上 下
311 / 343
十四話 決戦に向けて

●ただ応えたくて

しおりを挟む
 口づけの後はどうなっていくか――教え込まれてしまった身体は安易に熱と疼きを孕み、後孔の奥が物欲しげに脈打つ。

 乱されたい衝動に駆られていると、不意に英正が俺を抱き上げ、寝台へ足早に運んでいく。

 そうして丁寧に俺を寝かせてすぐに、英正は俺に身体を被せてくる。
 だが俺をもどかしげな顔で見下ろすばかりで、先へ進めようとはしない。

「……英正?」

「誠人様……私は何もできませんでした。倒すべき者を倒せず、ただ軽くあしらわれた挙げ句、誠人様の危機に動くこともできず……才明様の力がなければ、すべてが終わっていました」

 英正が絞り出すような声で胸の内を明かしてくれる。
 そんなことはないと告げる間もなく、小さく掠れた声で話は続く。

「何も成せなかった者に、褒美など無用。それでも片翼を失った穴を埋めるために、どうか……あの者の代わりを担わせて下さい」

 俺の心を見てしまっている英正には隠すことができないようだ。
 未だに俺の中には華侯焔がいて、見苦しく諦めまいとしていることを。

 真剣で苦しげな目。その奥に灯る情欲の火の熱さを、無理に押し込めているのが分かってしまう。

 どんな思いで言っているのか見えてしまい、俺は小さく首を横に振る。

「誰かを代わりにする気はない。焔は焔、英正は英正だ」

「……分かりました。差し出がましい真似を――」

 悲しげに顔を歪めながら、英正が俺から離れようとする。

 ギュッ、と。咄嗟に俺は英正の腕を掴み、引き留めた。

「褒美とか、代わりとか、理由はなくていい。このまま続けて欲しい」

「え……よろしいのですか?」

「今は英正に応えたいんだ。頼む……」

 合わせ技を強めるためでも、喪失感を慰めるためでもない。ただ英正を全身で感じたい。

 心は華侯焔に囚われたままでも、英正に手を差し出したくてたまらない。

 自分が消える恐怖よりも、俺のために尽くすことを選び続けた英正に、この世界に生を受けてしまったことを悔いて欲しくなかった。

 俺が許すと、英正の顔がさらに泣きそうに歪む。
 だが口端は引き上がり、歓喜を滲ませていた。

「誠人様――」

 勢いよく唇が奪われる。
 焦らそうという余裕すらなく、英正は俺の口内を舌で激しく掻き回し、落ち着きのない手つきで俺の帯を解きにかかる。

「んっ……ン……ッ」

 早く俺が欲しい気持ちが伝わってきて、俺も英正の帯を解き、服を脱がしにかかる。互いの服が乱れ、はだけた肌から熱が漂い、触れ合った瞬間に小さな痺れが走り抜けた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ハヤテの背負い

青春 / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:0

平凡な俺が魔法学校で冷たい王子様と秘密の恋を始めました

BL / 完結 24h.ポイント:1,320pt お気に入り:3,958

楽しい幼ちん園

BL / 連載中 24h.ポイント:454pt お気に入り:133

【完】君を呼ぶ声

BL / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:88

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

BL / 連載中 24h.ポイント:1,043pt お気に入り:783

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:859pt お気に入り:713

処理中です...