拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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働く方々

PHASE-01

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 まったく。困った状況だ――――。
 俯瞰から見れば、王都から半里ほど離れた辺りで、軽装の鎧と、武道着の二人組に、ただいま絶賛、絡まれております。 

「ですから、王都周辺での魔法使用には制限があってですね」

「うるせえ! 俺たちが使ったのは剣から出た火の玉だよ」

「威力的には火球ファイヤーボールクラスの物ですけどね。見てもらえます」
 二人の内、軽装の鎧を纏った方が手にした、魔法が封じられた剣を試しに振るったまではよかったんだけど、その火の玉が街道の一部に穴を開けてしまった。
 
 整備局は、その状況を目にしていた旅商人の方の報で知り、規模も大した事がないと判断した整備長は、僕一人で対処してこいと指示。
 街道に向かって移動していたら、ガラの悪そうな二人が王都に向かって歩いていて、二名が旅商人の方から聞いた身なりだったので、話を聞くと、悪びれる事も無く、〝そうだよ〟って言い返してきたもんだから、同行させて、穴の空いた現場にて話を聞いているところ。
 今ここ。

「しかも、この事をこちらに伝えるつもりなかったでしょ?」

「あったよ。あった。だから、王都に向かってたんだろ」
 ヘラヘラと笑いながら、言い返してきましたよ。
 確かに、王都へと向かっていたのは嘘では無いけども、整備局に来るつもりはなかったよね。
 悪そうな顔を見れば分かるよ。

「でしたら、そちらはお二人いらっしゃいますから、お一人は現場に残ってもらって、お一人が整備局に来れば、発言の信憑性も高くなったんですが」

「なんだよそれ。まるで、俺たちが嘘をついてるって聞き取れるけど」
 武道着の一人が、僕に詰め寄って凄んでくる。証拠が無いから嘘とは言えないし、同行してくれているけど、いちいち高圧的だ。

「そう言う選択肢もあったという事です」
 やんわりと返してあげた。
 そしたら、僕が尻込みしていると思ったようで、二人して小馬鹿にした笑みを向ける。
 
 このままだと、この方々は脅迫的な行為を執行してきて、こちらに泣き寝入りをさせようと思ってしまうかもしれない。

「なあ、正直さ、この位の穴なら直ぐに直せるだろ。どうせお前等なんて、机にかじりついて無駄飯食って一日を過ごすだけなんだから、こういう体動かせる仕事が出来て逆に幸せだろうが」
 机にかじりついてか……。なんて素敵なんだろう。そんな仕事ばかりだったら、本当に幸せですよ。
 貴方方のように、迷惑な破損行為に、出張なんかで、机にかじりついてる事なんて少ないくらいだよ……。

「というか、なんか余裕だな兄ちゃん」
 え~。今度は僕の態度に文句なの。
 やはり、払うつもり無いみたいだね。
 同行に応じたのも、僕が一人で対応したからかもね。大人しそうで、弱そうに見えたから、ここに来て脅せば、違反金を払わなくていいって腹積もりかな?
 
 でも、威圧しても普通にしているもんだから、イライラし始めてきたようだ。
 なんて、自分勝手な二人組なんだろう。
 こういう思考からして、勇者御一行とは考えられない。山賊の類とも考えられない。装備が整っている。
 
 軽装ながらも、各所に鋼のプレートがリベットでしっかりと固定されている。安物では無い。
 武道着も機能性を保持しつつ、堅牢な革製だ。そこらの皮じゃないね。鉄に近い強度を持ってそうだから、何かしらの鎧皮がいひ系モンスターの皮を重ねて作った高価な物だ。
 まったくもって、この様な素行が悪い方々には勿体ないくらいの装備。

「なに、値踏みしてんだ」
 全体を見ていたら、胸ぐらを掴まれてしまった。
 僕が整備局員だと分かっている時点で、勇者御一行や、魔王軍の方々はこんな行動はとらない。
 品格に伴わない、火の玉を出すレアな剣に、防具。
 
 ――――そこから、考えるに。

「貴方方、バラクーダ所属ですか?」

「だったら何だ」
 得意げに腕部分をまくり上げて、腕に刻まれた、口を大きく開いた魚の入れ墨を見せてきた。
 ああ~やっぱりか……。
 
 バラクーダ。
 山賊や海賊みたいな無法者ではないけども、サルベージや、伝承が残る場所に出没しては、希少なアイテムを手にしていくトレジャーハンターのギルドだ。
 欲しければ、高圧的に手中に収めていく事から、同業者からも煙たがれるギルドだ。
 この態度を目にしたら、それも理解出来る。

「ほら」

「おわ!? 何するんです!」
 いきなり火の玉が僕の横を通り過ぎる。
 流石に、これには驚いた。

「びびったか。なあ? びびった?」
 素行の悪い不良少年じゃないんだから……。
 しかし、危ないな~。当たったら、大怪我じゃすまないよ、僕のような一般人は――、
 素行は悪くても、実力は一般人では相手にならない強さを有している存在。
 しかも、勇者や魔王軍にだけ厳しく取り締まっていると思っている節があるのか、自分たちには条約なんて関係ないと思っているようだ。
 こんな危なっかしい事を平然と行うのがいい証拠。

「なあ、ここをさ、ぱぱっと直せよ。暇人なんだから。俺たちは忙しいから。世界を股にかけた存在よ」
 それ、僕もですけど。つい最近は砂漠に行ってましたよ。

「直すのは直しますから、その分の違反金は払ってくださいね」

「お前さ……。あんまりなめてると殺すよ」
 目が据わったね。切っ先を僕に向けてるし、武道着の方は、〝知らねえぞ~〟と、悪そうに口角を吊り上げて笑ってる。
 本当にロクデナシだな~。

「なめてるんじゃ無くて、規則なんで」

「規則とか、俺たちがそんなのに縛られるかよ! 規則を逆らってこそのトレジャーハンターなんだよ」
 それを他のギルドの方が耳にしたら怒りますよ。規則の中で、きちんとアイテムをゲットしてるのが本来のトレジャーハンターですから。

「なんで、こいつ怖がらねえの?」
 怖いけども、貴方方以上に怖い方々を知ってますから。
 
 イライラしてるな~。剣を持ってる手が震えてるよ。

「お、おい。よせよ」
 あら、武道着の方が押さえにかかってます。付き合いが長いのか、鎧のかたが本気で苛立っているのを理解したのでしょう。

「どけ」
 なだめようとしてるのを押しのけて、僕に剣を振り上げてきた。
 あ……、これはまずいな。このままだと僕、斬られちゃうな――――。

 ――。
 
「いでぇ」
 苦悶な声が上がる。振り上げていた剣がガチャンと金属音を響かせて、石畳の上に落ちる。
 
 急に、石が飛んできて、鎧のかたの手の甲に直撃。
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