拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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胎動

PHASE-10

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 邪神に、魔王、勇者の三すくみ。
 今まで以上に過激になるのか、均衡を保つために今以上に消極的になるか。後者ならありがたいけどね。

「報告書かないとな~」

「その心配はないから」

「ひっ!?」 
 ポツリと呟いたつもりだったのに、その台詞を背後から拾われて、驚いてしまった。
 振り返ればアレイン局長。

「それは我々が記録します。疲れているでしょうから、ゆっくりと休んで」

「でも、現場にいたのは僕たちですから、気になることもありますし、その辺りもきちんと書きたいので」
 ガバガバな復活を考えると、魔王軍の方々や、勇者ギルドに対して注意喚起の内容も書かないといけないと思うんですけど。

「大丈夫。すべて把握してるから。貴男の気にしている事も、きちんと記録します」
 まあ、仕事の手間が省けるならいいけども。対処出来なかったから王都から僕たちに救援を求めたんじゃないの。と、言い返したいけども、管轄も違うし、あまり食い下がっても不快感を与えるだけだろうから、

「じゃあ、お願いします」
 って、頭を下げとこう。
 一晩泊まれるわけだし、歴史ある建造物の風景を楽しみながら眠りにつこう。
 

 ――――案内された局の寮で過ごす時間。一人一部屋をあてがわれて、まずは感謝。整備長と、このワンルームで過ごすのは嫌だったからね。
 
 パンゲア教により、女神認定されたロールさんは何をしているのだろうか? 部屋は違うけども、同じ寮にいると思うと、なんだろうか――、凄く身近に感じてしまう。
 
 ――ふむん、静まれ僕の衝動。
 悶々としたものが体を駆け巡ってくるので、窓から見える風景を楽しむことなく、ベッドでゴロゴロしながら眠りについた――――。
 


 ――――、
 王都に戻って五日。世間では邪神が復活したと騒ぎになっている。それに対して、魔王討伐と、新たに邪神討伐を決意する、勇者御一行の姿も見て取れる。
 アレイン局長の報告書がこちらにも回ってきたようだけども、それに関して整備局では別段話題にもならなかった。世間の方が、邪神復活に関心が高い。
 勇者やら魔王軍と普段から関係あるから、感覚が麻痺してるのかな?
 ――ちゃんと書いてくれてるのだろうか? 後で報告書を見せてもらおう。

「おい」
 なんだか、威厳を必死に出そうとした低音な呼びかけですね。

「なんすか~」
 ジト目で軽く返してやる。
 パルパーナでもそうだったけど、この人に対して、僕は反撃を出来るだけの胆力を得てしまっている。
 威厳なんて最早ないも同然な存在。
 
 ――――その名はニーズィー・ブートガイ。赤髪短髪のブラウンアイ。額から右頬かけて、大きな傷を持つ、おっさん。

「飯いくぞ」
 あら、めずらしい。誘う事なんてほぼほぼなかったのに。あれかな? リスペクト値が減少してると思ってるのかな?
 ペッタペタの底辺ですよ。僕が貴男に抱くリスペクトは。

「別に一人で良いんですけど~」
 椅子からつと立って素っ気なく返してあげると、やっぱり、俺、威厳がなくなってるんじゃないか? と、いう感じで顎に皺を作ってへの字口になっている。

 出張すれば歓楽街に行こうとするし。自分より上の存在にはびびり倒すし。条約きかない相手にもやっぱりびびり倒すし。あげく、僕のことを疫病神とか言うしね。ないですよ! 威厳なんて! ちゃんちゃらおかしい。

「まあまあ、ピート。おいしいとこ連れてってやるから」
 僕の肩に腕を回して、食い下がってくる。
 まあ、お金使うのも勿体ないので、いいですけどね。
 密着されるのも嫌なので、

「では、行きましょう」
 腕を払いのけてから、受け入れてあげる。
 よしよしとばかりに、満足げである。先を行く僕に追いつくように小走りだ。

 ――――。

「なにがいい? 奢ってやるから好きなの頼め」
 尊敬度がゼロなもんだから、物で釣ろうとしてきている。それに付き合うのは僕だけ。
 僕以上に長い付き合いの先輩方は、この人のことを見限っている可能性がある。
 今にして思えば、エルンさんとンダガランさん達がやり合った時に、怒りの感情を丸出しにして局内で荒ぶっていたけども、周りの方々はそれを怖がっていたというより、怒ればどうなるかが分かっていただけで、備品だけを移動させて、暴れ終わるのを待っていたのかも知れない。
 
 あ――、この人のせいで、マグカップが四個犠牲になってたんだ。
 あの時は、怖くて言い返せずに泣き寝入りだったな。
 よし! とびきり高いのを頼もう。
 

 ――局を出て、目抜き通り。祭りが終わってもそこは王都。人通りはやはり多いものだ。
 
 通りは毎日、お客を呼び止める商人の声が耳朶に届いてくる。
 
 人の波を躱しつつ、前へと進む。
 
 王都に来たばかりの時には、人混みに飲まれてろくに動けなかったし、酔いそうになったけども、こうやって慣れていくんだね。
 
 バッカスへと到着。
 朝昼は大衆のお食事処。夜は大衆居酒屋とかわる――。
 
 ――――夜は居酒屋と言うのは語弊が生じてしまうな。朝昼も酒飲みが多いや。
 夜勤明けの方々やら、平日休みな方が、日がな一日、飲んでいたりする。
 リーズナブルな品物が多くて、且つおいしい。でも、ここじゃ高いの頼むこと出来ないな~。

「あっ、いらっしゃいませ……」
 語尾に進むにつれて、弱々しくなる口調はいただけないな~、ホルテン君。
 
 余計なことは広めていないようだね。いいことだ。嘘を広めるのは悪だからね。
 沈黙は金、雄弁は銀。その事を忘れないで、仕事に勤しんでね。

「なんか、お前。あいつにポカでもされたか?」

「いえ、別に。さあ奢ってもらいましょう」

「お前って、たまにトリップしたり、悪いオーラ出すよね。今回は後者だけども」

「お気になさらず。ホルテン君。注文良いかな?」

「はい、よろこんで……」
 弱々しい声だ。それとね! いい加減にお盆でお尻を隠すのはやめなさい。僕はノーマル。女性大好き! OK?
 
 ――――いつものように畳の座敷に腰をおろして、おっさんと対面状態で食事をとる。座敷と言うことで、和国の食である、ざる蕎麦をいただく。
 箸なる二本一対の棒状の食器は使いづらく、未だに扱えないので、フォークでいただくのが僕のスタイル。

「どうしたらよ。人望って手に入ると思う」
 ほう、そんなことを気にしたりするんだね。新人に仕事押しつけて、それで教育とか言って手柄にしようとしたりする頭を改善してください。

「人望って、望んで手に入る物じゃないでしょう。自分から率先して物事に当たり、結果が出なかったとしても、諦めずに励む姿を目にすることで、皆から慕われていくんじゃないですかね。因果一如いんがいちにょの精神ですよ」

「坊さんか? お前は」
 蕎麦が原因なのか、世俗から離れている存在になった気分だった。
 
 とはいえ、この人が人望を欲したとしても無理、無理。
 
 一度、盆から流れた水は返っては来ないんですよ。それでも人望を欲するならば、今までのたるみきった精神を正して、ゼロからまた築き上げる事ですね。
 まあ、以前も思ったことだけど、今までのやり方で四十過ぎまでやってきてるんだから、修正は難しいだろうね。
 
 死線にでも赴いて、皆のために何かしたら英雄視されて、今までの事が帳消しになるかもですが、貴男のことだから、そんなことが起こったら、今まで以上に調子に乗る性格なのは分かりきっております。カグラさんの時がそうだったんだろうし――、
 手っ取り早く尊敬値を高めたいなら、現状の貴男のやってる事の反対の事を行えばいいんですがね。
 ――――どう転んでも無理だね。来世で頑張ってください。
 
  

 ―――このそば湯って、なにがおいしいのか、未だに理解出来ない。
 今の僕にとっては、この存在の方が、整備長の人望アップよりも気になるところ。

「ふう、蕎麦はうまいんだよね~」

「そば湯もうまいだろ?」
 まだ、その辺は分かりませぬ。
 それにしても、ここは朝から晩まで本当に騒がしいね。座敷からちょっと顔を出せば、腕を組んで、筋骨隆々な豪快な髭のおじさん二人がジョッキのビールを飲みきり、髭に泡を付けながら笑っておられる。
 肌の焼け方や、僕も普段着でお世話になってるカーゴパンツからして、荷役作業の港作業員の方々のようだ。
 
 日も昇らない時間帯から頑張って、寝る前のお酒を楽しんでいる。
 
 その奥で、働いているホルテン君は、僕が気になるのか、いちいちこちらに視線を向けてくる。
 目が合うと、直ぐに逃げやがった。
 いい加減にしてほしいものだ。朝から夜遅くまで頑張ってるのは偉いけども。
 
 ――――雑多の喧噪。
 それが途切れる――。
 
 強めの揺れが、足下から体に伝わってくる。
 大笑いしながら、お酒を飲んでいる人々もピタリと笑いを止めて、急いで外へと出て行った。
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