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叙勲の日
PHASE-06
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「さあ、名乗ったぞ。名乗るがいい、我が指を向けられし者よ」
いちいち声が大きいな。離れていても耳が痛くなりそうだ。
「我は、ラゼン・ギル・ダロス。現王の叔父で、前王の弟であり、大公である」
「こ、これは、大公様……失礼しました。よもやこの様な場所で、大英雄に会えるとは」
きったね~。こんな時だけ大公を名乗るとか。普段は元を付けてくれって言ってるのに。
アルコンさん、まさかの大公様だったから、向けていた指をしまって、ペコペコと頭を下げております。
「うぬぬぬ……大公様を盾にするとは卑劣な!」
この方の思考だと、悪を倒すために、無理を押し通して、ここまで来たんだろうけど、まさか大公様がこんな場所にいたあげくに、ホーリーさんの横にいるもんだから、ホーリーさんに人質として捕らわれているのかと思っているのかもしれない。
教えてあげたい。大公様も魔王軍所属だと。
魔王幹部も敬語で応対の存在だと――――。
「私に任せよ!」
今度は爆発方面から派手な跳躍で現れ、浅葱色の鎧を纏った方が抜剣して、ホーリーさんに剣を振るう。
激しい金属音が一合。
「なぜ邪魔をする、漆黒の鎧の者よ」
「これがボクの受けてるクエストだからね」
「名は?」
「サージャス・バレンタイン。クリネアの出自」
「魔術学都市の者か――強そうだ。私は勇者ゲルニオ・ヤニコフ。スルミタの出自」
半眼で、眠たそうな青い目の持ち主。目元とは裏腹に、しっかりとした声を出す方だ。青みがかった黒髪を、ぴっちりと横わけで整えているところから、几帳面な性格と見受けられる。年の頃は二十代後半かな。
スルミタといえば特産は絹織物。だからだろうか、首回りには、外套以外に、絹のスカーフを巻いている。
この方もか……。町のアピールしてるな……。郷土愛に溢れた勇者さん達だ。
二人に続いて、他にも数人がこちらを包囲している。
無論、抜かれた剣が向けられているのは、魔王軍の方だけども、それを遮るようにサージャスさんと、クエストに参加している数人の方々が立ちふさがる。
「どくのだ! 君たちも勇者やそれに関係する者達だろう。ならばそこの悪を倒さねばならない」
諸手で剣を握り、高く天へと掲げてから、アルコンさんが距離をつめる。
それに対して、サージャスさんが剣先をアルコンさんへと向けて、動きを止めさせる。
「ボクたちはクエストを正規に受けている。それを反故にすれば、今後の事にも関わる」
「なんと嘆かわしい……今後を考えての行動とは。正義のためならば、後の事は考えずに動くのだ。悪は倒す! 簡単な事だ」
なんて、凝り固まった考えなんだろうか。
古くさいとも言える。もう少し世界に目を向けていただきたい。今の世では、貴男の考え方は、行きすぎた危険思想に振り分けられる。【後の事は考えずに】って発言が怖い。
正義のためなら些かの犠牲も止む無しと考えてそう。
いや、考えてるのか――。
考えているから、ここで仕掛けてきたのかな。市井で狙わないのは住人への配慮か――。
爆発だって、被害が出ない威嚇だったのかな。怪我人は出ていないようだし。
でもさ――、もしもの事も考慮して。
子供だっていたわけだから、爆風で怪我していたかもしれないでしょ。
「無駄ですアルコン。彼女たちは、このようなクエストを受ける者達。勇者としての名誉よりも、欲に走っているのです」
「嘆かわしいな。ゲルニオ」
「まったくです」
二人の会話に、大いに首肯する周囲の強襲者の方々。
これは本腰入れて、避難を開始しないと。
警務局の方々もいるから、誘導指示は任せよう。僕たち整備局員より秀でている。
貴賓の方々を優先させないと。
特に魔王軍の方々には、優先して逃げてもらわないとね。
相手を諦めさせるには、ターゲットに逃げてもらう事が一番だ。
――。
「逃げるのか? 魔王幹部が何とも情けない。幹部でこれだ、魔王も大した事なかろう。直ぐにでも討伐して、首を晒してくれる」
なんて発想。怖いよ! 晒すなよ。足を止めるための挑発なんだろうけどさ。
このアルコンって人、優しげだけど、かなり発想が危険だ。首を晒すとか、勇者の発言じゃない。
当の幹部の方々は耳を貸さずに、貴族の方々、特に子供たちを先に行かせて後退。
良心がある。
でも、後退するちびっ子の額には血管が浮き出ている。魔王様の事を罵倒されたから、頭にきているようだ。
「逃げるな!」
――――て、馬鹿!
