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洋上
PHASE-05
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「商船の護衛って、大変ですか」
甲板に座ってから、ロールさんが質問。
美しい女性の問いかけとなれば、寝そべっているのは失礼と、座って居住まいを正す。
「大変ですとも」
商船は出来るだけ荷を運びたい。しわいところは、最低人数で船を動かし、その分の空きに、更に荷を積むって事も多いそうで、人数は少ない、荷は多いとなると、それを事前に察知した、鼻のいい海賊がそれを狙ってくるそうで、少ない人数で海賊達から荷を守るのは大いに大変な事だと愚痴をこぼす。
「見てくれ」
もう、女性の前で上着を無造作に脱がないでくださいよ。セクハラですよ。
――……なんか、こういうの見せられると、死線をくぐり抜けて来ているなという事がよく分かるよ。
筋肉の塊であるドレークさんの上半身は、刀傷に矢傷と、見ているだけで、痛々しくなる。
とくに、左の鎖骨から右の脇腹まで通る刀傷には震えてしまう。ついつい自分の鎖骨を手で押さえてしまった。
「仕事ってのは何でも大変だろうけどな。俺も、しっかりと勉強しとけばよかったな。こんな危険で薄給の仕事しなくて済んだのに」
僕たちを見て、愚痴っぽく自分の現状を呟く。
「多種多様な仕事があって、そこで頑張ってる人たちがいるから、世の中は回るんですよ。仕事に上や下と区別しては駄目です」
そこそこの語気で、ロールさんが説教。
どんな仕事でも、励んでいる方は美しい。それを馬鹿にする人間を嫌悪する。いかにもロールさんらしい考え。
「これは、一本参った」
精進させてもらいますと、深々と頭さげてるよ。
「薄給とか言ってますけど、出すとこは出すでしょ?」
それこそ僕たちが月に稼ぐ金額を、数日で稼いだりもするはずなんだよね。
「そりゃあるさ。ラゴットってあるだろ。あそこは羽振りがいい」
おう、まさか、こんな洋上で卸問屋のラゴットの名が出て来るとは思わなかった。
「そんなに、金額が大きかったんですか」
「でかいよ。タリスマンをよそに運ぶやつだったが、往復一月の船旅で、三十万ギルダーだぜ」
げえ、僕の一年間分以上を一ヶ月で越えるんだ。薄給じゃないじゃないか。
年に一回、毎年、輸送護衛をやってたそうで、今に比べたら、以前のドレークさんは羽振りがよかったそうだ。
「今はやってないみたいな物言いだな」
紫煙を燻らせながら、船端に背中を預けた姿勢で、葉煙草を一本ドレークさんに差し出しながら問う。
感謝とばかりに右手で拝む所作をして、いただくと、口に咥え火をもらい、ゆっくりと葉煙草の味を堪能しつつ、
「去年から、ラゴットの仕事は受けてないんだ」
「どうして? 羽振りがいいんんだろ」
双方、口から煙を上げながら言葉を交わす。
「あそこは駄目だ。今は駄目になっちまった」
首を左右に振りつつ、落胆。
何が駄目なのかと、身を乗り出したのがロールさん。
いきなりの美人様の急接近に背を反らしている。勿体ない。至近で美人を堪能出来るのに。
輸送護衛中に、質の悪いタリスマンを売るという内容を耳にし、しかもそれを悪びれもせずに談笑していたそうだ。
最初は船員達が酒に酔って、冗談を言っていただけだと、その時は気にもとめなかったそうだけども、その積み荷を降ろしてからしばらく経過して、拠点である湾港都市ネーガルで直ぐに情報が飛び交ったそうだ。
至る所で、ラゴットのタリスマンが暴走していると――、
まあ、それに対してラゴットは、誠意として多額の慰謝料を払っているという事で、この話はラゴットに対する不満よりも、出来た卸問屋だという内容の話として商人さん達は言葉を交わしていたそうだ。
でも、ドレークさんは、その積み荷の護衛をしていて、尚且つ船員達の酔った話が真実だった事から、ラゴットは知っていてそれを行っていると理解し、それからは報酬はよくても信頼出来ないとして、護衛を受けなくなったそうだ。
