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清純Domはすべてを捧げる

代償

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   ◇ ◇ ◇

 朝起きると、今日も体のあちこちが痛んで涙目になった。

 隣では満足げな顔をして寝ているアグ。
 昨日と同じような状況に、一瞬、同じ日を繰り返している? と思ってしまう。

 でもすぐにそうじゃないと僕は理解する。
 アグを視界に入れると、昨日胸に感じた温かさがより深い所から感じて、今すぐ抱き締めて体に受け入れて、昨夜のように自分のすべてを捧げたくてたまらない。

 このまま寝直して、ずっとアグと一緒に居られたら――。
 軽く触れ合っている肌の温もりから離れなければいけないことを思うだけで、胸が締め付けられて痛い。

 どうしたんだろう、僕は……。
 必死に理性を総動員させ、渋り続ける心を僕は説得する。

 仕事しないと二人とも食べていけなくなるから! 気持ちだけじゃやっていけないから。お金は必要だから……っ!

 世知辛い自分自身からの説得に、僕の心が渋々折れる。
 そうしてようやく鈍い動きでベッドから出ると、僕は慌てて身支度を整え、留守番中のアグの食事を用意して家を飛び出た。



 グループホームの仕事はいつも通りだった。

 何人もの利用者さんたちに合わせて動くのは大変だけれど、素直に喜んで頂けるから嬉しいし、働き甲斐がある。

 嫌なことがない訳ではないけれど、嬉しいことのほうが多い。
 今日も須藤のおばあちゃんとお話ししていたら「ありがとうねえ」と言われて、その一言に心がすごく明るくなった。

 でも、頭のどこかが物足りなさを感じてしまう。

 感謝も好意も伝わってくるのに何かが足りない。
 なんだか薄い味噌汁を飲まされているような、味はあるのに感じにくというか――。

「古矢さん……っ」

 考え事をしながら仕事をしていたせいで、須藤のおばあちゃんの様子を見に来ていた葉祐さんに見つかり、声をかけられてしまう。

 密かに憧れていた葉祐さん。ずっと惹かれていたけれど、アグと体を重ねてしまって、勝手に気まずくなって昨日は避けていた。

 だけど、今日は違う。
 頭では葉祐さんへの認識は変えていないのに……心が波打たない。

 アグと淫らな行為を重ねたことに、もう罪悪感も覚えない。

 葉祐さんに心が動かない。
 不意に僕は昨日感じていた奪われていく感触を思い出す。

 奪われていたのは今までの僕の心。
 本人にも絶対見せないよう育てきた心の芽。それをアグに根こそぎ奪われたんだ。

 ――それを悲しいと感じることすらできなくなっている自分に気づき、無性に泣きたくなった。

「昨日、お話したかったんですが、姿が見えなくて……何かあったのかと心配していました」

 葉祐さんの気遣う言葉を温かく思えない。
 心の感覚が壊されたことを自覚しながら、僕は平静を装って笑みを浮かべる。

「すみません、昨日は裏で作業していて……ご心配かけました」

 表向きはいつもと変わらない態度を取る。
 昨日までと変わらない、今まで続けてきた行動。

 でも中身は前と違う。
 こんなに心が凪いだ状態で、葉祐さんとやり取りする日が来るなんて……。
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