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極東
PHASE-413【ドドメ色】
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魔闘なんかの頭に美しいとか付けると、コクリコがボコボコにされるフラグが立ちそうだな。
なんてお馬鹿な事を考えつつも、床に倒れて未だ起き上がる気配のないランシェルちゃんとコトネさんを警戒しつつも、息の整ってきたサニアさんに残火を向ける。
ビクリと震えるサニアさんの挙動から、俺を脅威として認識しているのが分かる。
ただでさえ戦いを忌諱しているようにも思えるメイドさん達だったが、こちらはそれでも相手をするという気概を発せば、しっかりと伝わっているようだった。
後退りしようとした時、
「退けばどうなるだろうな」
仄暗いヴァンパイアの台詞に、サニアさんが今にも泣きそうな顔になりながら留まれば、
「ぁぁあああああああ!」
気迫と言うより、恐れに呑まれた大音声で俺へと驀地。
玉砕という言葉が脳裏に浮かぶ。
先ほどまでの美しい動きなどではなく、ただ無計画に突っ込んでくるだけ。
「ごめんなさい。受けることは出来ない」
ショートソードの切っ先は俺へとは届かない。
炎の盾は何人の侵入も許さないといった堅牢さ。
サニアさんの姿勢を崩してから、残火にて胴打ち。
ランシェルちゃんの時と違って、両手持ちによる胴打ちは、サニアさんの意識を飛ばすには十分だったようで、大音声はピタリと止み、力なく床へと倒れた。
「情けないな……。この体たらくはお前達の無気力が招いた結果だ。命を奪おうとする覚悟がない。忠誠心の無さがそうさせるのかな?」
ヴァンパイアに対して忠誠心なんてないだろうと思っていたが、忠誠心の無さと言ったところで、床に倒れていたランシェルちゃんとコトネさんが立ち上がる。
フラフラとした足取りだが、
「やれます!」
酷薄な声に対して、闘気を奮い立たせるようにして応えるランシェルちゃん。
なぜにこんなヤツにここまでの忠誠心を……。
「黙れ!」
しかし、その思いを突き放すヴァンパイア。
「邪魔な無能どもは道を空けろ。手ずから相手をしてやろう」
今尚、立ち続けて戦おうとするメイドさんの意志を挫くように、押し倒しながらアラブの石油王みたいな服装が前へと出て来る。
継いだ発言は自信満々のものだった。
フィンガースナップを鏡の回廊で一つ響かせる。
ニヤリと笑んだ表情は強者の証ってか。
対して、手ずからという発言を耳にしたメイドさん達は、俺たちに対して申し訳ないといった感じの視線を送ってくる。
何かしらとっておきがあるのだろうか?
身構えていれば、俺たちの前に立つのは――――、コクリコ……。
絶賛、絶好調のまな板は、ここでも相対する存在にワンドを向けてポージング。
からの――――、
「さあ、来るがいいヴァンパイア! まさか高位の魔族と戦えるとは、私の歴史の糧になってもらいましょう」
「随分と剛気なお嬢さんだ。ノービスでよくもまあ強気でいられる」
高位と呼ばれる魔族からは毎度ノービスあつかいだな。マレンティの時もそうだったし。
「高位魔族が相手ならば、手心は不要」
おっと、強気に発言しているけども、基本的にお前の魔法はさっきのが全力じゃないんですかね?
