拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

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ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ

PHASE-20

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「本当に洗わなくてもいいんですよ」

「いえ、きちんと洗って返します」
 別にいいのに。可愛い子の涙とかむしろ嬉しいんですけど。
 あれ? 今の変態的な考え方だよ。まあ、いいけど。ていうか、いきなりの敬語になってるんですが? 様に、敬語。シズクさんの中で何が起こった?
 
 洗って返すと言っている中で、返せ返せとしつこいと、けちくさい男と思われるのも嫌だな。
 でも、僕が所有している中で、最も高価なハンカチだから、返して欲しいのも事実。
 それに、ロールさんが最初じゃなかったのが悔やまれるね……。
 ――――こうやって、女性を選別してしまってる考えを持っているからこそ、未だに彼女がいないんだろうね。僕……。

「こちらへ」
 空でも飛ぶのかと思ったけども、イスキさんが手を向けてるのは海。あれ、やはりこれは、泳いで帰れってのが現実味を帯びてきたよ。


「波にお乗りください」

「波ですか?」
 なんだよ波に乗るって? なんて思ってたら、波に生命が宿ったかのように、僕の前でうねうねと動いている。
 明らかに周囲と違う。寄せては返す波とは違い、僕の前で留まっている。

「これを」

「はあ……」
 手渡される物――――。これ絶対に、浜に打ち上げられた、ただの板きれですよね……? 
 僕の身長半分くらいの長さの板きれ。
 
 ――――これって、そういう事なのだろうか。

「ほい」
 僕の前で待機している波に板きれを投げると、まるで諸手でキャッチするかのように波が板きれを掴むと、僕が乗りやすいように高さを調整してくれる。

「では後日お会いいたしましょう」
 シズクさん、急にしおらしくなってしまったな。出会ったばかりのツンケンさや、御一行に対する酷薄さは影を潜めて可愛らしい笑みを見せてくれる。
 ツンデレってやつか? ふっ、可愛いじゃないか。

「やりますね~」

「はい?」
 にんまりと笑いながらイスキさんが耳打ちしてくる。何のことなのか?

「後日に」
 シズクさんに返事してから、板の上の人になる。

「はは! なにこれ凄い!」
 バランスを取るなんて事をしなくていい。
 想像では、揺れる板きれに対して、下半身を力ませながら乗るって感じだったけど、いやほんと、大地の上に立っているような、安心感と安定感だ。
 最後に一礼をして手を振る。お二人に背を向けて浜辺を離れていく。

 ――。

「ヒャッハー!」
 声に反応して、すっごい勢いで海上を進んで行く。
 なれてきた。といってもただ立ってるだけなんだけど。
 気持ちいいぞ。ぐんぐん進んで行く。重心を少し動かせば波がそれを感知して、傾いた方向に動いてくれる。

「これ楽しい! これ欲しい!!」
 流石は水の大精霊様だ。こんな芸当が出来るんだもんな。ザンデさんの疾風脚ボルゾイでは、体の至る所が、がっしゃがっしゃとなったけど、これはいい。すごくいい。こんなにも快適に、海の上を移動できるなんて最高だ。
 
 館から離れてしばらく……、
「はぁ~」
 気分よかったのに、重い嘆息を漏らしてしまう。
 先ほどまでの、波の寄せてくる静かな音がなくなり、爆発、閃光が、耳に目に届いてくる事で、戦闘海域に戻ってきたという現実を突き付けてくる……。
 結界の境を越えたってのが直ぐに理解できる不快な音と、空気をビリビリと震わせる嫌な場所だ。
 出来れば戦闘には出くわしたくないからね。がわから行こう。がわから――――。



「ひょぉぉぉぉぉぉぉおお! ハハハ――――」
 戦闘海域である事で、仄暗い気分に支配されそうになった僕は、それを振り払いたいとばかりに、蒼天の下、透明度の高い海を高速で移動し、風に潮にを堪能して、気分転換。

「ん?」
 なんてこった……。会いたくない集団と目があってしまった。
 あ、どうも。みたいな感じで、お互いに会釈。気を失う前に出会った半漁人サハギンさんとは模様の違う方々が六人。
 この位置からして、裏取りとかいう行動に出てる方々かな。
 
 僕は何も見ていない。スルーが大事。心にそうすり込んでいく。
 というより、本日のコンクエストが終わるまで、ここいらでうろちょろして、波乗りを堪能しよう。

「あまい!」
 ナイゼルさん……。
 ああ……。半漁人サハギンさんがバッサリと、三枚に下ろされてしまった魚のように…………、ハッ! なんだこのふざけた例えは!? 
 僕は今、心底自分が嫌になってしまった。
 今、目の前で命が奪われたというのに、なんて非人道的な例えをしてしまったのか……。
 ここにきて、本格的な戦闘を目撃してから一日も経過していないのに、ここになじんでしまったかのような表現だ。
 恥じてしまう。心から、表現を恥じてしまう。
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