「その事は、ちゃんと伝えてますか」
「役所とかにかい?」
首肯のロールさん。
「もちろん伝えたし、調べます。ご協力感謝。とまで言われたよ」
これは異な事。そんな話が話題になった事はない。地方の役所だけで、対処したのかな? でも、エルンさん達の調査でも、ラゴットの問題は解決していない。一定の距離を保って監視をした方がよいという判断だったし。
これはますます、首を突っ込まない方がいいですな。
「しかし、おかしなもんだよな」
葉煙草をグッと手で握ってから火を消して、整備長が甲板に置いた携帯灰皿に吸い殻を入れつつ、主語のない発言。
なのでそれを欲する僕は、
「何がおかしいんです?」
と、直ぐに返す。
「タリスマンだよ。いくら稼げるからって、あんなに大量に作って、それで粗悪品ばかりじゃ、信頼も利益も失うだろ」
「理解出来ないですよね。でも、商人さん達には評価が高いですよね」
「一応、誠意ある対応はしてるもんな。だが、何がしたいのか全く見えないな」
いや、本当に。なんのメリットが有るのか分からない。
一応、官庁でラゴットの問題を耳にしているか、聞いてみてもいいかもしれない。
聞くとするなら、ゲイアードさん辺りが無難だろう。
「ロールさんも、深く考えないでくださいね」
「分かってるよ。私たちじゃなにかあっても対応が限られるからね」
襲われましたじゃ、しゃれにならないからね。
でも、ロールさんは対応限られてるっていっても、本当に危なかったら、【助けてくださいお兄様】で、邪神が降臨してくれるからね。
襲われても問題ないな。
邪神が発狂しながら、暴れ回るで全て解決だろうから。
本当に便利な召喚獣だな、邪神――――。
「こんな話はもう終いだ。何か問題があった時に、徹底的に調べればいい。俺たちの立ち位置は後手後手に回ってしまうのがネックだが。その分、動く時には権力を大々的に行使出来るからな」
流石は整備長。
権力を笠に着るのが十八番なだけあって、余裕の声だ。説得力が違う。
甲板に座ってから、ロールさんが質問。
美しい女性の問いかけとなれば、寝そべっているのは失礼と、座って居住まいを正す。
「大変ですとも」
商船は出来るだけ荷を運びたい。しわいところは、最低人数で船を動かし、その分の空きに、更に荷を積むって事も多いそうで、人数は少ない、荷は多いとなると、それを事前に察知した、鼻のいい海賊がそれを狙ってくるそうで、少ない人数で海賊達から荷を守るのは大いに大変な事だと愚痴をこぼす。
「見てくれ」
もう、女性の前で上着を無造作に脱がないでくださいよ。セクハラですよ。
――……なんか、こういうの見せられると、死線をくぐり抜けて来ているなという事がよく分かるよ。
筋肉の塊であるドレークさんの上半身は、刀傷に矢傷と、見ているだけで、痛々しくなる。
とくに、左の鎖骨から右の脇腹まで通る刀傷には震えてしまう。ついつい自分の鎖骨を手で押さえてしまった。
「仕事ってのは何でも大変だろうけどな。俺も、しっかりと勉強しとけばよかったな。こんな危険で薄給の仕事しなくて済んだのに」
僕たちを見て、愚痴っぽく自分の現状を呟く。
「多種多様な仕事があって、そこで頑張ってる人たちがいるから、世の中は回るんですよ。仕事に上や下と区別しては駄目です」
そこそこの語気で、ロールさんが説教。
どんな仕事でも、励んでいる方は美しい。それを馬鹿にする人間を嫌悪する。いかにもロールさんらしい考え。
「これは、一本参った」
精進させてもらいますと、深々と頭さげてるよ。
「薄給とか言ってますけど、出すとこは出すでしょ?」
それこそ僕たちが月に稼ぐ金額を、数日で稼いだりもするはずなんだよね。
「そりゃあるさ。ラゴットってあるだろ。あそこは羽振りがいい」
おう、まさか、こんな洋上で卸問屋のラゴットの名が出て来るとは思わなかった。
