34 / 49
VS魔王
魔王と対面
しおりを挟む魔王の城へ向かうまでの間、今までの苦労はなんだったのだとグリオスが叫びたくなるほど、何事もなく二人は山を登り、洞窟の中を平和に進むことができた。
戦いに来たというより、自然散策を楽しみに来たかのような平和さ。
それでも気を抜いてはいけないと、グリオスは自分に言い聞かせて緊張の糸を張り続ける。反対にエルジュはニコニコとしながらグリオスの手を握り続け、空いた手は機嫌よく前後に振り、どう見ても浮かれた態度だった。しかし、
「あっ、ちょっとこっちから嫌な気配がするから、反対の道を選ぼうよ」
洞窟内で道が分かれた時、初めて来た場所のハズなのにエルジュは堂々と道を指さし、ワナのないほうを選んでいた。
心を入れ替えたようなエルジュの態度に、ふとグリオスは思う。
このまま自分が魔物の餌食にならなければ、一緒に居続けることができるかもしれない。
少し希望が生まれてグリオスの顔から険しさが抜ける。
ほんの一瞬の変化。そんなことすらエルジュは気づいてグリオスに顔を向け、嬉しそうに微笑む。
……戦いが終わったら降参するか。
そんな考えが頭に浮かんで、グリオスは目をそらさずエルジュに向けて頷いて見せた。
歩く距離こそ長かったものの、戦闘もワナもなく、無傷で二人は魔王城の前に立つ。
「いよいよだな。準備はいいか、エルジュ?」
「オレはいつでも準備できてるよ。魔王もオレの前ではスライムと大差なし……一撃でやっちゃうから」
エルジュの場合、誇張ではなくて事実。はっきりと一撃でいけるというなら間違いないと、グリオスは自分よりも一回り小さな背を叩いた。
どちらともなく大きく開かれた門を潜り、魔王城へと足を踏み入れる。
赤い絨毯が敷かれた廊下を駆けていけば、天井が高い大きな広間へと出る。
目の前には禍々しく大きな椅子に腰かけ、脚を組み、ひじ掛けに頬杖をつく男がいた。
鋭い目をした赤毛の青年。見た目通りに気が強いらしく、エルジュたちを見た途端に睨みを利かせ、殺気を漂わせてくる。
そして彼の隣には凛々しい顔立ちの男が立っていた。
紫がかった黒い巻き毛が見事な髪に余裕ある微笑み――グリオスが目を向けた瞬間、やけに色気のある男はさらに口端を引き上げた。
会ったことはないはずなのに、この男には見覚えがある。
内心首を傾げていると、エルジュが剣を抜いて彼らへ切先を向ける。
「一応念のために聞くけど、アンタが魔王ってことでいいかな?」
赤毛の青年はギリッ、と悪歯を噛み締める。
「ここに座っている時点で察しろ! 他の魔物と違って俺は逃げられないんだよ……貴様らがいなければ、好き自由にできたのに……っ」
27
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~
液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿
【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】
アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。
巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。
かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──
やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。
主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ
⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌
⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。
⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる