拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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王都の休日・夜

PHASE-02

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 総じてよい、休日だと思ったが――――、あれは嘘だ。
 
 うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! って大声で叫びたいくらいだ。

 送り届けて、百八十度、回頭。目抜き通りを歩き出したところで、僕の前に不穏な人影が現れた。
 独特の猫背スタイルに、短髪。もう誰だか分かったよ……。

「ようピート君じゃない」
 街灯の下に立つ僕は、相手からしたら正体が丸見え。
 
 対して相手は、街灯の外側にフラフラとした足取りで佇んでいる。ディスアドバンテージの状況下。相手に先手を打たれた。
 
 呂律が回っていないその口。
 本日の休日を、気分よく終えたかった……。

「あれ~ピート君は、なぜにお祭りなのに、葬式に参列してるような顔なんだ~」
 それは、貴男に会ったからさ……。

「こんばんは、整備長。そして、さようなら」
 足早にこの場より立ち去ろう。そうしよう。それが最善だ!
 
 僕の進行方向にいるのが、なんとも嫌だが、ここは突破をこころみよう。
 
 押しとぉぉぉぉぉぉぉる!
 
 気合いの思いを心底で吠えてつつも、表情は社交的な笑顔を作り、会釈をしつつ整備長の横を通過することに成功。

 ――と、思ったのも、束の間でしかなかった……。
 
 ガシリと腕を掴まれてしまう。

「明日、早いんで」

「そりゃ分かってるよ。俺も同じ職場じゃない」
 ちっ、そうだね。
 
 くそ、なんて酒臭いんだ。口から魔物が使用するような技を使用してくる。ロールさんはあれだけ飲んでも酔わないのに、このおっさんは、僕に体を預けて来やがる。

「奢るからさ。飯いこうよ」

「食べたんで」

「まあまあ、もう一軒、もう一軒いこう」
 足下がおぼつかないから、押し倒してから逃走を図りたい。

「お願いだよ~おじさんこのままじゃ孤独な祭りだぞ~お前もどうせ一人だったんだろ」
 そんな事はない! 僕は貴男と違うのだ。色々あったけども、大いに楽しませてもらいましたよ。
 
 ――……力強く否定してやりたかったけども、本来なら僕も、この人、同様に、一人で祭りを回る事になっていたかもしれないから、否定出来なかった。
 
 いや、でも僕には、ロールさんがいなかったとしても、ケーシ―さんにレインちゃんがいたから、ボッチにはなる確率は低かったと思う。
 
 でも、エルンさんを送り出す時に、ボッチ気分だった僕は、嫉妬という名の、暗黒面ダークサイドに呑まれそうだったのも確かだ……。
 
 嘘だろ……。僕、この人と同レベルの世界の住人だとでも言うのか! 
 
 やだ! それだけは嫌だ! まずい、こんな大人にはなりたくないと、今日も誓っていたじゃないか。

 逃げねば、なんとしても、この場より逃げ出さねば!

「まじで奢るから。好きなの奢るからさ~バッカス行こうぜ」
 でたよ、バッカス。
 貴男はそこしか知らないんですか。
 
 大衆食堂でもあるけれど、この時間帯は、名が指すとおりの酒好きしかいやしない。
 ――――いや、年中酒好きしかいないと訂正だな。

 ケーシ―さんのお店と違って、喧噪からは離れていない、目抜き通りに店をかまえている。
 客席も多く、人通りも多いから、いろんなタイプの人も必然的に多くなる。
 なので、喧嘩騒ぎとかもあって、夜はあんまり行きたくない場所だ。

「さあ、行こう」
 くそ、なんて力だ! 普段は力仕事なんてサボってるくせに、僕より力がある。
 
 振り払いたいけど、逃げられない。
 渾身の力を出すんだ僕。相手は酔って足腰が駄目な存在だぞ! 
 
 ふんがー!

「おとと?」
 振り払うと、整備長が足をもつれさせて、尻餅をついた。
 
 今が逃げ出すチャンス――――、
 
 ぬ!?
 
 尻餅をついた拍子に、整備長のポケットから落ちた物に目を奪われてしまった。
 
 あれは!?

「いてえな、おっさんには優しくしやがれ」
 そんなことはどうでもいい。あのメモ帳は、まさか古都で所持していた物ではないのか? なぜに休日なのに、そんな物を携帯している。仕事なんて手を抜く存在のくせに。

「落ちてますよ」

「これは、危ない危ない」

「なぜ、メモ帳を? それは古都で、不死王さんとサージャスさんの戦闘を、結果的に止めるきっかけになった物ですか?」
 あえて、仕事の内容で触れる。戦闘を止めた結果と発言することで、整備長を持ち上げてみる。
 
 こう言ってやれば悪い気もしないだろうし、本当のことを口にするだろう。あれとは別物と分かれば、このまま整備長が立ち上がる前に、さっさと立ち去れば良いだけのことだ。

「おう、あの戦闘を止めた代物よ」
 そうか……、ふははははは…………。そうか、そうなのか。
 
 僥倖じゃないか。
 まさか、この面倒くさがりなおっさんが、休みの日に僕が欲する物を所有しているんだからな。
 
 
 ――――なるほど、なぜ携帯していたか、おおよそ見当が付く。
 顎に手を当てて推測。 

 祭り、街商。そこへ足を運んでくる勇者御一行。その中で、可愛い女の子なんかがいたら、整備長の権限を使って、話しかけ情報を集める気だったんだろう。

「すみませんね。押してしまって。立てますか? 申し訳ないので、付き合いますよ」

「いいよ~ピート君。上司のことは大事にしような」
 ええ、そのメモ帳を得るまでは大切にしてあげますよ。割れ物を扱う時のようにね――――。


 ――――――。
 
 流石はバッカスだ。
 目抜き通りのお食事処というより、現状、居酒屋は、大賑わいだ。
 祭りということもあり、普段以上の客入りだ。
 
 大儲けだな。この近辺でここより繁盛している店はないだろう。
 
 店主の方はここで成功して、庶民街から富裕街に居を構えたと耳にしたことがある。人が働いてない時に働けば稼げる。を、地で行った事での、成功者である。

「いらっしゃい」
 快活のよい僕ぐらいの年齢の、手ぬぐいを頭に巻いた男性が対応。
 
 整備長の顔を見るや、常連様と判断して、奥に案内してくれた。
 
 王都では珍しい、和国の床である、畳を使用したお座敷という空間だ。
 
 ここでは靴を脱いで、この畳の上に腰を下ろすスタイル。常連しか使用出来ない空間でもある。
 
 ありがたいことだ。椅子じゃないからな。酔いつぶれた時に、横になってもらってから、そこから臀部にしまっているメモ帳をいただこうじゃないか。
 
 ――――いい方が悪かったな……。
 お借りしよう。

「ビールちょうだい。ピート君にはおいしもの」
 ずっと僕のことをピート君と呼ぶ。
 整備長は、僕のことを普段は君付けなんてしない。かなり酔っ払った時にこういう発言になる。
 
 いい状態だ。さほど時間を掛けずに、酔いつぶす事が出来そうだな。
 
 まあ、焦らずじっくりと狩りをしようじゃないか……。

「なに、悪い顔してんだ」
 おっと、表情に出すのはよくないな……。
 

 冷静に攻略していこうじゃないか――――――。
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