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ドドソルニア編
独占欲
弟子入りは早くも残り1週間になった。するとシエロさんが突然「キミの武器を造る」と言い出した。少し前に呼び方が「ヒト」から「キミ」に変わったのは単純に嬉しいな。
「前から思ってたんだけど、キミの武器は全然キミに合ってないね。」
俺の武器である短剣はソラレの武器屋の中から扱えそうな物を選んだものだ。市販品なので確かに俺にぴったりかと言われればそうではない。
弟子としての最後の大仕事は武器の素材集めから仕上げまですることになる。さすがに金属を金槌で叩く鍛錬の作業は短期の弟子にできるような技術ではないのでお任せするが、近くで見ても良い許可をもらえた。
「武器に短剣を選んだのは正しいね。キミは小柄で体重も軽いから重くて長い武器は扱い辛い。戦い方を見ていたら刀身も薄く切れ味重視がいいだろう。でも刀身を薄くすると強度が下がるから素材はアダマンタイトがいいかな。」
武器の話になると饒舌になるシエロさん。店に初めて来る冒険者たちは皆このギャップに驚く。
アダマンタイトという鉱石は希少ではあるが、あまり需要はない。その理由はあまりにもの硬さに加工がし辛いからだということ。ドドソルニアでもこの金属を加工できるのは一部の職人だけと言われていて、シエロさんはその内の1人らしい。
アダマンタイト鉱石の採掘自体は特に難しいものではないが、地中特化型の魔獣が多く生息する洞窟が採掘場なのでその対応に苦労した。
地中特化型魔獣はとにかく見た目が気持ち悪い。ミミズに牙だらけの口をつけたような「大蠕虫」、蜘蛛の形をした「女郎蜘蛛」、集団で襲ってくる「軍隊蟻」など、どれも俺の体よりも大きいので出くわすたびに泣きそうになる。
シエロさんと一緒でないと俺1人では対処できない魔獣ばかりで体も心もボロボロになった。
***************************
今日は武器のグリップ部分の素材採取を終わらせたところだ。素材は特に珍しいものではなかったので1人で採取に行った。ギルドを通した依頼というわけでは無いのでギルドに寄らずに街へ入る。すると「おーい、イオー!」と声を掛けられ、4人組冒険者パーティの1人が手を振っている。あの顔は⋯
「ハヤトさん!?」
手を振るのはソラレで出会った落ち人のハヤトさん。現世では俺の弟の友人だったらしく、俺がいなくなった後の家族の様子を少し聞くことができた。それがきっかけでたまに話したり食事も一緒に食べたりするようになっていた。ハヤトさんはすごくフレンドリーな人で、現世だったら本当は俺が年上なんだろうが、頼れるお兄さんという感覚だ。
すると少し離れたハヤトさんと一緒にいた冒険者3人が声をかけてきた。
「ハヤトー、俺たち宿に行くなー。」
「おう、また臨時メンバーが必要なら声かけてくれ。」
手を振って応えるハヤトさん。
「パーティメンバーじゃなかったんですか?」
「ああ、臨時でメンバーが必要なパーティに参加するっていう形が性に合ってたんだ。普段はソロだよ。」
ハヤトさんとは始めて会ったときに共闘しただけで、剣も魔法も使えて前衛も後衛もこなせる器用なタイプだと思っていた。その上コミュニケーションにも優れているので臨時メンバーとしても無理なく入っていけるのだろう。
「そうだ、お勧めの武器屋はない?」
「ちょうど今から行くところだったので一緒に行きましょう。」
俺たちは歩きながら近況を報告し合った。ハヤトさんは俺がドドソルニアに来たときと同じく、犯罪者の護送依頼だった。俺たちのときとは違って犯罪者たちは暴れたり脱走したり、犯罪者の仲間からの襲撃などがあり色々と大変だったようだ。
俺は水晶蜥蜴捕獲の話やランク試験のための弟子入りの話をして、宿にいないときはちゃんと持ち歩いている水晶蜥蜴の置物をハヤトさんに見せた。
シエロさんのお店に到着するとちょうど接客中だったので椅子に座って待つことにした。客は冒険者の風貌で黒く長い髪を1つに纏めている男性だった。シエロさんと話している男性からは「刀」「脇差」という単語が聞こえてきたのでもしかすると⋯と何気なく向かいに座ったハヤトさんを見ると同じく「だよね?」という顔をしていた。
