拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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叙勲の日

PHASE-09

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「全くもって理解出来ない。貴男はさっき生活のためとか言ってたじゃない。それがなんで崇高な大義を掲げているような口ぶり」

「生活は大事だし、無茶はしたくない。だが、少なからず考え方はここに集まった奴らに近いな。同胞ってほど親密でもないし、考え方も凝り固まっていない。まあ、代弁者的な立ち位置だな」

「そう――なら、ここで縛についてもらうから。徹底的に背後の存在を聞かせてもらう。いま倒れている、二人に代わって代弁してね」

「出来るならな」

 
 ――――激しい剣戟の乱舞が始まる。
 何合も打ち合い、単純な力ならサージャスは分が悪いが、現状の姿のおかげなのか、力も速度も増さっている。
 それどころか、黒剣が双剣の刃を削り落としていく。

「止めてくれよ。業物だぞ」

「ボクのはそれ以上の物なんだよね。大切に使わないといけないんだけどさ」

「まいったね。まさか、ここまでの手練れがいるとは……本当に後悔だ」

「申し訳ないけど、このくらいの実力なら、あそこのいる方々に傷を負わせる事は出来ない。簡単に逃げられてる」

「逃げられてないのは、貴族がいるからかな?」
 ダイアンの口角が上がる。はっきりそれを目にする事が出来たピート。何かよからぬ事を考えている? そう想像出来た。 
 三歩ほど下がって、体勢を整えようとするダイアン。
 余裕は与えないと距離を詰めるサージャス。
 再度、下がる。
 下がる先には、立ち止まり観戦状態の貴族たち。
 面倒な状況であると、誘導する者たちから舌打ちが聞こえてくる。

「行かせないから」

「うん、行かないから」
 それを耳にし、しまったと、ダイアンの挑発に乗ってしまったと、悔しい表情。反対にダイアンは得意げな笑み。
 ダイアンが下がる時に歩んで来た場所から、氷の柱が現れて、サージャスの下半身を氷で覆うと、徐々に上半身にも浸食していく。

氷地走フロストマイン。どうだい? 流石に寒いかな、さっきのと違って、今回のはそう簡単には外せないぞ」
 体に付着した氷に、大気中を舞う細かな粒子も付着していって、サージャスの長い睫毛にも霜が付着していくのが見える。
 細かな部分まで目に出来ているピートは、自分の視力が良くなっている事に驚いている。
 一週間ほどの森の演習が、彼の視力を向上させていた。
 危機的な状況下で思う事ではないのだろうと反省しつつも、その様に思えてしまうのは原因がある。
 拘束されているサージャスが、悔しい顔から余裕に変わっていたからである。

「火竜の鎧を纏ってるから、てっきり炎系が得意なのかと思ってた」
「いやいや、逆だろう。火竜を倒してるから、氷系なんだろう。炎耐性どれだけあると思ってるんだ? 下手したら回復させるわ」

「確かに」
 ダイアンは相当に用心深いようで、サージャスの余裕の笑みに、攻めようかどうか躊躇している。ここが攻め時と考えずに、万全を期して戦いを自分のペースに持ち込みたいようだ。

「やりずれえな。流石に大魔法は使えないからな。一歩手前を使用して戦闘不能だ」

「大魔法を使用しないって心根は好感が持てるよ」

「美少女にそう言ってもらえりゃ嬉しい限りだ」
 刃毀れが目立つ双剣を一度鞘に収めて、両腕を横いっぱいに広げると、中央に霜が現れて集束し、形成していく。
 その姿は巨大な氷柱。戦闘不能と言うだけあって、殺めるというのは考えていないのか、先端は鋭利に尖ってるわけではなく、平に近い。
 更にそれは大きく育ち、神殿の柱以上の大きさへと変貌。城の門でも容易に破壊出来そうな、破城槌といったところだろう。

「いくぜ、氷巨人フリームスルス
 大きさにそぐわない、高速で放たれる氷柱。
 迫るそれに、サージャスは氷に占拠される体の中で、腕だけを動かし始める。

「「「「あ……」」」」
 その動作を目にした途端――である。
 目にしたが故に、経験のあるピート、ニーズィー、大公、ホーリーはシンクロした声を上げた。
 ――そして、ピートは皆に伝える。

