異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1420【釣れたね】

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「双方、仕掛けづらそうだね。どう動くかな?」
 
「どう動くかではなく――どう動かすかになるんじゃないのかな」

「相手をってことだよね?」

「うん。ラルゴ達としては相手を防御陣に誘い込んで叩きたいだろうな」
 釣り野伏じゃないけど、自分たちが有利になるように騎獣側の包囲を崩すために、一箇所でもいいから誘い込みたいだろうな。
 現状、防御一辺倒に頭を巡らせることで精一杯で、そこまで考えが至っていないようだけども、誘い込むという考えに至れれば、均衡が崩れることは間違いない。
 
 そういった事に気付けて、動けるだけの戦術眼を持っている人材がいれ――、

「行きます!」

「お!?」
 包囲されている騎馬から一騎が抜け出る。
 猛然と騎獣の方へと突っ込んでいくのは――、

「リーバイ」
 元奴隷の少年。
 馬の速度を一気に上げ、ずれたケトルハットを左手で戻しながら包囲するゴブリンへと長棒を見舞う。

 突如として出てきた一騎に面食らったのか、

「ギャ!?」
 苦痛の声が上がれば、一人のゴブリンがミストウルフから落とされる。
 革鎧の胸部分が朱色に染まった。

「速いな」
 褐色の肌のリーバイが繰り出した突きはとても速いものだった。
 馬の突進力を活かしながらの素早い突き。
 リーバイよりも低い位置にいるゴブリンは派手に宙を舞うのではなく、地面を勢いよく転がるというもの。

 派手に地面を転がる小さな体……。
 想像していた事が現実になってしまったな……。

「あれって助からないよね……?」
 ミルモンが俺の思いを代弁するかのように、リーバイの突きで吹き飛んだゴブリンを見ながら呟く。
 
 単騎による強烈な突きは俺達だけでなく、相対する方にも衝撃を与えたようだった。
 騎馬サイドを走りながら包囲していた騎獣サイドは、刺突の威力に気圧されたようで、動きが鈍くなってしまう。

 そんな中で、

「お!?」
 驚きの声を上げてしまう俺。
 リーバイの強烈な突きを受けたゴブリンが矢庭に立ち上がると、自分の胸元に朱色が塗られたことに落胆し、さっきまで跨がっていたミストウルフと共に退場。

「……意外と平気みたいだね」

「そ、そうだな……」
 ミルモンに返しつつ、あの突きを受けて普通に歩ける事に驚いてしまった。
 一応ってこともあるのか、直ぐさま回復係が駆け寄ってファーストエイドを唱えていた。
 
 ――そんなやり取りの中でも当然ながら演習が中断されることはないのだが、騎獣サイドはあまりの強烈な突きを目にし、動きが散漫となっていた。
 それじゃあ駄目だよ。動き続けないと。
 と、苦言を心の中で呟く俺の眼界では、

「それ、それ!」
 長棒による二連突き――からの、

「はぁ!」
 続けて大きな薙ぎ払い。
 散漫となった目の前にいる騎獣部隊に単騎で攻撃を仕掛けるリーバイ。
 はたとなってリーバイの間合い外にいる騎獣達が一斉に襲いかかろうとする。

「リーバイに続け!」
 ここでラルゴ達も呼応しようとするも、

「容易いな!」
 と、嘲笑を浮かべたリーバイが踵を返してラルゴ達の方へと戻っていく。
 全員が全員、人語を理解できてはいないが、向けられた嘲りが自分たちを馬鹿したものだというのは共通認識だったようで、

「ギャギャ!」
 一人が怒号と共に長棒の先端を背中を見せるリーバイへと向けて駆け出せば、その勢いに周囲も続く。
 騎馬サイドもせっかく作った勢いをなんで自ら放棄したのかという思いでリーバイを見つつも、陣へと戻ってくるリーバイが手綱から両手を離し、大きく両腕を広げる。

「上手く釣れたな」
 俺が考えていた事を私兵の中では新参であるリーバイがやってくれた。
 で、その動きを理解したラルゴは、

「足は止めずにそのまま二手に分かれるぞ!」
 指示を出せば、野盗の時から付き合いがある面子がそれに従って整然と動き出す。
 リーバイを分岐点として、騎馬が左右に展開。
 突っ込んできた騎獣隊を挟撃する形を作り出せば――、

「突け!」
 ラルゴのその大音声に全体が続く。
 裂帛の気迫を燃料とした突きを騎馬サイドが見舞っていく。
 苦痛に襲われるゴブリン達の声が多方向から上がり、咄嗟に攻撃を回避するためにミストウルフたちは霧状になってしまう。

「ありゃ……」
 これはいただけないな。
 騎獣隊の戦いっぷりを離れた位置から腕組みして見守っていたアルスン翁は、背中を反らせて天を仰いでいた。
 頭巾で表情は確認できないけども、多分、俺と同じような感想だろう。

 ――ここからは一方的だった。

 ラルゴ達による馬上からの突きで、突っ込んできたゴブリン達の腹部や頭部が朱色でペイントされていく。
 乗り手を失ったミストウルフは霧となってその場から距離を取る。
 負けの条件を理解しているからか、ミストウルフが単身で反撃ということはしなかった。
 もしくは騎馬の迫力に気圧されたのかもしれない。

「まあ、巻き返しは難しいな」
 後続で難を逃れた騎獣隊も、前方で倒されていく味方を目にしていったん下がるという選択――ではなく、壊走を思わせるように背中を見せて距離を取る。
 包囲をしていた連中も同様。

「隊列がバラバラだよ」

「散兵でも戦えるだけの実力や武器があるならいいけど、それはないだろうからな。あれはさっきの挟撃で、リーダー格のゴブリンがやられた可能性があるな」
 と、ミルモンに返す。
 逃げ一辺倒になってしまった時点で継戦意思がないし、逃げる者を押しとどめることが出来るだけの立場の者もいないようだ。

 臆病な部分を残す事で無理な戦いはしないという偵察タイプの育成を――と、翁には言っていたけども、逃げるにしてもスマートじゃないといけないよな。
 この辺りはまだまだ訓練が必要だというのは、離れた位置で見ている翁も思っているようだった。

 もうこうなったら、戦況が覆ることはないな。
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