シエロさんが「ちょっと待ってて」と言って奥に引っ込んだタイミングでハヤトさんが「そこのお兄さん!」と男性に声をかけた。こちらを向いた男性の瞳の色は"黒"だった。男性もハヤトさんを見て驚いた顔をした。
「君も落ち人か?」
「そうだよ。こっちの子も落ち人。」
「そうなのか。黒髪黒目が多いと聞いていたがそうではない落ち人もいるんだな。」
「俺たち日本から来たんだけど知ってる?」
「いや、わからないな。私は"倭国"からだ。忍を生業としていた。」
「お兄さん忍者!?」
忍者のお兄さんは俺たちとは違う世界からの落ち人だった。「伊賀ノ佐助」という名前でこちらでは「サスケ」の名前で冒険者を6年ほど続けているとのこと。仕事中に命を落とし、獣人の国の冒険者ギルドで保護をされて冒険者になり、今回ドドソルニアに「刀」を造る鍛冶職人がいるらしいという噂を聞いてやってきたそうだ。
「黒いヒト、こっち来て。」
奥から刀を1振り持ってきたシエロさんはサスケさんを呼んで再び話し合いを始めた。同時にロランもお茶を入れて全員に配る。
「イオ、今日はもう帰ってもいいってさ。明日は休みだけど明後日は早く来てね。その素材は預かっておくよ。そっちの人は知り合い?」
「俺はイオの友人のハヤトだ。武器のメンテナンスに来たんだけどまだ時間はかかりそうかな?」
ロランはちらりと熱心に話し込んでいるシエロさんを見た。
「そうだね。メンテだけだったら武器は預かるけど、どうする?」
「それでお願いしようかな。イオの弟子入り先なら信用もできるしね。」
武器を預けたハヤトさんと店を出る。2人で歩いていると街の女の子たちがハヤトさんを見てそわそわしている場面に出くわす。ハヤトさんも格好良いから目立つんだよな。美形の爽やかで人当たりの良い冒険者って中々いないし。
「ハヤトさんはもう宿は決まっているんですか?今俺たちが泊まっている宿に空きがありますよ。」
先日ちょうど小ドワの旦那さんに複数人用の大部屋は埋まっているが、個室はお高めなこともあり全室埋まることはめったにないと聞いていた。ハヤトさんはBランクながらも高ランクの魔獣をバンバン討伐するので稼ぎは良いはずだ。
「ありがとう。でもソラレの冒険者にお勧めの宿を教えてもらったから、まずそっちに空きがあるか見てくるよ。」
じゃあご飯でもと思って誘おうとしたら遠くの方にジークの姿が見えた。今日は1人で討伐依頼を受けると言っていたのでその帰りだろう。ハヤトさんも「あれジークさんじゃない?挨拶していこっかな。」と俺と目を合わせた。目線を戻すと女性がジークに駆け寄り、抱き着こうとして避けられる光景が目に入った。
「イオ、こっち。」
とハヤトさんは俺をさっと建物の影に追いやり、しーっと人差し指を口に当てた。そして魔力操作をして集音の魔法を仕掛けた。離れていてもジークたちの声が聞こえる。
「これ、すごいですね。」
「風が不自然な動きになるから室内では使えないけどね。」
魔力の消費も激しそうだから俺には使えない魔法だな。
「ジークぅ~私も依頼終わりで興奮気味なの。相手して?」
「いい加減にしろ。俺には番がいると何度も言っただろう。」
あの人が話に聞いたウマ獣人の女性冒険者か。
「じゃ番ちゃんも混ぜて一緒にやりましょ?」
「殺すぞ。」
ハヤトさんが「うわーなんだあの炎上しそうなウ◯娘。」と呟いた声はすでに置き去りにし、俺は走り出していた。夢中になって全く周りは見えず、ジークと女性冒険者の間に割り込み叫んでいた。
「ジークの番は俺です!これ以上関わらないで下さい!」
一瞬ポカンとしていた女性冒険者だが、にこりと笑って顔をずいっと近付けてきた。
「やだ可愛い~!!ジークの番はてっきり気の強い女かと思ったのにこんなに素直そうな可愛い系男子だなんて!でも線が細くて1人ではジークの相手は大変じゃない?私と一緒に楽しみましょ?」
「お断りします!ジークの相手は俺1人だけだ!誰にも譲らないし共有も絶っ対に嫌だ!」
「ええ~身持ち固すぎない?ってうわ、ジークの顔気持ち悪っ」
そのとき初めてジークの顔を見たら満面の笑みで破顔していた。そして何だか体がプルプル震えている。
「ジ⋯ジーク?」
今度は顔を両手で覆って空を仰いだジークの行動に戸惑っているとフワリと体が浮き上がる感覚がした。
「イオが⋯イオが嫉妬してくれた⋯!」
えぇ?何でそんな嬉しそうなの?
