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六話 将の育成は体を張って
新参の将たちとの顔合わせ
しおりを挟む朝食を終えて広間に行くと、新たに登用された将たちが跪いて並び、俺が来るのを待ち構えていた。
今までの少人数から一気に人が増えてしまい、広間の中を歩くだけでもソワソワしてしまう。しかも規模が大きくなって移動距離が長い。落ち着かない。
領主の椅子の近くには華候焔と才明が陣取り、少し離れて英正と顔鐡が控えている。
この領土内、武の最強は華候焔。智の至高は才明。実力と実績がひと目で分かる構図だな、と思いながら俺は腰かけた。
「誠人様、こちらにおります者たちが昨日召し上げた将にございます」
才明の説明に俺は短く頷くと、彼らに向かって明瞭な声を心がけながら言葉を発する。
「俺が領主の正代誠人だ。これからよろしく頼む」
長く話をするのは苦手だ。短く、心の底からの思いを言葉にすれば、息を合わせたように将たちが「はっ」と頭を下げて応えてくれた。
そして前列の中央にいた将が真っ先に顔を上げる。
一度見れば忘れることなどできない華やかな顔と出で立ち――羽勳だ。
昨日とは違い、凛々しく引き締まった顔とやけに熱く力強い眼差しを俺に向けながら、羽勳は「領主様」と恭しい口調で話しかけてきた。
「まずは召し抱えて頂き、大変嬉しく思っております。この羽勳、必ずや領主さまのお役に立ってみせます!」
「う、うむ。頼りにしているぞ、羽勳」
「つきましては誠人様へ我らの力を見て頂く機会が欲しいのですが、お許し頂けるでしょうか?」
「それは構わないが、何か希望はあるのか?」
「現在、南西の方角に太史翔の砦があるのですが、そこへ兵を集めている動きがあります。近い内に誠人様の領土を奪おうと挙兵するかと思われますので、どうか我らで先に砦を叩き、落とさせて下さい」
突然の提案に俺は即答できず、才明へ目を向ける。
事前に聞いていたのか、それとも状況を読んでいたのか、才明は一切驚くことなく微笑を浮かべる。
「頼もしい限りですね。兵力差はありますが、先手を打ってこちらから動くのは悪くないかと……もう安易に仕掛けられぬ存在になったことを、太史翔に教えて差し上げましょう」
つい最近まで才明も羽勳も太史翔に仕えていたというのに……。将たちの手の平返しが恐ろしい。
少しだけまだ見ぬ太史翔に同情を覚えたが、前へ進むためにはいずれ倒さなくてはならぬ相手。才明が攻めても構わぬと判断しているなら、俺も異論はなかった。
「分かった。これより件の砦を落とそう。出陣を希望する者は手を挙げてくれ」
俺の質問に間髪入れず将たちが挙手する。
――視界の隅で、華候焔が真っ先に手を挙げたのは見逃さなかった。
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