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サフィアの一日に負けない!②
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「でねー、お母様。お兄ちゃんったらさぁ、意気地なしでさぁ」
「ふむふむ? それで?」
母マーガレットの調合室で、サフィアは彼女に愚痴をべらべらと語っていた。
あまりにもサフィアがストレスを溜めているように見えたせいか、マーガレットは叱ることもなだめることもなく、ひとまずうんうんと頷きながら話を聞く。
話の内容は、私がお兄ちゃんに近づいたらどうの、お兄ちゃんは結局体目当てだのどうの、自分には胸が無いからどうの、などというものであった。
「アタシが誘惑してもすぐに逃げちゃうんだよねー。アイヴィお姉ちゃんやヴァネッサお姉ちゃんだったらコロリなのにさー。というわけで、胸おっきくしたりする薬ちょーだい」
両手の人差し指同士を擦り合わせ、サフィアは母に成長薬をねだる。
だが、帰ってきた答えは明確なノーであった。
「駄目だ」
「なんでぇ!?」
「恐らくそれはお前の体の問題や、レックスの好みの問題ではないからだ。やれやれ、他人のことには聡いくせに、自分のことや恋路のことになると無頓着か」
「……どういうこと?」
やはり気づいていないのかとマーガレットはため息をつき、椅子にもたれかかった。椅子が小さくきしむ音を立て、柔らかなクッション部分が彼女の大きな臀部をやさしく押し返す。
「レックスは確かに誘惑に弱い。お前のサキュバスとしての未熟さもある。だが、奥手だ。レックスは非常に奥手だ。催淫の弱いお前ではレックスを誘惑しても責めてこないだろう」
「それって、アタシがいくら誘惑してもダメってこと……?」
やはり自分の体の魅力や、サキュバスとしての技術が劣っているのだとサフィアは落ち込む。その表情は、目からは今にも涙が零れ落ちそうなほど悔しそうなものだった。
姉達に勝てない、自分の魅力が足りない、兄は自分をそれほど好んでいない。その思い込みがサフィアを追い詰める。
「まぁ、そう落ち込むな。引いて駄目なら?」
「押してみろ?」
首を傾げたサフィアに対し、マーガレットは楽しそうににんまりと笑った。そして椅子から立ち上がり、薬品棚から一本の薬瓶を手に取る。
赤い枠のラベルが貼られており、いかにも劇薬・危険薬といったことが見て取れる。
「うむっ、そういうわけで。チャラララーン、正直薬~。これを飲むとどんな者でも自分の欲望や性欲に正直になってしまうぞ。これをお前に飲ませる」
「そうか! 性欲に正直になったレックスお兄ちゃんなら、アタシを襲ってラブラブな関係に……誰に飲ませるって?」
「ん」
「ん?」
マーガレットがサフィアを指差す。そして、サフィアも自身に指を向ける。
飲む対象は、なかなか押すことができないサフィア。レックスを欲望に正直にさせるのではなく、サフィアを欲望に正直にさせるのである。
「いやっ、なんでアタシなのさお母様! お兄ちゃんに飲ませる流れだったじゃん! そういう話になる感じだったじゃん!」
「いや全然? 押してみろなのだから、お前が押すんだぞサフィア」
己の危険を悟り、その場から180度回転して逃げ出そうとするサフィア。しかし、マーガレットの急加速で回り込まれてしまった。
どうやって一瞬で移動したということは置いて、サフィアは絶体絶命の状況に追い込まれる。
「知っているか? 母からは逃げられない」
「あ、あぁ……むぎゅ!?」
あっという間に首を抱えられたスリーパーホールドの体勢。そして正直薬が入った瓶を口に突っ込まれ、無理矢理その劇薬を飲まされる。
「ほれ、一気、一気」
「むぐぅうううううう~!?」
一気に熱さと辛さを感じるそれを胃に流し込まれる。全て飲み干したところで解放されたサフィアは、首を押さえて激しくむせた。
まさか口の奥に指を突っ込んでここで吐くわけにもいくまい。既に体の奥が熱くなったことを感じたサフィアは全てを諦めた。さすが母親印、効きの早さに関してはピカ一である。
「げほっげほっ、何てもの飲ませるのよお母様! そういうイジワルなところも大好きなんだから! ……はれ?」
ぐらり、と彼女の視界が揺れた。頭の中がかき混ぜられるようにぐわんぐわんと揺れ、サフィアは千鳥足で左右に揺れ動く。
「ちなみにより欲望に忠実になるよう、アルコールも入っているからな。ほぅれ、レックスの所に行ってこい」
