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ドドソルニア編
ハヤトの過去(sideハヤト)
(sideハヤト)
「やだ私当て馬じゃない。ウマ獣人だからって失礼しちゃう。人族だからつけ入る隙があるかと思ったのにな~。」
という言葉を聞いてやはり人族には番を判別することはできないみたいだなと確信した。この世界には種族関係なくお互いに唯一無二が存在するという話は聞いていた。
異世界に落ちてすぐのころ、飲み屋で近くの席の獣人たちが話していたことを思い出した。彼らはどうやら恋人に振られた男を慰めている状況らしかった。
「元気だせって。」
「相手が番じゃ仕方ないよ。」
「そうだよな⋯彼女との幼馴染の関係も切れてしまったのは悲しいけど⋯番だもんな⋯
⋯はぁ」
そのとき俺は積み重ねた年月も関係のないほどの強い繋がりを持つ"番"という存在に興味を持った。あとから獣人にとっての「番」はエルフは「運命」、龍人は「半身」、ドワーフは「片割れ」と呼ばれ、めったに会えるものではなく、人族にはそれに値する名称はないと聞いて少し残念に思った。
************************
生まれたときから父親はいなかった。
母と2人、治安の悪い地域の狭いボロアパートが住処だった。母親からはいわゆるネグレクトを受けていた状態だったが、特に苦労したという記憶はない。というのも、俺の見た目が人気No1ホステスの母親と瓜二つの見た目だったからだ。
どこにいっても見た目でチヤホヤされた。小学校に行っているときも筆記用具もろくに買えないボロい服を着た生徒なんてイジメの対象になるものだが、俺に同情した生徒が使わない筆記用具や兄姉のお下がりをくれた。
中学生になったら繁華街で逆ナンしてきた女の家を転々としていて家には帰らなかった。勉強は特にしなくてもできたので出席日数ギリギリでも進級はできた。
高校には進学せずにプラプラしているときに何となく入った劇場で舞台を見て芝居にハマった。同時期にモデル会社にスカウトされていたのでアルバイトとしてこの業界に入り、残りの時間は芝居の稽古にあてた。
見た目が全てのモデルの世界は俺には合っていた。そして面白いほどに人が寄ってきた。年下には優しく、同年代には爽やかに、年上には人懐こく笑顔を見せるだけで良かった。俺の顔しか見ていない女と俺の顔を利用する男との利害が一致して、合コンを開いては後腐れのない相手を見つけて体の付き合いをしていた。
舞台俳優としては芽が出なかったが、モデルとして安定した収入と生活を得られるようになったころ、母親はいつの間にか店を辞めていて連絡が取れなくなっていた。そのときには成人していて保護者の許可が必要な状況もなかったので母親の行方を捜すこともなかった。
役者を辞めてモデル一本化にしたときには目標もなくなり、何も執着することがないつまらない人間になっていた。
TSUMUに出会ったときはその頃で、最初はよく現場で一緒になる外国人モデルと思っていたが父親が日本人、母親がアメリカ人のハーフで国籍は日本だと後から聞いた。
TSUMUは俺に寄ってくる奴らと違って、媚びることも擦り寄ることもなく一緒にいて気楽な存在だった。飲みに行くようになってもその関係は変わらず、付かず離れずの距離が心地よかった。
あいつは撮影の合間にふらりと現場から離れ、写真を眺めていることがある。その写真の意味を知ったときは家族を想う気持ちがよくわからなくて曖昧に頷いていた。
俺が異世界に落ちるきっかけになったのは女に刺されたからだ。何回か寝たことがあるだけで俺と付き合えると勘違いしていた売れないモデルだった。最初から付き合う気はないと言っているのにたまにこういう勘違いをした奴が出てくる。大抵は連絡先をブロックして「最初に言ったよね?」と言えば離れて行くのだが、仕事帰りに夜道を歩いていたら後ろから一突きだった。
その後のことは知らない。意識が無くなる直前に暴れる女を抑える人たちの声が聞こえていたからおそらく捕まっているはずだ。人通りが少なくないところで襲うなんて馬鹿な女だ。
異世界で冒険者ギルドのギルドマスターに拾われて落ち人についての説明をされたときも元の世界に未練はなかったので「外国にいきなり連れてこられたと思えばいいか」くらいのものだった。言葉が通じるだけマシだな。適当に生活できるくらいの収入があれば良いだろう。
ところが、俺には魔力が豊富だったらしくすぐに魔法を使えるようになった。役者をするには体力も必要だったため鍛えていたことも功をなした。あっという間にBランクになり、小さな田舎町ではちょっとした有名人になっていた。
