拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

文字の大きさ
89 / 604
ブートキャンプへようこそ♪

PHASE-19

しおりを挟む
「相手、攻めてきませんでしたね」 
 僕と違って、ボリボリと強靱な牙で食べながら、ロウさんが僕に水の入った水筒を渡してくれる。
 一礼して、森を覆う朝靄を見つついただく。胃の中に冷たい感じが走って、引き締まる思いだ。

「一人逃がしてしまった事で、僕たちのこの恰好も伝わってるでしょうから、相手は慎重になるでしょうね」
 先手をやめて、後手の立ち回りを決め込まれると、こちらもやりづらい。
 忍耐力の勝負になるだろう。
 血気はやった方が負けると思う。まあ、これはどんな戦いの状況下でも一緒か。
 焦れば負けるのは当然。如何に落ち着かせて、規律を守らせるためには、士気が高くなければならない。
 ――でも、士気が高すぎるのも欠点となるかも知れないと、小心者の僕は危惧する。
 
 優勢な状況である僕たちの士気は高い、だからこそ、強気に出て、単純な攻め一辺倒になり、正面しか見えなくなると、横槍で足下をすくわれる形になるかもしれない。
 勝ち気になっている方々を如何に押さえ込むかが、これよりは最優先になるだろう。

『パーシング・アルファ。アクシャイだ。おはようさん。さあ、全滅させて終わらせようぜ! オーバー』
 心配していた矢先に好戦的な方が、全員を鼓舞してくれる。この鼓舞は迷惑だ。むしろ煽り行為だ。
 案の定、耳元から余裕な発言が次々と届いてくる。
 このまま力押しで勝てると、完全に思い込んでいる。

「皆さん、正念場です。有利だからこそ、気を引き締めましょう」
 そう伝えると、皆、分かったと理解をする返答だけども、声に真剣さがない。
 ――――これが新兵なんだな。
 相手も嘴の黄色い雛鳥なら、こちらもそうなんだよね……。
 
 不死王さんの所では、サージャスさんとの一騎討ちにおいて、周囲の兵隊さんや、ホーリーさんは、即座に僕たちの前や横に立ち、脅威の排除がいつでも出来る姿勢だった。それに、真剣に戦いを目にして、分析していた。抜かりを見せる事はなかった。
 
 それを経験させてもらっているから、僕はここで、余裕に染まる皆に、苛立ちを抱いてしまった。
 分かってほしい。こちらに出来るという事は、相手にも出来るという事。そして、相手もそれを、理解をしている事。
 
 有利になれば、そこに隙が出来ると考えるはずだ。相手よりも数が劣る時には、どの様に戦うべきかと、知恵を絞り始める。そして、冷静に動き、こちらを確実に狩りはじめるだろう。
 逆転したら、こちらと、あちらの思考まで入れ替わったじゃあ話にならない。こんな時だからこそ、襟元を正そう。
 ――再度、注意喚起を出すけども、皆、やはり浮ついている。

「嫌な流れですね」
 僕の気持ちを理解してくれたようで、ロウさんが目を細めて、眉間に皺を作って緊張した面持ち。
 戦力が倍になって始めて互角って考え方になっていただきたいところ。
 嘆息がこぼれるけど、とにかく鬱陶しがられてもいいから、しつこく言い続けなければ。

 ――――。
 
 待つだけでは相手ももう乗ってこないと思う僕たちは、緑と一体になるつもりで、中腰や匍匐で静かに移動する。
 定時連絡という方法も思いつき、各分隊に異常が発生していないか、報せ合った。
 
 銃にも一手間を加える。
 いかんせん、この銃の鉄の部分は煌めく銀色。少しの光でも反射してしまい、位置がばれる可能性も大きくなる。
 なので、新月の暗闇の中、木の皮なんかを柔らかくして、銃に沿うように巻き付けて、結び固定した。
 なんとも不格好だけども、おかげで光の反射は抑えられている。
 相手にも同じような技法をされたら困るけども、今まで捕らえた方々の銃を見る限りではこの様な事はしていなかったので、このままそれを維持して欲しいと願いつつ、少しでも、反射する物が見えたら、全体に伝えるようにと指示を出した。
 
 朝日が昇り始めたのか、鬱蒼とした森の中に木漏れ日が入り込んできた。それに合わせて朝靄が、すぅぅっ――と、消え去っていく。
 
 今日を乗り切れば終われる。
 自由だ。整備局員に戻れる。それを励みに頑張るんだ。ロールさんに許してもらって、今までの日常に戻るんだ!
 小さな幸せの毎日に! 整備長の葉煙草と臭いさえ、郷愁の念として蘇ってくる始末。

『こちら、チャーフィー・アルファのティンクだ。俺――――この演習が終わったら、好きな子に告白しようと思うんだ』
 おい、やめろ! なぜにそんな定型化にこだわる。そんな事を口にするなよ。僕は今までの日常が戻ってくる事を口にしないで、心で呟いたんだぞ。
 それを、口にしちゃうと、どうなるか分かるのかい?
 
 そして、周りもそれをはやし立てるな! 口にした兎の獣人ラピッドヘアのティンクさんが、調子に乗っているじゃないか――――。

『あ…………』
 なんか、か細い声だったよ。
 何が起こったか察しが付いたよ……。
 ――――フラグってあるんだな。
 感心すらしてしまった。神が与えし定型化フラグには……、

『敵襲!』
 残った方が、ティンクさんに変わり代理で通信。でも、その人の悲鳴が聞こえると、ザーって音と共に、チャーフィー・アルファとの交信が途切れた……。
 彼等がいた位置はポイントD。そこでロスト。
 余裕を持って、定型化な台詞を口にするからこうなる。
 一瞬で一分隊の損失と考えていい。
 
 なんてこった、偵察分隊が一つ無くなるのは痛い。
 耳が利く存在が、浮ついて、相手の動きを捕捉出来なかったのは、軍法会議ものですよ。
 どうやられたんだ? 推測しろ。一瞬にして戦闘不能なんて早々出来るものなのか? お互いに新兵。力量も拮抗しているはず。それともアクシャイさんクラスの猛将が控えていたのか? いや、それは考えられない。龍人ドラゴニュートと並ぶほどの存在はういないそうだから。
 
 抵抗も出来ないほどの早さで倒された。銃声もなかったから、接近されての制圧。そう考えれば、相手も隠蔽率を高くしての行動に出たと考えられる。
 逃がした相手が、それを伝えれば、模倣もしてくるだろう。
 派手に飛行して強襲なんて行動はもうない。
 ゲリラ的な攻め方にシフトチェンジしてきたね。これは、追い詰められるな。こっちの浮ついた気分を取り除かない限り。

 

 ――――――。
 
 時すでに遅しとはこの事なのか……。
 偵察分隊の一つがロストしたと思った矢先に、支援分隊であるリー・ブラボーがやられた。またもや分隊丸ごとだ。待機場所はポイントB+。かなり入り込まれている。
 今回も銃声は無し。最悪である。接近で容易く制圧されたとなれば、相手は僕たち以上に隠密戦が得意なのかもしれない。

「鹿狩りが、一瞬にして幻獣狩りに変わったニャ」

「ですね……」
 余裕を見せた結果がこれだ。
 
 これで彼我のベレー帽取得差は、わずか12対13の、一つの差にまで縮まってしまった。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...