「そんなに、金額が大きかったんですか」
「でかいよ。タリスマンをよそに運ぶやつだったが、往復一月の船旅で、三十万ギルダーだぜ」
げえ、僕の一年間分以上を一ヶ月で越えるんだ。薄給じゃないじゃないか。
年に一回、毎年、輸送護衛をやってたそうで、今に比べたら、以前のドレークさんは羽振りがよかったそうだ。
「今はやってないみたいな物言いだな」
紫煙を燻らせながら、船端に背中を預けた姿勢で、葉煙草を一本ドレークさんに差し出しながら問う。
感謝とばかりに右手で拝む所作をして、いただくと、口に咥え火をもらい、ゆっくりと葉煙草の味を堪能しつつ、
「去年から、ラゴットの仕事は受けてないんだ」
「どうして? 羽振りがいいんんだろ」
双方、口から煙を上げながら言葉を交わす。
「あそこは駄目だ。今は駄目になっちまった」
首を左右に振りつつ、落胆。
何が駄目なのかと、身を乗り出したのがロールさん。
いきなりの美人様の急接近に背を反らしている。勿体ない。至近で美人を堪能出来るのに。
輸送護衛中に、質の悪いタリスマンを売るという内容を耳にし、しかもそれを悪びれもせずに談笑していたそうだ。
最初は船員達が酒に酔って、冗談を言っていただけだと、その時は気にもとめなかったそうだけども、その積み荷を降ろしてからしばらく経過して、拠点である湾港都市ネーガルで直ぐに情報が飛び交ったそうだ。
至る所で、ラゴットのタリスマンが暴走していると――、
まあ、それに対してラゴットは、誠意として多額の慰謝料を払っているという事で、この話はラゴットに対する不満よりも、出来た卸問屋だという内容の話として商人さん達は言葉を交わしていたそうだ。
でも、ドレークさんは、その積み荷の護衛をしていて、尚且つ船員達の酔った話が真実だった事から、ラゴットは知っていてそれを行っていると理解し、それからは報酬はよくても信頼出来ないとして、護衛を受けなくなったそうだ。
「その事は、ちゃんと伝えてますか」
「役所とかにかい?」
首肯のロールさん。
「もちろん伝えたし、調べます。ご協力感謝。とまで言われたよ」
これは異な事。そんな話が話題になった事はない。地方の役所だけで、対処したのかな? でも、エルンさん達の調査でも、ラゴットの問題は解決していない。一定の距離を保って監視をした方がよいという判断だったし。
これはますます、首を突っ込まない方がいいですな。
「しかし、おかしなもんだよな」
葉煙草をグッと手で握ってから火を消して、整備長が甲板に置いた携帯灰皿に吸い殻を入れつつ、主語のない発言。
なのでそれを欲する僕は、
「何がおかしいんです?」
と、直ぐに返す。
「タリスマンだよ。いくら稼げるからって、あんなに大量に作って、それで粗悪品ばかりじゃ、信頼も利益も失うだろ」
「理解出来ないですよね。でも、商人さん達には評価が高いですよね」
「一応、誠意ある対応はしてるもんな。だが、何がしたいのか全く見えないな」
いや、本当に。なんのメリットが有るのか分からない。
一応、官庁でラゴットの問題を耳にしているか、聞いてみてもいいかもしれない。
聞くとするなら、ゲイアードさん辺りが無難だろう。
「ロールさんも、深く考えないでくださいね」
「分かってるよ。私たちじゃなにかあっても対応が限られるからね」
襲われましたじゃ、しゃれにならないからね。
でも、ロールさんは対応限られてるっていっても、本当に危なかったら、【助けてくださいお兄様】で、邪神が降臨してくれるからね。
襲われても問題ないな。
邪神が発狂しながら、暴れ回るで全て解決だろうから。
本当に便利な召喚獣だな、邪神――――。
「こんな話はもう終いだ。何か問題があった時に、徹底的に調べればいい。俺たちの立ち位置は後手後手に回ってしまうのがネックだが。その分、動く時には権力を大々的に行使出来るからな」
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