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異文化
PHASE-03
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「やはり珍しいですか?」
併走する駕籠から、ライゴウさんが僕に話しかけてくる。純粋に、そうですね。と、返してあげた。
――。
ん? なにやら、えらく長い木造の建物が目に入ってきた。井戸の辺りに集まって、着物を着た女性陣が談笑している。
「あれってなんです?」
「長屋ですね」
「長屋ですか」
――説明を受ける。
どうやら、僕が住んでいる多層型共同住宅のようなものだ。
二階建てとかじゃないんだな。一階建ての横に長い建物がいくつも並んでる。テラスハウスみたいなもんか。土地が豊かなのかな? 島国なのに。
建物自体は簡素な木造だけども、しっかりしている造りではある。無駄がないんだな。
様式美より、機能美に特化した造りか。
「なるほどね~」
ついつい感嘆の声を漏らす。長屋なるテラスハウスは無駄を作らず、連帯感を強めるにはよいものだ。
僕が住んでるところは、ケーシ―さんとは親交は深いけど、お隣とは関係をあまり持っていない。
隔絶されてるよな。多層型共同住宅って。
また、あの井戸の存在が活かされてるんだな。水を一カ所で共有する事で、ああやって会話が自然と発生して信頼感が生まれる。危機的状況が発生したら、出来上がった連帯感で立ち向かえるな。
王都は水道が行き届いてるから、蛇口をひねるだけの簡単なものだしな。
利便性が向上すれば、人との繋がりが希薄となる。
便利になればいいってもんじゃない。というのを教えられるな、ワギョウ。
――――。
駕籠に揺られて進んでいくと、立派な漆喰の壁がお目見え。先ほどまでの土壁じゃなく、しっかりとした白亜の壁が長く続いている。
「もうすぐです」
てことは、この壁の向こう側が目的地の奉行所ってところかな。
更に進むと、衛兵の方が目に入ってくる。槍くらいの長さの棒を持ってらっしゃる。
「ご苦労。開門」
衛兵の方よりは位は高いようだね。与力って。
――――木製の大きな門が、重厚な音と共に開いていく。
「では、ここからは歩きとなります」
門から先は、駕籠を担いでた方々は入れないようだ。労ってから帰っていただいている。
本当に商売だったんだな。奴隷じゃないのかなと、半信半疑だったけども。
門をくぐれば――、
「へ~」
ちゃんとした石畳じゃないか。敷石以外の所は、砂利が敷かれているし。使用されているのは、見た目も美しい、白色の玉砂利だ。整ってるね。場所場所ではちゃんとしてるな――。
「いだ!?」
なぜかロールさんが、僕の脇腹に肘打ちを、軽めに打ち込んできた。
油断していたから、そこそこ痛かった……。
「なんか、この国の文化を下に見てない?」
まったくも~。なんでこの人には僕の気持ちが筒抜けなのか。僕の気持ちが理解出来るなんて、もう、夫婦になるしかないよ。
でも、そこそこ怖い顔で見てきている。ここで適当な事を言うと、火に油なので、
「はい、建築や街路の造りとかで、そう見てました」
素直に言う事で、怒られない。
なので――、反撃に打って出てみる。
「ロールさんも、駕籠の方達を見て、最初は奴隷制と考えて、野蛮だな。とか思ってたでしょ?」
「う……」
痛いところを突かれたみたいに、身をたじろがせた。
そんな些細な動作でも、可愛いから困る。
「はい、そこは反省しています」
と、僕に頭を下げてきた。
はい、美人なので許します。
「俺も、最初そう思ってたんだよな~」
はい、タバコ臭いので、許しません。
――――前を行くライゴウさんに、奉行所内にいる方々が頭を下げております。
あれ、言い方悪いけど、使いっ走りじゃないの? 与力って?
衛兵の方もそうだったし、やっぱり、高い地位なのだろうか?
「こちらでしばしお待ちを、足でも伸ばして、おくつろぎ下さい」
靴を脱いでから通路を少々歩き、建具の開かれる先に誘導された。
室内は、畳みの座敷だ。この辺りはバッカスでも体験しているから、新鮮味はない。
でも、このイグサの香りは結構好き。
お言葉に甘えて、三人して腰を降ろす。
――――って、正直そんな事はどうでもいい。今、僕の心を奪っているのは、ここに誘導されるまでの通路から、この室内でも目にする、開閉部分の建具だ。
「では――」
ライゴウさんが正座してから頭を下げて、建具を閉じる。影がここから離れていくのを確認すると、高速で僕とロールさんが動く。
「ピート君これ……」
「そうですよ。紙ですよ! 確かにワギョウは和紙でも有名ですけども。嘘でしょ!? 建具全体に、紙が使われてますよ!!」
「触っただけで分かるよ。これ、とんでもなく高級な物だよ!」
「何ですか! この肌触り。普段、僕たちが使っているパピルスや、羊皮紙と比べものにならない心地よさ」
隣接する部屋や通路を仕切るように設けられている四方を囲う建具の全てに、紙が使用されている。
やだ~。手で軽く押せば、ハリがあって、柔らかな手触りなのに、押し返してくるこの感じ。高級品ですよ。高級品をアホみたいに、部屋の四方に張り巡らせてますよ。
これは、この部屋に入らせて、財力を潤沢に保有している国だという事を、暗に分からせる腹積もりか?
きっとそうに決まっている!
