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ITADAKI-頂-
PHASE-11
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フィットは刀剣しか扱えない。魔法なんて出来ない。徒手空拳もかじった程度。
対してサージャスは、魔術学都市クリネアで魔法能力の才能を賞賛され。
剣術においてもフィットに勝利し、しかも本来は魔法だけでなく、剣術と織り交ぜた魔法剣も使用出来る。
不死王を驚嘆させ、王都を危険分子から救った体術。
五年早く生まれ、同じように修練を重ね。魔道の才はない事から、剣術だけをひたむきに行ってきたのに、五つ下のサージャスに敗れる。
五年の差をもってしても、全てにおいて仰ぎ見なければいけないと思える感情は、嫉妬などではなく、自分では到達出来ないところに登れる人物だと、純粋に羨むものだった。
なぜ、自分はそれだけの事が出来なかったのだろう。
もっとやり方があったのだろうか?
そもそもの才能がこの程度だったのか……。
自問自答が心を支配する。
サージャスに対する思いよりも、実力のない自分の不甲斐なさを嘆く。
笑ってはみたものの、これ以上、敗北の辛さを抱いたまま闘技場にいる事は出来ないと、
「優勝してくれなきゃ困るよ」
必死に自分の思いに蓋をして、今後の健闘を伝えると、うつむいたまま闘技場を去って行く。
激闘を演じたフィットに対し、観衆から感嘆の拍手と賞賛が送られる。
力なく闘技場の階段を下りたところで待っていたのは――、エルン。
そして、客席から駆け下りてきた、ミリーとリムのパーティーメンバー。
「戦う事、出来なかったね……」
「俺とはいつでも出来るからさ」
「うん……」
うつむく角度は更に深くなっていく。
「俺が優勝して、パーティー全員で二振りの最上業物を手にして、ここにいる皆の前で掲げよう。個人の勝利じゃなくパーティーの勝利として」
優しい言葉。
それは暖かくも、敗者にとっては、苦しみも伝えてくる言葉。
胸が締め付けられ、崩れ落ちる。
「ふ……ひ……ぃ…………」
息を殺してむせび泣く。
三人で囲み、同じ目線に膝を付き、体にそっとふれると――――、
水門が決壊したかのように、人目を憚らす、大粒の涙を流して大声で泣き始める。
エルンは頭をなで、ミリーとリムが涙を浮かべながら強く抱きしめてやった。
暖かな光景である。
観衆も、もらい泣き。そして、更なる暖かな拍手を送る。
勝者であるサージャスはその暖かな光景を静かに眺めて、主審のツクシにしっかりと視線を合わせて、典雅な一礼を行ってから、闘技場から下りた。
勝者として喝采を受け、笑顔で手を振り応えるものの、脳裏には、敗者のフィットに対する仲間たちの暖かな励ましの光景がこびりつく。
自分にはないものであり、勝利者であるのに、素直に喜べない自分がいる。
敗者であるフィットを羨んでしまう心すらある。
もし――、自分が次で負けた時はどうなるのか、自分にはパーティーなどない。
孤独のまま大会を終えるのか。
仄暗い心に支配されそうになる。
「勝てばいい」
そう、独白で言い聞かせる。
勝てば賞賛は受ける。負ければ、暖かく迎えてくれるパーティーはいない。
ならば、勝てばいいだけ。
十六歳の少女は、フィットと戦うまでに抱いていた、強者との出会い。名声や名刀という思いよりも、勝ち続ける事で、寂しい思いをしないですむという思考に挿げ替えようとしていた。
「サージャスさん」
そんな気持ちになりかけていた時に、自分を呼ぶ声。
声の方向に目線を上げれば、ピートが笑みを見せて、欄干から上半身を乗り出して手を振っている。
なんとも危なっかしいと、サージャスは落ち着くように諸手を前に突き出して、静止と、後ろに下がるように促す。
先ほどまでの仄暗さは何処に行ったのか。
いちいちそんな感情にも浸れないくらいに、大いに焦るサージャス。
自分のために尽力してくれ、優しく接してくれるピートの存在。
パーティーではないにしろ、自分にここまで献身的になってくれた人物は、冒険に踏み出してからは始めてであり、それもあって、彼には特別な感情を抱くようになった。
「次も頑張って下さい」
勝者に対する常套句ではあるが、偽りのない純粋な激励の台詞。
それがたまらなく嬉しいサージャス。
「うわ!?」
心配したそばから、乗り出していた上体が欄干を大きく越えて落ちそうになる。
ピートの表情が一瞬にして蒼白になるも、ロールが後ろから抱きつくように腰に両腕を回し、必死に引っ張る。
密着の感触がすこぶる嬉しいようで、蒼白が一瞬にして、にたついた顔へと、変面の如き早変わり。
伸びに伸びる鼻の下。
だらけすぎたその表情を下方から見せられるサージャスの頬が、頬袋いっぱいに食料を蓄えたリスの如く膨らんでいる。
ふくれっつらの中でも、自分にもこうやって暖かな場があり、それを与えてくれる人たちがいるという喜びを、整備局員たち、特に――――、ピートを目にして再確認出来たサージャス。
対してサージャスは、魔術学都市クリネアで魔法能力の才能を賞賛され。
剣術においてもフィットに勝利し、しかも本来は魔法だけでなく、剣術と織り交ぜた魔法剣も使用出来る。
不死王を驚嘆させ、王都を危険分子から救った体術。
五年早く生まれ、同じように修練を重ね。魔道の才はない事から、剣術だけをひたむきに行ってきたのに、五つ下のサージャスに敗れる。
五年の差をもってしても、全てにおいて仰ぎ見なければいけないと思える感情は、嫉妬などではなく、自分では到達出来ないところに登れる人物だと、純粋に羨むものだった。
なぜ、自分はそれだけの事が出来なかったのだろう。
もっとやり方があったのだろうか?
そもそもの才能がこの程度だったのか……。
自問自答が心を支配する。
サージャスに対する思いよりも、実力のない自分の不甲斐なさを嘆く。
笑ってはみたものの、これ以上、敗北の辛さを抱いたまま闘技場にいる事は出来ないと、
「優勝してくれなきゃ困るよ」
必死に自分の思いに蓋をして、今後の健闘を伝えると、うつむいたまま闘技場を去って行く。
激闘を演じたフィットに対し、観衆から感嘆の拍手と賞賛が送られる。
力なく闘技場の階段を下りたところで待っていたのは――、エルン。
そして、客席から駆け下りてきた、ミリーとリムのパーティーメンバー。
「戦う事、出来なかったね……」
「俺とはいつでも出来るからさ」
「うん……」
うつむく角度は更に深くなっていく。
「俺が優勝して、パーティー全員で二振りの最上業物を手にして、ここにいる皆の前で掲げよう。個人の勝利じゃなくパーティーの勝利として」
優しい言葉。
それは暖かくも、敗者にとっては、苦しみも伝えてくる言葉。
胸が締め付けられ、崩れ落ちる。
「ふ……ひ……ぃ…………」
息を殺してむせび泣く。
三人で囲み、同じ目線に膝を付き、体にそっとふれると――――、
水門が決壊したかのように、人目を憚らす、大粒の涙を流して大声で泣き始める。
エルンは頭をなで、ミリーとリムが涙を浮かべながら強く抱きしめてやった。
暖かな光景である。
観衆も、もらい泣き。そして、更なる暖かな拍手を送る。
勝者であるサージャスはその暖かな光景を静かに眺めて、主審のツクシにしっかりと視線を合わせて、典雅な一礼を行ってから、闘技場から下りた。
勝者として喝采を受け、笑顔で手を振り応えるものの、脳裏には、敗者のフィットに対する仲間たちの暖かな励ましの光景がこびりつく。
自分にはないものであり、勝利者であるのに、素直に喜べない自分がいる。
敗者であるフィットを羨んでしまう心すらある。
もし――、自分が次で負けた時はどうなるのか、自分にはパーティーなどない。
孤独のまま大会を終えるのか。
仄暗い心に支配されそうになる。
「勝てばいい」
そう、独白で言い聞かせる。
勝てば賞賛は受ける。負ければ、暖かく迎えてくれるパーティーはいない。
ならば、勝てばいいだけ。
十六歳の少女は、フィットと戦うまでに抱いていた、強者との出会い。名声や名刀という思いよりも、勝ち続ける事で、寂しい思いをしないですむという思考に挿げ替えようとしていた。
「サージャスさん」
そんな気持ちになりかけていた時に、自分を呼ぶ声。
声の方向に目線を上げれば、ピートが笑みを見せて、欄干から上半身を乗り出して手を振っている。
なんとも危なっかしいと、サージャスは落ち着くように諸手を前に突き出して、静止と、後ろに下がるように促す。
先ほどまでの仄暗さは何処に行ったのか。
いちいちそんな感情にも浸れないくらいに、大いに焦るサージャス。
自分のために尽力してくれ、優しく接してくれるピートの存在。
パーティーではないにしろ、自分にここまで献身的になってくれた人物は、冒険に踏み出してからは始めてであり、それもあって、彼には特別な感情を抱くようになった。
「次も頑張って下さい」
勝者に対する常套句ではあるが、偽りのない純粋な激励の台詞。
それがたまらなく嬉しいサージャス。
「うわ!?」
心配したそばから、乗り出していた上体が欄干を大きく越えて落ちそうになる。
ピートの表情が一瞬にして蒼白になるも、ロールが後ろから抱きつくように腰に両腕を回し、必死に引っ張る。
密着の感触がすこぶる嬉しいようで、蒼白が一瞬にして、にたついた顔へと、変面の如き早変わり。
伸びに伸びる鼻の下。
だらけすぎたその表情を下方から見せられるサージャスの頬が、頬袋いっぱいに食料を蓄えたリスの如く膨らんでいる。
ふくれっつらの中でも、自分にもこうやって暖かな場があり、それを与えてくれる人たちがいるという喜びを、整備局員たち、特に――――、ピートを目にして再確認出来たサージャス。
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