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第515話 二人とふたり(1) at 1996/3/19
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「ああ、やめて、パパ。お願いよ、このあたし――コトセからのお願いをどうか聞いて――!」
「ああ、琴ちゃん――こ、これはね――」
「ぐっ――!? そ、そんな……そんなことって……!」
どさり、と僕のカラダが床に投げ出される音を、僕はどこか他人事のように聞いていた。
チカラがまるで入らない。息が思うように喉を通らず、ひゅう、ひゅう、と出来損ないの笛が鳴るようだ。それでも、かろうじて僕はこう言った。
「笙……さん……? あなたは……コトセの存在を……知っていたんです……か……!?」
「いいや、むしろ驚いたのは僕の方さ」
そう言ってツッキーパパ――水無月笙は、ドアを開けるなりしがみつくようにして自身の凶行を制止しようとした細くて華奢な白い少女の頭を優しく撫でる。そして、そのままゆっくりと身だしなみを整えでもするかのようにカノジョの足先まで順番に触れてゆくと、最後に右手をとって、その白くて青白い血管が透けて見える甲にそっと口づけをした。
「また……またこうして、すっかり大きくなって、ステキな淑女になった姿で会えるだなんて。これはキセキだ……まごうことないキセキがくれたプレゼントなんだ……! ねえ、コトセ?」
コトセは無言で目の前にひざまずいた水無月笙の恍惚とした表情を見つめ、そっと頬に白い手を添える。優しく撫で、顎のラインをゆっくりとなぞると、ようやっと僕に視線を向けた。
そして平坦な声で告げる。
「……何か言いたそうだな、古ノ森健太?」
「僕は……僕たちは信じていた……なのに……」
「何をだ?」
くく、とコトセはさもおかしそうに笑いを噛み殺した。
「この私が、仲間だと、そう思っていたのかね? それはあいにくだったな」
「仲間だろ!? 今、こうなったのを目の当たりにしても、僕は、僕たちはそう信じている!」
「はン――」
コトセは蔑むような目つきで見下ろすと、短く、吐き捨てるように僕を嘲笑した。
「言ったろう? 私は悪意の塊だと。負の感情を寄せ集めたものだと。そんなもののどこに善意が存在するのかね? 私はどこまで行っても私だ。私は私が望む『未来』を選択するだけだ」
「そうさ。琴ちゃんの言うとおりだよ、古ノ森リーダー」
水無月笙はコトセの隣に寄り添い、優しく包み込むように抱きしめながら僕に言う。
「そのための『あの絵』なんだ。琴世ちゃんとコトセちゃん……ふたりが再び出会って、ひとつになるための。そして、それがキセキを起こすんだ。ふたりに『永遠の命』を授けてくれる」
「再び出会った……そうおっしゃったんですか?」
「そうとも」
水無月笙は笑ってみせたが――あまりに見る者が切なくなる、哀しみに満ちた笑顔だった。
「コトセちゃんがいなくなった時、僕はとても悲しかったよ。……でもね? つづみさんはとっても優しい人だったからね。だからさ? 天国でコトセちゃんをひとりきりにさせるのは嫌なんだ、って、自分まで天国へ行っちゃったんだ。僕はあの日、大切な人をまた失ったんだよ」
「え……!? つまり、それって……?」
「ははは。そうだよね。君は知らない。何も知らなかったよね――」
当惑するばかりの僕の顔を見て、水無月笙は恥ずかしそうに笑みをこぼした。
「ずっとね、生まれてからずっと、つづみさんとコトセちゃんは母体・胎児集中治療室にいたんだ。赤ちゃん用の人工呼吸器ってさ? 見ているだけで胸が苦しくなるんだ。わかるかい? コトセちゃんは琴世ちゃんを守ろうとして、必死に押し出してくれたんだ。すごく偉いんだ」
そしてこうしめくくった。
「そうなんだ――琴世ちゃんと琴代ちゃんは、僕らの大切な双子の女の子たちだったんだよ」
「ああ、琴ちゃん――こ、これはね――」
「ぐっ――!? そ、そんな……そんなことって……!」
どさり、と僕のカラダが床に投げ出される音を、僕はどこか他人事のように聞いていた。
チカラがまるで入らない。息が思うように喉を通らず、ひゅう、ひゅう、と出来損ないの笛が鳴るようだ。それでも、かろうじて僕はこう言った。
「笙……さん……? あなたは……コトセの存在を……知っていたんです……か……!?」
「いいや、むしろ驚いたのは僕の方さ」
そう言ってツッキーパパ――水無月笙は、ドアを開けるなりしがみつくようにして自身の凶行を制止しようとした細くて華奢な白い少女の頭を優しく撫でる。そして、そのままゆっくりと身だしなみを整えでもするかのようにカノジョの足先まで順番に触れてゆくと、最後に右手をとって、その白くて青白い血管が透けて見える甲にそっと口づけをした。
「また……またこうして、すっかり大きくなって、ステキな淑女になった姿で会えるだなんて。これはキセキだ……まごうことないキセキがくれたプレゼントなんだ……! ねえ、コトセ?」
コトセは無言で目の前にひざまずいた水無月笙の恍惚とした表情を見つめ、そっと頬に白い手を添える。優しく撫で、顎のラインをゆっくりとなぞると、ようやっと僕に視線を向けた。
そして平坦な声で告げる。
「……何か言いたそうだな、古ノ森健太?」
「僕は……僕たちは信じていた……なのに……」
「何をだ?」
くく、とコトセはさもおかしそうに笑いを噛み殺した。
「この私が、仲間だと、そう思っていたのかね? それはあいにくだったな」
「仲間だろ!? 今、こうなったのを目の当たりにしても、僕は、僕たちはそう信じている!」
「はン――」
コトセは蔑むような目つきで見下ろすと、短く、吐き捨てるように僕を嘲笑した。
「言ったろう? 私は悪意の塊だと。負の感情を寄せ集めたものだと。そんなもののどこに善意が存在するのかね? 私はどこまで行っても私だ。私は私が望む『未来』を選択するだけだ」
「そうさ。琴ちゃんの言うとおりだよ、古ノ森リーダー」
水無月笙はコトセの隣に寄り添い、優しく包み込むように抱きしめながら僕に言う。
「そのための『あの絵』なんだ。琴世ちゃんとコトセちゃん……ふたりが再び出会って、ひとつになるための。そして、それがキセキを起こすんだ。ふたりに『永遠の命』を授けてくれる」
「再び出会った……そうおっしゃったんですか?」
「そうとも」
水無月笙は笑ってみせたが――あまりに見る者が切なくなる、哀しみに満ちた笑顔だった。
「コトセちゃんがいなくなった時、僕はとても悲しかったよ。……でもね? つづみさんはとっても優しい人だったからね。だからさ? 天国でコトセちゃんをひとりきりにさせるのは嫌なんだ、って、自分まで天国へ行っちゃったんだ。僕はあの日、大切な人をまた失ったんだよ」
「え……!? つまり、それって……?」
「ははは。そうだよね。君は知らない。何も知らなかったよね――」
当惑するばかりの僕の顔を見て、水無月笙は恥ずかしそうに笑みをこぼした。
「ずっとね、生まれてからずっと、つづみさんとコトセちゃんは母体・胎児集中治療室にいたんだ。赤ちゃん用の人工呼吸器ってさ? 見ているだけで胸が苦しくなるんだ。わかるかい? コトセちゃんは琴世ちゃんを守ろうとして、必死に押し出してくれたんだ。すごく偉いんだ」
そしてこうしめくくった。
「そうなんだ――琴世ちゃんと琴代ちゃんは、僕らの大切な双子の女の子たちだったんだよ」
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