「俺だって嫉妬くらいするし。」
「でも普段俺が注目を浴びてるときは諦めてるというか、仕方ないと思ってるだろ?」
確かにジークがモテるのは出会ってからずっと変わらない事実だし、どうにかなるものではないんだから俺がどうこう思うことはない⋯はずだったけど⋯
「本当はジークが言い寄られるところなんて見たくないし聞きたくもない!俺だけのジークならいいのにって⋯思ったり⋯」
語尾が小さくなっていく。何言ってんだ俺。我に返るとめちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってるな。
「やだ私当て馬じゃない。ウマ獣人だからって失礼しちゃう。人族だからつけ入る隙があるかと思ったのにな~。」
という声にハッとした。俺、ジークに抱っこされたまま!
「ジーク!下ろして!」
「やだ。」
「恥ずかしいってば!」
「んじゃすぐに帰ろう。」
と言った途端に俺を抱いたまま走り出すジーク。自分の足で歩くから下ろしてくれ!
*************************
結局宿まで抱っこされたままだった。あ、ハヤトさんに何も言わずに帰って来てしまった。今度会ったときに謝ろう。
ジークの部屋に入ったらやっと下ろしもらえた。でも両肩をがっしりと掴まれている。
「イオ、俺は今すごく嬉しくて嬉しくてたまらない。」
「女々しいことを言った自覚はある。」
「イオはいつも男前すぎるんだ。」
ええ?そうかな?
「いつも割とストレートに気持ちを伝えてくれるだろ。」
「それは⋯前の世界で言いたいことを言わずにいたことで後悔したから⋯」
「うん、でも嫌だと思ったことは言わずに我慢しているだろ?」
それは円滑なコミュニケーションを保つために言うべきではないことじゃないかな?
