異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ギルドを立ち上げてみよう

PHASE-37【壊走】

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「本当にチートだよ」

「ちいとというのは、主の感嘆の語調からするに、剛の者という意味でいいのでしょうか?」

「はい、そんな感じだと思ってください」
 敵には恐怖と混乱。味方には興奮と自信。
 ベルとゲッコーさんの二人より、思惑どおりに事を運ばせる先生の頭脳が、一番怖いと言うのは口には出すまいよ。

「訂正しないといけませんね。万夫不当というより、天下無双ですな。二千では全く相手になりません。いや~神話の如き御仁たちですな」
 眼下では、二千からなる敵は、無事である攻城兵器を放置して逃げ惑う。
 中には挑もうとしているオークもいたけど、ベルに触れることも出来ずに炭になった。
 ゲッコーさんはロケット弾での攻撃を止め、立てかけていたMASADAを手にして、城壁から、相手の射程範囲外より、セミオートで次々とヘッドショットを決めていく。
 兜を装備しているのもいるが、銃の前では、この世界の兜の防御力は無意味なようで、穴が空けば、命も絶たれる。
 俺は命が奪われていく現状に、目を逸らしてしまう。
 逸らした先では、敵が死んでいく様を昂奮して眺める兵士と住人の姿。
 今までの事があったからな。憎しみも強いからか、倒れていく敵に罵声を浴びせている。
 冷めた感情で、この光景を目にしてしまうな……。


「圧勝ですな」
 先生も満足なようだ……。戦いの世界で生きていた人だから仕方ないのか。
 ――――二千が二人――、先生を含めて三人の前に壊走である。
 こちらは被害もなく、放置され捨てられた兵器と武器が、綺麗なままで手に入ったと先生は喜び、早速、兵たちに回収の指示を出せば、完全勝利に酔いしれた兵たちの士気はとても高く、住人も協力しようと動き出す。
 ゲッコーさんはそれを壁上から眺めて煙草を一服。
 ベルは戦いを終えれば、纏っていた炎を消し、鞘に収めた剣の柄に手を添えながら、逃げていく敵兵が上げていく砂煙を見ている。

「主、賞賛を受けましょう」
 そうか、俺の奇跡の御業ってやつだったな。
 階段をくだり、俺の姿が見えると、歓声が大波のように押し寄せてくる。
 人々と同じ目線の高さになれば、更に熱をおびたものに変わった。
 人いきれに酔いそうだが、人々の声の衝撃が、体の内部にドンドンと響いてくる。
 先ほどまでは戦いを目にしていた人達を冷めた目で見ていた俺だけど、この歓声は正直、気持ちがいい。
 こういうので調子に乗って勘違いすると、命を落とすんだろうな。ここは気を引き締めないといけないと思っているが、自然と口元が緩んでしまうし、皆に手を振って応えてしまう。

 ――――回収と亡骸の処理。
 処理ってのもなんか嫌なので、

「供養しましょう」
 と、提案する。
 兵士は供養という言葉に納得がいかないようであったが、

「勝利に導いた主の指示に従います」
 勝利に導いた。この先生の発言で、活躍することなく騒いでいただけの兵士たちは、反論も無く従ってくれる。
 俺自身も、実際は何もしてないけどね。
 ベルが倒した相手は、存在自体がなかったものになっているからいいけど、ゲッコーさんが倒した亜人を供養するのが大変だ。
 とりあえず、再利用するとのことで、死体からも装備を剥ぎ取っていく兵士たち。
 再利用といっても、人間と体格も違えば、武器は鉈や斧などの、癖のある利器が多い。
 人間の膂力ではあつかいが難しい。

「一度、炉で溶かして再利用ってのがいいのかな」
 ゲームでも、武器やアイテムを入れて、錬成するってのもあるし。

「ふむふむ。ならば製鉄する場を建設せねばなりませんな。いや、この王都の規模と兵士の装備からして、製鉄所はありそうですな」
 圧倒的な人手不足で、現状では、運用が出来ていないと考えるべきだろう。
 やはり人材の確保が重要と先生は考える。
 
 ――……ふう……。
 亡骸を運ぶのは大変だ……。
 次第に体が硬直していく、体毛に覆われたオーク。
 体毛が生えているのに、それを通り越して、俺の手には冷たくなっていく感触が伝わってくる。
 中々に精神を削られる……。

「勇者様」
 と、子供たちが俺に声を掛けてくれる。
 守ってくれてありがとうと言い、表情は屈託のない笑顔だ。
 その笑顔が、俺のSAN値低下を支えてくれている。
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