上 下
197 / 343
十話 至高への一歩

領主同士の一騎打ち

しおりを挟む
 一騎打ちの勝者は、相手のすべてを総取りすることができる。
 それは俺が一度負けただけで、今まで築き上げてきたものをすべて奪われるという厳しさもある。

 俺が太史翔を睨みながら思案していると、華侯焔が一笑した。

「誠人様、話を受ける必要はないからな。今は俺たちのほうが有利だ。このまま攻め続ければ勝てる。危ない橋を渡る必要はないぞ」

「まったくもってその通りですー。珍しく意見が合いますねー華侯焔」

 俺の首に巻き付いている白鐸も、肩で頭を上げながら華侯焔に同意する。

 言っていることは分かる。話に乗らないことが確実な選択だ。
 それでも安易に頷けない自分がいた。

「……誠人サマー?」

 白鐸が俺の顔を覗き込んでくる。長い毛で覆われているせいで目も口も分からないが、不思議そうに俺をうかがう視線を感じる。

 口を開かない俺を察したように、華侯焔が先に話を切り出す。

「戦いたいのか?」

 背中を押すような一言。俺は短く頷いた。

「無謀かもしれないが、一騎打ちに応えたい。自分がどれだけ強くなったのか、確かめてみたい」

 この『至高英雄』を始めたのは、東郷さんを乗り越えるための強さを求めたから。

 負けが許されない状況になってしまい、目の前の問題を乗り越えることで精一杯になっていたが――試してみたい、という欲が湧き出てくる。

 現実でも、ゲームの世界でも、鍛錬は怠っていない。むしろ実戦と華侯焔たちの支えで、前よりも強くなったという手応えがあった。

 普通の将なら即座に諫めるだろう。
 だが、華侯焔は違う。声を上げて笑ったかと思えば、バン、と俺の背を叩いた。

「それが誠人様の願いなら、臣下は従うまでだ。俺は邪魔が入らないよう見張っておく。存分に叩きのめしてくれ」

「華侯焔……ありがとう。本隊は任せた」

 俺は刹那に見つめ合い、小さく笑ってから馬を前進させた。

 表情を消し、顔を引き締めて太史翔と対峙する。

 兜の隙間から覗く太史翔の双眸はどこかほの暗く、小さな瞳に怒りとも獰猛とも取れるギラつきを宿していた。

 フッ、と太史翔が鼻で笑った。

「密偵の報告は受けていたが、自ら戦うのが心底好きなようだな。こんな場が熟した中に入ってきたような恐れ知らずだ。余程の愚か者か、傲慢な猛者か……まあ、どう見てもお前は――」

「俺は愚か者の弱者だ。この世界に来てから、ずっと痛感している」

 馬上で胸を張りながら、俺は竹砕棍を構える。

「だからこそ強くなりたい。そのために応じた」

「愚かでありがたいことだ。早々にケリをつけようではないか!」

 太史翔も得物の槍を構え、覇気を漂わせる。
 上位の猛者ではないにしても、今なお領主として上に立ち続けている人物。苦難を重ねてきた者がまとう威圧感で、場の空気が重くなったような気がした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

トラブルに愛された夫婦!三時間で三度死ぬところやったそうです!

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,143pt お気に入り:34

比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:605

婚約破棄された私は辺境伯家で小動物扱いされています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:4,397

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:859pt お気に入り:581

主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:266

処理中です...