アルコンの野郎、火球を放ちやがった。
コイツ、何を考えてんの。
いや――やっぱりコイツ何も考えてない奴だ。ただの危ない勇者だ。本人が言うように、後の事は考えてない。
火の塊が、僕たちの頭上に落下してくる。子供がいるんだよ! 確実に当たれば命がなくなっちゃうから。
早く、結界を張りなさい、ちびっ子! さっきみたいに! ハリー、ハリー、ハリー。
「早く!」
ついつい、思っていた事が、声として出てしまう。
「馬鹿なの!」
火の塊を、手にした黒剣で吹き飛ばすサージャスさん。
助かった……。
どうよ、この貴族の方々の顔面蒼白な姿。皆様そろって、恐怖で足がすくんだのか、動きが止まってしまう。
「うむ、今こそ好機。一気に狙うぞ」
純白の鎧の発言に続くように、ゲルニオと他がたたみかけるように剣を手にして、魔法を唱えつつ、迫ってくる。
手を出せないから、結界でしのぐ魔王軍。その中で、怒り心頭なのが大公様。
「いい加減にせよ! 貴様等!!」
天にも届くような声に、流石の勇者達も足を止めるけども、
「大義の為なのです」
アルコンが返答し、再び足を動かす。
ゲルニオ達もそれに続く。
まずいぞ、大公様の威光すら耳にしないで、凝り固まった大義に縛られている方々が迫ってくる。
「死守します!」
迫ってくる白い鎧に、漆黒の鎧が衝突。
剣と剣が何合も重なり、激しい金属音と火花を飛ばす。
それに負けじと、クエストを受けた方々も、サージャスさんに続き、強襲者たちを迎え撃つ。
「今ですよ!」
「だな」
止まった足を動かすように、貴賓の方々の背中を押して、前に進むように拍車をかけさせる僕と整備長。
モルドー領主である男爵様の背中を、馬の尻を叩く要領で、バシンと叩いて動かすも、足は遅い。
それを補助するように、取り巻きと、警務局の方々が、男爵様の諸手を掴んで引っ張っていく。
いちいち声が大きいな。離れていても耳が痛くなりそうだ。
「我は、ラゼン・ギル・ダロス。現王の叔父で、前王の弟であり、大公である」
「こ、これは、大公様……失礼しました。よもやこの様な場所で、大英雄に会えるとは」
きったね~。こんな時だけ大公を名乗るとか。普段は元を付けてくれって言ってるのに。
アルコンさん、まさかの大公様だったから、向けていた指をしまって、ペコペコと頭を下げております。
「うぬぬぬ……大公様を盾にするとは卑劣な!」
この方の思考だと、悪を倒すために、無理を押し通して、ここまで来たんだろうけど、まさか大公様がこんな場所にいたあげくに、ホーリーさんの横にいるもんだから、ホーリーさんに人質として捕らわれているのかと思っているのかもしれない。
教えてあげたい。大公様も魔王軍所属だと。
魔王幹部も敬語で応対の存在だと――――。
「私に任せよ!」
今度は爆発方面から派手な跳躍で現れ、浅葱色の鎧を纏った方が抜剣して、ホーリーさんに剣を振るう。
激しい金属音が一合。
「なぜ邪魔をする、漆黒の鎧の者よ」
「これがボクの受けてるクエストだからね」
「名は?」
「サージャス・バレンタイン。クリネアの出自」
「魔術学都市の者か――強そうだ。私は勇者ゲルニオ・ヤニコフ。スルミタの出自」
半眼で、眠たそうな青い目の持ち主。目元とは裏腹に、しっかりとした声を出す方だ。青みがかった黒髪を、ぴっちりと横わけで整えているところから、几帳面な性格と見受けられる。年の頃は二十代後半かな。
スルミタといえば特産は絹織物。だからだろうか、首回りには、外套以外に、絹のスカーフを巻いている。
この方もか……。町のアピールしてるな……。郷土愛に溢れた勇者さん達だ。
二人に続いて、他にも数人がこちらを包囲している。
無論、抜かれた剣が向けられているのは、魔王軍の方だけども、それを遮るようにサージャスさんと、クエストに参加している数人の方々が立ちふさがる。
「どくのだ! 君たちも勇者やそれに関係する者達だろう。ならばそこの悪を倒さねばならない」
諸手で剣を握り、高く天へと掲げてから、アルコンさんが距離をつめる。
それに対して、サージャスさんが剣先をアルコンさんへと向けて、動きを止めさせる。
「ボクたちはクエストを正規に受けている。それを反故にすれば、今後の事にも関わる」
「なんと嘆かわしい……今後を考えての行動とは。正義のためならば、後の事は考えずに動くのだ。悪は倒す! 簡単な事だ」
なんて、凝り固まった考えなんだろうか。
古くさいとも言える。もう少し世界に目を向けていただきたい。今の世では、貴男の考え方は、行きすぎた危険思想に振り分けられる。【後の事は考えずに】って発言が怖い。
正義のためなら些かの犠牲も止む無しと考えてそう。
いや、考えてるのか――。
考えているから、ここで仕掛けてきたのかな。市井で狙わないのは住人への配慮か――。
爆発だって、被害が出ない威嚇だったのかな。怪我人は出ていないようだし。
でもさ――、もしもの事も考慮して。
子供だっていたわけだから、爆風で怪我していたかもしれないでしょ。
「無駄ですアルコン。彼女たちは、このようなクエストを受ける者達。勇者としての名誉よりも、欲に走っているのです」
「嘆かわしいな。ゲルニオ」
「まったくです」
二人の会話に、大いに首肯する周囲の強襲者の方々。
これは本腰入れて、避難を開始しないと。
警務局の方々もいるから、誘導指示は任せよう。僕たち整備局員より秀でている。
貴賓の方々を優先させないと。
特に魔王軍の方々には、優先して逃げてもらわないとね。
相手を諦めさせるには、ターゲットに逃げてもらう事が一番だ。
――。
「逃げるのか? 魔王幹部が何とも情けない。幹部でこれだ、魔王も大した事なかろう。直ぐにでも討伐して、首を晒してくれる」
なんて発想。怖いよ! 晒すなよ。足を止めるための挑発なんだろうけどさ。
このアルコンって人、優しげだけど、かなり発想が危険だ。首を晒すとか、勇者の発言じゃない。
当の幹部の方々は耳を貸さずに、貴族の方々、特に子供たちを先に行かせて後退。
良心がある。
でも、後退するちびっ子の額には血管が浮き出ている。魔王様の事を罵倒されたから、頭にきているようだ。
「逃げるな!」
――――て、馬鹿!
アルコンの野郎、火球を放ちやがった。
コイツ、何を考えてんの。
いや――やっぱりコイツ何も考えてない奴だ。ただの危ない勇者だ。本人が言うように、後の事は考えてない。
火の塊が、僕たちの頭上に落下してくる。子供がいるんだよ! 確実に当たれば命がなくなっちゃうから。
早く、結界を張りなさい、ちびっ子! さっきみたいに! ハリー、ハリー、ハリー。
「早く!」
ついつい、思っていた事が、声として出てしまう。
「馬鹿なの!」
火の塊を、手にした黒剣で吹き飛ばすサージャスさん。
助かった……。
どうよ、この貴族の方々の顔面蒼白な姿。皆様そろって、恐怖で足がすくんだのか、動きが止まってしまう。
「うむ、今こそ好機。一気に狙うぞ」
純白の鎧の発言に続くように、ゲルニオと他がたたみかけるように剣を手にして、魔法を唱えつつ、迫ってくる。
手を出せないから、結界でしのぐ魔王軍。その中で、怒り心頭なのが大公様。
「いい加減にせよ! 貴様等!!」
天にも届くような声に、流石の勇者達も足を止めるけども、
「大義の為なのです」
アルコンが返答し、再び足を動かす。
ゲルニオ達もそれに続く。
まずいぞ、大公様の威光すら耳にしないで、凝り固まった大義に縛られている方々が迫ってくる。
「死守します!」
迫ってくる白い鎧に、漆黒の鎧が衝突。
剣と剣が何合も重なり、激しい金属音と火花を飛ばす。
それに負けじと、クエストを受けた方々も、サージャスさんに続き、強襲者たちを迎え撃つ。
「今ですよ!」
「だな」
止まった足を動かすように、貴賓の方々の背中を押して、前に進むように拍車をかけさせる僕と整備長。
モルドー領主である男爵様の背中を、馬の尻を叩く要領で、バシンと叩いて動かすも、足は遅い。
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