初期魔法で止まっているよね。
デコピンで迎撃していたぞ。そのヴァンパイア。
「ではお嬢さんの健闘を祈ろう。さあ、始めよう」
ヴァンパイアが両腕を仰々しく開けば、全身から黒いオーラのようなものが現出し、纏うように体に留まる。
広げた両腕が俺たちの方へと向けられれば、
「あ……あぁァア……ァ」
回廊に木霊するうめき声。
最初のうめき声を合図に、唱和するように、うう……。とか、うぇあ……。と、回廊を不気味な声が支配していく。
声と共に、ズルズルと体を引きずるような音も聞こえてくれば、回廊の曲がり角から影が伸びる。
伸びる影は人のものだった。
人の影が段々と接近してくれば、曲がり角から影に続いて人が姿を見せる。
鎧を装着した兵士だ。
鎧のデザインからして、イリーの騎士団所属と思われる。
騎士団装備の兵達が、次々と回廊に現れる。
「……ああいうのをドドメ色って言うんですよね」
「ああ」
また喫煙していたのか、携帯灰皿に吸い殻をしまいながら、眼前からゆっくりとした動きで接近する存在に、炯眼を向けるゲッコーさん。
青あざのような色が肌全体の色となっている兵士たち。
明らかにこの世の存在には見えない。
「ブラム・ストーカーの次は、ジョージ・アンドリュー・ロメロだな」
「ゾンビなんですかね?」
「見た感じそうだな。まあ実物を見た経験はないから、断言は出来ないがな」
俺、ゾンビゲームとか苦手なんだよな…………。
噛みつかれたらゾンビになるとかマジでかんべんな。
肌の色味からして完全にアンデッドのようだけど……。
「しかたねえ」
こういう覚悟もいずれは来ると思っていた。
元人間。ゾンビとして利用されるより、成仏させた方がいいよな。
「やるっきゃない」
各ピリアを再度発動させる。
心底から放射状に体へと広がっていく熱の感覚。
火龍の鱗で出来た、ベストのようなデザインからなるブリガンダインはピリアに反応。
不可視ではあるが、ブリガンダインからもしっかりと力が伝わってくる。
これで状態異常なんかの特殊な攻撃や魔法を受けても、無効化できるようになるわけだ。
噛みつかれてもゾンビにはならないだろう。
「ほう、目の前で感じれば、確かに大したものだ」
俺の力をしっかりと感知したのか、ヴァンパイアは先ほどまで湛えていた薄ら寒い笑みを止めて、口は一文字を書いていた。
ここで更に相手に力を見せつけるように、一度、残火を腰へと戻し、栗形にある緑色の宝石からなるボタンを押し、カシャンと小気味の良い音と共にせり上がった残火の柄を握る。
後は刀を抜く――――、といったところで、
「いいのかな? 勇者よ」
ヴァンパイアの口端が再び上がる。
嘲笑ではなく不敵な笑みは、こちらに不気味さを伝えてくる。
告げてくる声音は、俺たちには良くない結果もたらそうとしているものだ。
残火を抜こうとする俺の動作を妨げるには十分な笑みだった。
なんてお馬鹿な事を考えつつも、床に倒れて未だ起き上がる気配のないランシェルちゃんとコトネさんを警戒しつつも、息の整ってきたサニアさんに残火を向ける。
ビクリと震えるサニアさんの挙動から、俺を脅威として認識しているのが分かる。
ただでさえ戦いを忌諱しているようにも思えるメイドさん達だったが、こちらはそれでも相手をするという気概を発せば、しっかりと伝わっているようだった。
後退りしようとした時、
「退けばどうなるだろうな」
仄暗いヴァンパイアの台詞に、サニアさんが今にも泣きそうな顔になりながら留まれば、
「ぁぁあああああああ!」
気迫と言うより、恐れに呑まれた大音声で俺へと驀地。
玉砕という言葉が脳裏に浮かぶ。
先ほどまでの美しい動きなどではなく、ただ無計画に突っ込んでくるだけ。
「ごめんなさい。受けることは出来ない」
ショートソードの切っ先は俺へとは届かない。
炎の盾は何人の侵入も許さないといった堅牢さ。
サニアさんの姿勢を崩してから、残火にて胴打ち。
ランシェルちゃんの時と違って、両手持ちによる胴打ちは、サニアさんの意識を飛ばすには十分だったようで、大音声はピタリと止み、力なく床へと倒れた。
「情けないな……。この体たらくはお前達の無気力が招いた結果だ。命を奪おうとする覚悟がない。忠誠心の無さがそうさせるのかな?」
ヴァンパイアに対して忠誠心なんてないだろうと思っていたが、忠誠心の無さと言ったところで、床に倒れていたランシェルちゃんとコトネさんが立ち上がる。
フラフラとした足取りだが、
「やれます!」
酷薄な声に対して、闘気を奮い立たせるようにして応えるランシェルちゃん。
なぜにこんなヤツにここまでの忠誠心を……。
「黙れ!」
しかし、その思いを突き放すヴァンパイア。
「邪魔な無能どもは道を空けろ。手ずから相手をしてやろう」
今尚、立ち続けて戦おうとするメイドさんの意志を挫くように、押し倒しながらアラブの石油王みたいな服装が前へと出て来る。
継いだ発言は自信満々のものだった。
フィンガースナップを鏡の回廊で一つ響かせる。
ニヤリと笑んだ表情は強者の証ってか。
対して、手ずからという発言を耳にしたメイドさん達は、俺たちに対して申し訳ないといった感じの視線を送ってくる。
何かしらとっておきがあるのだろうか?