元の世界での反省を生かし、性欲処理は娼館を使っていた。ただ、規模が小さいので必然的にいつも同じスタッフが俺の担当のようになっていた。その内、担当の女が昼間も俺に会いたがるようになった。それが煩わしくなって「この辺には高ランクの魔獣が少ないから」という尤もらしい理由で町を離れることにした。
何回か馬車を経由して辿り着いたのはそこそこ大きな町「ソラレ」だった。この辺りは魔獣が多く出る森が近いらしく、冒険者ギルドの規模が大きい。早速依頼ボードを確認するとなるほど、依頼量が前回所属していたギルドとは桁違いだった。最初は討伐経験のある魔獣から初め、徐々にランクが上の魔獣を討伐していった。
先日、剣歯虎を討伐したことで少し調子に乗ってしまった。襟巻猿の群れのボス同士が争っているところを見てチャンスだと思った。襟巻猿はボスを倒せば統率が無くなって個々を討伐しやすくなる。争っている隙をついて攻撃を仕掛ける。漁夫の利ってやつだ。ところが2頭は即座に俺を共通の敵と認識して同時に群れを動かした。
討伐に手こずっていると通りかかった冒険者パーティに加勢してもらい、無事に全て討伐できた。俺の背中側で戦っていた獣人はかなりの実力者らしく、とても戦いやすかった。戦闘中に俺をフォローする余裕もあり、あとからSランクと聞いて納得した。
そのSランクのパーティにTSUMUの兄がいた。初めは見間違いかと思った。というのもあの写真の少年と比べて成長はしているが、どう見ても年上には見えなかったからだ。ところが本人かどうかの確認をすると彼はすぐに逃げ出した。すぐに追いかけたジークさんも撒かれたらしく戻ってきた。Sランクから逃げられるってすごいな。ジークさんに彼との関係性を聞かれ、TSUMUについても色々と聞かれた。本来なら第三者に人のことをベラベラ話す趣味はないがここは異世界だ。元の世界の話をしたところで咎める人などいない。
その後はロロさんと意気投合して彼らが宿泊している宿での飲み会になった。さすが高ランクパーティ。良い酒を惜しみなく出してくれる。俺は酒にはかなり強い。そんな俺を気に入ったらしくロロさんがガンガンに飲ませてくる。途中でジークさんとイオくんが合流して現世のTSUMUの話をする。話を聞いてみると、どうやら元の世界と時間のズレがあるらしいとわかった。知ったところで不要な知識なのだけれど。
話も終わって再び飲み会が始まる。俺は初めて酒で潰れてしまった。
ふわふわとした感覚で誰かの肩を借りて歩いている。どこかの部屋に入り、ソファに座らされるとコップに入った水を渡され、一気に飲んで一息つくと水をくれたのはラーフさんだと気が付いた。
「水、ありがとうございます。お見苦しいところを見せてしまいました。」
「ロロに付き合ったら潰れるのは当然ですよ。飲み会は解散になってイオはジークが送ってロロは部屋に戻ったところです。」
「そうでしたか。俺もお暇しようかな。あ、そうだちょっと聞きたいことが⋯。」
「なんです?」
「この辺りの娼館でオススメあります?」
ここ最近は討伐に夢中になってすっかりご無沙汰になっていた。今日はギリギリの討伐に美味しい食事と酒も飲んで気分が良いので娼館で発散したかったが、この町の娼館の情報はまだ仕入れていなかった。
「そうですねぇ⋯私がお相手いたしましょうか?」
「ええ?」
この世界に落ちてすぐのとき、俺の教育担当である男性ギルド職員の結婚相手が男だったのでそこから同性同士の付き合いは珍しくないということを知った。実際男の冒険者にそういった意味で誘われたこともあるし、娼館には男娼もいる。特に否定することも無いが俺は男を抱く気にもならないし、女に困ったこともないので相手にしなかった。
昔、女の家でふらふらとヒモ生活をしていたときに面白がって男同士のやり方をレクチャーされたこともあり、知識だけはあるが本当に無駄な時間だった。
目の前の男をよく見る。白く長い髪は艷やかで切れ長の灰色の目は薄く弧を描いている。向こうのモデル世界でも見たことがないくらいに綺麗な顔をしている。少し悩んで、するりと頬を撫でどちらともなく顔を寄せ、薄い唇に口を重ねた。嫌悪感は湧かない。
うん、抱けるな
あとから「付き合え」と言われても面倒だが、この男は誘い方が慣れているしこのスペックだと相手に困らないだろうからその心配はなさそうだと俺の勘が言っている。
寝室に向かいながら次第に深くなっていくキスの合間にお互いに服を脱ぐ。ベッドでラーフさんを押し倒し、身体に触れながら手順は女を抱くときと同じでいいのか?と考えていたら突然ぐるりと視界が天井を向いた。
「へ?」と間抜けな声が出る。
「ふふ、その表情も良いですね。もっと色々見せて下さい。」
見上げた美しい顔は先ほどまでは柔らかな表情だったのに、今は獲物を見つけた鋭い鷹のような目をしている。そう思った瞬間、体が動かなくなった。拘束魔法!?
