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胎動
PHASE-14
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「カグラさん、どう判断します」
僕の問いかけに、右の深紅の瞳と、左の紺碧の瞳からなるオッドアイで、邪神とグラドさんを睨み付けつつ、
「はあ~」
と、嘆息を一つ。
「この方は、非常に残念な思考しか持っていませんが。虚言は口にはしません」
「妄言は、高級な油が口に塗られてるのかな? って、思うくらい滑らかに言いますけどね」
「確かに」
やったぜ! 僕の小粋な発言に笑みを見せてくれた。
「おい」
馬鹿にされてご立腹な邪神が僕を睨んでくる。カグラさんを睨まないところが、この邪神のヘタレなところが窺えたりもするんだけど、僕も僕で今、結構な危ない橋を渡った発言をしてしまった。と、言った後に気付いて、背筋を凍らせてしまった。
いくら残念な存在である邪神とはいえ。怒りに触れれば、僕はいまごろ存在していなかったよね。
「まったく。まあいい」
カグラさんが目を光らせているからか、頭を掻きつつ見逃してくれた。
「これでいいか? 義妹よ」
パピルスを渡す。
ロールさんがエメラルドグリーンの瞳を動かしながら、チェック。
「義妹?さっきから何です義妹とは?」
そんな中で、カグラさんが怪訝な表情をし、
「ロール殿が義妹と呼ばれているようですが?」
チェックするのを邪魔して申し訳ないとばかりに軽く頭を下げながら質問すると、パピルスの違反証明書から目を離して、
「はい……まあ…………」
なんとも困ったような顔でカグラさんに返答。
傾国の美女二人の会話は、内容はともかくいいものですな! このままずっと眺めていたい。
「なんとも、迷惑千万な事をやっていますね」
嘆息と共に、邪神に怒気を向ける。
「別にいいではないか! お前に迷惑はかけておらん!」
「ロール殿に迷惑をかけているでしょう!」
「なにを世迷い言を……義妹が迷惑だと思うわけなかろう。な~」
ウインクしながら、ロールさんに同意を求めてみると、
ウインクから、僕たちには見えない何かしらが放たれたのか、ロールさんは躱すように軽く背を反らせる。
「なん……だと…………」
ロールさんの所作に、背後に暗い闇を纏い、陰々滅々な姿に変わる邪神。
「本当に、主とは思っていませんでしたが、元主がご迷惑を」
いちいち突き刺すような発言に、どんどんと体が小さくなっていくように見えていく邪神。
しつこいけど、〝あれ、邪神なんだぜ〟って言っても絶対に信じてもらえないよね。
ていうか、カグラさんの前の主はコイツなんだ。戦女神の妹さんは一応、邪神の下にいたのかな? そう考えると、妹さんの下にカグラさんはいたんだろうから、実質この邪神が主だったのか。
不憫だな……。
「我、帰る」
おう、ふてくされやがったよ、カグラさんの元主。人間と変わらないぞ、神なのに。建物は壊すし、子供のように拗ねるし、人間よりたち悪いな。
まあ、邪神だからわがままだったり、破壊行為は当然なんだろうけど。やってる事は――――、しょっぱいんだよね……。
「帰るぞ、グラド」
「待ってください」
今度こそはと、ロールさんの呼び止める優しい声に、期待が膨らむ邪神の瞳。
はっ! 絶望に染まれ。
「王都より五里以内での空間移動魔法は禁止です。なので――――」
二枚目のパピルス登場。再度、違反証明書にサインと捺印をお願いしますね。
この世の終わりみたいな顔してる。奈落にでも落ちればいいよ。
僕が気付いた時には空間開いてたし、あれは止められなかった。
トドメとばかりに、帰る前に、魔法供給の方もお願いします。と、笑顔のロールさん。その笑顔に、邪神の心は痛みを発しているようです。
「グラドさんもです」
「え!? なぜです!」
「空間移動してしまいましたから」
「いや、コレは不可抗力では……」
「規則なんで」
