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ウィザースプーン、ヴィン海域に行ったてよ
PHASE-26
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「わざわざ助けずとも」
「あんた本気で言ってるのか!!」
宙から降りてきての開口一番が信じられない発言だ。
恋人に対しての酷薄な発言。
平然と剣を向け合い命を奪う。それが当たり前というような言いぐさ。
ここは――――、異世界だ。地続きだけど、異世界だ。
ポズンの村あたりから見えない境界線があったんだ。完全に価値観が違う。
死を軽んじる狂った連中の異世界。
「貴男は勇者なんて名乗るべきじゃない」
「そう思いますか?」
「はい」
蛮勇を見せてしまう。命を軽んじている相手を否定するんだから。
ここでは整備局なんて肩書きは通用しない異世界なんだから。事故に見せかけて命を奪われる可能性だってゼロじゃないだろう。
それでも、ここはきっぱりと否定したかった。
命を軽んじる存在は勇者じゃない。名乗ってもいけない。
「外から来たら、最初は誰でもそう思うでしょうね。あと数日もいれば慣れますから」
そんなもんに慣れるなんて、まっぴらごめんだね。
「今回のコンクエストは負けですが、雄々しく戦いますよ」
ナイゼルさんはそう言って、飛んでいく。
残された僕の腕の中にはプールさん。
冷たくなる体。
海で冷えたのではなく、体の中から冷たくなっていく感じ。死の冷たさだ。
密着された時の暖かみを知っているから、余計に心身に冷たさが伝わってくる。
爆発音と、空気を震わす衝撃。空に光が走り、曇天にも変える大魔法。
常にそれが続く様はこの世の終焉だ。地獄の亡者たちが殺し合う事に愉悦を得るための場所だ。
――。
「すいません……」
小島に移動して、抱えたプールさんを木の下に寝かせる。
つなぎは、淡いまだらの朱色から、流れ出る鮮血で、上半身は真っ赤に変わっていた。
濡れたつなぎが体に張り付くのは、海水が原因であってほしいと祈る。
――――。
夕陽がメインの時間帯に支配された空。
遠くの方から、大魔法の爆音ではなく、歓喜の声が上がってくる。
決着がついたようだ。拠点全てを占拠したのか、それとも全滅したのか、状況からしてシズクさん率いる魔王軍の勝利で幕を下ろしたようだ。
波さんに乗って声のする方へと赴けば、冒険者の本陣であるAが占拠されていた。
半漁人さんを中心とした魔王軍の方々が、雪の結晶を象ったような文様が入った青い旗を掲げている。
どうやら、旗を立てる事が勝利となるみたいだ。
過程の部分で、双方の拠点に旗を立てたり阻止したりってのを経て、完全に旗が片方で統一されれば、全滅しなくとも決着がつくって事か。
旗の周辺では、抵抗をやめたナイゼルさんが座り込んで、旗がたなびく光景を見ていた。
拠点Aは、魔王軍にとっては蜜の詰まった甘い林檎であり、冒険者サイドにとっては酸味がキツイ林檎となったようだ。
「くそ! 俺も参戦してれば」
悔しそうにロッケンジーさんが岩肌に拳を叩き付けている。
参加なんかしなくていいですよ。むしろ、ここからさっさと去るべきだよ。
「はいおつかれ~。次も勝たせてもらうから」
「今度はこちらが勝つ」
ナイゼルさんがゆっくりと立ち上がると、僕が気を失う前にドレッドノートさんと一緒にいた、立派な髭がある半漁人さんと語り合い、握手を交わし労っている。
ここだけを切り取って見るならば、清々しいやり取りに見えるけど、その握手を行うまでには豊饒な鮮血が流れているわけで、その流血の上に立っているんだよな。
――……もういい。十分だ。ここは僕がいちゃいけない場所だと、調査一日目ではっきりと理解したよ。
むしろ、一日もいたんだからいいだろう。
帰ろう。
エルンさんに対して、メンタルをヴィン海域で鍛え直してこい! みたいな事を頭の中で思った事もあったけど、口に出さなくてよかったよ。
あの人のような生真面目な方が、こんなところで汚されてはいけないよ。
――。
「よし、じゃあ作業に入るか」
「こちらも移行する」
柏手を小気味よく打つナイゼルさんに続いて、シズクさん配下の立派な髭の半漁人さんも動き出す。
何を始めるんだろうか? 作業って、戦いの後処理かな。そんな事をいちいち気にしない感じの人達だと思ってたけども。
「今回、死んだのは――――」
空を見上げて、思い出してるみたいだけど、大勢だよ。
特に冒険者サイドの生存者なんて、片手で数えらるだろ。
お墓でも作るつもりか? 葬祭はきちんとする。その辺の常識があるなら、散った方々も少しは救われそうだ。
そういえば――――、毎回これだけの死傷者が出てるとするなら、死者が眠る墓は何処にあるんだ? それっぽいのは目にしなかったな。
ヴィン海域だから、水葬で見送るのかな?