「安心して下さい。拘束はほぐし終わってから解いてあげますからね。」
その後、俺は長時間揺さぶられ続け夜明けになる頃に意識を失った。
**********************************
目覚めるとすっかり日は高くなっていた。体中がギシギシと痛み、尻には異物感が残っている。喉がかすれて声が出ない。そして裸の俺の横には同じく裸のラーフさん⋯いやラーフの野郎が寝転がっている。頭がぼーっとしていて思考が定まらない。俺は昨夜いったい何を?
横から動く気配を感じたと思ったら顎を押さえられ、口移しで何かの液体を飲まされる。
この味はポーション!
「おはようございます。体は大丈夫ですか?つい調子に乗って無茶させちゃいましたね。」
ラーフが俺の口から溢れたポーションをペロリと舐め取ると一気に頭が覚醒した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
思い出した!夕べの痴態を全て覚えている!
「てめぇ!この野郎。何で俺が下なんだよ!」
「おや?そっちが素のあなたですか?昨日の爽やかな感じも良かったですが、生意気そうな今も調きょ⋯攻めがいがあって良いですね。」
「いま調教っつったろ!このドS野郎!」
床に散らばった服をかき集め、羽織る程度に着てから部屋を飛び出した。ポーションのおかげか体のダメージは無くなったが、心には大打撃だ。
**********************************
・ハヤト
最初はソラレの冒険者ギルド受付のネコ獣人ミーナの相手役のつもりで考えたキャラでしたが、私の「自分を攻めだと思っている受けが好き」という癖のためにラーフの受けにされた可哀想な人。
「やだ私当て馬じゃない。ウマ獣人だからって失礼しちゃう。人族だからつけ入る隙があるかと思ったのにな~。」
という言葉を聞いてやはり人族には番を判別することはできないみたいだなと確信した。この世界には種族関係なくお互いに唯一無二が存在するという話は聞いていた。
異世界に落ちてすぐのころ、飲み屋で近くの席の獣人たちが話していたことを思い出した。彼らはどうやら恋人に振られた男を慰めている状況らしかった。
「元気だせって。」
「相手が番じゃ仕方ないよ。」
「そうだよな⋯彼女との幼馴染の関係も切れてしまったのは悲しいけど⋯番だもんな⋯
⋯はぁ」
そのとき俺は積み重ねた年月も関係のないほどの強い繋がりを持つ"番"という存在に興味を持った。あとから獣人にとっての「番」はエルフは「運命」、龍人は「半身」、ドワーフは「片割れ」と呼ばれ、めったに会えるものではなく、人族にはそれに値する名称はないと聞いて少し残念に思った。
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生まれたときから父親はいなかった。
母と2人、治安の悪い地域の狭いボロアパートが住処だった。母親からはいわゆるネグレクトを受けていた状態だったが、特に苦労したという記憶はない。というのも、俺の見た目が人気No1ホステスの母親と瓜二つの見た目だったからだ。
どこにいっても見た目でチヤホヤされた。小学校に行っているときも筆記用具もろくに買えないボロい服を着た生徒なんてイジメの対象になるものだが、俺に同情した生徒が使わない筆記用具や兄姉のお下がりをくれた。
中学生になったら繁華街で逆ナンしてきた女の家を転々としていて家には帰らなかった。勉強は特にしなくてもできたので出席日数ギリギリでも進級はできた。
高校には進学せずにプラプラしているときに何となく入った劇場で舞台を見て芝居にハマった。同時期にモデル会社にスカウトされていたのでアルバイトとしてこの業界に入り、残りの時間は芝居の稽古にあてた。
見た目が全てのモデルの世界は俺には合っていた。そして面白いほどに人が寄ってきた。年下には優しく、同年代には爽やかに、年上には人懐こく笑顔を見せるだけで良かった。俺の顔しか見ていない女と俺の顔を利用する男との利害が一致して、合コンを開いては後腐れのない相手を見つけて体の付き合いをしていた。
舞台俳優としては芽が出なかったが、モデルとして安定した収入と生活を得られるようになったころ、母親はいつの間にか店を辞めていて連絡が取れなくなっていた。そのときには成人していて保護者の許可が必要な状況もなかったので母親の行方を捜すこともなかった。
