233 / 604
ITADAKI-頂-
PHASE-53
しおりを挟む
――――。
本日は大人数。流石に屋台では窮屈だと、異人街に移動してからのお食事会。
僕としては、あの窮屈さが好きだったんだけど。横は女性限定だけどね。
――豪壮な場所ではないけど、おもむきのある煉瓦造りの建物に、落ち着きのある木目調づくりの店内。
親しみやすい造りだ。
お奉行様は質素な所がお好きなようだ。倹約家なのはいい事だ。
――。
「美味しいな~」
安くて美味しいなら問題はない。むしろ得した気分になる庶民な僕。
ガーリックパウダーの利いた、鶏のモモ肉にかぶりつく。
整備長はドレークさんと酒飲んで馬鹿笑い。寂しい光景だ。華やかさがない。
ムツ氏は一人でおにぎり食べてる……。
本当におにぎりだけでいいって言ってたけどさ、わざわざこの場で頼まなくてもよくない? 逆に異文化であるワギョウ食をここで頼むって、手間とコストがかかってると思うよ。
――僕はパンをいただこう。
テーブルに盛られたパンを、レンズ豆の入ったトマトスープに浸して食べる。
「うまし!」
平たい形状のレンズ豆がたっぷり入った、酸味の利いたトマトスープは、飲むというよりは食べるだね。
酸味で鶏の脂がリセットされる。
いいぞ、いいぞ。胃袋が勘弁してくれと土下座するまで食べ尽くしてやる――――。
「ねえ、ねえ、幌馬車買おうよ。幌馬車!」
「欲しいけど、お金がね」
全く! サージャスさんを独り占めしやがって! あの天真爛漫小麦肌のお馬鹿っ子、略してザイオン氏め。
そんな贅沢出来るわけないだろ。そもそも、お金は普段から使わないとか言ってなかったか? さっそく高価な物を買おうと相談してるじゃないか。
確かにクエストで貸し与えられてた馬車に乗って、いずれはこういう馬車を――、みたいな事は言ってたけど、高価な物だし、ドレークさんのような大男が乗るとなると、並の馬じゃバテるからね。
農耕馬みたいなでっかいのを、二頭くらい揃えないと。
大きいとなれば、維持費もかかるし、現実味を帯びるには、まだ遠いな――――。
「いいじゃん。お金あるじゃん」
と、ムツ氏に指を向けている。
おにぎりを口に運んでいた手がピタリと止まった。
「駄目だよ。大金を一人に任せるなんて。皆で出し合わないと」
「小生、まったくもってかまわないが?」
「ほら、いいって。やっぱり男は財力があってこそだな。あたい達を養ってくれ」
「依存は駄目だよ!」
サージャスさんがお怒りの雷を落とした。
中々の迫力だった。怒られてしゅんとふさぎ込むザイオン氏。
「しかし、皆で共有する物だ。先に小生が支払って、後々、充てた分を返してもらえばいいのでは?」
まあ、それなら問題ないと僕も思う。
でも、違反金に馬車の立て替えの返済と、支払いが苦になって、精神的に追い込まれないようにしないとね。
救いなのはどちらも無利子なところだけど。
険悪というものではなく、パーティーとしてのあり方でのディスカッションなので、僕たちは遠巻きで傍観者に徹した――――。
「エードでいい?」
「はい、オレンジで」
優しく微笑んで僕のグラスに注いでくれるロールさん。
膝をつき合わせてのテーブル。二人だけで食事をする空間は誰にも邪魔されたくない。
「でも、よかったよね」
「ね~。パーティーバランスは悪いですけど。仲間が出来た事は、いい事ですね」
「でも、あの脅し方はね~」
「あれは聞かなかった事にしていただきたいです」
免職も独房も嫌なので、是非とも箝口令を自主的に行ってください。
まあ、ロールさんは冗談交じりな発言だから問題ないけど、華やかさからかけ離れたおっさんが報告しようものなら、死なば諸共の精神で、色街のことを報告する覚悟である。
「いいですか?」
「よくないです」
「意地悪しない」
この境界に入って欲しくないのに……。
エルンさんは空気が読めない人だな~。
しかし――――、後ろの美人三人の追従はいい事だがね――――。
「残念でしたね」
「次は十年後。その間に更なる成長を」
とりあえず、僕から語りかけてあげる。
そして次回を目指して励むそうな。
十年後か……。また新たな世代が誕生して、エルンさんもロートルな立場になってるな…………。