「ふざ、けんなぁ。あれ、これ気持ちぃい……」
ふらふらしていたサフィアの動きがやがてぴくりと停止し、うつむいてひっくとしゃっくりを繰り返すだけになった。時折ぴくりぴくりと動くだけで、うつむいたまま何もしなくなる。
まさか何か製薬の手順を間違えたのかと、マーガレットは心配そうにサフィアへと手を伸ばした。
「む? サフィアよ、どうし――」
突然バシッ、とはたかれる手。サフィアが顔を、糸で操作された操り人形のようにがばっと上げる。その頬は真っ赤に染まっており、目は混沌の如くグルグルと渦を巻いていた。
「ふじゃけんにゃ」
「は?」
「ふじゃけるにゃああああああ!! もっとアルコールよこちぇえええええ!! これしゅきぃいいいいいい!!」
「はっ?」
真っ赤に染まった顔で狂乱して叫ぶサフィア。いきなりの豹変に面食らったマーガレットの隙をつき、彼女はすこしかがんで腰を落とす。
「ふんっ!!」
「ぬ ふ ぅ ! ?」
ばごんっ!! サフィアの正拳突きがマーガレットの腹部に音を立てて突き刺さった。
さすがに予想外の一撃かつ、とんでもない威力の一撃だったためか、マーガレットは腹部を押さえてその場に倒れ込んで悶絶し始める。
「ぐっ、ぐふっ!? は、腹が……この母のおなかが……」
「アルコール! これか!? これが気持ちよくなる薬!?」
もう既にサフィアは暴走状態にあった。びくびくと震えるマーガレットを無視し、棚に置かれている薬を片っ端から暴れながら飲み干していく。
危険薬・劇薬・秘薬・妙薬……。あらゆる薬を摂取したサフィアの顔色が青く、緑色に、次は赤色にと変化していく。うぷっと彼女は吐き気を覚えた後、その動きを完全に停止した。
ボンッ!! と音を立てて、様々な薬で飲んだサフィアから爆発の如く白煙が周囲に噴き出る。煙に包まれる部屋、あらゆる薬効が含まれた煙。
サキュバスクイーンのマーガレットとはいえど、あらゆる薬に万能な耐性を持つわけではない。その成分を吸い込んだ彼女の意識が薄れる。
腹部の痛みが治まらず、体が薬で痺れ、その場で悶絶して様子を見守る事しかできないマーガレット。
やがて、その白煙の中からひたひたとサフィアに似つかわしくない影が現れた。
もうマーガレットは薄れた意識でこう考えることしかできなかった。
――やべぇレックス、娘達よ、逃げろ。
「ふむふむ? それで?」
母マーガレットの調合室で、サフィアは彼女に愚痴をべらべらと語っていた。
あまりにもサフィアがストレスを溜めているように見えたせいか、マーガレットは叱ることもなだめることもなく、ひとまずうんうんと頷きながら話を聞く。
話の内容は、私がお兄ちゃんに近づいたらどうの、お兄ちゃんは結局体目当てだのどうの、自分には胸が無いからどうの、などというものであった。
「アタシが誘惑してもすぐに逃げちゃうんだよねー。アイヴィお姉ちゃんやヴァネッサお姉ちゃんだったらコロリなのにさー。というわけで、胸おっきくしたりする薬ちょーだい」
両手の人差し指同士を擦り合わせ、サフィアは母に成長薬をねだる。
だが、帰ってきた答えは明確なノーであった。
「駄目だ」
「なんでぇ!?」
「恐らくそれはお前の体の問題や、レックスの好みの問題ではないからだ。やれやれ、他人のことには聡いくせに、自分のことや恋路のことになると無頓着か」
「……どういうこと?」
やはり気づいていないのかとマーガレットはため息をつき、椅子にもたれかかった。椅子が小さくきしむ音を立て、柔らかなクッション部分が彼女の大きな臀部をやさしく押し返す。
「レックスは確かに誘惑に弱い。お前のサキュバスとしての未熟さもある。だが、奥手だ。レックスは非常に奥手だ。催淫の弱いお前ではレックスを誘惑しても責めてこないだろう」
「それって、アタシがいくら誘惑してもダメってこと……?」
やはり自分の体の魅力や、サキュバスとしての技術が劣っているのだとサフィアは落ち込む。その表情は、目からは今にも涙が零れ落ちそうなほど悔しそうなものだった。
姉達に勝てない、自分の魅力が足りない、兄は自分をそれほど好んでいない。その思い込みがサフィアを追い詰める。
「まぁ、そう落ち込むな。引いて駄目なら?」
「押してみろ?」
首を傾げたサフィアに対し、マーガレットは楽しそうににんまりと笑った。そして椅子から立ち上がり、薬品棚から一本の薬瓶を手に取る。
赤い枠のラベルが貼られており、いかにも劇薬・危険薬といったことが見て取れる。
「うむっ、そういうわけで。チャラララーン、正直薬~。これを飲むとどんな者でも自分の欲望や性欲に正直になってしまうぞ。これをお前に飲ませる」
「そうか! 性欲に正直になったレックスお兄ちゃんなら、アタシを襲ってラブラブな関係に……誰に飲ませるって?」
「ん」
「ん?」
マーガレットがサフィアを指差す。そして、サフィアも自身に指を向ける。
飲む対象は、なかなか押すことができないサフィア。レックスを欲望に正直にさせるのではなく、サフィアを欲望に正直にさせるのである。
「いやっ、なんでアタシなのさお母様! お兄ちゃんに飲ませる流れだったじゃん! そういう話になる感じだったじゃん!」
「いや全然? 押してみろなのだから、お前が押すんだぞサフィア」
己の危険を悟り、その場から180度回転して逃げ出そうとするサフィア。しかし、マーガレットの急加速で回り込まれてしまった。
どうやって一瞬で移動したということは置いて、サフィアは絶体絶命の状況に追い込まれる。
「知っているか? 母からは逃げられない」
「あ、あぁ……むぎゅ!?」
あっという間に首を抱えられたスリーパーホールドの体勢。そして正直薬が入った瓶を口に突っ込まれ、無理矢理その劇薬を飲まされる。
「ほれ、一気、一気」
「むぐぅうううううう~!?」
一気に熱さと辛さを感じるそれを胃に流し込まれる。全て飲み干したところで解放されたサフィアは、首を押さえて激しくむせた。
まさか口の奥に指を突っ込んでここで吐くわけにもいくまい。既に体の奥が熱くなったことを感じたサフィアは全てを諦めた。さすが母親印、効きの早さに関してはピカ一である。
「げほっげほっ、何てもの飲ませるのよお母様! そういうイジワルなところも大好きなんだから! ……はれ?」
ぐらり、と彼女の視界が揺れた。頭の中がかき混ぜられるようにぐわんぐわんと揺れ、サフィアは千鳥足で左右に揺れ動く。
「ちなみにより欲望に忠実になるよう、アルコールも入っているからな。ほぅれ、レックスの所に行ってこい」
「ふざ、けんなぁ。あれ、これ気持ちぃい……」
ふらふらしていたサフィアの動きがやがてぴくりと停止し、うつむいてひっくとしゃっくりを繰り返すだけになった。時折ぴくりぴくりと動くだけで、うつむいたまま何もしなくなる。
まさか何か製薬の手順を間違えたのかと、マーガレットは心配そうにサフィアへと手を伸ばした。
「む? サフィアよ、どうし――」
突然バシッ、とはたかれる手。サフィアが顔を、糸で操作された操り人形のようにがばっと上げる。その頬は真っ赤に染まっており、目は混沌の如くグルグルと渦を巻いていた。
「ふじゃけんにゃ」
「は?」
「ふじゃけるにゃああああああ!! もっとアルコールよこちぇえええええ!! これしゅきぃいいいいいい!!」
「はっ?」
真っ赤に染まった顔で狂乱して叫ぶサフィア。いきなりの豹変に面食らったマーガレットの隙をつき、彼女はすこしかがんで腰を落とす。
「ふんっ!!」
「ぬ ふ ぅ ! ?」
ばごんっ!! サフィアの正拳突きがマーガレットの腹部に音を立てて突き刺さった。
さすがに予想外の一撃かつ、とんでもない威力の一撃だったためか、マーガレットは腹部を押さえてその場に倒れ込んで悶絶し始める。
「ぐっ、ぐふっ!? は、腹が……この母のおなかが……」
「アルコール! これか!? これが気持ちよくなる薬!?」
もう既にサフィアは暴走状態にあった。びくびくと震えるマーガレットを無視し、棚に置かれている薬を片っ端から暴れながら飲み干していく。
危険薬・劇薬・秘薬・妙薬……。あらゆる薬を摂取したサフィアの顔色が青く、緑色に、次は赤色にと変化していく。うぷっと彼女は吐き気を覚えた後、その動きを完全に停止した。
ボンッ!! と音を立てて、様々な薬で飲んだサフィアから爆発の如く白煙が周囲に噴き出る。煙に包まれる部屋、あらゆる薬効が含まれた煙。
サキュバスクイーンのマーガレットとはいえど、あらゆる薬に万能な耐性を持つわけではない。その成分を吸い込んだ彼女の意識が薄れる。
腹部の痛みが治まらず、体が薬で痺れ、その場で悶絶して様子を見守る事しかできないマーガレット。
やがて、その白煙の中からひたひたとサフィアに似つかわしくない影が現れた。
もうマーガレットは薄れた意識でこう考えることしかできなかった。
――やべぇレックス、娘達よ、逃げろ。
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