役者を辞めてモデル一本化にしたときには目標もなくなり、何も執着することがないつまらない人間になっていた。
TSUMUに出会ったときはその頃で、最初はよく現場で一緒になる外国人モデルと思っていたが父親が日本人、母親がアメリカ人のハーフで国籍は日本だと後から聞いた。
TSUMUは俺に寄ってくる奴らと違って、媚びることも擦り寄ることもなく一緒にいて気楽な存在だった。飲みに行くようになってもその関係は変わらず、付かず離れずの距離が心地よかった。
あいつは撮影の合間にふらりと現場から離れ、写真を眺めていることがある。その写真の意味を知ったときは家族を想う気持ちがよくわからなくて曖昧に頷いていた。
俺が異世界に落ちるきっかけになったのは女に刺されたからだ。何回か寝たことがあるだけで俺と付き合えると勘違いしていた売れないモデルだった。最初から付き合う気はないと言っているのにたまにこういう勘違いをした奴が出てくる。大抵は連絡先をブロックして「最初に言ったよね?」と言えば離れて行くのだが、仕事帰りに夜道を歩いていたら後ろから一突きだった。
その後のことは知らない。意識が無くなる直前に暴れる女を抑える人たちの声が聞こえていたからおそらく捕まっているはずだ。人通りが少なくないところで襲うなんて馬鹿な女だ。
異世界で冒険者ギルドのギルドマスターに拾われて落ち人についての説明をされたときも元の世界に未練はなかったので「外国にいきなり連れてこられたと思えばいいか」くらいのものだった。言葉が通じるだけマシだな。適当に生活できるくらいの収入があれば良いだろう。
ところが、俺には魔力が豊富だったらしくすぐに魔法を使えるようになった。役者をするには体力も必要だったため鍛えていたことも功をなした。あっという間にBランクになり、小さな田舎町ではちょっとした有名人になっていた。
元の世界での反省を生かし、性欲処理は娼館を使っていた。ただ、規模が小さいので必然的にいつも同じスタッフが俺の担当のようになっていた。その内、担当の女が昼間も俺に会いたがるようになった。それが煩わしくなって「この辺には高ランクの魔獣が少ないから」という尤もらしい理由で町を離れることにした。
何回か馬車を経由して辿り着いたのはそこそこ大きな町「ソラレ」だった。この辺りは魔獣が多く出る森が近いらしく、冒険者ギルドの規模が大きい。早速依頼ボードを確認するとなるほど、依頼量が前回所属していたギルドとは桁違いだった。最初は討伐経験のある魔獣から初め、徐々にランクが上の魔獣を討伐していった。
先日、剣歯虎を討伐したことで少し調子に乗ってしまった。襟巻猿の群れのボス同士が争っているところを見てチャンスだと思った。襟巻猿はボスを倒せば統率が無くなって個々を討伐しやすくなる。争っている隙をついて攻撃を仕掛ける。漁夫の利ってやつだ。ところが2頭は即座に俺を共通の敵と認識して同時に群れを動かした。
討伐に手こずっていると通りかかった冒険者パーティに加勢してもらい、無事に全て討伐できた。俺の背中側で戦っていた獣人はかなりの実力者らしく、とても戦いやすかった。戦闘中に俺をフォローする余裕もあり、あとからSランクと聞いて納得した。
そのSランクのパーティにTSUMUの兄がいた。初めは見間違いかと思った。というのもあの写真の少年と比べて成長はしているが、どう見ても年上には見えなかったからだ。ところが本人かどうかの確認をすると彼はすぐに逃げ出した。すぐに追いかけたジークさんも撒かれたらしく戻ってきた。Sランクから逃げられるってすごいな。ジークさんに彼との関係性を聞かれ、TSUMUについても色々と聞かれた。本来なら第三者に人のことをベラベラ話す趣味はないがここは異世界だ。元の世界の話をしたところで咎める人などいない。
その後はロロさんと意気投合して彼らが宿泊している宿での飲み会になった。さすが高ランクパーティ。良い酒を惜しみなく出してくれる。俺は酒にはかなり強い。そんな俺を気に入ったらしくロロさんがガンガンに飲ませてくる。途中でジークさんとイオくんが合流して現世のTSUMUの話をする。話を聞いてみると、どうやら元の世界と時間のズレがあるらしいとわかった。知ったところで不要な知識なのだけれど。
