8 / 49
VSゴブリン
不自然な地面
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
街から二刻ほど歩き、エルジュたちは洞窟へとたどり着く。
途中、何度か魔物と遭遇したが、グリオスが即座に剣を抜いて撃退した。
その間エルジュは「がんばれー」と応援したり、何度か瞬殺を繰り返したら唇を尖らせ「少しはオレの所に回して欲しいんだけど」と不満を漏らしていた。
連日魔物に凌辱されるては身が持たない――グリオスは必死に立ち向かい、出会った魔物すべてを瞬殺した。
勇者エルジュは無敵だが、その供をする戦士グリオスもまた強者だった。
洞窟へ入る前に、エルジュの魔法で二人の体に微光を宿す。そうして自身を松明代わりにしながら中へと足を踏み入れる。
入口こそ周辺の木々よりも高く大きく開いていたが、中へ進めば次第に窄まっていき、男二人が隣り合って歩くのがギリギリの広さへと変わっていく。
すると枝分かれした道が増え出し、右へ左へとせわしなく選択し、どこまでも深く進んでいった。
特に魔物もおらずグリオスは安堵していたが、
「何か出て来ないかな? ちょっと歩くの飽きてきた。退屈ー」
いきなり勇者が大きな声を出し、グリオスは弾かれたようにエルジュに振り向く。
「馬鹿か! せっかく平和に歩けていたのに、わざわざ見つかるような真似をするな!」
「だって、景色がゴツゴツした岩肌ばっかりで面白くないよ。魔物が出てきてこんにちはーってなると思ったのに……もうこれ、いないんじゃないの?」
簡単に気を抜くなとグリオスは怒鳴りたくなったが、こんなに洞窟内を響かせる声で騒いでも、なんの気配もない。口を閉ざせば簡単に静寂がやってくる。
確かにいないのかもしれないと思ったが、グリオスは敢えて首を横に振る。
「もしかしたらワナを張っているのかもしれない。洞窟によく潜んでいるのはゴブリンだ。アイツらならそれぐらいのことはするだろう」
「えっ、ワナ? あるなら探してハマってあげなきゃ――」
エルジュの足先が、分岐した左へ進もうとするグリオスとは反対を向き、駈け出そうとする。
がしっ。素早くグリオスはエルジュの後襟を掴み、ジタバタするのも構わずに引きずり歩いた。
「コラッ! 探しに行こうとするな! 今は地図通りに道を選んで進んでいるんだ。ちょっとでも道を逸れると延々と迷うことになる。軽率な行動はしないでくれ」
「そんなつまらないことしたくないっ。きっと獲物がかかるのを想像して、ドキワクしながらワナを張ったと思うんだ。子供が親をビックリさせようと準備している時と同じような心境だと思うと、期待に応えたくならない?」
「う、ん……微笑ましくて弟妹のイタズラにはよくかかっていたが……それとこれを一緒にするな! 子供たちをロクでもないものと一緒にして汚すな! すべての子供たちに謝れ……っ!」
「何を子供の守護神みたいなこと言ってんの? 退屈なこの時間を少しでも楽しく彩る冗談を言っただけなのに……ムキにならないでよ、もう」
おもむろにエルジュは後襟からグリオスの手を払い、肩をすくめながら隣に並ぶ。その時、
「あ……っ」
エルジュが声を上げて立ち止まり、つられてグリオスも歩みを止める。
目の前に広がったのは、小部屋のように丸く開けた場所。
その中央は不自然に盛り上がり、何かを埋めたような跡があった。
あまりにもあからさまなワナの気配。
もっと分かりにくくする方法はいくらでもあるだろうに。
稚拙なワナにグリオスは口端をヒクヒクとさせる。
しかし隣のエルジュは視界の端でも分かってしまうほど、喜びに顔を輝かせていた。
「待てエルジュ。あんなワナ、面白くもなんともないからな? 絶対に飛び込むなよ? 踏まないよう壁伝いに歩いて回避するぞ」
「分かってるって。これは流石に稚拙過ぎて面白くないから」
「そ、そうか。じゃあ行くぞ」
少し安堵しながらグリオスはワナの迂回を始める。
……ゆらり。エルジュの頭がグリオスを横切り、飛び出していた。
「やっぱり無理。試したい! どんな雑なワナか、ちゃんとこのカラダで確かめてあげないと……っ!」
「やめろと言っただろうがぁぁっ!」
グリオスは咄嗟に前へ跳び、エルジュに抱き着いてその身を元の場所へ突き飛ばす。
入れ替わりにワナへ飛び込む羽目になったグリオスは――ボコォッ!
盛り上がった地面に肩が当たった瞬間、大穴が開き、グリオスの体は転がり落ちていった。
街から二刻ほど歩き、エルジュたちは洞窟へとたどり着く。
途中、何度か魔物と遭遇したが、グリオスが即座に剣を抜いて撃退した。
その間エルジュは「がんばれー」と応援したり、何度か瞬殺を繰り返したら唇を尖らせ「少しはオレの所に回して欲しいんだけど」と不満を漏らしていた。
連日魔物に凌辱されるては身が持たない――グリオスは必死に立ち向かい、出会った魔物すべてを瞬殺した。
勇者エルジュは無敵だが、その供をする戦士グリオスもまた強者だった。
洞窟へ入る前に、エルジュの魔法で二人の体に微光を宿す。そうして自身を松明代わりにしながら中へと足を踏み入れる。
入口こそ周辺の木々よりも高く大きく開いていたが、中へ進めば次第に窄まっていき、男二人が隣り合って歩くのがギリギリの広さへと変わっていく。
すると枝分かれした道が増え出し、右へ左へとせわしなく選択し、どこまでも深く進んでいった。
特に魔物もおらずグリオスは安堵していたが、
「何か出て来ないかな? ちょっと歩くの飽きてきた。退屈ー」
いきなり勇者が大きな声を出し、グリオスは弾かれたようにエルジュに振り向く。
「馬鹿か! せっかく平和に歩けていたのに、わざわざ見つかるような真似をするな!」
「だって、景色がゴツゴツした岩肌ばっかりで面白くないよ。魔物が出てきてこんにちはーってなると思ったのに……もうこれ、いないんじゃないの?」
簡単に気を抜くなとグリオスは怒鳴りたくなったが、こんなに洞窟内を響かせる声で騒いでも、なんの気配もない。口を閉ざせば簡単に静寂がやってくる。
確かにいないのかもしれないと思ったが、グリオスは敢えて首を横に振る。
「もしかしたらワナを張っているのかもしれない。洞窟によく潜んでいるのはゴブリンだ。アイツらならそれぐらいのことはするだろう」
「えっ、ワナ? あるなら探してハマってあげなきゃ――」
エルジュの足先が、分岐した左へ進もうとするグリオスとは反対を向き、駈け出そうとする。
がしっ。素早くグリオスはエルジュの後襟を掴み、ジタバタするのも構わずに引きずり歩いた。
「コラッ! 探しに行こうとするな! 今は地図通りに道を選んで進んでいるんだ。ちょっとでも道を逸れると延々と迷うことになる。軽率な行動はしないでくれ」
「そんなつまらないことしたくないっ。きっと獲物がかかるのを想像して、ドキワクしながらワナを張ったと思うんだ。子供が親をビックリさせようと準備している時と同じような心境だと思うと、期待に応えたくならない?」
「う、ん……微笑ましくて弟妹のイタズラにはよくかかっていたが……それとこれを一緒にするな! 子供たちをロクでもないものと一緒にして汚すな! すべての子供たちに謝れ……っ!」
「何を子供の守護神みたいなこと言ってんの? 退屈なこの時間を少しでも楽しく彩る冗談を言っただけなのに……ムキにならないでよ、もう」
おもむろにエルジュは後襟からグリオスの手を払い、肩をすくめながら隣に並ぶ。その時、
「あ……っ」
エルジュが声を上げて立ち止まり、つられてグリオスも歩みを止める。
目の前に広がったのは、小部屋のように丸く開けた場所。
その中央は不自然に盛り上がり、何かを埋めたような跡があった。
あまりにもあからさまなワナの気配。
もっと分かりにくくする方法はいくらでもあるだろうに。
稚拙なワナにグリオスは口端をヒクヒクとさせる。
しかし隣のエルジュは視界の端でも分かってしまうほど、喜びに顔を輝かせていた。
「待てエルジュ。あんなワナ、面白くもなんともないからな? 絶対に飛び込むなよ? 踏まないよう壁伝いに歩いて回避するぞ」
「分かってるって。これは流石に稚拙過ぎて面白くないから」
「そ、そうか。じゃあ行くぞ」
少し安堵しながらグリオスはワナの迂回を始める。
……ゆらり。エルジュの頭がグリオスを横切り、飛び出していた。
「やっぱり無理。試したい! どんな雑なワナか、ちゃんとこのカラダで確かめてあげないと……っ!」
「やめろと言っただろうがぁぁっ!」
グリオスは咄嗟に前へ跳び、エルジュに抱き着いてその身を元の場所へ突き飛ばす。
入れ替わりにワナへ飛び込む羽目になったグリオスは――ボコォッ!
盛り上がった地面に肩が当たった瞬間、大穴が開き、グリオスの体は転がり落ちていった。
5
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】
アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。
巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。
かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──
やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる