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変転
PHASE-37
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「クラウザーの私兵か」
まだ、この位置からは見えてはいないけど、迫る方角に王様が目を向けつつ、どうしたものかと自身の髭を撫でている。
近衛の方々は城を破壊されて憤慨しているのか、交戦すべきと訴えてくるも、わきまえよ! と、ブールさんや、その他の貴族の方々から叱責を受けていた。
子爵のような貴族と違って気品と胆力を兼ね備えている。
自分たちの背後にいる民の事を考えよと、近衛の方々を諭す。
全員に言えるのは、国民重視の発言が第一だった。
この王様にこの臣下ありといったところか。
「では、自分が」
ここで、兵力を割くわけにも行かないと、ゲイアードさんが前へと出る。
戦うのだろうか?
石畳に手を置き、間違いなく住人が東と南の門に集まっているかという確認をとってから、
「天嶮断崖」
地面が揺れると、いびつで厚みのある土、石で出来た壁が現れ、東門の広場を境にして即席の城壁が出来上がった。
「見事」
王様のお褒めの言葉に一礼しつつ、
「南門へと行きます」
リューディアさんとともに、南門へも子爵の私兵が侵攻しているであろうと推測して、飛翔魔法である風翼で南門へと飛び立っていった。
「ゲイアードが時間を作ってくれた。近衛も避難に力をいれよ」
王様の周囲に侍っていた方々も忙しなく動き出す。
「ゆっくり急げ」
その姿についつい口に出してしまう僕。
戦いは得意でも、誘導は不得手と動きで分かってしまった。
ロールさんの【過信は駄目です。出来ない事は出来る方に任せましょう。専門職でない者が失敗すると、大きな失態に繋がります。それは回避しましょう】という言葉が脳内で再生される。
忙しなくやれば失態に繋がるからね。
生意気と思われただろうけど、横に来たブールさんが柔和で頷き。
「ピート君からの金言である」
発言を胸に刻んで行動せよと、王様が下知。
「お前、調子に乗るなよ」
背後からの殺気。
うるさいよ。仕事しろよ。気怠そうに誘導に行ったと思ったら、もう戻ってきやがって。
「なんでお前が指揮所みたいなところで、お偉いさん達と指示出す側にいるんだよ!」
「うるさいな。こちとら回復してるとはいえ、死にかけてんだよ。大量に血を流してんだぞ! 少しゆっくりさせろ」
「それが上司に対する口の利き方か。永遠にゆっくりさせるぞ」
ああ、鬱陶しい。
「仲がいいのもいいけども、その元気は皆のためにお願いしたい」
「あ、はい」
王様……。こんなのに頭さげないでくださいよ……。
おっさんはおっさんで、王様に頭を下げさせてしまって戸惑ってるけども。
「しかし、ゲイアードの壁も一時しか持たないでしょう。捷利嚮導の乙女から発射される光が次に襲うのは――――、ここかも知れません」
と、ブールさん。
確かに、あれを防ぐ手立ては無いだろう。
邪神の力でも三度目までは耐えきれなかった。
ここに邪神以上の存在はいないからね。耐える事なんて不可能だ。
お偉い方々の表情も次第に焦燥感に支配される。
勤労君がドカドカと城壁を壊していくけども、王都と外界の境である城壁は堅牢な物だ。時間がかかる。しかも第一から第三までの三重の壁と門からなっている。
タリスマンが暴走したとはいえ、第三南門に穴を空けたエルンさんは大したもんだな――――。
勤労君の拳で穴は確実に作られていくけども、ここにいる方々をスムーズに避難となると、時間がかかりすぎる。崩した瓦礫を除去して足場を舗装して歩きやすくしなければならないし。
このままじゃ、光の帯がまた撃たれて、そこから子爵の兵がなだれ込んできてしまう。
まあ、なだれ込むより以前に、その光で全滅だろうけど……。
――――他に、脱出できる場所はないのかな。
これ以上の案はないのだろうかと、お偉方が話し合っているけど、う~んって唸っている。
港や城がある北門から運河に出るってのもあるみたいだけど、王城は崩壊。子爵の私兵もいる中で、民をつれて戻るのは論外。
港の船もすでに乗せられるだけ乗せて出てしまったそうだ。
それでも、王様と臣下の方々は残ってるんだからね。
安全と今後の政権を考えると、真っ先に王様だけでも避難させるべきなのだろうけど、この方の思考だと、それは拒んだというのが容易に理解できる。
「道ならまだありますぜ」
「何やつか!」
突然の語りかけに、近衛の一人が誰何。
誘導協力から瞬時に王様の周囲に集まる。
練度の高さに感嘆の息を吐く。
整備長は直ぐさま強そうな人の後方に隠れた……。この人の瞬時の移動も流石だな。
感嘆の息ではなく、長嘆息しか出ないけどね…………。
まだ、この位置からは見えてはいないけど、迫る方角に王様が目を向けつつ、どうしたものかと自身の髭を撫でている。
近衛の方々は城を破壊されて憤慨しているのか、交戦すべきと訴えてくるも、わきまえよ! と、ブールさんや、その他の貴族の方々から叱責を受けていた。
子爵のような貴族と違って気品と胆力を兼ね備えている。
自分たちの背後にいる民の事を考えよと、近衛の方々を諭す。
全員に言えるのは、国民重視の発言が第一だった。
この王様にこの臣下ありといったところか。
「では、自分が」
ここで、兵力を割くわけにも行かないと、ゲイアードさんが前へと出る。
戦うのだろうか?
石畳に手を置き、間違いなく住人が東と南の門に集まっているかという確認をとってから、
「天嶮断崖」
地面が揺れると、いびつで厚みのある土、石で出来た壁が現れ、東門の広場を境にして即席の城壁が出来上がった。
「見事」
王様のお褒めの言葉に一礼しつつ、
「南門へと行きます」
リューディアさんとともに、南門へも子爵の私兵が侵攻しているであろうと推測して、飛翔魔法である風翼で南門へと飛び立っていった。
「ゲイアードが時間を作ってくれた。近衛も避難に力をいれよ」
王様の周囲に侍っていた方々も忙しなく動き出す。
「ゆっくり急げ」
その姿についつい口に出してしまう僕。
戦いは得意でも、誘導は不得手と動きで分かってしまった。
ロールさんの【過信は駄目です。出来ない事は出来る方に任せましょう。専門職でない者が失敗すると、大きな失態に繋がります。それは回避しましょう】という言葉が脳内で再生される。
忙しなくやれば失態に繋がるからね。
生意気と思われただろうけど、横に来たブールさんが柔和で頷き。
「ピート君からの金言である」
発言を胸に刻んで行動せよと、王様が下知。
「お前、調子に乗るなよ」
背後からの殺気。
うるさいよ。仕事しろよ。気怠そうに誘導に行ったと思ったら、もう戻ってきやがって。
「なんでお前が指揮所みたいなところで、お偉いさん達と指示出す側にいるんだよ!」
「うるさいな。こちとら回復してるとはいえ、死にかけてんだよ。大量に血を流してんだぞ! 少しゆっくりさせろ」
「それが上司に対する口の利き方か。永遠にゆっくりさせるぞ」
ああ、鬱陶しい。
「仲がいいのもいいけども、その元気は皆のためにお願いしたい」
「あ、はい」
王様……。こんなのに頭さげないでくださいよ……。
おっさんはおっさんで、王様に頭を下げさせてしまって戸惑ってるけども。
「しかし、ゲイアードの壁も一時しか持たないでしょう。捷利嚮導の乙女から発射される光が次に襲うのは――――、ここかも知れません」
と、ブールさん。
確かに、あれを防ぐ手立ては無いだろう。
邪神の力でも三度目までは耐えきれなかった。
ここに邪神以上の存在はいないからね。耐える事なんて不可能だ。
お偉い方々の表情も次第に焦燥感に支配される。
勤労君がドカドカと城壁を壊していくけども、王都と外界の境である城壁は堅牢な物だ。時間がかかる。しかも第一から第三までの三重の壁と門からなっている。
タリスマンが暴走したとはいえ、第三南門に穴を空けたエルンさんは大したもんだな――――。
勤労君の拳で穴は確実に作られていくけども、ここにいる方々をスムーズに避難となると、時間がかかりすぎる。崩した瓦礫を除去して足場を舗装して歩きやすくしなければならないし。
このままじゃ、光の帯がまた撃たれて、そこから子爵の兵がなだれ込んできてしまう。
まあ、なだれ込むより以前に、その光で全滅だろうけど……。
――――他に、脱出できる場所はないのかな。
これ以上の案はないのだろうかと、お偉方が話し合っているけど、う~んって唸っている。
港や城がある北門から運河に出るってのもあるみたいだけど、王城は崩壊。子爵の私兵もいる中で、民をつれて戻るのは論外。
港の船もすでに乗せられるだけ乗せて出てしまったそうだ。
それでも、王様と臣下の方々は残ってるんだからね。
安全と今後の政権を考えると、真っ先に王様だけでも避難させるべきなのだろうけど、この方の思考だと、それは拒んだというのが容易に理解できる。
「道ならまだありますぜ」
「何やつか!」
突然の語りかけに、近衛の一人が誰何。
誘導協力から瞬時に王様の周囲に集まる。
練度の高さに感嘆の息を吐く。
整備長は直ぐさま強そうな人の後方に隠れた……。この人の瞬時の移動も流石だな。
感嘆の息ではなく、長嘆息しか出ないけどね…………。
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