大体、部屋周りに紙を使うっていう考えがまず考えられないもの。これは他国から来た人間を驚嘆させる為の、威圧行為と考えるべきだ。
併走する駕籠から、ライゴウさんが僕に話しかけてくる。純粋に、そうですね。と、返してあげた。
――。
ん? なにやら、えらく長い木造の建物が目に入ってきた。井戸の辺りに集まって、着物を着た女性陣が談笑している。
「あれってなんです?」
「長屋ですね」
「長屋ですか」
――説明を受ける。
どうやら、僕が住んでいる多層型共同住宅のようなものだ。
二階建てとかじゃないんだな。一階建ての横に長い建物がいくつも並んでる。テラスハウスみたいなもんか。土地が豊かなのかな? 島国なのに。
建物自体は簡素な木造だけども、しっかりしている造りではある。無駄がないんだな。
様式美より、機能美に特化した造りか。
「なるほどね~」
ついつい感嘆の声を漏らす。長屋なるテラスハウスは無駄を作らず、連帯感を強めるにはよいものだ。
僕が住んでるところは、ケーシ―さんとは親交は深いけど、お隣とは関係をあまり持っていない。
隔絶されてるよな。多層型共同住宅って。
また、あの井戸の存在が活かされてるんだな。水を一カ所で共有する事で、ああやって会話が自然と発生して信頼感が生まれる。危機的状況が発生したら、出来上がった連帯感で立ち向かえるな。
王都は水道が行き届いてるから、蛇口をひねるだけの簡単なものだしな。
利便性が向上すれば、人との繋がりが希薄となる。
便利になればいいってもんじゃない。というのを教えられるな、ワギョウ。
――――。
駕籠に揺られて進んでいくと、立派な漆喰の壁がお目見え。先ほどまでの土壁じゃなく、しっかりとした白亜の壁が長く続いている。
「もうすぐです」
てことは、この壁の向こう側が目的地の奉行所ってところかな。
更に進むと、衛兵の方が目に入ってくる。槍くらいの長さの棒を持ってらっしゃる。
「ご苦労。開門」
衛兵の方よりは位は高いようだね。与力って。
――――木製の大きな門が、重厚な音と共に開いていく。
「では、ここからは歩きとなります」
門から先は、駕籠を担いでた方々は入れないようだ。労ってから帰っていただいている。
本当に商売だったんだな。奴隷じゃないのかなと、半信半疑だったけども。
門をくぐれば――、
「へ~」
ちゃんとした石畳じゃないか。敷石以外の所は、砂利が敷かれているし。使用されているのは、見た目も美しい、白色の玉砂利だ。整ってるね。場所場所ではちゃんとしてるな――。
「いだ!?」
なぜかロールさんが、僕の脇腹に肘打ちを、軽めに打ち込んできた。
油断していたから、そこそこ痛かった……。
「なんか、この国の文化を下に見てない?」
まったくも~。なんでこの人には僕の気持ちが筒抜けなのか。僕の気持ちが理解出来るなんて、もう、夫婦になるしかないよ。
でも、そこそこ怖い顔で見てきている。ここで適当な事を言うと、火に油なので、
「はい、建築や街路の造りとかで、そう見てました」
素直に言う事で、怒られない。
なので――、反撃に打って出てみる。
「ロールさんも、駕籠の方達を見て、最初は奴隷制と考えて、野蛮だな。とか思ってたでしょ?」
「う……」
痛いところを突かれたみたいに、身をたじろがせた。
そんな些細な動作でも、可愛いから困る。
「はい、そこは反省しています」
と、僕に頭を下げてきた。
はい、美人なので許します。
「俺も、最初そう思ってたんだよな~」
はい、タバコ臭いので、許しません。
――――前を行くライゴウさんに、奉行所内にいる方々が頭を下げております。
あれ、言い方悪いけど、使いっ走りじゃないの? 与力って?
衛兵の方もそうだったし、やっぱり、高い地位なのだろうか?
「こちらでしばしお待ちを、足でも伸ばして、おくつろぎ下さい」
靴を脱いでから通路を少々歩き、建具の開かれる先に誘導された。
室内は、畳みの座敷だ。この辺りはバッカスでも体験しているから、新鮮味はない。
でも、このイグサの香りは結構好き。
お言葉に甘えて、三人して腰を降ろす。
――――って、正直そんな事はどうでもいい。今、僕の心を奪っているのは、ここに誘導されるまでの通路から、この室内でも目にする、開閉部分の建具だ。
「では――」
ライゴウさんが正座してから頭を下げて、建具を閉じる。影がここから離れていくのを確認すると、高速で僕とロールさんが動く。
「ピート君これ……」
「そうですよ。紙ですよ! 確かにワギョウは和紙でも有名ですけども。嘘でしょ!? 建具全体に、紙が使われてますよ!!」
「触っただけで分かるよ。これ、とんでもなく高級な物だよ!」
「何ですか! この肌触り。普段、僕たちが使っているパピルスや、羊皮紙と比べものにならない心地よさ」
隣接する部屋や通路を仕切るように設けられている四方を囲う建具の全てに、紙が使用されている。
やだ~。手で軽く押せば、ハリがあって、柔らかな手触りなのに、押し返してくるこの感じ。高級品ですよ。高級品をアホみたいに、部屋の四方に張り巡らせてますよ。
これは、この部屋に入らせて、財力を潤沢に保有している国だという事を、暗に分からせる腹積もりか?
きっとそうに決まっている!
大体、部屋周りに紙を使うっていう考えがまず考えられないもの。これは他国から来た人間を驚嘆させる為の、威圧行為と考えるべきだ。
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