「いいんだよ」
「?」
「言っていいんだイオ。俺は聞きたい。イオの嫌なこと、腹が立つこと、モヤモヤすること、何でも知りたいんだ。さっきのは嬉しかった。俺だって人にイオを見られたくない、俺だけしか見られないように閉じ込めたいといつも思っている。」
「ふふ、それは困るかな。」
「ああ、だからしない。まだ一緒に行ってない国もあるしな。でも思うのは自由だろ?」
「そうだね。ね、ジーク。」
俺は背伸びをしてジークにキスを贈る。ジークは少し驚いて、さっと熱を帯びた表情に変えた。目の奥がギラリと光るが、俺に触れる手はどこまでも優しい。この人はきっと自分からは言わずにずっと待っている。俺の気持ちが整うまで、俺がジークと同じくらいの熱を持つまで。そんなのとっくに持っている。ただ、最後の一歩を踏み出す勇気が出なかっただけだ。
しかしそれは嫉妬の気持ちで安々と飛び越えた。この人は俺のものだ。そしてこの人のものにして欲しい。それは確かな独占欲。
「大好きだよジーク。ジークの全てを俺にちょうだい。」
************************
私にエロは書けません。
次はハヤトの話になります。
・忍者サスケ
この世界に落ちたときは「拙者、ござる口調」だったが、教育担当の指導により口調変更に成功。
「前から思ってたんだけど、キミの武器は全然キミに合ってないね。」
俺の武器である短剣はソラレの武器屋の中から扱えそうな物を選んだものだ。市販品なので確かに俺にぴったりかと言われればそうではない。
弟子としての最後の大仕事は武器の素材集めから仕上げまですることになる。さすがに金属を金槌で叩く鍛錬の作業は短期の弟子にできるような技術ではないのでお任せするが、近くで見ても良い許可をもらえた。
「武器に短剣を選んだのは正しいね。キミは小柄で体重も軽いから重くて長い武器は扱い辛い。戦い方を見ていたら刀身も薄く切れ味重視がいいだろう。でも刀身を薄くすると強度が下がるから素材はアダマンタイトがいいかな。」
武器の話になると饒舌になるシエロさん。店に初めて来る冒険者たちは皆このギャップに驚く。
アダマンタイトという鉱石は希少ではあるが、あまり需要はない。その理由はあまりにもの硬さに加工がし辛いからだということ。ドドソルニアでもこの金属を加工できるのは一部の職人だけと言われていて、シエロさんはその内の1人らしい。
アダマンタイト鉱石の採掘自体は特に難しいものではないが、地中特化型の魔獣が多く生息する洞窟が採掘場なのでその対応に苦労した。
地中特化型魔獣はとにかく見た目が気持ち悪い。ミミズに牙だらけの口をつけたような「大蠕虫」、蜘蛛の形をした「女郎蜘蛛」、集団で襲ってくる「軍隊蟻」など、どれも俺の体よりも大きいので出くわすたびに泣きそうになる。
シエロさんと一緒でないと俺1人では対処できない魔獣ばかりで体も心もボロボロになった。
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今日は武器のグリップ部分の素材採取を終わらせたところだ。素材は特に珍しいものではなかったので1人で採取に行った。ギルドを通した依頼というわけでは無いのでギルドに寄らずに街へ入る。すると「おーい、イオー!」と声を掛けられ、4人組冒険者パーティの1人が手を振っている。あの顔は⋯
「ハヤトさん!?」
手を振るのはソラレで出会った落ち人のハヤトさん。現世では俺の弟の友人だったらしく、俺がいなくなった後の家族の様子を少し聞くことができた。それがきっかけでたまに話したり食事も一緒に食べたりするようになっていた。ハヤトさんはすごくフレンドリーな人で、現世だったら本当は俺が年上なんだろうが、頼れるお兄さんという感覚だ。
すると少し離れたハヤトさんと一緒にいた冒険者3人が声をかけてきた。
「ハヤトー、俺たち宿に行くなー。」
「おう、また臨時メンバーが必要なら声かけてくれ。」
手を振って応えるハヤトさん。
「パーティメンバーじゃなかったんですか?」
「ああ、臨時でメンバーが必要なパーティに参加するっていう形が性に合ってたんだ。普段はソロだよ。」
ハヤトさんとは始めて会ったときに共闘しただけで、剣も魔法も使えて前衛も後衛もこなせる器用なタイプだと思っていた。その上コミュニケーションにも優れているので臨時メンバーとしても無理なく入っていけるのだろう。
「そうだ、お勧めの武器屋はない?」
「ちょうど今から行くところだったので一緒に行きましょう。」
俺たちは歩きながら近況を報告し合った。ハヤトさんは俺がドドソルニアに来たときと同じく、犯罪者の護送依頼だった。俺たちのときとは違って犯罪者たちは暴れたり脱走したり、犯罪者の仲間からの襲撃などがあり色々と大変だったようだ。
