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熱砂地帯の二王
PHASE-06
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仰いでいた森の緑からゆっくりと目だけを横にずらすと、漆黒の影が目に入ってくるだけだ。
木々に、陽射しが遮られているからかな? と、思いながらも、風を切るような羽ばたき音に身を委ねた。
――――、
「ご無事ですか」
地に足というか、臀部から座り込んでいる僕に、影の方から心配の言葉。
惚けたまま、声の方に目を向ければ影ではなく、全身が漆黒の毛に覆われていた二足歩行の黒豹の姿。
背中には、コウモリみたいな飛膜があって、それがゆっくりと背中の中に収納されていくのが分かった。
「ピート君!」
僕が無事だったのに安堵してくれているのか、ロールさんが涙を流しながら抱きついてきた。
惚ける僕の脳内に血液が高速で巡っていく。
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
良き香り、甘い香りがします。柔らかいよ。胸もがっつり当たってるよ。髪の毛ふわふわだよ。
ヒャッハー!
興奮を覚える――――。すなわち、僕は生きている。
このままでいたい――。けども、生きている事を理解する喜びを得ると同時に、それ以上にふつふつと湧き上がってくる感情が顔を見せてくる。
――怒りだ。
ロールさんに抱きつかれる幸運の歓喜以上に、怒りが僕を突き動かす。
僕が邪神なら、世界を滅ぼすくらいの怒りだろう。
そりゃそうだ! こちとらもう少しで死ぬところだったんだ!
現状維持でいたいけど、この至福の一時を、黄金の時間を破棄してまでやらなければならない事がある。
ロールさんの二の腕に手を置いてから、離れる。
二の腕と、胸の柔らかさは同じほどらしい。そう考えるなら、つなぎ越しでも伝わる柔らかさと押し返してくる弾力を体験出来た。きっと、ロールさんの胸は素敵な感触なのだろう。今の状態でも上半身でそれを堪能しているが、いつかはこの諸手で触れたいものだ。
そんな事を冷静に考えることも出来ながらも、怒りの沸点はとうに臨界を突破。
突破しているからこそ、冷静だとも言えるだろう。でも、僕の目はいま、確実に虹彩が消え失せた、シリアルキラー的なもののはずだ。
体に纏う暗黒面。
「どいてくれます。黒い方……」
助けてもらったのに、黒豹の方に冷たく言う。
いまの僕が相当に危険だと感じ取ったのか、黒豹の方、目を大きく見開いて、驚いた顔で僕の進む道をさっと開けてくれた。
目指すは、申し訳なさそうな姿勢の、木の方向だ。
どうやら、僕が惚けていた間に戦いは停止していたようで、木と、パゼットさんは正座でスタンバイ。
「おい、木」
ゲシリと、正座する木に蹴りを入れた。
自分でも口にしたことがないくらいの低音だ。
「聞いてんのかよ、木。おい」
ガシガシと、太もも部分を踏みつける。
普段の僕とは違うので、整備長も、ロールさんも、別人を見るかのような感じで、動向うかがっているようだ。
僕だって、こんな事はしたくない。ロールさんに見せたくないもの。それに、僕自身こういう行動が出来る人間だったなんて思ってもみなかった。
一般人が、大魔法を使用出来る存在に対して、やる行為じゃない。
普段は条約を笠に着て、調子になんか乗るものじゃないと、整備長を見ながら思うものだけども、僕、死にかけたから。もうね、なんだろうね。失うものないって感情はこういうことなのかな。
いま僕、なにも怖くないんだよね。やりたきゃ、やれよって感じだよ、いつでも死んでやるぞ! という思いで動いている。
「あの、本当に、なんと言えばいいのか……」
「なんと言えばいいのか? なんと言えばいいのかだって?」
木の発言に、怒り心頭でありつつ、嵐の前の静けさのような低音からの――、
「謝罪じゃ! ボケ!」
低音もさることながら、荒ぶった声も普段は出さないから、完全に裏返って変な声になっていたけども、怒りから、まあ汚い言葉を大いに飛ばす。
木もパゼットさんも、ガクガクと震えている。
「お~こら、お~こらキサン! おろし金やら鑿やら使用して、何十年もかけて、お前の体を削り消してやろうか! お~? んでもって燻製チップにして転売してやろうか!!」
発想がサイコパスだったようで、一瞬にして場が凍り付いた。
いいことだ、凍り付くって事は、木にとっては枯死に繋がるものだろう。僕を死に追いやろうとしたんだ、死ねばいいんだよ!
「うがぁぁぁぁあぁぁあっぁ」
もう止まらない、怒りが臨界を突破して、逆に冷静だったというのは昔の事、完全に大暴走。
冷静にならなきゃいけないと思っていても、止まらないから困る。
ずっと木を蹴り続けてしまう。
「お、落ちつっこうか……」
「そうだよ、落ち着こう」
人生で始めてキレた僕は、とても猟奇的な目をしていたようで、そんな僕に恐怖を抱きながら整備長とロールさんが止めに入る。
邪神に対しても恐怖を抱かなかった胆力の持ち主も、僕のキレっぷりには畏れの感情だ。そんな目で僕を見ないで……。
どんどん――、心の中が仄暗くなっていくよ……。
――――――。
現在の僕は、怒りにまかせたことによる感情の暴走が終息したけども、
「ピート君、大丈夫でしょうか?」
「ああいう手合いは、普段、怒らないぶん、怒った後の反動がひどいからな」
ああそうさ……。僕は現在、鬱の状態だ。膝を抱いて、丸まっている状況。
二人のやり取りがよく耳朶に入ってくる。
「実際、困るんですよ。いきなりおっぱじめられても」
と、整備長が苦言。上からな強気な発言。
それに続いて、ロールさんも語気を強めてから注意。
ふさぎ込んでいた体制から、頭だけを上げて状況を窺うと、相手サイドは平謝りだ。
僕を救ってくれた黒豹の方も、やらかした二名にお怒りだ。
「本当に申し訳なく」
と、謝罪をすると、正座する二名も半泣き状態で謝罪を繰り返すだけ。
――ここで、黒豹の方、恭しく頭を下げて、名乗った。
獣人のルガール・キャストさん。
壌獣王さんの腹心だそうで、ジュラルミンさんの上役。
ここに至ると、ちゃんと、名前を思い浮かべられる。さっきもでは木だったけど、僕も自重する心を取り戻しつつあるようだ。
まあ、兎にも角にも、この方の登場で、大人しくなってくれた二名。
感謝の気持ちはちゃんと持っている。
助けてもらったのに、まだ、お礼も言ってないし。
心が整理出来たらお礼を言わないと。
弁解として、ルガールさんが説明をする。
いかんせん、少し前までは、ここはヴィン海域と同じ制限解除域だったこともあるからと、頭に血が上れば、後先考えずに大魔法を使用してしまう者が多いそうだ。
迷惑だよ、そんなの……。
コレだからガチ勢はいやなんだよ!
軍の中から、ゆるふわな神経の方をチョイスしてよ。
明らかにこの二名は、それに値しないよ。
木々に、陽射しが遮られているからかな? と、思いながらも、風を切るような羽ばたき音に身を委ねた。
――――、
「ご無事ですか」
地に足というか、臀部から座り込んでいる僕に、影の方から心配の言葉。
惚けたまま、声の方に目を向ければ影ではなく、全身が漆黒の毛に覆われていた二足歩行の黒豹の姿。
背中には、コウモリみたいな飛膜があって、それがゆっくりと背中の中に収納されていくのが分かった。
「ピート君!」
僕が無事だったのに安堵してくれているのか、ロールさんが涙を流しながら抱きついてきた。
惚ける僕の脳内に血液が高速で巡っていく。
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
良き香り、甘い香りがします。柔らかいよ。胸もがっつり当たってるよ。髪の毛ふわふわだよ。
ヒャッハー!
興奮を覚える――――。すなわち、僕は生きている。
このままでいたい――。けども、生きている事を理解する喜びを得ると同時に、それ以上にふつふつと湧き上がってくる感情が顔を見せてくる。
――怒りだ。
ロールさんに抱きつかれる幸運の歓喜以上に、怒りが僕を突き動かす。
僕が邪神なら、世界を滅ぼすくらいの怒りだろう。
そりゃそうだ! こちとらもう少しで死ぬところだったんだ!
現状維持でいたいけど、この至福の一時を、黄金の時間を破棄してまでやらなければならない事がある。
ロールさんの二の腕に手を置いてから、離れる。
二の腕と、胸の柔らかさは同じほどらしい。そう考えるなら、つなぎ越しでも伝わる柔らかさと押し返してくる弾力を体験出来た。きっと、ロールさんの胸は素敵な感触なのだろう。今の状態でも上半身でそれを堪能しているが、いつかはこの諸手で触れたいものだ。
そんな事を冷静に考えることも出来ながらも、怒りの沸点はとうに臨界を突破。
突破しているからこそ、冷静だとも言えるだろう。でも、僕の目はいま、確実に虹彩が消え失せた、シリアルキラー的なもののはずだ。
体に纏う暗黒面。
「どいてくれます。黒い方……」
助けてもらったのに、黒豹の方に冷たく言う。
いまの僕が相当に危険だと感じ取ったのか、黒豹の方、目を大きく見開いて、驚いた顔で僕の進む道をさっと開けてくれた。
目指すは、申し訳なさそうな姿勢の、木の方向だ。
どうやら、僕が惚けていた間に戦いは停止していたようで、木と、パゼットさんは正座でスタンバイ。
「おい、木」
ゲシリと、正座する木に蹴りを入れた。
自分でも口にしたことがないくらいの低音だ。
「聞いてんのかよ、木。おい」
ガシガシと、太もも部分を踏みつける。
普段の僕とは違うので、整備長も、ロールさんも、別人を見るかのような感じで、動向うかがっているようだ。
僕だって、こんな事はしたくない。ロールさんに見せたくないもの。それに、僕自身こういう行動が出来る人間だったなんて思ってもみなかった。
一般人が、大魔法を使用出来る存在に対して、やる行為じゃない。
普段は条約を笠に着て、調子になんか乗るものじゃないと、整備長を見ながら思うものだけども、僕、死にかけたから。もうね、なんだろうね。失うものないって感情はこういうことなのかな。
いま僕、なにも怖くないんだよね。やりたきゃ、やれよって感じだよ、いつでも死んでやるぞ! という思いで動いている。
「あの、本当に、なんと言えばいいのか……」
「なんと言えばいいのか? なんと言えばいいのかだって?」
木の発言に、怒り心頭でありつつ、嵐の前の静けさのような低音からの――、
「謝罪じゃ! ボケ!」
低音もさることながら、荒ぶった声も普段は出さないから、完全に裏返って変な声になっていたけども、怒りから、まあ汚い言葉を大いに飛ばす。
木もパゼットさんも、ガクガクと震えている。
「お~こら、お~こらキサン! おろし金やら鑿やら使用して、何十年もかけて、お前の体を削り消してやろうか! お~? んでもって燻製チップにして転売してやろうか!!」
発想がサイコパスだったようで、一瞬にして場が凍り付いた。
いいことだ、凍り付くって事は、木にとっては枯死に繋がるものだろう。僕を死に追いやろうとしたんだ、死ねばいいんだよ!
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もう止まらない、怒りが臨界を突破して、逆に冷静だったというのは昔の事、完全に大暴走。
冷静にならなきゃいけないと思っていても、止まらないから困る。
ずっと木を蹴り続けてしまう。
「お、落ちつっこうか……」
「そうだよ、落ち着こう」
人生で始めてキレた僕は、とても猟奇的な目をしていたようで、そんな僕に恐怖を抱きながら整備長とロールさんが止めに入る。
邪神に対しても恐怖を抱かなかった胆力の持ち主も、僕のキレっぷりには畏れの感情だ。そんな目で僕を見ないで……。
どんどん――、心の中が仄暗くなっていくよ……。
――――――。
現在の僕は、怒りにまかせたことによる感情の暴走が終息したけども、
「ピート君、大丈夫でしょうか?」
「ああいう手合いは、普段、怒らないぶん、怒った後の反動がひどいからな」
ああそうさ……。僕は現在、鬱の状態だ。膝を抱いて、丸まっている状況。
二人のやり取りがよく耳朶に入ってくる。
「実際、困るんですよ。いきなりおっぱじめられても」
と、整備長が苦言。上からな強気な発言。
それに続いて、ロールさんも語気を強めてから注意。
ふさぎ込んでいた体制から、頭だけを上げて状況を窺うと、相手サイドは平謝りだ。
僕を救ってくれた黒豹の方も、やらかした二名にお怒りだ。
「本当に申し訳なく」
と、謝罪をすると、正座する二名も半泣き状態で謝罪を繰り返すだけ。
――ここで、黒豹の方、恭しく頭を下げて、名乗った。
獣人のルガール・キャストさん。
壌獣王さんの腹心だそうで、ジュラルミンさんの上役。
ここに至ると、ちゃんと、名前を思い浮かべられる。さっきもでは木だったけど、僕も自重する心を取り戻しつつあるようだ。
まあ、兎にも角にも、この方の登場で、大人しくなってくれた二名。
感謝の気持ちはちゃんと持っている。
助けてもらったのに、まだ、お礼も言ってないし。
心が整理出来たらお礼を言わないと。
弁解として、ルガールさんが説明をする。
いかんせん、少し前までは、ここはヴィン海域と同じ制限解除域だったこともあるからと、頭に血が上れば、後先考えずに大魔法を使用してしまう者が多いそうだ。
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