拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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お兄様Incoming

PHASE-03

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 絶対に貴男が行ってくださいよ! とばかりの拍手による、包囲網。
 拍手が伝える音の矢。局員の方々による包囲殲滅戦をそこに見た。
 数の暴力。もう、自分が案内と決定づけられた事で、追い込まれたペトロム整備長は口を押さえる。
 まてい! 吐くなよ。
 緊張と、恐怖がこれから訪れるという思いから、心が折れそうな状況だ。
 ――何とか、吐くのは耐えてくれた。よかった、もらいゲロは回避出来た。

「では案内、お願いしますね」
 ようやく、宙に浮いた台詞を受け止められる方が現れたから、ロールさんはもう一度、同じ発言を微笑みと共に投げかけ、それに首肯で返してくるペトロム整備長。
 だたでさえ薄めの色合いな肌と髪なのに、更にうっすらとなっているように見える。最早、死に体と呼んでもなんの誇張もない姿だった……。
 ここまで、心を折ってくる甲鎧王さん達ってなんなの?
 気を引き締めないとな。
 
 ――。

「出発は、明日です」
 ロールさんの言葉に、先ほどと同様に首肯。
 その後は食事を口に運ぶ事なく、フラフラとした足取りで、自分の仕事部屋に戻って行かれた抜け殻なペトロム整備長。

「これ、本当に危ないのかな?」
 
「相当に危険な相手みたいですね」
 大丈夫です! 僕が守ってあげます! と、真っ先に言えないでいる情けない僕。
 
 ――――結局、ペトロム整備長はその後、部屋から出てこず、仕方が無いので僕たちは宿屋へと移動した。

 ――――。

「やべえよ……」
 部屋に入るや、ずっとその言葉ばかりだ。
 両整備長とも、心身が薄氷で出来たガラスで構成されてるのかな。
 頭抱えて、酒で気を紛らわせている。
 なんか、邪神の時よりも深刻だな。あの時はまだ僕の首とか締めて怒ってたのにね。
 今回は、向こうからの案内人とかいないもんね。クッションがない分、不安でたまらないんだろう。
 怖いけども、僕以上に恐怖に縛られてる方が目の前にいるもんだから、以外と冷静なんだよな。そう考えるとありがたいけども。

 本日の肩掛け鞄はズシリと重かったりする。それを自分のベッドに置く。
 かなりの横暴だというのも書類では確認している。
 下手したら死に直結するってのは、ここの方々の反応で理解出来た。一応、持ってきて良かったのかな。
 使う機会なんて無いとか思っておきながら、まさか、早くも銃を使用する事になるのだろうか……。
 でも、こんなのが通用するのかね? もし、一人を行動不能にしても、次には怒りにまかせて動く相手にコロイチにされる。
 威圧でしか使えないだろうし、お守り的な要素でしか持ってきてなかったけど、これ、使用する機会が無いように願いたい。
 使えば死だし、使わなくても死かもしれない。
 整備長のやべえ、って気持ちは分かるよ。来なきゃよかった……。

「話を聞いてもらうだけですから」
 いいな。整備長に少しでも気を紛らわせて欲しいのか、ロールさんが酌をしてあげている。僕もお酒飲めるようになったら、是非お酌をしてもらいたい。

「大丈夫かな……」
 泣くような声を出すなよ。
 さっきから、ついでもらった酒を一気飲みだね。味なんて堪能していない。このまま酔いつぶれて、明日は起きない腹積もりか?

「はい、もうそこまでにしときましょうね。明日は早いんですから」
 手にしたグラスをロールさんの方に傾けているので、その間に手を置いて遮ると、舌打ちですよ。
 どうやら僕が思っていたように、このおっさん、酔いつぶれて逃げに徹しようとしてたな。

「ロールさん。もう寝ましょう。部屋に戻ってどうぞ。整備長は僕が見とくんで」

「お願いね」
 逃がさねえよ! 絶対に行きますからね。
 渋面で僕を見ても、僕はもう貴男なんか怖くないので。
 怒りますよ。
 目で伝えてあげると、渋々とベッドの中に入り込んでいった。

「死んだら呪うからな」

「はいはい、僕もその時は死んでるでしょうから無理ですよ」

「くそったれ……」

「もう、いつもの強気でいてくださいよ」

「条例が効果無いと、おじさん駄目なんだよ!」
 何を情けない事をベッドから起き上がって大声で言うのか……。
 お隣に迷惑だからさっさと寝てくださいよ。
 もう、相手してあげないよ。とばかりに、反対方向を向いて布団を頭まで被ると、
「なんだよ……」
 寂しげな声を漏らしてから、横になったようで、衣擦れの音が耳朶に届いた。

 ――――。 

 ――さぶっ。
 暖房が効いてても、足の底から伝わってくる寒さは体の芯に届いてくる。
 靴下をはいて寝ればよかったと後悔しつつ起床。
 洗面器に水を入れて手をつけると、それだけで目が覚める。
 勢いよくは出来ないから、バシャバシャではなく、パシャパシャと顔に優しく水を当てつつ洗い流す。

「おはよう。寒いね」

「ですね」
 隣のドアが開いてロールさんと朝の挨拶。
 ほ~。新鮮だ。サイドテールじゃなくて、髪を下ろしている姿。
 また違う美しさ。サイドテールが活発な雰囲気なら、下ろしている時は、淑やかさある由緒ある家柄の令嬢のようでございます。
 僕の隣で令嬢様がブラッシングに洗顔を開始。
 水の冷たさに、僕と同じように驚きつつも、僕とは違って、水を大きくすくって顔を洗ってらっしゃいます。やっぱり僕とは胆力が違う。

 ――。

「まだ寝てるのかな? それとも寝たふりですか~」
 歯を磨きつつ、ベッドで寝ている整備長の布団をひっぺがしてやる。
 口の中で泡を作りつつ、観察。
 布団の無い状況で、徐々に体が丸まっていく。体温を維持するためのものと思われる。
 徐々に震え始める。シバリングをし始めた。下がった体温を上げるために、筋肉を動かして熱を発生させようとしているようだ。
 でも、それでも間に合わない。
 最終的に、
「寒い!」
 の、一言で、飛び起きてくれた。
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