俺は水晶蜥蜴捕獲の話やランク試験のための弟子入りの話をして、宿にいないときはちゃんと持ち歩いている水晶蜥蜴の置物をハヤトさんに見せた。
シエロさんのお店に到着するとちょうど接客中だったので椅子に座って待つことにした。客は冒険者の風貌で黒く長い髪を1つに纏めている男性だった。シエロさんと話している男性からは「刀」「脇差」という単語が聞こえてきたのでもしかすると⋯と何気なく向かいに座ったハヤトさんを見ると同じく「だよね?」という顔をしていた。
シエロさんが「ちょっと待ってて」と言って奥に引っ込んだタイミングでハヤトさんが「そこのお兄さん!」と男性に声をかけた。こちらを向いた男性の瞳の色は"黒"だった。男性もハヤトさんを見て驚いた顔をした。
「君も落ち人か?」
「そうだよ。こっちの子も落ち人。」
「そうなのか。黒髪黒目が多いと聞いていたがそうではない落ち人もいるんだな。」
「俺たち日本から来たんだけど知ってる?」
「いや、わからないな。私は"倭国"からだ。忍を生業としていた。」
「お兄さん忍者!?」
忍者のお兄さんは俺たちとは違う世界からの落ち人だった。「伊賀ノ佐助」という名前でこちらでは「サスケ」の名前で冒険者を6年ほど続けているとのこと。仕事中に命を落とし、獣人の国の冒険者ギルドで保護をされて冒険者になり、今回ドドソルニアに「刀」を造る鍛冶職人がいるらしいという噂を聞いてやってきたそうだ。
「黒いヒト、こっち来て。」
奥から刀を1振り持ってきたシエロさんはサスケさんを呼んで再び話し合いを始めた。同時にロランもお茶を入れて全員に配る。
「イオ、今日はもう帰ってもいいってさ。明日は休みだけど明後日は早く来てね。その素材は預かっておくよ。そっちの人は知り合い?」
「俺はイオの友人のハヤトだ。武器のメンテナンスに来たんだけどまだ時間はかかりそうかな?」
ロランはちらりと熱心に話し込んでいるシエロさんを見た。
「そうだね。メンテだけだったら武器は預かるけど、どうする?」
「それでお願いしようかな。イオの弟子入り先なら信用もできるしね。」
武器を預けたハヤトさんと店を出る。2人で歩いていると街の女の子たちがハヤトさんを見てそわそわしている場面に出くわす。ハヤトさんも格好良いから目立つんだよな。美形の爽やかで人当たりの良い冒険者って中々いないし。
「ハヤトさんはもう宿は決まっているんですか?今俺たちが泊まっている宿に空きがありますよ。」
先日ちょうど小ドワの旦那さんに複数人用の大部屋は埋まっているが、個室はお高めなこともあり全室埋まることはめったにないと聞いていた。ハヤトさんはBランクながらも高ランクの魔獣をバンバン討伐するので稼ぎは良いはずだ。
「ありがとう。でもソラレの冒険者にお勧めの宿を教えてもらったから、まずそっちに空きがあるか見てくるよ。」
じゃあご飯でもと思って誘おうとしたら遠くの方にジークの姿が見えた。今日は1人で討伐依頼を受けると言っていたのでその帰りだろう。ハヤトさんも「あれジークさんじゃない?挨拶していこっかな。」と俺と目を合わせた。目線を戻すと女性がジークに駆け寄り、抱き着こうとして避けられる光景が目に入った。
「イオ、こっち。」
とハヤトさんは俺をさっと建物の影に追いやり、しーっと人差し指を口に当てた。そして魔力操作をして集音の魔法を仕掛けた。離れていてもジークたちの声が聞こえる。
「これ、すごいですね。」
「風が不自然な動きになるから室内では使えないけどね。」
魔力の消費も激しそうだから俺には使えない魔法だな。
「ジークぅ~私も依頼終わりで興奮気味なの。相手して?」
「いい加減にしろ。俺には番がいると何度も言っただろう。」
あの人が話に聞いたウマ獣人の女性冒険者か。
「じゃ番ちゃんも混ぜて一緒にやりましょ?」
「殺すぞ。」
ハヤトさんが「うわーなんだあの炎上しそうなウ◯娘。」と呟いた声はすでに置き去りにし、俺は走り出していた。夢中になって全く周りは見えず、ジークと女性冒険者の間に割り込み叫んでいた。
「ジークの番は俺です!これ以上関わらないで下さい!」
一瞬ポカンとしていた女性冒険者だが、にこりと笑って顔をずいっと近付けてきた。
「やだ可愛い~!!ジークの番はてっきり気の強い女かと思ったのにこんなに素直そうな可愛い系男子だなんて!でも線が細くて1人ではジークの相手は大変じゃない?私と一緒に楽しみましょ?」
「お断りします!ジークの相手は俺1人だけだ!誰にも譲らないし共有も絶っ対に嫌だ!」
「ええ~身持ち固すぎない?ってうわ、ジークの顔気持ち悪っ」
そのとき初めてジークの顔を見たら満面の笑みで破顔していた。そして何だか体がプルプル震えている。
「ジ⋯ジーク?」
今度は顔を両手で覆って空を仰いだジークの行動に戸惑っているとフワリと体が浮き上がる感覚がした。
「イオが⋯イオが嫉妬してくれた⋯!」
えぇ?何でそんな嬉しそうなの?
