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ITADAKI-頂-
PHASE-26
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ムツは玉砕のような攻撃と考えたようで、
「無謀な」
と、哀れみをこめて口にする。
「そう思えるテメーはまだまだの存在よぉ」
空気の壁を突き破るように、ボッと衝撃音を発生させながらの突き。
それに畏れを感じる事もなく接近するドレークは、下方から斜上方へと斬り上げる。
「窮したか」
迫る木斧はどう考えても自分には届かない。
ムツは落ち着いて、刺突を額に定めている。
「こういうのは布石というのよ」
大振りの斬り上げで、直進する巨躯の軌道が変わる。
勢いのある刺突は空を突くのみで、ドレークの巨体はムツのまたも背後へ、
「どっせい!」
がら空きとなっているムツの背中を、右手に持つ木斧で狙う。
突きを繰り出した木刀を床に突き刺し、前進する体を急停止させると、反動を利用してドレークへと体前面を向ける百八十度回頭。
蹴撃によって、右手首を狙い、迫っていた木斧の軌道をずらす事に成功する。
「しつこいな。今ので終わっとけ」
「本当に強い」
「再確認どうも。テメーの背後は取りやすくてな」
確かに容易く回り込まれる。開始時もそうだった。反論出来ないムツは、素直にそれを認めるように深い首肯。
そして、それはなぜなのか? 視線で訴えるムツ。それは上の者に対して師事を受けたいというような目である事を理解するドレークは、構えていた木斧を肩に担うと、
「お前さん試合は強いし、熟達者だ。だが――――死合は経験ないだろ?」
「それに関しては否定しない」
「だろうな。教本通りの動きなんだよ」
状況に応じた適切な動きは卓抜。
だが、突発的な動きには一手遅れるところがある。
むろんそれがそこそこの相手なら問題はない。力量差で十分にそれは埋まる。
「俺はこう見えても相当のやり手だし、それを自負している」
だ――、そうである。
傭兵として死線を越えてきたドレークは、突発的な攻められ方に対しても順応出来るだけの胆力と経験が体に染みこんでいる。
大きな体躯からは想像出来ないような動きで相手の心底を揺さぶり隙を突く。
肉体以上に相手の精神を攻める。
それが上手くいくからムツは背後を取られる。
「正直、お前さんの背後を取るのは、死合いを知る奴らに比べたら楽なもんだ」
その言に、素直に首肯で応える。
「お前さんに必要なのは死線で磨き上げる直感だな」
常に木刀だけを振るった戦いだけでは得る事が出来ない。真剣の重みを理解出来ない試合しかやっていないようでは、死合いに比べれば命の危険性は低くなると、無意識に抱いてしまう。
試合ではそう簡単に人が死ぬ事がないと、そう結論づけてしまう。
だからこそ、そこに油断が生じる。
斬る事をためらわない覚悟を持たないで立つとなれば、それを経験し、手心を加えない者を前にしてしまえば、覚悟の差は顕著。
「では、殺し合いを是とせよと?」
「んなこた知らねえよ。テメーの人生だろう。テメーで選択しろ」
自ら考え、自ら決めて、自ら歩め。
まずはそれを見せてやろうとばかりに、強い歩みでムツへと接近し、速度重視の刻むような連撃。
「やはり自分で新たな道を開拓する事でしか、己が道は開かれんか――」
「随分おしゃべりになったな。こっちは攻めてるぞ」
侍特有のすり足での歩行によって連撃を躱していく。
ここでようやく、音なしの剣の別称が、名誉挽回といったところ。
「やっぱ当たらねえな。あの勇者殿が負けるわけだ」
エルンとの激闘を目にして、ムツの攻略法を考えてはいたが、ここにきてムツの動きに冴えが生まれる事を理解し、眼孔の光も一段と強味が増しているとドレークは感じ取る。
「こんにゃろうが!」
腰を大きく捻り、木斧を振り上げ、背中は弓なり。
全身全霊の振り下ろし。直撃すれば木刀で防いだとしても、それすらもへし折って迫る勢い。
それに対して、ムツの右腕がピクリと動く。
――――先手であったはずのドレークの右手首に木刀が直撃していた。
「!? くそっ!」
みるみると腫れ上がっていく手首。
苦痛による歪みと、何が起こったのか分からないといった二つの表情が混ざり合う。
「無謀な」
と、哀れみをこめて口にする。
「そう思えるテメーはまだまだの存在よぉ」
空気の壁を突き破るように、ボッと衝撃音を発生させながらの突き。
それに畏れを感じる事もなく接近するドレークは、下方から斜上方へと斬り上げる。
「窮したか」
迫る木斧はどう考えても自分には届かない。
ムツは落ち着いて、刺突を額に定めている。
「こういうのは布石というのよ」
大振りの斬り上げで、直進する巨躯の軌道が変わる。
勢いのある刺突は空を突くのみで、ドレークの巨体はムツのまたも背後へ、
「どっせい!」
がら空きとなっているムツの背中を、右手に持つ木斧で狙う。
突きを繰り出した木刀を床に突き刺し、前進する体を急停止させると、反動を利用してドレークへと体前面を向ける百八十度回頭。
蹴撃によって、右手首を狙い、迫っていた木斧の軌道をずらす事に成功する。
「しつこいな。今ので終わっとけ」
「本当に強い」
「再確認どうも。テメーの背後は取りやすくてな」
確かに容易く回り込まれる。開始時もそうだった。反論出来ないムツは、素直にそれを認めるように深い首肯。
そして、それはなぜなのか? 視線で訴えるムツ。それは上の者に対して師事を受けたいというような目である事を理解するドレークは、構えていた木斧を肩に担うと、
「お前さん試合は強いし、熟達者だ。だが――――死合は経験ないだろ?」
「それに関しては否定しない」
「だろうな。教本通りの動きなんだよ」
状況に応じた適切な動きは卓抜。
だが、突発的な動きには一手遅れるところがある。
むろんそれがそこそこの相手なら問題はない。力量差で十分にそれは埋まる。
「俺はこう見えても相当のやり手だし、それを自負している」
だ――、そうである。
傭兵として死線を越えてきたドレークは、突発的な攻められ方に対しても順応出来るだけの胆力と経験が体に染みこんでいる。
大きな体躯からは想像出来ないような動きで相手の心底を揺さぶり隙を突く。
肉体以上に相手の精神を攻める。
それが上手くいくからムツは背後を取られる。
「正直、お前さんの背後を取るのは、死合いを知る奴らに比べたら楽なもんだ」
その言に、素直に首肯で応える。
「お前さんに必要なのは死線で磨き上げる直感だな」
常に木刀だけを振るった戦いだけでは得る事が出来ない。真剣の重みを理解出来ない試合しかやっていないようでは、死合いに比べれば命の危険性は低くなると、無意識に抱いてしまう。
試合ではそう簡単に人が死ぬ事がないと、そう結論づけてしまう。
だからこそ、そこに油断が生じる。
斬る事をためらわない覚悟を持たないで立つとなれば、それを経験し、手心を加えない者を前にしてしまえば、覚悟の差は顕著。
「では、殺し合いを是とせよと?」
「んなこた知らねえよ。テメーの人生だろう。テメーで選択しろ」
自ら考え、自ら決めて、自ら歩め。
まずはそれを見せてやろうとばかりに、強い歩みでムツへと接近し、速度重視の刻むような連撃。
「やはり自分で新たな道を開拓する事でしか、己が道は開かれんか――」
「随分おしゃべりになったな。こっちは攻めてるぞ」
侍特有のすり足での歩行によって連撃を躱していく。
ここでようやく、音なしの剣の別称が、名誉挽回といったところ。
「やっぱ当たらねえな。あの勇者殿が負けるわけだ」
エルンとの激闘を目にして、ムツの攻略法を考えてはいたが、ここにきてムツの動きに冴えが生まれる事を理解し、眼孔の光も一段と強味が増しているとドレークは感じ取る。
「こんにゃろうが!」
腰を大きく捻り、木斧を振り上げ、背中は弓なり。
全身全霊の振り下ろし。直撃すれば木刀で防いだとしても、それすらもへし折って迫る勢い。
それに対して、ムツの右腕がピクリと動く。
――――先手であったはずのドレークの右手首に木刀が直撃していた。
「!? くそっ!」
みるみると腫れ上がっていく手首。
苦痛による歪みと、何が起こったのか分からないといった二つの表情が混ざり合う。
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