拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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働く方々

PHASE-07

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「ふぅ」
 小さく息を漏らしている。やはり、緊張するのかな。

「よければ付き合いますけど」
 ガッシリと、両手を掴まれると、
「お願いします!」
 って、切望された。怖いのかな? 
 
 ――――お~。近くで見ると大きいですな。流石は王都官庁。地方の役所とは違うんだろうね。
 サージャスさんを見れば分かるよ。
 あまりの大きさに圧倒されている。端から見たら完全に挙動不審だもの。
 それにしても、勇者とは思えない不安に駆られた瞳だ。支払いを行う度に、何か言われているのだろうか。
 不死王さんの所では、2億飛んで――4万9千51ギルダーだったね。 
 金額を覚えている僕もどうかと思う。
 あまりにも大きな金額だったから、下一桁まではっきりと覚えている。
 正直、端数くらい大目に見てやれと思うのは、公務員としては失格なのだろうか?

 しかし、どう返すんだろう……。だからこそ、嫌味を言われるのかな。役所の方に。
 それに対しては、申し訳ないと思っております。その気持ちだけは本物ですからね。サージャスさん。
 
 公務員パワーで僕が先頭切ってあげる。
 入り口では、扉の左右に警務局員の方が二名。

「お疲れ様です」
 と、会釈で挨拶すると、灰色のつなぎ姿に対して、敬礼で返してくれる。
 
 ――入ってみれば、森閑としております。
 
 人はいるけども、皆さん、静かに記入したり、待合の席に腰を下ろして、官庁に置かれている瓦版に目を通したりして時間を潰している。

「こっちですね」
 官庁一階の奥の奥を歩いて行く。
 カウンターに沿って進む度に、職員の方に軽く会釈をしながら進む。
 
 ――――違令いれい管理課。
 一般の方々には、ほぼ関係の無い場所だ。
 基本、戦闘、魔法とかで破壊行為を行った方なんかが、行き着く場所。
 なので、そんな事に無関係な生活を送る方には一生無縁な場所でもある。
 官庁、地方役所の課の中では、一般の方が訪れない分、比較的に暇をもてあましている所かもしれない。

「あ……」
 バラクーダの某さん二名が僕の眼界に入る。
 ちゃんと違反金の支払いに足を運んでくれたようだね。
 感心だ。払う意志を持つ事は大事ですよ。
 足音に気付いた二人がこっちを向くと、一気に不満な表情。鎧のかたなんて、手をさすりながら睨み付けてきた。
 けども――、僕の後ろにいるサージャスさんの姿を目にした途端に、視線下方は四十五度だ。

「では、こちらに違反金を」
 下方に向けられていた視線を無理矢理に起こしてくるのは、違令管理課の職員の方。カウンター職員サイドに腰掛けて、低く愛想の無い声だ。
 他の課のカウンターで対応する方は、笑顔で訪れた人たちを迎えていたけど、違令管理課ここではそれはない、眼光が鋭い、公務員とは思えない歴戦の戦士を思わせるものだ。
 睨まれるような視線に、僕には強気だった二人も、声に操られるかのように、淡々と違反金である五万ギルダーを支払っていた。

「もう、二度とここには来ないでください」
 徹頭徹尾、愛想が無い対応だったのか、体を硬直させながら首を上下に振るしか出来ないでいた。
 白くて光沢のある髪を、緩めのオールバックで整えて、眼光の鋭さを引き立てるように眼鏡のレンズがキラリと輝いていて、極めつけが凄然たる応対だから、二人は速くこの場から立ち去りたかったのだろう、きっちり支払って、綺麗な一礼をして、足早に去って行く。
 
 通り過ぎる時に、僕に睨みでも利かせてくるのかな? と思ってもいたけど、これ以上、問題を起こしたくなかったのか、軽い会釈と、作り笑いを送ってくると、足早に立ち去っていった。

「やれやれ、食事前なのに、またですか」
 眼鏡をとって、スーツの胸ポケットからハンカチを取り、レンズを拭きつつ悪態にも取れる発言。

「どうも」
 僕の挨拶に深く頭を下げて返してくるところは、同じ公務員仲間と考えてだろう。

「整備局の方も大変ですね。違反者をまさか送り届ける事までするなんて」
 この嫌味は僕ではなく、後ろに立つサージャスさんに向けたものだね。
 来るんなら一人で来い! わざわざこんな事に、整備局員の仕事の時間を割かせるな! って、遠回しに言ってるようだ。

「違令管理課のゲイアード・マヒューズです」
 名乗ると、手を椅子の方に向けて、僕たちに腰を下ろすように促す。
 もう一度、一礼してから腰掛ける。
 僕が座るのを待って、サージャスさんも、
「失礼します」
 と、大きくも若干、震えを混じらせた緊張の声を出して座る。

「サージャス・バレンタインさんですね」

「お会いしましたか?」

「いえ、有名な方なので。勇者としてではなく、違反者としてですがね」
 愛想の無い語調に、隣では、先ほどの二名みたいに、視線下方四十五度凝視のスタイル。
 見た感じ、二十代後半ってところの文化系の男前さんは、十代半ばの女性に対しても容赦の無い言葉を放っていくスタイルかな。

「で?」
 こわっ! 【で?】の一言が、さっさと用件を済ませてもらえるかな。時間の無駄だから。って、思いを伝えているのがよく分かる。

「あ、あの、今回、実入りのよいクエストをこなしまして。支払いを行いに……」
 語末に行くにつれ、弱々しくなる勇者様。
 ゲイアードさん、琥珀色の瞳をアメジストの瞳に向けて、無表情のまま手招きを行う。無論、現状で指呼の距離である。顔を近づけてくれとかの所作じゃない。
 さっさと、出す物を出せといった意味合いだ。
 恐る恐る革袋を取り出して、ゲイアードさんに手渡す。
 その革袋を貰った時の笑顔はいずこへ……。
 中身をカルトンの上に出すと、数え始める――――。

「ふむ、確かに実入りの良い物ですね。二十万ギルダー確かに受け取りました」
 ほえ~。二十万も稼げるクエストなんだ。一回で、僕の給金の十ヶ月くらいだね。

「では――、残り一億九千八百六十万とんで五十一ギルダーの支払いを完済してください――――――絶対に」
「はい……」
 いや、不死王さんのとこで別れた時は、二億だったから、着々と支払ってるじゃないですか。素晴らしい。
 ――未だに恐ろしい額だけども。

「それよりも……」
 急に、ゲイアードさんの声の階梯かいていが下がる。これ以上まだ下がるのか――。ということに驚きだけども。
 
 眼鏡を整え、カウンターに右肘をついて、それで顎を支えながら、サージャスさんの体を見渡す。
 見られているのは、まだ少女。気恥ずかしいのか、モジモジと体を動かしている。
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