155 / 604
洋上
PHASE-08
しおりを挟む
「来たんじゃないか!?」
ドレークさんの興奮がまざる声に、周囲もドッと沸く。
急いでロールさんがリールを回そうとすると、
「「「「待て!」」」」
ドレークさんを含め、釣りの経験者たちから、まだ早いと制止の声が一斉に上がった。
素直にそれに従うと、そのまま放置――――。
糸の引きが甘くなったところで、
「「「「今! でも、ゆっくりね」」」」
見事と言うべきか、釣りバカさん達の声は綺麗にシンクロする。
ゆっくりとリールを回しては、暴れる感覚がロッドから手に伝わってくるのを確認したら、また糸を獲物に引かせる。
それを、延々と繰り返させる。
精神面の勝負事だな。短気には間違いなく向かないものだね――、釣りって。
この動作だけで、一刻は費やしてる。
「そろそろだな」
と、ドレークさんが口にすると、いつの間にかロールさんに接近した、釣りバカさん達が首肯で返し、
「リール、回して回して! 力一杯」
高速でリールを回しつつ、ロッドを自分の方に引く。回しては引きを繰り返すと、穏やかな海面からしぶきを上げ勢いよく飛び出て来る大きな物体。
「「「「ミスリルカジキだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
ここまで、常にシンクロすると、最早、伝統芸だよ……。
相当の大物の姿に、興奮が凄い。
いい歳したおっさん達が飛び跳ねて、近くにいる方々と抱擁している。
船尾の大騒ぎに、何事かと更に人が集まり始めた。
上顎がランスのように伸びた吻。その吻がミスリル銀のように青白く輝き、また、ミスリル並の硬度を持つ事から、その様な名が付いたそうだ。
「跳ねてる。跳ねてる。大きいぞ!」
興奮するドレークさんと、周囲で手に汗握る釣りバカさん達。引いて、緩めてを連呼。
それに従って、丁寧にロッドを動かして、リールを回している。
渾身の力で挑んでいるのだろう。頬を伝う汗の粒は大きい。海中に潜られると、そうはさせないとロッドを引いて、リールを高速で回し、海上に飛び出せば、少し力を弛緩させる。
少しでも自分の体力を消費しないようにしながら、獲物に疲労を蓄積させていく。
よくもこんな事を一刻も出来るもんだ。細い腕の女性とは思えない。
「来た来た! 近づいて来た」
「ですよね。これ一気に行きます?」
「「まだまだ」」
横に立つドレークさんにアドバイスをもらえば、背後から首を激しく横に振って、尚早と伝えてくる、釣りバカさん方。
「わかりました」
と、振り返って笑みを見せれば、汗を流す美人様の微笑みに見とれつつ、ポカーンと口を開いている。
流れる汗って、妙に色っぽさがあるものね。分かりますよ、貴方方の気持ち。
――――。
何という死闘。
さらに一刻。朝から始めた釣りは、昼を過ぎている。そのかん一度も休む事なく格闘しているロールさんに、更に増えたギャラリーは感動すら覚えたようで、感涙の方もおられる。
ご家族の方が〝食事は?〟と聞いてきても、釣りバカな旦那さんは〝美人さんが、食事も取らずに、必死になってるのに俺だけ食えるか!〟って、怒らなくてもいいのに、奥さんや子供に大音声。
「ロールさんオレンジエードです」
僕の仕事は、汗を流して格闘するロールさんの口元に、水筒を近づける事。
「ありがとう」
コクコクと飲みつつ、
「ふぅ」
喉を潤し艶っぽく一息漏らすと、周囲の男性陣はそれだけで心奪われてしまっている。
極上の美人様が、大物をヒットさせて、細い腰と下半身で耐えている姿が、たまらないようだ。
――――更に半刻が経過したころに、
「一気にいきますね」
流石にこの長い時間、格闘をしている相手の動きを把握したロールさんは、ここが勝負どころでは? と、周囲に賛同を得るように問うと、皆さん激しい動きの首肯で返してきた。
獲物がもうすぐ船に上がるという興奮から挙動がいちいち大げさだ。
ロッドを操るのも様になっている。
美しい上に、かっこよさまで手に入れようとしてませんか? 男性陣だけでなく、女性陣まで見惚れている。
あれだな。これはお姉様ってよばれそうな感じだ。めくるめく百合の世界を想像してしまう。それはそれで――――――、有りだな!
