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十四話 決戦に向けて

癒やしを残して

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「なんだよ、それ……馬鹿正直なフリしていただけで、本当はそこの糸目と同じ人を騙す側の人間だったんだ」

「いや、俺は――」

「信じない! 何人も男を侍らせているお前みたいなヤツの言葉なんて!」

 感情を乱した昂命が俺に苛立ちをぶつけてくる。
 俺の言葉など今の昂命には届かないだろうと思いながら、反論せずにはられなかった。

「傍目から見ればそうなのだろうが、俺は負けないための選択をして、皆がそれに応えて支えてくれた形だ……誇りであれこそすれ、真実を知らない者に嘲られる筋合いはない」

 複数の相手と身体を繋ぐなど、本来なら淫らな行いでしかないと思う。
 それでも、この繋がりが俺たちを深く結びつけて、ここまで戦い続けることができた。そして華侯焔のことも――。

 揺らがない俺に昂命がたじろぐ。次第に唇が歪み、目が潤み出したかと思えば、ゆっくりとうなだれた。

 才明が見下ろしながら一瞥した後、俺に顔を向ける。

「……今日はもう話せそうにありませんね。これで切り上げましょう」

「そうだな。気持ちを整理する時間が必要だと思う」

「かなり思い込みが激しいようですから、放置すると拗れそうですね……顔鐡殿、こちらに残って様子を見て頂けますか?」

 話を急に振られて、顔鐡が軽く目を見開く。そして昂命をチラチラと見ながら頭を掻いた。

「軍師殿の命ならば従うが、俺みたいなガサツ者を置いても、苛立つだけじゃないか?」

「むしろ顔鐡殿は、そこにおられるだけで癒やしになりますから」

 確かに顔鐡は裏表がなく、その体格や落ち着きから頼もしさを覚える。さり気ない気遣いもできる男で、俺も癒やされることがある。

 俺が頷いていると、少し照れたように顔鐡は頬を掻いた。

「褒められて少々こそばゆいが、了解した」

「お願いします……それから表涼、貴方の力を再確認したいので、私と一緒に来て下さい」

 顔鐡の隣で柔和に微笑み、表涼は優美な動きで会釈する。

「はい。私の力が誠人様のお役に立てるとならば、喜んで」

 動き始めた才明たちに合わせて、俺も部屋を出ようと立ち上がる。

 扉を見れば、脇にずっと待機していた英正と目が合う。
 真実が見えてきたからこそ、今まで英正が秘めてきたことも見えてくる。

 俺は部屋を出る間際、英正の肩に手を置いた。

「このまま俺と来てくれるか? 二人で話をしたい」

 一瞬、英正の瞳が揺れる。しかしすぐに落ち着きを取り戻し、「はい」と頷く。

 既に決意をし終えた、心を引き締めた顔。
 どんな顔をすればいいか分からなくなり、俺はそのまま手を離す。

 ついてくる英正の気配を背中で感じながら、いつもより速い足取りで自分の部屋に向かった。
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