拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

文字の大きさ
224 / 604
ITADAKI-頂-

PHASE-44

しおりを挟む
 一歩足を進めた――――ところまでは見えた。

「これは!?」
 相対するムツ氏は驚いて構えるけども、構えが乱雑になるほどサージャスさんを捕捉する事に神経を削がれている。
 目が忙しなく動いているのが分かる。

「そこだっ」
 木刀にて、迫ってきたであろう一撃を防いだのかな? いかんせん見えないからね。
 ただ、木刀同士がぶつかって木管楽器みたいな音がしたから、初撃は耐えたというのは理解出来た。

「これほどか!」
 防いだけど、豪快に吹き飛ぶ。蹴撃との複合斬撃の時の浮き上がった威力とは比較にならないものによって、場外に向かって吹き飛んでいく。
 
 ムツ氏はなんとか体をよじってバランスを回復させつつ、闘技場に足を着地させる事に成功させるけど、同時に赤い光が軌跡を描いて接近。
 赤い光が見えるという事は、サージャスさん速度を落としたようだ。
 いまだにサージャスさん自身を目に捉える事は出来ないけど……。
 
 対してバランスを立て直したムツ氏は、諸手で搾るように柄を握って、木刀を振り下ろす。
 と、その時、ようやく僕たちの目にもサージャスさんが姿を見せる。
 サージャスさん、左の拇指と食指の二本でその一撃を受け止めた。

「でたらめだ……」
 容易く受け止められてしまった自分の得物を解放させようと、蹴撃でサージャスさんの手首を狙い、摘まんでいた指が離れるのを確認すると後方に移動。
 下がると同時に床を強く踏み込み、間髪入れずに、滑空するように驀地してからの刺突――。
 それを躱されると、刺突から繋げる横一文字を書く――――。
 しかし、虚しく空を切るだけだ。

「捉えられる気が全くしない……」
 落胆にも似たムツ氏の台詞。
 繰り出すもの全てが躱されていくのだから仕方ない。
 多分、指で掴んだのはサージャスさんが見せた演出みたいなものかもしれない。
 でも、その演出は正直、ムツ氏の心を抉ったと思うんだけど。
 実力差がありすぎるって……。
 まあ、現実を見せていただきたいって言ってたし、いいのかな。
 とりあえず、音なしの剣の別称を、サージャスさんに譲らないといけない状況だ。
 
 落胆しているのはムツ氏だけではない。
 フィットさんにザイオン氏もだ。
 サージャスさんと闘技場で戦った方々は、眼界で赤い光を纏ったサージャスさんを見て、実力の差が開きすぎていると感じざるをえないようだ。
 
 始まった時は、どんな戦いになるのか? という、わくわく感だったけど、実力差を見せつけられて悔しいという表情に変わっている。
 ――――しかし、瞳はキラキラと輝いて、まるでおとぎ話や英雄譚に登場するヒーローを見ているみたいだ。
 ここで嫉妬や怨嗟にとらわれないで、自身の実力不足に対して歯がゆさが覚えたり、素直に相手を称える事が出来るところが好感を持てるし、もっともっと強くなってほしいと応援したくなる。

 ――。

「これだけ速いと、絶影を使ったとしても、その先をいかれるな……」
 後の手からのカウンターアタックを得意としてるみたいだけど、その悉くの上を行くから、どうしようもないみたいだ。
 出来る事は、捕捉も難しいサージャスさんの攻めを防ぐ事に徹するだけだ。

「皆、見入って、身じろぎ一つしてないね」
 あまりの強さに魅了されてるんでしょうね。
 言ってるロールさんも瞳が輝いてますよ。
 戦いなんかを目にして高揚するタイプじゃないのに、そう思えてしまうのは、この戦いを無事に見る事が出来ると本能で理解しているのかもね。
 僕も安心して見れている。
 つまりは――――、ムツ氏には申し訳ないけど、どうあらがってもムツ氏が勝つ事は出来ないと、心の底で思ってしまってるからだ。
 サージャスさんは手心を加えても余裕だろうから、大怪我を負わせないようにするだろう。
 
「せい!」
 ムツ氏の直上に現れるサージャスさん。
 腰の入った拳からの一撃を放つ。
 飛び退くように躱すその位置は、拳圧で大きく抉れて、大小からなる床の破片が生まれる。

「なんという……」
 言葉を詰まらせてしまった……。
 いやいや、下手したら死んでますよ……。
 あれ~? 手加減するつもりはないのだろうか?

「なんだ!?」
 宙に舞った破片がムツ氏の周囲を飛翔し、それに困惑しているようだ。
 大きな破片を選択していないところから、やはり加減はしているようだね。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...