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十三話 裏切りの常習犯
独り占めしたくて
しおりを挟む入城したその足で大広間に向かい、領主の椅子に腰かける。
左右には華侯焔と才明が立ち並び、壁際に英正と白鐸が控える。
そうして間もなく、勝利を手にしてきた武将たちが俺の元へ報告しに来てくれた。
先頭は羽勳と表涼。彼らが一番活躍したらしい。
一同は跪いたまま拝手をし、頭を下げながら羽勳が告げる。
「誠人様、遠征にて尊朔を打ち破って参りました。王城を攻めてすぐ、我らの猛攻に恐れをなして降参……我らの敵ではありませんでした」
朗々とした羽勳の報告に、なぜか他の者がかすかにざわつく。
そもそも尊朔は格付けニ位。資源の豊富さは澗宇に劣るかもしれないが、配下の数やその強さ、練兵の質などは上回っているはず。決して安易に打ち破れるものではない。
他の将の動揺を、表涼が代弁してくれた。
「私たちも戦いましたが、特に羽勳殿の活躍が凄まじく……連日のように一騎当千の見事な戦いぶりでした。彼がいなければ、ここまで早く結果を出すことはできなかったと思います」
「褒美を誰にも渡したくない一心で、必死に戦っておりましたので」
顔を上げた羽勳が、横目でチラリと表涼を見る。不敵に笑いながらもその瞳は熱く、艶を含んだ視線を送っている。
隣からの目に気づいて、表涼の顔に呆れた色が滲む。しかし頬がわずかに赤い。
遠征した者たちの目的は、表涼との一夜。
羽勳が連日活躍したということは、それだけ表涼を独り占めしてきたということなのだろう。
身体を重ねていけば情も少なからず芽生える。二人がただ交わるだけの関係ではなくなっていることが見て取れた。
俺は臣下たちを見回しながら口を開いた。
「皆、よく頑張ってくれた。目的を果たした上、この中の誰も欠けずに帰還できたことを心から嬉しく思う。後日に褒美を贈るが、今日は戦勝の宴を楽しんで欲しい」
労いの言葉に一同の顔が晴れやかになる。羽勳と表涼以外の武将は、不甲斐ないと叱責されると恐れていたのかもしれない。
伝わってくる安堵感や、表涼を独り占めされたという嫉妬すら羽勳に向けられない状況から、それだけ羽勳の活躍が目覚ましかったことを知る。
俺は才明と華侯焔にそれぞれ目配せして、無言で意思を交わす。
二人とも俺の狙いにすぐ気づき、短く頷き返してくれる。確認は取れた。
俺は羽勳に視線を定めながら命じる。
「今から宴の準備をする。それまでの間、どうか身体を休めてくれ……ただ、羽勳はここに残って欲しい。話がしたい」
「……承知しました」
羽勳をそのままに、他の武将が立ち上がり出て行こうとする。
一度は背を向けて大広間を後にしかけた表涼が、立ち止まり、踵を返して再び羽勳の隣に並んで膝をついた。
「誠人様、私も同席させて下さい。お願い致します」
普段から見せる余裕と色香はなく、焦りを隠せない表涼から必死さが伝わってくる。
羽勳を誰よりも知る者。俺はしっかりと頷いて表涼の同席を認めた。
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