拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

文字の大きさ
151 / 604
洋上

PHASE-05

しおりを挟む
「商船の護衛って、大変ですか」
 甲板に座ってから、ロールさんが質問。
 美しい女性の問いかけとなれば、寝そべっているのは失礼と、座って居住まいを正す。

「大変ですとも」
 商船は出来るだけ荷を運びたい。しわいところは、最低人数で船を動かし、その分の空きに、更に荷を積むって事も多いそうで、人数は少ない、荷は多いとなると、それを事前に察知した、鼻のいい海賊がそれを狙ってくるそうで、少ない人数で海賊達から荷を守るのは大いに大変な事だと愚痴をこぼす。

「見てくれ」
 もう、女性の前で上着を無造作に脱がないでくださいよ。セクハラですよ。
 
 ――……なんか、こういうの見せられると、死線をくぐり抜けて来ているなという事がよく分かるよ。
 筋肉の塊であるドレークさんの上半身は、刀傷に矢傷と、見ているだけで、痛々しくなる。
 とくに、左の鎖骨から右の脇腹まで通る刀傷には震えてしまう。ついつい自分の鎖骨を手で押さえてしまった。

「仕事ってのは何でも大変だろうけどな。俺も、しっかりと勉強しとけばよかったな。こんな危険で薄給の仕事しなくて済んだのに」
 僕たちを見て、愚痴っぽく自分の現状を呟く。

「多種多様な仕事があって、そこで頑張ってる人たちがいるから、世の中は回るんですよ。仕事に上や下と区別しては駄目です」
 そこそこの語気で、ロールさんが説教。
 どんな仕事でも、励んでいる方は美しい。それを馬鹿にする人間を嫌悪する。いかにもロールさんらしい考え。

「これは、一本参った」
 精進させてもらいますと、深々と頭さげてるよ。

「薄給とか言ってますけど、出すとこは出すでしょ?」
 それこそ僕たちが月に稼ぐ金額を、数日で稼いだりもするはずなんだよね。

「そりゃあるさ。ラゴットってあるだろ。あそこは羽振りがいい」
 おう、まさか、こんな洋上で卸問屋のラゴットの名が出て来るとは思わなかった。

「そんなに、金額が大きかったんですか」

「でかいよ。タリスマンをよそに運ぶやつだったが、往復一月の船旅で、三十万ギルダーだぜ」
 げえ、僕の一年間分以上を一ヶ月で越えるんだ。薄給じゃないじゃないか。
 年に一回、毎年、輸送護衛をやってたそうで、今に比べたら、以前のドレークさんは羽振りがよかったそうだ。

「今はやってないみたいな物言いだな」
 紫煙を燻らせながら、船端に背中を預けた姿勢で、葉煙草を一本ドレークさんに差し出しながら問う。
 感謝とばかりに右手で拝む所作をして、いただくと、口に咥え火をもらい、ゆっくりと葉煙草の味を堪能しつつ、
「去年から、ラゴットの仕事は受けてないんだ」

「どうして? 羽振りがいいんんだろ」
 双方、口から煙を上げながら言葉を交わす。

「あそこは駄目だ。今は駄目になっちまった」
 首を左右に振りつつ、落胆。
 何が駄目なのかと、身を乗り出したのがロールさん。
 いきなりの美人様の急接近に背を反らしている。勿体ない。至近で美人を堪能出来るのに。
 
 輸送護衛中に、質の悪いタリスマンを売るという内容を耳にし、しかもそれを悪びれもせずに談笑していたそうだ。
 最初は船員達が酒に酔って、冗談を言っていただけだと、その時は気にもとめなかったそうだけども、その積み荷を降ろしてからしばらく経過して、拠点である湾港都市ネーガルで直ぐに情報が飛び交ったそうだ。
 至る所で、ラゴットのタリスマンが暴走していると――、
 まあ、それに対してラゴットは、誠意として多額の慰謝料を払っているという事で、この話はラゴットに対する不満よりも、出来た卸問屋だという内容の話として商人さん達は言葉を交わしていたそうだ。
 でも、ドレークさんは、その積み荷の護衛をしていて、尚且つ船員達の酔った話が真実だった事から、ラゴットは知っていてそれを行っていると理解し、それからは報酬はよくても信頼出来ないとして、護衛を受けなくなったそうだ。

「その事は、ちゃんと伝えてますか」

「役所とかにかい?」
 首肯のロールさん。

「もちろん伝えたし、調べます。ご協力感謝。とまで言われたよ」
 これは異な事。そんな話が話題になった事はない。地方の役所だけで、対処したのかな? でも、エルンさん達の調査でも、ラゴットの問題は解決していない。一定の距離を保って監視をした方がよいという判断だったし。
 これはますます、首を突っ込まない方がいいですな。

「しかし、おかしなもんだよな」
 葉煙草をグッと手で握ってから火を消して、整備長が甲板に置いた携帯灰皿に吸い殻を入れつつ、主語のない発言。
 なのでそれを欲する僕は、
「何がおかしいんです?」
 と、直ぐに返す。

「タリスマンだよ。いくら稼げるからって、あんなに大量に作って、それで粗悪品ばかりじゃ、信頼も利益も失うだろ」

「理解出来ないですよね。でも、商人さん達には評価が高いですよね」

「一応、誠意ある対応はしてるもんな。だが、何がしたいのか全く見えないな」
 いや、本当に。なんのメリットが有るのか分からない。
 一応、官庁でラゴットの問題を耳にしているか、聞いてみてもいいかもしれない。
 聞くとするなら、ゲイアードさん辺りが無難だろう。

「ロールさんも、深く考えないでくださいね」

「分かってるよ。私たちじゃなにかあっても対応が限られるからね」
 襲われましたじゃ、しゃれにならないからね。
 でも、ロールさんは対応限られてるっていっても、本当に危なかったら、【助けてくださいお兄様】で、邪神が降臨してくれるからね。
 襲われても問題ないな。
 邪神が発狂しながら、暴れ回るで全て解決だろうから。
 本当に便利な召喚獣だな、邪神――――。

「こんな話はもう終いだ。何か問題があった時に、徹底的に調べればいい。俺たちの立ち位置は後手後手に回ってしまうのがネックだが。その分、動く時には権力を大々的に行使出来るからな」
 流石は整備長。
 権力を笠に着るのが十八番なだけあって、余裕の声だ。説得力が違う。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...