必殺、事務作業口調。【規則なんで】これを使われたら、もうなにを言っても効果はないのだ。反論しても何をしても、〝規則なんで〟で、全てを断ち切る。公務員最強の真言。
納得がいかないようで、グラドさん何度も首を傾げつつも、手にした如雨露をペンに代え、違反証明書に名前を記入している。
まあ、規則なんで。
お二人が記入した用紙をチャックし、大きく頷いて、お帰りはちゃんとドアからお願いしますとロールさん。
それに従って、陰々滅々を引きずった邪神を先頭に、局の外へ、
――――――。
魔力供給のため、魔道開発局に足を運んでから、戻ってきた邪神様。
局の外で、一応、見送る形の僕たち。
「では、帰る……」
聞き取りにくい声だった。そこに邪神の威厳は微塵もない。
――――出会った時からなかったけども……。
「王都内は飛行禁止空域なので、壁外に出てから使用してくださいね」
「うむ……」
弱いな~。邪神、弱いぞ。こんなのが大昔、大陸を恐怖に陥れてたなんて誰が信じるよ。
見てよ、屋根に大穴空いたから、何事かと集まってきている野次馬さん達を、
局前に立つ、全身白のスーツで身を包んだ貴男を指さしながら笑ってますよ。恐怖の象徴から、笑いの象徴に鞍替えすればいいんじゃないかな。
ハッタさんとか、すっごくコメディアンな存在だったし。
笑いで世界を制してくれるなら、僕は応援しますよ。
――――おっ、何か言う気かな? コメディの神よ。
邪神の丸まった背が、真っ直ぐにピンとなる、去り際に恰好をつけたいのだろうね。
「義妹よ。お前の前に脅威が迫った時、お兄様と大声を発するのだ。地の果てから瞬時に駆けつけよう」
「ありがとうございます」
すっごく、棒読みなお礼で返すロールさんの顔は、本当に迷惑なんだな、と、分かるものだった。
ロールさんのこんな表情を見るのは始めてかもしれない。
それだけ、この邪神を心底から煩わしく思ってるのかもね。
「困ったらな、言うのだぞ、おにい――――」
「夢を見るな。早く帰れ」
ロールさんに代わって言下に拒否し、ゲシリと、カグラさんが木で鼻をくくる蹴りを、邪神の右太ももに打ち込んだ。
ヒエラルキーがペッタペタの底辺なんだね…………。
僕の問いかけに、右の深紅の瞳と、左の紺碧の瞳からなるオッドアイで、邪神とグラドさんを睨み付けつつ、
「はあ~」
と、嘆息を一つ。
「この方は、非常に残念な思考しか持っていませんが。虚言は口にはしません」
「妄言は、高級な油が口に塗られてるのかな? って、思うくらい滑らかに言いますけどね」
「確かに」
やったぜ! 僕の小粋な発言に笑みを見せてくれた。
「おい」
馬鹿にされてご立腹な邪神が僕を睨んでくる。カグラさんを睨まないところが、この邪神のヘタレなところが窺えたりもするんだけど、僕も僕で今、結構な危ない橋を渡った発言をしてしまった。と、言った後に気付いて、背筋を凍らせてしまった。
いくら残念な存在である邪神とはいえ。怒りに触れれば、僕はいまごろ存在していなかったよね。
「まったく。まあいい」
カグラさんが目を光らせているからか、頭を掻きつつ見逃してくれた。
「これでいいか? 義妹よ」
パピルスを渡す。
ロールさんがエメラルドグリーンの瞳を動かしながら、チェック。
「義妹?さっきから何です義妹とは?」
そんな中で、カグラさんが怪訝な表情をし、
「ロール殿が義妹と呼ばれているようですが?」
チェックするのを邪魔して申し訳ないとばかりに軽く頭を下げながら質問すると、パピルスの違反証明書から目を離して、
「はい……まあ…………」
なんとも困ったような顔でカグラさんに返答。
傾国の美女二人の会話は、内容はともかくいいものですな! このままずっと眺めていたい。
「なんとも、迷惑千万な事をやっていますね」
嘆息と共に、邪神に怒気を向ける。
「別にいいではないか! お前に迷惑はかけておらん!」
「ロール殿に迷惑をかけているでしょう!」
「なにを世迷い言を……義妹が迷惑だと思うわけなかろう。な~」
ウインクしながら、ロールさんに同意を求めてみると、
ウインクから、僕たちには見えない何かしらが放たれたのか、ロールさんは躱すように軽く背を反らせる。