身構えていれば、俺たちの前に立つのは――――、コクリコ……。
絶賛、絶好調のまな板は、ここでも相対する存在にワンドを向けてポージング。
からの――――、
「さあ、来るがいいヴァンパイア! まさか高位の魔族と戦えるとは、私の歴史の糧になってもらいましょう」
「随分と剛気なお嬢さんだ。ノービスでよくもまあ強気でいられる」
高位と呼ばれる魔族からは毎度ノービスあつかいだな。マレンティの時もそうだったし。
「高位魔族が相手ならば、手心は不要」
おっと、強気に発言しているけども、基本的にお前の魔法はさっきのが全力じゃないんですかね?
初期魔法で止まっているよね。
デコピンで迎撃していたぞ。そのヴァンパイア。
「ではお嬢さんの健闘を祈ろう。さあ、始めよう」
ヴァンパイアが両腕を仰々しく開けば、全身から黒いオーラのようなものが現出し、纏うように体に留まる。
広げた両腕が俺たちの方へと向けられれば、
「あ……あぁァア……ァ」
回廊に木霊するうめき声。
最初のうめき声を合図に、唱和するように、うう……。とか、うぇあ……。と、回廊を不気味な声が支配していく。
声と共に、ズルズルと体を引きずるような音も聞こえてくれば、回廊の曲がり角から影が伸びる。
伸びる影は人のものだった。
人の影が段々と接近してくれば、曲がり角から影に続いて人が姿を見せる。
鎧を装着した兵士だ。
鎧のデザインからして、イリーの騎士団所属と思われる。
騎士団装備の兵達が、次々と回廊に現れる。
「……ああいうのをドドメ色って言うんですよね」
「ああ」
また喫煙していたのか、携帯灰皿に吸い殻をしまいながら、眼前からゆっくりとした動きで接近する存在に、炯眼を向けるゲッコーさん。
青あざのような色が肌全体の色となっている兵士たち。
明らかにこの世の存在には見えない。
「ブラム・ストーカーの次は、ジョージ・アンドリュー・ロメロだな」
「ゾンビなんですかね?」
「見た感じそうだな。まあ実物を見た経験はないから、断言は出来ないがな」
俺、ゾンビゲームとか苦手なんだよな…………。
噛みつかれたらゾンビになるとかマジでかんべんな。
肌の色味からして完全にアンデッドのようだけど……。
「しかたねえ」
こういう覚悟もいずれは来ると思っていた。
元人間。ゾンビとして利用されるより、成仏させた方がいいよな。
「やるっきゃない」
各ピリアを再度発動させる。
心底から放射状に体へと広がっていく熱の感覚。
火龍の鱗で出来た、ベストのようなデザインからなるブリガンダインはピリアに反応。
不可視ではあるが、ブリガンダインからもしっかりと力が伝わってくる。
これで状態異常なんかの特殊な攻撃や魔法を受けても、無効化できるようになるわけだ。
噛みつかれてもゾンビにはならないだろう。
「ほう、目の前で感じれば、確かに大したものだ」
俺の力をしっかりと感知したのか、ヴァンパイアは先ほどまで湛えていた薄ら寒い笑みを止めて、口は一文字を書いていた。
ここで更に相手に力を見せつけるように、一度、残火を腰へと戻し、栗形にある緑色の宝石からなるボタンを押し、カシャンと小気味の良い音と共にせり上がった残火の柄を握る。
後は刀を抜く――――、といったところで、
「いいのかな? 勇者よ」
ヴァンパイアの口端が再び上がる。
嘲笑ではなく不敵な笑みは、こちらに不気味さを伝えてくる。
告げてくる声音は、俺たちには良くない結果もたらそうとしているものだ。
残火を抜こうとする俺の動作を妨げるには十分な笑みだった。
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