「俺だって嫉妬くらいするし。」
「でも普段俺が注目を浴びてるときは諦めてるというか、仕方ないと思ってるだろ?」
確かにジークがモテるのは出会ってからずっと変わらない事実だし、どうにかなるものではないんだから俺がどうこう思うことはない⋯はずだったけど⋯
「本当はジークが言い寄られるところなんて見たくないし聞きたくもない!俺だけのジークならいいのにって⋯思ったり⋯」
語尾が小さくなっていく。何言ってんだ俺。我に返るとめちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってるな。
「やだ私当て馬じゃない。ウマ獣人だからって失礼しちゃう。人族だからつけ入る隙があるかと思ったのにな~。」
という声にハッとした。俺、ジークに抱っこされたまま!
「ジーク!下ろして!」
「やだ。」
「恥ずかしいってば!」
「んじゃすぐに帰ろう。」
と言った途端に俺を抱いたまま走り出すジーク。自分の足で歩くから下ろしてくれ!
*************************
結局宿まで抱っこされたままだった。あ、ハヤトさんに何も言わずに帰って来てしまった。今度会ったときに謝ろう。
ジークの部屋に入ったらやっと下ろしもらえた。でも両肩をがっしりと掴まれている。
「イオ、俺は今すごく嬉しくて嬉しくてたまらない。」
「女々しいことを言った自覚はある。」
「イオはいつも男前すぎるんだ。」
ええ?そうかな?
「いつも割とストレートに気持ちを伝えてくれるだろ。」
「それは⋯前の世界で言いたいことを言わずにいたことで後悔したから⋯」
「うん、でも嫌だと思ったことは言わずに我慢しているだろ?」
それは円滑なコミュニケーションを保つために言うべきではないことじゃないかな?
「いいんだよ」
「?」
「言っていいんだイオ。俺は聞きたい。イオの嫌なこと、腹が立つこと、モヤモヤすること、何でも知りたいんだ。さっきのは嬉しかった。俺だって人にイオを見られたくない、俺だけしか見られないように閉じ込めたいといつも思っている。」
「ふふ、それは困るかな。」
「ああ、だからしない。まだ一緒に行ってない国もあるしな。でも思うのは自由だろ?」
「そうだね。ね、ジーク。」
俺は背伸びをしてジークにキスを贈る。ジークは少し驚いて、さっと熱を帯びた表情に変えた。目の奥がギラリと光るが、俺に触れる手はどこまでも優しい。この人はきっと自分からは言わずにずっと待っている。俺の気持ちが整うまで、俺がジークと同じくらいの熱を持つまで。そんなのとっくに持っている。ただ、最後の一歩を踏み出す勇気が出なかっただけだ。
しかしそれは嫉妬の気持ちで安々と飛び越えた。この人は俺のものだ。そしてこの人のものにして欲しい。それは確かな独占欲。
「大好きだよジーク。ジークの全てを俺にちょうだい。」
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