「耳を閉じてください」
 と――――。
 掌を開いた状態で、諸手を前面に出してからの、左手は上を向き、右手は下を向き、諸手がゆっくりと半月を描き、諸手の位置が逆になったところで、
巨神狂叫アウルゲルミル
 纏っていた赤いチャクラが両掌へと集束、前方に放たれて大爆発。
 
 独特な爆発音が生まれる。巨大な金属が擦れるような。絶望的に才能が全くない者たちだけを集めた弦楽器演奏――――。とにかく形容しがたい不快音のせいで、塞いでいても、三半規管にダイレクトに届いてくる爆発音に、
「耳がぁぁぁぁぁぁっっ!」
 古都の時と同様に、悶え苦しむ事になってしまった。
 ピートは心の底からこの技を、自分たちの前では禁止にして欲しいと願っていた……。
 
 ――――苦しみで、強く閉じていた瞳を恐る恐る開くと――、
 死屍累々のような光景。皆、あまりの不快音に体を丸めて、芝生の上で悶えていた。とんでもない副産物である。
 ロールが辛そうにして横になっている。その体を起こしてあげなければと、ピートが歩み寄る。
 
 ――流石と言うべきか、二王とその周りの魔王軍の者たちは、立って状況を窺っていた。
 それでも、顔は渋面。耳にいつまでもこびりつく残響が原因だ。

「凄いね。威力もだけど、音もね……」

「これを、我が主は零距離で直撃して、危うく昇天しそうになってましたよ」

「ええ!? 不死王殿がそうなるなんて、とんでもないね。あの子……」
 ホーリーの説明に、感嘆のテト。
 状況としては、ダイアンの魔法の氷柱は、粉々に破壊され、大気中で綺麗な塵となってキラキラと幻想的な世界観を作り出している。さながらダイアモンドダストである。

「まいったね……何それ? 見た事ない物づくしで圧巻だ……」
 直撃ではないとはいえ、巨神狂叫アウルゲルミルを受けたダイアンは両膝を付いて、すでに敗北一歩手前。

「流石の氷の巨人も、巨神には勝てなかったかな」

「参ったね。俺――結構さ、強い方なんだけどな。自信なくすわ」
 そうでなければ屠竜者ドラゴンベインなんかになれない。
 不死王が凄かっただけで、サージャスは相当に手練れの勇者なんだな。と、今回の事で理解出来たピート。お金には困っているけども……。と、心底で思いつつも――。
 これだけの力量なら、直ぐにでも名前は世界に広まるだろう。勝者として立つ漆黒の鎧のサージャスに皆が視線を向けてそう考える。

「拘束させてもらうから」
 捕縛の魔法でも使うのか、手をダイアンの前へと出す。
 膝を付いたダイアンは何とも余裕の表情。先ほどのサージャスとは逆の立場。であるからか、何かを狙っているのかと、逡巡してしまう。
 それを振り払うように首を左右に動かし、ダイアンに向けた手が輝く。
 ――その時。

『ハイこれまでよ』
 突如として、声が聞こえてくる。
 まだいるのか。というのが、皆の感想。
 流石に戦況は覆らないはずなのに、なぜ今更出て来るのか。
 周囲を見渡せば、クエストを受けた者たちの活躍も有り、強襲側は皆、倒されている。ゲイアードの選定は気持ちがいいほどドンピシャであった。
 最早、反抗は無意味である。
 そんな状況でありながら、ダイアンの影から現れる存在。
 楕円皿プラッターのようなデザインの、真っ白の仮面を被った存在。
 仮面は、顔をモチーフにした物でもなければ、模様が描かれているなども一切無く、シンプルな楕円の白い仮面。目の部分だけ、穴が空いている加工が施されている。 

「遅いぞ。ヘイター」

「遅くはない。基本、私は戦闘には参加しないと言っていたからね。君たちが状況不利になったら出て来るって言ったじゃないか」

「この状況を見てみ」
 首を傾げながら周囲を見渡している。
 ピート達と目が合うと、丁寧に会釈してきた。
 公務員としての条件反射なのか、ついついピートも一礼を返してしまう――――。
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