「あんた本気で言ってるのか!!」
宙から降りてきての開口一番が信じられない発言だ。
恋人に対しての酷薄な発言。
平然と剣を向け合い命を奪う。それが当たり前というような言いぐさ。
ここは――――、異世界だ。地続きだけど、異世界だ。
ポズンの村あたりから見えない境界線があったんだ。完全に価値観が違う。
死を軽んじる狂った連中の異世界。
「貴男は勇者なんて名乗るべきじゃない」
「そう思いますか?」
「はい」
蛮勇を見せてしまう。命を軽んじている相手を否定するんだから。
ここでは整備局なんて肩書きは通用しない異世界なんだから。事故に見せかけて命を奪われる可能性だってゼロじゃないだろう。
それでも、ここはきっぱりと否定したかった。
命を軽んじる存在は勇者じゃない。名乗ってもいけない。
「外から来たら、最初は誰でもそう思うでしょうね。あと数日もいれば慣れますから」
そんなもんに慣れるなんて、まっぴらごめんだね。
「今回のコンクエストは負けですが、雄々しく戦いますよ」
ナイゼルさんはそう言って、飛んでいく。
残された僕の腕の中にはプールさん。
冷たくなる体。
海で冷えたのではなく、体の中から冷たくなっていく感じ。死の冷たさだ。
密着された時の暖かみを知っているから、余計に心身に冷たさが伝わってくる。
爆発音と、空気を震わす衝撃。空に光が走り、曇天にも変える大魔法。
常にそれが続く様はこの世の終焉だ。地獄の亡者たちが殺し合う事に愉悦を得るための場所だ。
――。
「すいません……」
小島に移動して、抱えたプールさんを木の下に寝かせる。
つなぎは、淡いまだらの朱色から、流れ出る鮮血で、上半身は真っ赤に変わっていた。
濡れたつなぎが体に張り付くのは、海水が原因であってほしいと祈る。
――――。
夕陽がメインの時間帯に支配された空。
遠くの方から、大魔法の爆音ではなく、歓喜の声が上がってくる。
決着がついたようだ。拠点全てを占拠したのか、それとも全滅したのか、状況からしてシズクさん率いる魔王軍の勝利で幕を下ろしたようだ。
波さんに乗って声のする方へと赴けば、冒険者の本陣であるAが占拠されていた。
半漁人さんを中心とした魔王軍の方々が、雪の結晶を象ったような文様が入った青い旗を掲げている。
どうやら、旗を立てる事が勝利となるみたいだ。
過程の部分で、双方の拠点に旗を立てたり阻止したりってのを経て、完全に旗が片方で統一されれば、全滅しなくとも決着がつくって事か。
旗の周辺では、抵抗をやめたナイゼルさんが座り込んで、旗がたなびく光景を見ていた。
拠点Aは、魔王軍にとっては蜜の詰まった甘い林檎であり、冒険者サイドにとっては酸味がキツイ林檎となったようだ。
「くそ! 俺も参戦してれば」
悔しそうにロッケンジーさんが岩肌に拳を叩き付けている。
参加なんかしなくていいですよ。むしろ、ここからさっさと去るべきだよ。
「はいおつかれ~。次も勝たせてもらうから」
「今度はこちらが勝つ」
ナイゼルさんがゆっくりと立ち上がると、僕が気を失う前にドレッドノートさんと一緒にいた、立派な髭がある半漁人さんと語り合い、握手を交わし労っている。
ここだけを切り取って見るならば、清々しいやり取りに見えるけど、その握手を行うまでには豊饒な鮮血が流れているわけで、その流血の上に立っているんだよな。
――……もういい。十分だ。ここは僕がいちゃいけない場所だと、調査一日目ではっきりと理解したよ。
むしろ、一日もいたんだからいいだろう。
帰ろう。
エルンさんに対して、メンタルをヴィン海域で鍛え直してこい! みたいな事を頭の中で思った事もあったけど、口に出さなくてよかったよ。
あの人のような生真面目な方が、こんなところで汚されてはいけないよ。
――。
「よし、じゃあ作業に入るか」
「こちらも移行する」
柏手を小気味よく打つナイゼルさんに続いて、シズクさん配下の立派な髭の半漁人さんも動き出す。
何を始めるんだろうか? 作業って、戦いの後処理かな。そんな事をいちいち気にしない感じの人達だと思ってたけども。
「今回、死んだのは――――」
空を見上げて、思い出してるみたいだけど、大勢だよ。
特に冒険者サイドの生存者なんて、片手で数えらるだろ。
お墓でも作るつもりか? 葬祭はきちんとする。その辺の常識があるなら、散った方々も少しは救われそうだ。
そういえば――――、毎回これだけの死傷者が出てるとするなら、死者が眠る墓は何処にあるんだ? それっぽいのは目にしなかったな。
ヴィン海域だから、水葬で見送るのかな?
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