拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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洋上

PHASE-10

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 何の冗談を、これだけの大物を釣り上げたんだから、ここはサイズを記録して、ありがたく恵みをいただくべきだと、説得をはじめる方々。
 折角、鮪包丁まで持ってきたのに、それはないぜと、ドレークさんも説得に参戦。
 僕は肩を竦めて状況を見るだけだ。
 
 もう、決定している事だ。ロールさんがそう言うなら、変更はない。
 海に帰すとなったら、帰す。
 邪神相手にもぶれない方が、そう言うんだから決定は覆らない。それでも必死になって食いつく方々。この方々に対してサビキ釣りをすれば、大漁間違いなしの食いつきだ。
 僕は苦笑いで、首をやれやれと左右に振る。
 
「十分にある食料に加えて、更に欲張るのはよくないですよ」

「でも、コレを釣るのに三刻は注ぎ込んだぜ。勿体ない」

「勿体なくないですよ。三刻の間、釣りを経験出来ましたから」
 にっこり笑顔でドレークさんに返すと、理解したのだろう。ああ――、この笑顔を向ける女性には、これ以上言っても、首を縦には振ってくれないな。――と。
 美しい女性の好感度をわざわざ下げる事もないと、鮪包丁を木鞘に戻してから、獲物である、押さえ込まれているミスリルカジキの前に移動すると。

「女神様が海に帰すそうだ。皆、手伝ってくれ」
 筋骨隆々な方の発言に、渋々と抱え上げる皆さん。

「ごめんね。今、帰してあげるね」
 優しく、頭部分を撫でてる。
 僕としては、手が生臭くなるから、止めた方がいいですよ。と言いたいけども、長い時間を過ごした好敵手を侮辱する発言になるから、口は一文字のままにしていた。
 
 ――――カラーンと、小気味のいい音が甲板に響くと、
「「「「おお!」」」」
 どよめく。

「え、え? これ、私が頭を撫でたせいですか? ごめんね……」
 慌てるロールさん。足下にはミスリルカジキの吻が転がっている。
 自分が頭を撫でたのが原因で、取れてしまったと思っている。

「いや、違うよ」
 と、釣りバカな方。
 どうやらミスリルカジキは、認めた存在がいると、吻を捧げるそうな。
 まあ、まず、突っ込みたいのは、魚なのに、そんな知能があるの? もし、そんな知能があるなら、皆で押さえつけて、食べる事を目的としていた時点で、どれだけの恐怖をこのカジキに味わわせてたのか。
 そう考えると、残酷すぎるんですが……。
 食べなくてよかったと、普段、肉も魚も食べてる人間の都合のいいエゴが出てしまった。

「これ、もらっていいんですか?」

「もらっときなよ。高額で売れるぞ」
 大きく頷いて、所有権はロールさんと、周囲に伝えるように大げさな動きのドレークさん。
 まあ、誰も盗もうなんて考えてないでしょうけども、念のために、念押ししたといったところか。
 ミスリルと同じくらいの硬度らしいですもんね。形状もランスその物だし。このまま武器として使えるから、欲しい方も多いだろうけど、ここにいる方々は富裕層だから、わざわざ盗もうなんて考えもよぎらないでしょう。
 なんで、僕とかロールさんに、持っていても仕方の無いのが転がり込んでくるのか……。勇者にこの恩恵があればいいのに。

「じゃあ、ばいばい」
 ロールさんの言葉を合図に、ドレークさん達が海に帰してあげる。
 頭部から海に入ると、勢いよく船から離れていき、別れを伝えるかのように、高く海面に跳ね上がり、去って行った。

「慈悲深き女神様に」
 甲板に転がる吻を手にして、ドレークさんが手渡す。

「軽いですね」

「だろ、軽いのに強靱。人気のある物だから、乱獲も多くてな。あれだけの大きなミスリルカジキは俺も見た事ない」
 貴重品を手に入れ、船員さんが金庫で預かってくれるそうで、一礼して、預かってもらった。
 僕としては、乱獲されてるのを口にしなくてよかったというのが、素直な感想。

「その吻を持ってると、海の神様に愛されるそうだからね。家宝にでもするといい」
 あのね、釣りバカな富裕層の方。神様に愛されてるどころか、溺愛されてる方に、いま貴男は発言をしているわけですよ。
 神といっても邪神ですけども。とっても残念だけど、とっても強い邪神にですね、ロールさんは溺愛されてるんです。
 それに、ロールさん自身が神なんで。邪神崇拝している方々に、女神として崇められてるんで。実を言うと、ロールさんて、凄い方なんですよ。ドレークさんも知らず知らずに女神様発言してるし。
 そんな凄い方だけども、潮風を思いっ切り浴びたロールさんは、体がベタベタと困っている。
 一等客室の方のご厚意で、お風呂をいただける事になったそうで、カジキ釣った時よりも大喜びな表情。
 無論、旦那さんが変な気を起こさないために、奥さんがロールさんの入浴中は、完璧に見張ってくれるそうだ。
 富裕層だけども、良い方ばかりだ。庶民を見下してくる人なんかが多いのかと思ったけど、僕の考えが狭くて寂しいようだね。穿った見方に磨きをかけないとね。
 
 ロールさんが一日で有名になったものだから、二等客室でも、初日と違って、皆さん親しく話しかけてくださるようになった。
 
 ――――。

 夕方だってのに、このおっさんは……。
 皆さん良い方。おっさん駄目な方。
 僕に悪夢を見せたおっさんは、未だに夢の中だ。
 おっさん、もしかして起こさなければ、ずっと寝てるのかな?

「まったく」
 邪な考えを抱いた僕が悪かったけども、昨夜の恨みはあるわけで――、
「起きてくださいよ」
 ゲシゲシと、そこそこな強さで踏みつけてやる。
 
 ――――――はは、なんか楽しくなってきたぞ。

「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 僕の脚部に闘気が――、みぃぃぃぃぃなぁぁぁぁぁぁぁぎぃぃぃぃぃぃるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

報仇雪恨ほうきゅうせっこん!」
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