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第339話 少女の視線は人を殺す at 1995/11/17
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(くそっ……どうしたらいいんだ、これ……?)
月曜日に僕が感じ取った違和感は、日に日にその輪郭の鮮明さ増し、金曜日ともなると、もはや実体を得たかのごとく明確な重さを教室中に放っていた。
「なあ、ロコ――?」
「ん? なに?」
ロコの席のある、教室の前の方からとぎれとぎれの会話が聴こえてくる。室生はオーバーアクションで、昨日の晩、ウチで起こったハプニングについて話して聞かせているようだった。それを聞いているロコは、こらえきれずに噴き出し、くすくすと口元を押さえて笑っている。
だが、教室のうしろの方、つまり僕の席のある方に行くにつれ、そんな二人を見つめてこそこそと囁き合っている女子たちがぽつりぽつりといるのだ。
そんなはずは――と思いつつも、ふと脳裏をよぎる言葉。
(――充分に用心するといい。はじまってしまってからでは、元に戻すことは困難なのだから)
僕にそう言ったのは、時巫女・セツナ=コトセだった。
なにか嫌なことが起こる――いいや、すでに起こっていることは、もうはっきりしている。けれど、ここでどうすればいいのかがわからない。
(どうして室生は気づいてないんだ……?)
球技大会の三日目、激闘に終止符を打ったあの日の朝礼台で、室生は全校生徒の前で宣言した。
『僕は、ロコと付き合うことに決めたよ――』
上級生も下級生からも絶大なる人気があった室生だ。あの堂々たるカミングアウトは、かなり衝撃的だっただろう。でも、だからといって、ここまでの反感を買うことになるとは予想していなかった。昔から『かわいさ余って憎さ百倍』とはいうが、あまりにやりすぎではないか。
「おいおーい! なーにいちゃいちゃしてんだよー?」
「いっ! いちゃいちゃなんてしてないって! そういうのやめろよ、キヨ!」
荒山までハナシの輪に加わり、ロコの席のまわりが賑やかしくなってくる。荒山がしきりに二人の仲をイジってくるのを、珍しく真っ赤になってごまかそうとする室生。それを自分の席に座ったまま頬杖をつき、微笑ましそうににこにこと見つめているのはロコだ。
――そう。
例の囁き声って、なぜか女子だけなんだよな。
「よーお? ダッチィー? ちょっとこっち来いよー?」
「ば、馬鹿! 俺様はカンケーねーだろっ! は、放せ、放せって!」
室生といい荒山といい、ほんのたまたま、本当に偶然すぎるタイミングでそこを通りかかったというだけでイジりのターゲットになってしまった小山田――いや、ダッチであったなら、なにかウワサされていても不思議ではないのだろう。
いくら『変わった』とはいえ、今までの全てが許されたワケじゃない。
根本には『みんなを守りたかった』という『善』が根底に存在していたとはいえ、小山田自身はまぎれもない『悪』だった。それはどうやっても拭い切れない、隠しようのない事実だ。
でも、それであれば、女子だけが囁く理由が説明できない。
(うーん、明日コトセにアドバイスもらうか……。この前の土曜日も、ロコは来なかったし)
そう思い、一旦あきらめようとした瞬間だった。
「………………っ!」
ついに無視できないレベルまで囁き声が大きくなったその時、それまで満面の笑顔を浮かべていたロコが、鋭く刺し貫くような視線を声の発信源めがけて投げたのだ。ひっ、と声がする。
(――なぜかロコちゃん、一度もコートに入れなくって……)
(――あ、あの……なんの根拠もないんです、けど……。もしかしたら、なんです、けど……)
そう――僕にそっと教えてくれたのは、他でもない佐倉君だ。
月曜日に僕が感じ取った違和感は、日に日にその輪郭の鮮明さ増し、金曜日ともなると、もはや実体を得たかのごとく明確な重さを教室中に放っていた。
「なあ、ロコ――?」
「ん? なに?」
ロコの席のある、教室の前の方からとぎれとぎれの会話が聴こえてくる。室生はオーバーアクションで、昨日の晩、ウチで起こったハプニングについて話して聞かせているようだった。それを聞いているロコは、こらえきれずに噴き出し、くすくすと口元を押さえて笑っている。
だが、教室のうしろの方、つまり僕の席のある方に行くにつれ、そんな二人を見つめてこそこそと囁き合っている女子たちがぽつりぽつりといるのだ。
そんなはずは――と思いつつも、ふと脳裏をよぎる言葉。
(――充分に用心するといい。はじまってしまってからでは、元に戻すことは困難なのだから)
僕にそう言ったのは、時巫女・セツナ=コトセだった。
なにか嫌なことが起こる――いいや、すでに起こっていることは、もうはっきりしている。けれど、ここでどうすればいいのかがわからない。
(どうして室生は気づいてないんだ……?)
球技大会の三日目、激闘に終止符を打ったあの日の朝礼台で、室生は全校生徒の前で宣言した。
『僕は、ロコと付き合うことに決めたよ――』
上級生も下級生からも絶大なる人気があった室生だ。あの堂々たるカミングアウトは、かなり衝撃的だっただろう。でも、だからといって、ここまでの反感を買うことになるとは予想していなかった。昔から『かわいさ余って憎さ百倍』とはいうが、あまりにやりすぎではないか。
「おいおーい! なーにいちゃいちゃしてんだよー?」
「いっ! いちゃいちゃなんてしてないって! そういうのやめろよ、キヨ!」
荒山までハナシの輪に加わり、ロコの席のまわりが賑やかしくなってくる。荒山がしきりに二人の仲をイジってくるのを、珍しく真っ赤になってごまかそうとする室生。それを自分の席に座ったまま頬杖をつき、微笑ましそうににこにこと見つめているのはロコだ。
――そう。
例の囁き声って、なぜか女子だけなんだよな。
「よーお? ダッチィー? ちょっとこっち来いよー?」
「ば、馬鹿! 俺様はカンケーねーだろっ! は、放せ、放せって!」
室生といい荒山といい、ほんのたまたま、本当に偶然すぎるタイミングでそこを通りかかったというだけでイジりのターゲットになってしまった小山田――いや、ダッチであったなら、なにかウワサされていても不思議ではないのだろう。
いくら『変わった』とはいえ、今までの全てが許されたワケじゃない。
根本には『みんなを守りたかった』という『善』が根底に存在していたとはいえ、小山田自身はまぎれもない『悪』だった。それはどうやっても拭い切れない、隠しようのない事実だ。
でも、それであれば、女子だけが囁く理由が説明できない。
(うーん、明日コトセにアドバイスもらうか……。この前の土曜日も、ロコは来なかったし)
そう思い、一旦あきらめようとした瞬間だった。
「………………っ!」
ついに無視できないレベルまで囁き声が大きくなったその時、それまで満面の笑顔を浮かべていたロコが、鋭く刺し貫くような視線を声の発信源めがけて投げたのだ。ひっ、と声がする。
(――なぜかロコちゃん、一度もコートに入れなくって……)
(――あ、あの……なんの根拠もないんです、けど……。もしかしたら、なんです、けど……)
そう――僕にそっと教えてくれたのは、他でもない佐倉君だ。
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