみる。しかしフィオナから出た答えはちょっと俺の予想とは違っていた。
「ドワーフ……ですか? エルフという種族も聞いたことがないですね」
グリューン! その、地球での知識を簡単に披露するなっていう含み笑いをやめろ。
「獣人は様々な種族がいるので、ここで説明するとかなり長くなってしまいます。東方の地には森の精霊を信仰する魔導国家があって、その国には魔法の素養の高い種族が住んでいます…ヴェルドワイヤン族と言われています。こう、耳がピンと細くて長い、端正な顔立ちの種族ですね」
そうそう。そんな感じ! それってエルフじゃん! 種族名がちょっと違うだけだな。俺は強引に自分の中で結論づけた。俺の顔を見ながらグリューンがニヤついているのが見える。
「王都アイゼルンでは獣人の方たちが普通に暮らしているんですけど、こういう辺境の村にいるのは珍しいですね。どうしてなんでしょうか? 」
フィオナが尤もな疑問を口にする。何か理由はあるんだろうけど、それは俺にも分からない。
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