本日は大人数。流石に屋台では窮屈だと、異人街に移動してからのお食事会。
僕としては、あの窮屈さが好きだったんだけど。横は女性限定だけどね。
――豪壮な場所ではないけど、おもむきのある煉瓦造りの建物に、落ち着きのある木目調づくりの店内。
親しみやすい造りだ。
お奉行様は質素な所がお好きなようだ。倹約家なのはいい事だ。
――。
「美味しいな~」
安くて美味しいなら問題はない。むしろ得した気分になる庶民な僕。
ガーリックパウダーの利いた、鶏のモモ肉にかぶりつく。
整備長はドレークさんと酒飲んで馬鹿笑い。寂しい光景だ。華やかさがない。
ムツ氏は一人でおにぎり食べてる……。
本当におにぎりだけでいいって言ってたけどさ、わざわざこの場で頼まなくてもよくない? 逆に異文化であるワギョウ食をここで頼むって、手間とコストがかかってると思うよ。
――僕はパンをいただこう。
テーブルに盛られたパンを、レンズ豆の入ったトマトスープに浸して食べる。
「うまし!」
平たい形状のレンズ豆がたっぷり入った、酸味の利いたトマトスープは、飲むというよりは食べるだね。
酸味で鶏の脂がリセットされる。
いいぞ、いいぞ。胃袋が勘弁してくれと土下座するまで食べ尽くしてやる――――。
「ねえ、ねえ、幌馬車買おうよ。幌馬車!」
「欲しいけど、お金がね」
全く! サージャスさんを独り占めしやがって! あの天真爛漫小麦肌のお馬鹿っ子、略してザイオン氏め。
そんな贅沢出来るわけないだろ。そもそも、お金は普段から使わないとか言ってなかったか? さっそく高価な物を買おうと相談してるじゃないか。
確かにクエストで貸し与えられてた馬車に乗って、いずれはこういう馬車を――、みたいな事は言ってたけど、高価な物だし、ドレークさんのような大男が乗るとなると、並の馬じゃバテるからね。
農耕馬みたいなでっかいのを、二頭くらい揃えないと。
大きいとなれば、維持費もかかるし、現実味を帯びるには、まだ遠いな――――。
「いいじゃん。お金あるじゃん」
と、ムツ氏に指を向けている。
おにぎりを口に運んでいた手がピタリと止まった。
「駄目だよ。大金を一人に任せるなんて。皆で出し合わないと」
「小生、まったくもってかまわないが?」
「ほら、いいって。やっぱり男は財力があってこそだな。あたい達を養ってくれ」
「依存は駄目だよ!」
サージャスさんがお怒りの雷を落とした。
中々の迫力だった。怒られてしゅんとふさぎ込むザイオン氏。
「しかし、皆で共有する物だ。先に小生が支払って、後々、充てた分を返してもらえばいいのでは?」
まあ、それなら問題ないと僕も思う。
でも、違反金に馬車の立て替えの返済と、支払いが苦になって、精神的に追い込まれないようにしないとね。
救いなのはどちらも無利子なところだけど。
険悪というものではなく、パーティーとしてのあり方でのディスカッションなので、僕たちは遠巻きで傍観者に徹した――――。
「エードでいい?」
「はい、オレンジで」
優しく微笑んで僕のグラスに注いでくれるロールさん。
膝をつき合わせてのテーブル。二人だけで食事をする空間は誰にも邪魔されたくない。
「でも、よかったよね」
「ね~。パーティーバランスは悪いですけど。仲間が出来た事は、いい事ですね」
「でも、あの脅し方はね~」
「あれは聞かなかった事にしていただきたいです」
免職も独房も嫌なので、是非とも箝口令を自主的に行ってください。
まあ、ロールさんは冗談交じりな発言だから問題ないけど、華やかさからかけ離れたおっさんが報告しようものなら、死なば諸共の精神で、色街のことを報告する覚悟である。
「いいですか?」
「よくないです」
「意地悪しない」
この境界に入って欲しくないのに……。
エルンさんは空気が読めない人だな~。
しかし――――、後ろの美人三人の追従はいい事だがね――――。
「残念でしたね」
「次は十年後。その間に更なる成長を」
とりあえず、僕から語りかけてあげる。
そして次回を目指して励むそうな。
十年後か……。また新たな世代が誕生して、エルンさんもロートルな立場になってるな…………。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる