そこにワナがあればハマるのが礼儀でしょ!~ビッチ勇者とガチムチ戦士のエロ冒険譚~

天岸 あおい

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VSインキュバス

抗えぬ誘い

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 クスクスと笑ったかと思えば、一瞬でインキュバスが間を詰め、グリオスの右手を掴む。

 そして腰に手を回し、淑女と踊るかのような体勢をグリオスに強要し、鼻先がぶつかるほど間近な距離で囁いた。

「グリオス、取引をしないか? 俺はお前に巣食い続けている淫気が欲しい。俺に食べられることで魔性は抑えられ、勇者を魔に堕とす道連れにしなくても済む……どうだ?」

 思わず息を呑んだグリオスの顎をクイッと指で上げ、インキュバスは強引に目を合わせてくる。

 中性的な顔立ちのエルジュとは違う蠱惑的な眼差しを直視してしまい、グリオスは体に燃えるような熱と動悸を覚えてしまう。

 今すぐ突き飛ばして離れたいのに、体が脱力して動かない。
 安易に頷かないことだけが、グリオスの精一杯の抵抗だった。

「……その言葉を間に受けるなら、俺は魔に堕ちるということか」

「ああ、そうだ。お前も自覚しているだろ? 常人では耐えられぬ快楽を耐え、今も体が貪欲に交わりを求めて疼いていることを……お前はもう戻れぬ。遅かれ早かれ我らに身を捧げ、数多の魔物の精を欲しがり、新たな仲間を産むことになる」

「魔物のお前の言葉をそのまま信じろと? 何を証拠に断言する?」

「今、倒すべき存在のはずの俺を突き離せぬことが証拠だ。それに唇が薄く開いて、俺の口付けを欲しているぞ? 堪え性のない淫らでいやらしい体になってしまったものだな、グリオス」

 反論したいのに体の奥は確かに疼きを覚え、激しく乱れたいとグリオスに訴えてくる。

 昨日まであれだけ濃厚にエルジュと交わったのに、こんなにも快楽を欲してしまう――エルジュの性欲を上回ってしまったら最後、人を止めてしまう気がしてならなかった。

 もう自分は元に戻ることはできない。
 それならこの魔王討伐を終えるまで誤魔化し続け、エルジュを道連れにする前に姿を消すべきだ。

 グリオスの心がインキュバスの提案に傾いていく。

 呼吸が浅くなっていく。かすかに唇を撫でてくる吐息に気が狂いそうになる。
 きっと夢の中でこの魔物を受け入れてしまえば、エルジュに抱いてしまった欲情を消してくれるほどの快楽を与えてくれる予感に、熱い息を零しそうになる。

 絶対にエルジュを堕としたくない。
 だからこの誘いに乗ることは裏切りではない。

 ……もう楽になってしまえたなら……いや、これは罠だ……しかし――。

 取り留めなくグリオスの思考が巡る。
 そして自然にポロリ、と口から答えが出てしまった。
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