話も終わって再び飲み会が始まる。俺は初めて酒で潰れてしまった。
ふわふわとした感覚で誰かの肩を借りて歩いている。どこかの部屋に入り、ソファに座らされるとコップに入った水を渡され、一気に飲んで一息つくと水をくれたのはラーフさんだと気が付いた。
「水、ありがとうございます。お見苦しいところを見せてしまいました。」
「ロロに付き合ったら潰れるのは当然ですよ。飲み会は解散になってイオはジークが送ってロロは部屋に戻ったところです。」
「そうでしたか。俺もお暇しようかな。あ、そうだちょっと聞きたいことが⋯。」
「なんです?」
「この辺りの娼館でオススメあります?」
ここ最近は討伐に夢中になってすっかりご無沙汰になっていた。今日はギリギリの討伐に美味しい食事と酒も飲んで気分が良いので娼館で発散したかったが、この町の娼館の情報はまだ仕入れていなかった。
「そうですねぇ⋯私がお相手いたしましょうか?」
「ええ?」
この世界に落ちてすぐのとき、俺の教育担当である男性ギルド職員の結婚相手が男だったのでそこから同性同士の付き合いは珍しくないということを知った。実際男の冒険者にそういった意味で誘われたこともあるし、娼館には男娼もいる。特に否定することも無いが俺は男を抱く気にもならないし、女に困ったこともないので相手にしなかった。
昔、女の家でふらふらとヒモ生活をしていたときに面白がって男同士のやり方をレクチャーされたこともあり、知識だけはあるが本当に無駄な時間だった。
目の前の男をよく見る。白く長い髪は艷やかで切れ長の灰色の目は薄く弧を描いている。向こうのモデル世界でも見たことがないくらいに綺麗な顔をしている。少し悩んで、するりと頬を撫でどちらともなく顔を寄せ、薄い唇に口を重ねた。嫌悪感は湧かない。
うん、抱けるな
あとから「付き合え」と言われても面倒だが、この男は誘い方が慣れているしこのスペックだと相手に困らないだろうからその心配はなさそうだと俺の勘が言っている。
寝室に向かいながら次第に深くなっていくキスの合間にお互いに服を脱ぐ。ベッドでラーフさんを押し倒し、身体に触れながら手順は女を抱くときと同じでいいのか?と考えていたら突然ぐるりと視界が天井を向いた。
「へ?」と間抜けな声が出る。
「ふふ、その表情も良いですね。もっと色々見せて下さい。」
見上げた美しい顔は先ほどまでは柔らかな表情だったのに、今は獲物を見つけた鋭い鷹のような目をしている。そう思った瞬間、体が動かなくなった。拘束魔法!?
「安心して下さい。拘束はほぐし終わってから解いてあげますからね。」
その後、俺は長時間揺さぶられ続け夜明けになる頃に意識を失った。
**********************************
目覚めるとすっかり日は高くなっていた。体中がギシギシと痛み、尻には異物感が残っている。喉がかすれて声が出ない。そして裸の俺の横には同じく裸のラーフさん⋯いやラーフの野郎が寝転がっている。頭がぼーっとしていて思考が定まらない。俺は昨夜いったい何を?
横から動く気配を感じたと思ったら顎を押さえられ、口移しで何かの液体を飲まされる。
この味はポーション!
「おはようございます。体は大丈夫ですか?つい調子に乗って無茶させちゃいましたね。」
ラーフが俺の口から溢れたポーションをペロリと舐め取ると一気に頭が覚醒した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
思い出した!夕べの痴態を全て覚えている!
「てめぇ!この野郎。何で俺が下なんだよ!」
「おや?そっちが素のあなたですか?昨日の爽やかな感じも良かったですが、生意気そうな今も調きょ⋯攻めがいがあって良いですね。」
「いま調教っつったろ!このドS野郎!」
床に散らばった服をかき集め、羽織る程度に着てから部屋を飛び出した。ポーションのおかげか体のダメージは無くなったが、心には大打撃だ。
**********************************
・ハヤト
最初はソラレの冒険者ギルド受付のネコ獣人ミーナの相手役のつもりで考えたキャラでしたが、私の「自分を攻めだと思っている受けが好き」という癖のためにラーフの受けにされた可哀想な人。
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