「なん……だと…………」
ロールさんの所作に、背後に暗い闇を纏い、陰々滅々な姿に変わる邪神。
「本当に、主とは思っていませんでしたが、元主がご迷惑を」
いちいち突き刺すような発言に、どんどんと体が小さくなっていくように見えていく邪神。
しつこいけど、〝あれ、邪神なんだぜ〟って言っても絶対に信じてもらえないよね。
ていうか、カグラさんの前の主はコイツなんだ。戦女神の妹さんは一応、邪神の下にいたのかな? そう考えると、妹さんの下にカグラさんはいたんだろうから、実質この邪神が主だったのか。
不憫だな……。
「我、帰る」
おう、ふてくされやがったよ、カグラさんの元主。人間と変わらないぞ、神なのに。建物は壊すし、子供のように拗ねるし、人間よりたち悪いな。
まあ、邪神だからわがままだったり、破壊行為は当然なんだろうけど。やってる事は――――、しょっぱいんだよね……。
「帰るぞ、グラド」
「待ってください」
今度こそはと、ロールさんの呼び止める優しい声に、期待が膨らむ邪神の瞳。
はっ! 絶望に染まれ。
「王都より五里以内での空間移動魔法は禁止です。なので――――」
二枚目のパピルス登場。再度、違反証明書にサインと捺印をお願いしますね。
この世の終わりみたいな顔してる。奈落にでも落ちればいいよ。
僕が気付いた時には空間開いてたし、あれは止められなかった。
トドメとばかりに、帰る前に、魔法供給の方もお願いします。と、笑顔のロールさん。その笑顔に、邪神の心は痛みを発しているようです。
「グラドさんもです」
「え!? なぜです!」
「空間移動してしまいましたから」
「いや、コレは不可抗力では……」
「規則なんで」
必殺、事務作業口調。【規則なんで】これを使われたら、もうなにを言っても効果はないのだ。反論しても何をしても、〝規則なんで〟で、全てを断ち切る。公務員最強の真言。
納得がいかないようで、グラドさん何度も首を傾げつつも、手にした如雨露をペンに代え、違反証明書に名前を記入している。
まあ、規則なんで。
お二人が記入した用紙をチャックし、大きく頷いて、お帰りはちゃんとドアからお願いしますとロールさん。
それに従って、陰々滅々を引きずった邪神を先頭に、局の外へ、
――――――。
魔力供給のため、魔道開発局に足を運んでから、戻ってきた邪神様。
局の外で、一応、見送る形の僕たち。
「では、帰る……」
聞き取りにくい声だった。そこに邪神の威厳は微塵もない。
――――出会った時からなかったけども……。
「王都内は飛行禁止空域なので、壁外に出てから使用してくださいね」
「うむ……」
弱いな~。邪神、弱いぞ。こんなのが大昔、大陸を恐怖に陥れてたなんて誰が信じるよ。
見てよ、屋根に大穴空いたから、何事かと集まってきている野次馬さん達を、
局前に立つ、全身白のスーツで身を包んだ貴男を指さしながら笑ってますよ。恐怖の象徴から、笑いの象徴に鞍替えすればいいんじゃないかな。
ハッタさんとか、すっごくコメディアンな存在だったし。
笑いで世界を制してくれるなら、僕は応援しますよ。
――――おっ、何か言う気かな? コメディの神よ。
邪神の丸まった背が、真っ直ぐにピンとなる、去り際に恰好をつけたいのだろうね。
「義妹よ。お前の前に脅威が迫った時、お兄様と大声を発するのだ。地の果てから瞬時に駆けつけよう」
「ありがとうございます」
すっごく、棒読みなお礼で返すロールさんの顔は、本当に迷惑なんだな、と、分かるものだった。
ロールさんのこんな表情を見るのは始めてかもしれない。
それだけ、この邪神を心底から煩わしく思ってるのかもね。
「困ったらな、言うのだぞ、おにい――――」
「夢を見るな。早く帰れ」
ロールさんに代わって言下に拒否し、ゲシリと、カグラさんが木で鼻をくくる蹴りを、邪神の右太ももに打ち込んだ。
ヒエラルキーがペッタペタの底辺なんだね…………。
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