なんて事を考えていたら。
「あと少し」
ロールさんが興奮している。
ザバァァァァアと、海上に飛び出してくる迫力ある音が耳朶にしっかりと入ってきた。これはいよいよ終局だ。
だが、宿敵はここでやられてやるものかと、胴部を左右に激しく揺らして抵抗を見せる。
「あ……」
何かが起こったのか、声を漏らすと、ガチンと、金属音が続く。
音の源に目を向ければ、船端に固定していたロッドホルダーが外れて壊れた。
いきなりロッドだけで、獲物の質量全てを支えなければならなくなったロールさんは、海の方に引きずられていく。
それを誰よりも早く理解した僕は、急いでロールさんの後ろに立って、細い腰をがっちりとホールド。
「竿を放してください!」
このままだと海に落ちてしまうので、諦めて欲しいと頼んでみるけども。
「ここまで来て、それは出来ないよ」
と、釣りたいという欲なのか。相手に負けたくないのか。
――間違いなく後者だろう。
突っぱねられた。
「じゃあ、僕も手伝いますからね」
「お願い。共同作業だね」
共同作業――――。
なんて素敵な響きの。共同作業。結婚式みたいじゃないですか。もう、夫婦になりませんか? そしたら、添い寝も当たり前の事だし。
ドレークさんの興奮がまざる声に、周囲もドッと沸く。
急いでロールさんがリールを回そうとすると、
「「「「待て!」」」」
ドレークさんを含め、釣りの経験者たちから、まだ早いと制止の声が一斉に上がった。
素直にそれに従うと、そのまま放置――――。
糸の引きが甘くなったところで、
「「「「今! でも、ゆっくりね」」」」
見事と言うべきか、釣りバカさん達の声は綺麗にシンクロする。
ゆっくりとリールを回しては、暴れる感覚がロッドから手に伝わってくるのを確認したら、また糸を獲物に引かせる。
それを、延々と繰り返させる。
精神面の勝負事だな。短気には間違いなく向かないものだね――、釣りって。
この動作だけで、一刻は費やしてる。
「そろそろだな」
と、ドレークさんが口にすると、いつの間にかロールさんに接近した、釣りバカさん達が首肯で返し、
「リール、回して回して! 力一杯」
高速でリールを回しつつ、ロッドを自分の方に引く。回しては引きを繰り返すと、穏やかな海面からしぶきを上げ勢いよく飛び出て来る大きな物体。
「「「「ミスリルカジキだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
ここまで、常にシンクロすると、最早、伝統芸だよ……。
相当の大物の姿に、興奮が凄い。
いい歳したおっさん達が飛び跳ねて、近くにいる方々と抱擁している。
船尾の大騒ぎに、何事かと更に人が集まり始めた。
上顎がランスのように伸びた吻。その吻がミスリル銀のように青白く輝き、また、ミスリル並の硬度を持つ事から、その様な名が付いたそうだ。
「跳ねてる。跳ねてる。大きいぞ!」
興奮するドレークさんと、周囲で手に汗握る釣りバカさん達。引いて、緩めてを連呼。
それに従って、丁寧にロッドを動かして、リールを回している。
渾身の力で挑んでいるのだろう。頬を伝う汗の粒は大きい。海中に潜られると、そうはさせないとロッドを引いて、リールを高速で回し、海上に飛び出せば、少し力を弛緩させる。
少しでも自分の体力を消費しないようにしながら、獲物に疲労を蓄積させていく。
よくもこんな事を一刻も出来るもんだ。細い腕の女性とは思えない。
「来た来た! 近づいて来た」
「ですよね。これ一気に行きます?」
「「まだまだ」」
横に立つドレークさんにアドバイスをもらえば、背後から首を激しく横に振って、尚早と伝えてくる、釣りバカさん方。
「わかりました」
と、振り返って笑みを見せれば、汗を流す美人様の微笑みに見とれつつ、ポカーンと口を開いている。
流れる汗って、妙に色っぽさがあるものね。分かりますよ、貴方方の気持ち。
――――。
何という死闘。
さらに一刻。朝から始めた釣りは、昼を過ぎている。そのかん一度も休む事なく格闘しているロールさんに、更に増えたギャラリーは感動すら覚えたようで、感涙の方もおられる。
ご家族の方が〝食事は?〟と聞いてきても、釣りバカな旦那さんは〝美人さんが、食事も取らずに、必死になってるのに俺だけ食えるか!〟って、怒らなくてもいいのに、奥さんや子供に大音声。
「ロールさんオレンジエードです」
僕の仕事は、汗を流して格闘するロールさんの口元に、水筒を近づける事。
「ありがとう」
コクコクと飲みつつ、
「ふぅ」
喉を潤し艶っぽく一息漏らすと、周囲の男性陣はそれだけで心奪われてしまっている。
極上の美人様が、大物をヒットさせて、細い腰と下半身で耐えている姿が、たまらないようだ。
――――更に半刻が経過したころに、
「一気にいきますね」
流石にこの長い時間、格闘をしている相手の動きを把握したロールさんは、ここが勝負どころでは? と、周囲に賛同を得るように問うと、皆さん激しい動きの首肯で返してきた。
獲物がもうすぐ船に上がるという興奮から挙動がいちいち大げさだ。
ロッドを操るのも様になっている。
美しい上に、かっこよさまで手に入れようとしてませんか? 男性陣だけでなく、女性陣まで見惚れている。
あれだな。これはお姉様ってよばれそうな感じだ。めくるめく百合の世界を想像してしまう。それはそれで――――――、有りだな!
なんて事を考えていたら。
「あと少し」
ロールさんが興奮している。
ザバァァァァアと、海上に飛び出してくる迫力ある音が耳朶にしっかりと入ってきた。これはいよいよ終局だ。
だが、宿敵はここでやられてやるものかと、胴部を左右に激しく揺らして抵抗を見せる。
「あ……」
何かが起こったのか、声を漏らすと、ガチンと、金属音が続く。
音の源に目を向ければ、船端に固定していたロッドホルダーが外れて壊れた。
いきなりロッドだけで、獲物の質量全てを支えなければならなくなったロールさんは、海の方に引きずられていく。
それを誰よりも早く理解した僕は、急いでロールさんの後ろに立って、細い腰をがっちりとホールド。
「竿を放してください!」
このままだと海に落ちてしまうので、諦めて欲しいと頼んでみるけども。
「ここまで来て、それは出来ないよ」
と、釣りたいという欲なのか。相手に負けたくないのか。
――間違いなく後者だろう。
突っぱねられた。
「じゃあ、僕も手伝いますからね」
「お願い。共同作業だね」
共同作業――――。
なんて素敵な響きの。共同作業。結婚式みたいじゃないですか。もう、夫婦になりませんか? そしたら、添い寝も当たり前の事だし。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる